――夏休み直前・部室――

紬「暑いねー」ぐでー

唯「うえー」ぐでー

梓「唯先輩、ムギ先輩まで机に貼りつかないでください。練習しますよ!」

律「梓はいつもそれだなー」

梓「練習しないと、学祭のライブでいい演奏ができませんからね」

澪「私たちは今年で最後なんだ。みんな、練習するぞ」

ウメハラ「あのさ」

梓「どうしました?」

ウメハラ「ここって音楽準備室でしょ? となりには吹奏楽部が使ってる音楽室なわけで」

梓「それがなにか?」

ウメハラ「エアコンはないの?」

澪「エア……コン……? たしか、申請したよな。律」

律「……」

澪「このやろう」

律「申し訳ない! 忘れてた!」

唯「机のなかから申請書が出てきた!」

澪「り~~つ~~~!!」がっつん!

律「いべぇ!!」

紬「道理で暑いと思った。りっちゃん、忘れてたのね」

ウメハラ「サファリかと思った」

澪「今からでも申請しよう! 生徒会室へ行くぞ! 律!」

律「暑いし、明日でもいいじゃん」

澪「律!」ぶわっ!

律「殴るな! 行くから!」

ウメハラ「いってらっしゃい」

梓「私たちは練習してましょう!」

唯「ええ~。やだ~」

紬「少ししたら帰ってくるから、待ちましょ?」

梓「う~……。練習……」

唯「まあまあ。あずにゃんっ」ぎゅっ

梓「にゃっ」

ウメハラ(にゃっ?)

唯「……あったかあったか」

梓「……もう……仕方ないですね」

唯「……暑い」

梓「うぇ~」ぐでー

紬「こんなに暑いのに、いいもの見させていただきましたー」ほえー

唯「あれ? ムギちゃん。ウメちゃん先生のカップの色……」

紬「うん。なんだか、色がよくないから変えてほしいって頼まれたの。でも、家に余ってる
カップを気に入ってもらえたから良かったわ」

ウメハラ「形もそうだけど、色は超重要なんだけどね」

梓(やっぱり色を気にするんだ)

唯「でも、このカップ高いんじゃない?」

紬「よくわからないけど、ベルギー王室のカップなんだって。でも、使わないよりはいいから」

ウメハラ「ベルギーだかなんだかは知らない。そんなもんシカトでいい」

梓「もう、離れてください! 暑苦しいです!」

唯「あぅ~」

ウメハラ「ただ、ベルギー王室御用達のカップはいい。なんというか、使うこと自体が
格好いい」

紬「そうなんですか?」

ウメハラ「おしゃれ度の段階からして全く違うんだよね。これがタイとかインドだと少し落ち
る。ヨーロッパっていうのが凄い」

唯「そうなんですかー。ていうか、澪ちゃんたち遅いね」

ドア「がちゃ」

律「うわああああああああん!!」

澪「……」

紬「ど、どうしたの!? りっちゃん! 澪ちゃん!」

澪「……もう、エアコンは入れられないみたいなんだ」

律「ごめんよ……みんな……情けない部長で……」

ウメハラ「……」

律「梓、ごめんな」

梓(本当にへこんでる……。こんな律先輩、初めて見たかも)

澪「でも、これから夏休み。去年も一昨年もエアコンなしでやってきたわけだから、
きっと乗り切れるよ」

律「……うう」

ウメハラ「……」

紬「りっちゃん。お菓子食べて元気出して」ことり

唯「そうだよ。元気のないりっちゃんなんてりっちゃんじゃないよ! おでこ光らせて!」

ウメハラ「……よし」

梓「?」

ウメハラ「ちょっと、聞いてくれない?」

唯澪律紬梓「はい?」

ウメハラ「夏休みの中の1週間ほど。アメリカに行く気はない?」

唯「……ふぇ?」

梓「アメリカ……?」

ウメハラ「うん。学校がエアコンをとりつけてくれないなら、買っちゃおうかなって」

澪「そんな簡単に」

紬「でも、それでどうしてアメリカ?」

ウメハラ「ちょっとね。色々とちょうどいい機会だし」

唯「?」

澪梓(もしかして……)

ウメハラ「旅費も滞在費も俺が出すよ。山中先生も一緒に来てもらおう」

紬「そ、そんな。悪いですよ」

ウメハラ「まったく問題ないよ。むしろ、おつりが出るんじゃないかな」

唯「……?」

ウメハラ「今年は良くても、来年、再来年になって軽音部の後輩たちが困るのもよくない
よね。だから、この夏休みに買ってしまうのも手かな」

唯「ちょっと、ウメちゃん先生?」

ウメハラ「決めた。アメリカに行こう。詳しいことはあとで連絡するから、よろしく」

唯(いったい、どうやって稼ぐ気なんだろ……)


――夏休み・成田空港――

唯「……来ちゃったね」

澪「まさか、本当に行くことになるとは」

さわ子「びっくりしちゃったわよ。いきなりよ? いきなり」

梓(この時期にアメリカ、やっぱり、そうだよね)

紬「アメリカなんて久しぶりー」

律「なんか、大きなことになっちゃったな」

ウメハラ「全員集まったかな」

ときど「ウメさん、もしかしてみんな行くんですか?」

ウメハラ「当然でしょ」

唯「ときどさんも行くんですか?」

ときど「行くよー。プロだからなー俺」

唯「? それで、マゴさんは?」

ウメハラ「おいてきた」

梓(マゴさん……)


