――翌日・ホール――

ウメハラ「……」

唯「人がたくさーん」

紬「みんな、ゲームしてるみたい」

律「ゲーム?」

ときど「……ウメさん」

ウメハラ「うん。……みんな、聞いて欲しい」

澪「――」

ウメハラ「俺がどういう人間なのか、これからどんな手段で金を稼ぐのかを、見てほしい
んだ」

さわ子「梅原先生?」

ウメハラ「俺は格闘ゲームで、世界一をとった男なんだ。この大会は世界選手権と呼ばれ
るほどに大きいもの。賞金もかなりの額が出る。俺はそれをとって、部室にエアコンを
取り付け、キミたちの滞在費を稼ぐ」

律「……」

紬「そんなこと、できるんですか?」

ときど「できるよ。ウメさんなら間違いなくね」

律「でも! どうして私たちをここに――!」

ウメハラ「知ってほしかった。俺の生徒として、俺のことを。俺は先生として、キミたちに
知ってもらわなくちゃいけない」

唯「……ウメちゃん先生」

ウメハラ「それじゃあ、見ていてほしい」ごそり

紬「あれって、4月に梓ちゃんがテーブルにおいてあった――」

ウメハラ「そう。俺はこのアケステを作ってるマッドキャッツと契約しているプロゲーマー
なんだ」

律「梓……知ってたのか」

梓「……はい」

ウメハラ「……梓は言いふらさないでくれた。でも、それに甘えているわけにはいかない」

ときど「ウメさん! 俺もいきますよ!!」ダッ

男「はっ! ビーストも堕ちたもんだぜ! 女侍らせて来やがって!」

ときど「お前は!」

ジャスティン「しかも、よく見れば小便臭いガキどもじゃねえか。ダイゴよ。そんなことで
よくここに来られたものだな」

ウメハラ「……」

唯「なに!? なに言ってるのあの人!」

ときど「……心配しないで。害のある人じゃないんだ」

ジャスティン「……相変わらずのだんまりか。いくぞマーン!」

マーン「うぇっへっへ」

ときど「あいつ……自分もブロンド美女連れてきてるくせに……」

ウメハラ「やめておこう。口でなにを言ってもここでは意味がない。これで見せつけよう」

ときど「ウメさん……はい! そうっすね!!」

男「おいおい、久しぶりやな。梅原くん、ときどくん」

ときど「!?」

sako「まいど~。俺もここに招待されたんやけど、なにぶん初めてや。仲良くしたってや」

澪「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!!!!!!!」

sako「それにしても珍しいやん。梅原くんが女の子連れてくるなんて」

ウメハラ「いや、ちょっとね」

sako「フム。それじゃあ、お互いがんばろうや」

マーン「ジャスティン、あんな安い挑発なんてお前らしくない。どうしたんだ?」

リッキー「そうよ。このおバカさん」

ジャスティン「別にいいだろ。今日こそ、あいつの首をとってやる――!」

リッキー「あらあら、気合十分って感じね。そういうあなたも、嫌いじゃないわよん」

ジャスティン「気色悪いからやめろ」

リッキー「ああん。イケズぅ」

マーン「それにしても、今回はすごいな。ダイゴにTOKIDOにsakoときてる。この3人は
日本では格ゲー5神と呼ばれているんだぞ」

ジャスティン「仏教の国の神なんて関係ないね。俺たちEGで3位までを独占するぞ」

マーン「そう首尾よくいけばいいんだが」

リッキー「……ダイゴをやるのはこのアタシよ?」

ジャスティン「それはトーナメントだからな。なんともいえん」

マーン「……そろそろ時間か」

ジャスティン「それじゃあな。健闘を祈る」

リッキー「バアーイ」

ウメハラ「それじゃあ、俺の側を離れないでね。特に唯と律」

唯「はーい」

律「悪いのは唯だもん」

澪「言い訳するな」

ときど「俺とウメさん、それにsakoさんは違うブロックですね。今回もダブルエリミネーション
だから……って! ウメさん! 大変ですよ! トーナメントを見てください!」

ウメハラ「どうした? ……!」

ときど「NUKIにHAITANIって……まさか!」

梓「もしかして……揃うんですか!? 格ゲー5神が!」

澪「な……こんなことって……」

ときど「奇跡的に全員違うブロックだ。8つのブロックで俺、ウメさん、sakoさん、ヌキさん、
ハイタニ、ジャスティン、マーン。それにリッキーがばらけてる。すごい、今回はすごい
大会になりますよ!」