――そのころ・あるお花屋さん――

マゴ「ああー、この花キレーだなぁ。いっちょVISIONに飾っとくか」

KSK「精が出るな」

マゴ「おう、KSKさん。今の時期は墓参りのシーズンだから、花屋が忙しいんすよ」

KSK「俺も花でも買おうかな」

マゴ「あげる相手も飾る場所もねーだろ」

KSK「いや、あげる相手はいるよ」

マゴ「てめっ! まさか裏切ったんじゃねえだろうな!」

KSK「フフフ。女教師っていいよな」

マゴ「おまえ! まさかさわ子先生に!」

KSK「まあ、キミもがんばってくれたまえ」

マゴ「畜生!」

KSK「やべ。忘れてた」

マゴ「なにをよ」

KSK「さわ子先生、ていうかウメハラたちはアメリカ行ったんだった!」

マゴ「は? ときどは?」

KSK「行きました」

マゴ「なんで行ったんだっけ?」

KSK「おまえ、この時期にアメリカってことはわかるだろ」

マゴ「……あ」

KSK「マゴ、残念だったな」

マゴ「やっべー。忘れてたわ。まあ、どっちにしろ招待されてないから行けないんだけどね」

KSK「言ってて哀しくならないのか?」

マゴ「もうこの感じも慣れてきたのが嫌だ」

KSK「……今日は配信しよう。そして忘れよう」

マゴ「おめーはいっつもそれだな」


――アメリカ――

唯「ここがアメリカー!」

律「すげー! でけー! 広ーい!」

澪「はしゃぐとはぐれるぞー!」

唯「大丈夫だよ! 子どもじゃないんだよ!」タタタタ!

澪「まったく……」

梓「あの、ウメハラ先生。これからどこに行くんですか?」

ウメハラ「時差ボケもあるだろうし、このままホテルに直行。俺はときどと同室で、他に3つ
部屋はとってあるから」

ときど「ウメさん、熱い夜を過ごしましょう」

ウメハラ「冗談でも気持ち悪い」

さわ子「私はぁ、梅原先生と一緒でもいいですよぉ」

紬「先生。節操を持って、私と同室しましょう」

さわ子「ちぇー。ムギちゃん、コスプレは頼んだわよ」

紬「は、はい?」

澪「よし、じゃあ行くぞ。……って、唯と律がいない! どこだー!!」

唯「うぇーい!!」タタタ

律「ヤーウェーイ!!」ぴゅー

唯「広くてどこまでも走れるー!」ぎゅーん

律「風になろうぜー!」シュパァン!

唯「でも、澪ちゃんたち見失っちゃったね!」

律「え!?」キキッ

唯「ほら。後ろ見てもいないよ」

律「……やっべ。はぐれた」

唯「……ふぇ?」

律「空港で遭難した」

唯「ちょ! やばくない!?」

律「やばい! とりあえず来た道戻るぞ!」タタっ

唯「うん!」

男「アウチ!」ドン!

唯「いたっ!」

男「ヘイガール! ××××!!!!」

唯「ふぇ? ご、ごめんなさい! アイムソーリー!」

律「なに言ってるかわかんねえ……」

男「××××――!!」さわ

唯「身体触られてるよ、りっちゃん……」

律「や、やい! 唯に触るな!」

男「――××?」

ウメハラ「あ、いた」

紬「よかったよかった」

男「――OH! DAIGO! TOKIDO!」

ときど「おー! アレックス!」

アレックス「ウェルカム!」

澪(生アレックスだ……。でっかい……)

さわ子「どなた?」

ときど「アメリカでもっとも有名なゲーマーの一人です。僕らの友人です」

さわ子「あら、ゲームをされる方なんですか」

ときど「アメリカでは先駆者的な存在です。ヘイ、アレックス!」

アレックス「××××」

ときど「HAHAHA!」

ウメハラ「それじゃあ、俺たちは行こうか。明日からやることがあるし」

唯「そのやることってなんなんですか? わざわざアメリカまで来て」

ウメハラ「……あとで教えるよ」

梓「ウメハラ先生……」

紬「ほら、さわ子先生、行きますよ」

さわ子「マイネームイズさわ子。シングル! アイアムシングル!」

アレックス「Oh……」

ときど「先生……」

澪「まったく、心配したんだからな」

律「えへへ。すいましぇん」

澪「反省しろっ」ゴツン!


――ホテル――

唯「――ウメちゃん先生、どうやってお金稼ぐんだろ」

梓「……先生が、教えてくれますよ。悪いようにはしないと思います」

唯「だよね。ウメちゃん先生はいい人だもん」

梓「ですよ」

唯「……あずにゃんは、アメリカ来たことある?」

梓「ああ、そういえば本土はないですね。両親は何回か来てたみたいですけど」

唯「私も、家族旅行でハワイには行ったことあるけど、こっちはないんだよ」

梓「……貴重な体験ですね」

唯「そうだね。旅費も滞在費も出してくれるし、ウメちゃん先生サマサマだよ」

梓(先生、あの様子だと言うつもりなんだ)

唯「りっちゃんたちはどうしてるかなー」

梓「よしときましょうよ。澪先輩たち、もう寝てるかもしれませんよ」

唯「そうかな。――ふわぁあ。私も寝よう」ころん。すーぴー。

梓「はやっ。……ウメハラ先生。がんばってください」ごろん。すー……


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最終更新:2011年05月26日 22:34