さわ子「そんなにすごいの?」

ときど「格ゲー界が変わります! この大会で、誰が世界一かが決まります!」

紬「なんだか、すごいのね」

唯「わくわくだね!」


アナウンス「××××――」

ウメハラ「1回戦か。それじゃあ、頑張るよ」にこ

梓(あふぅ……かっこいい……)

ときど「いってきます」

さわ子「頑張ってくださいね」

グーテックス「さあ! これから1回戦が始まるぞ! 2セットを二本先取した選手が勝ち
あがり、負けた選手はルーザーズに落とされるルールだ! レディー! ファイト!」

ジャスティン「さあ、これが始まりだ」

マーン「そろそろタイトルが欲しい」

リッキー「ダイゴにリベンジしないと♪」

sako「はじめましょか」

ときど「――」ギロリ

ヌキ「ウメちゃんに内緒で参加しちゃったけど、怒られないよね」

ハイタニ「……ふう」

ウメハラ「……」

唯「そうして、世界選手権は始まったのです!」

澪「やっぱり、すごいな」

律「ああ。私もこのゲームはやったことないけど、すごいのはわかる」

梓「……ごくり」

ウメハラ「――」タンタン

紬(先生の顔がいつもと違う。まるで物静かな獣のよう)

さわ子(かっこいい……)

唯「ときどさんはすごい顔してるね」

ときど「――」ギヌロ

梓「ときどさんの持ち味。マーダーフェイスですよ。怒ってるわけではありません」

観衆「うわああああああああああああああああああああああ!!!!」

澪「ひいいいいい!!!!」

グーテックス「ダイゴ強し! 勝負を一瞬で決めたああああああ!!」

ウメハラ「……」

律「すごい……ウメちゃんが勝つと、会場が一つになる……」

律「本当に、すごい人だったんだな……」


梓「二回戦はだれですかね?」

律「ゲーマービーって人だって。なんか台湾人らしいよ」

ゲマビ「おお! ウメハラさん! 久しぶりでーす!!」

ウメハラ「うん。久しぶり」

ゲマビ「まさか二回戦で当たるなんて、予想だにしてませんでした! でもでも、容赦は
しませんよー」

紬「なんだか明るい人ね。日本語もすごくお上手」

ゲマビ「サンキューレディ! それじゃあ、始めましょうか!」

ときど「優勝候補の一人、ゲーマービーか。さて、俺の二回戦の相手はっと」

女「よろしくおねがしますね」

ときど「あら。日本人ですか」

女「はい! このゲームはよくわかりませんけど、お手柔らかにお願いします!」

ときど(プレイヤーネームはU&Iか……。使用キャラは……ハカン?)

U&I「フフフ……」

sako「案外簡単やな。キャミィとローズだけでブロックは勝ち抜けそうやな」

ヌキ「アイ! アイ! アイイイイイイイイイイ!!!!」

ハイタニ「貫いたね」

グーテックス「さあ! 注目選手たちが次々と勝ち名乗りをあげていくぅ!」

唯「歓声とか悲鳴がすごいねー」

紬「私だって、見てるだけでドキドキしちゃうもの」

ゲマビ「――」タンタン

ウメハラ「――――」タンタン

ゲマビ「!?」

ウメハラ「――ふう」

グーテックス「ここでダイゴも三回戦へ進出! さあ、残る注目選手はマーダーフェイス
TOKIDOだが!」

ときど「……え?」

ハカン「いくでぇ!」

KO!!

U&I「ありがとうございます。楽しかったですよ」ニコっ

ときど「この俺が……ハカンに負けるなんて……」

さわ子「どうしました?」

ときど「ウメさんに伝えてください。U&Iに気をつけろ、と」

さわ子「U&Iって、あの帽子かぶってる小さな女の子?」

ときど「はい。あれは、ハカンじゃあない……」

グーテックス「なんと! なんとなんとなんと! TOKIDOが散ったあああああああ!!!」

ヌキ「な!」

ハイタニ「!?」

グーテックス「TOKIDOを破った選手は詳細一切不明の女性プレイヤー! 使用キャラは
なんとハカン!」

唯「弱いの?」

梓「最弱キャラっていわれてます。まさか、ハカンでときどさんに勝つなんて……」

澪「それくらい強いってことだな……」

ゲマビ「ダイゴ! 優勝してくださいね!」

ウメハラ「うん」


観衆「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

梓「ウメハラ先生が勝った!」

唯「これでブロック代表が全部決まったみたいだね」

澪「Aブロックがsako(さん)で」

律「Bブロックがジャスティン」

紬「Cブロックがヌキって人で」

さわ子「DブロックがU&I」

唯「Eブロックがウメちゃん先生で」

ときど「Fブロックはリッキー」

梓「Eブロックはハイタニ、Fブロックがマーンです」

唯「ただのトーナメントじゃなくって、明日はル―ザーズっていうのも一緒にやるんだよね」

澪「みたいだな。ルールがややこしいから頭がめちゃくちゃになりそうだ」

律「まあ、優勝はウメちゃんに決まりだけどな!」

梓「当然です!」フンス

律「インタビュー! 今日終わってどうでしたか!?」

ウメハラ「いや、なんか。意外によえーなって」

梓(かっこいい……)

澪「そこまで言っちゃいますかー」

ウメハラ「なんだろ。結構時差ぼけきつかったんだけど、でも勝っちゃうっていう」

唯「あははははー」

ときど「さすがはウメさんっすよ!」プルルル

さわ子「ケータイ鳴ってますよぉ」

ときど「おっと。……なんだマゴからメールか。高くなるからメールすんなっつんてんのに」

澪「なんて書いてあるんですか?」

ときど「……ざまあみろ。俺をおいて行った罰と思え。てんぷらだ! ってさ」

梓「それを言うなら天罰では……」

ときど「よし。日本に帰るまで電源切っておこう」

ウメハラ「それじゃあ、みんなは部屋にいて。食事はボーイが持っていくと思うから」

紬「先生はどうさせるんですか?」

ウメハラ「うーん。なんていうんだろ」

ときど「お子様が来ちゃいけない場所かなー」

紬「もう! 子ども扱いしないでください!」ぷんぷん

ウメハラ「いや、子どもだよね」

紬「もー! 先生ったら!」

梓(もしかして、マネーマッチ? なるほど。これで賞金以上のお金を稼ぐんだ)

澪「それじゃあ、部屋で休んでいよう。よかったら、私たちの部屋に来なよ。トランプでも
して遊ぼう」

律「怪談でいいぜー」

澪「それはやめろ!」ごちん!

律「あべし!」

ときど「あっはっはっはっは!」

唯「よーし! それじゃあご飯食べたら澪ちゃんりっちゃんの部屋に行こう!」

紬「はーい!」

唯「そういえばさ」

澪「ん?」

唯「今日の試合、ときどさんは負けたけど、明日のルーザーズがあるからまだ敗退して
はいないんだよね」

澪「ああ。それもそうだな。本人はすでに敗退の気分でいるみたいだけど」

ときど「……忘れてた。ただ、このタイミングで思い出すってことは、これはいただきました
な」

律「そうだよな! まだ準優勝のチャンスはあるぜ!」

ときど「準優勝?」

律「優勝はウメちゃんだからな」

ときど「なーる」

ウメハラ「――それじゃあ、いくか」

ときど「了解です」

紬「いってらっしゃーい」

梓「私たちも部屋で食事でもしましょうか」

さわ子「そうね。食べ終わり次第澪ちゃんたちの部屋に集合ね」

梓(マネーマッチでどんな感じなんだろ。一回覗いてみたいな)

澪「梓、気になるのか?」

梓「にゃっ!」

澪「マネーマッチ、見てみたいんだろ」

梓「な、なんでそのこと知ってるんですか?」

澪「私だってネットはやってるんだ。最近、格ゲーはネット上でも流行ってるからな」

梓「……それじゃあ」

澪「梅原先生が来た時も、あのウメハラだって気が付いてたよ」

梓「そ、そうだったんですか!? それじゃあ、マネーマッチ見に行きましょう!」

澪「sakoさん」

梓「はい?」

澪「sakoさんまじsakoさん」

梓「もしかして澪先輩は……」

澪「sakoさん信者だ」

梓「……」


律「ふう、あんまり美味しくなかったな」

澪「……」こそりこそり

律「あれ? 本当ならここで澪の鉄拳が……」

澪「こそこそ」

律「澪ー? どしたー?」

澪「ちょ、ちょっとおトイレに」

律「へえ……」

澪「いってきます」

ドア「がちゃ」

律「……」

律「……いや」

律「トイレに行くのに外には出ないよな」

律「……澪が逃げた?」

唯「……あずにゃーん!」

唯「あずにゃーん!?」

唯「あずさー!」

唯「中野ー!!」

唯「アズハラー!」


唯「いない」

唯「あずにゃんが、どこにもいない」

唯「冷蔵庫のなかも、トイレの中も電子レンジの中も捜したのに」

唯「……りっちゃんたちの部屋かな」

唯「そうか。そうに決まってるよ!」

唯「私も行ってこようっと」


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最終更新:2011年05月26日 22:36