――そして2月――

唯「ついに明日が入試だね!」

ときど「唯ちゃん頑張ったから、大丈夫だよ」

がまの油(まさか1カ月もいさせられるとは思わなかった)

KSK「じゃあ、みんなもがんばってね」

マゴ「俺もかなり勉強できるようになったぜ! エジソンはダイナマイト作ったんだよな!」

ももち「え?」

マゴ「てめっ! 言い訳ネクタイ! 今までどこに行ってやがった!」

チョコ「東京巡りです」

ももち「はい」

マゴ「ネクタイ(私服)締めんぞコラ」

がまの油「明日は寝坊とかしないようにね。俺たちはそろそろ帰ろう」

チョコ「えー。まだラーメン二郎行ってないのにー」

梓「今からでも行きますか?」キラン

ときど「関内も近いですからなー」

チョコ「えっと、遠慮させてもらいます」

マゴ「自分で言った言葉くらい処理しろよ!」

チョコ「……」ピイイイ

唯「あ! マゴさん泣かせた!」

がまの油「マゴォ……」

マゴ「じょ、冗談だよ! な? 飴ちゃんあげるから。な?」

ウメハラ「ハハハ」

KSK(うちの壁の塗料、きっとミルフィーユみたいになってるんだろうな)

澪「あの、本当にありがとうございました」

がまの油「いいっていいって。今度は名古屋に遊びに来なよ。美味しいもの食べさせて
あげるから」

紬「ありがとうございます」

律「気をつけて帰ってください」

がまの油「うんうん。みんなもね」

唯「がまさん! またね!」

がまの油「おう! じゃあね!」ブロロロロ


――1週間後・職員室――

先生「それじゃあ梅原先生。あの件は――」

ウメハラ「はい。申し訳ありません」

ドア「がちゃ」

唯「ウメちゃん先生!」

ウメハラ「ん? どうだった? 合格発表」

澪律紬「――」

ウメハラ「全員いるな。よかった。おめでとう」

唯「さわちゃん先生は?」

ウメハラ「……さあ?」

紬「でも、これでみんな同じ大学だね! やったね!」

律澪「ああ!」

ドア「がちゃん」

ウメハラ「……山中先生、泣いてるところ。見られないでよかったですね。やっぱり、いい
ものですか。1年のころから面倒見てる子の合格は」

さわ子「先生も、もうすぐ、わかるわよ……」ぐしゅ……


――部室――

唯「いやあ! よかったよかった!」

律「そうだなー! これで私たちも大学生だ!」

澪「うんうん」

紬「ようやく肩の荷もおりました!」

梓「本当に、みなさんおめでとうございます!」

唯「聞いたよあずにゃん。私たちのためにお賽銭してくれたんだって? 可愛いねえ」

梓「だ、誰から聞いたんですか!?」

唯「憂から聞いたんだ~」

梓「もう! 憂!」

憂「ういだよー」

澪「憂ちゃんも、お守りありがとう。すっごい効いたよ」

憂「えへへ。がんばって作りましたから」

律「あとでVISIONに報告しに行こうぜ! ときどさんにも挨拶しないと!」

唯「そうだね! 今から行こう!」ダダダッ


――西横浜のある廃墟――

唯「とき――」

律「ちょっと待て。なにか話してる」

澪「?」

ときど「ウメさんのあれ、そろそろ決めないと」

KSK「だな。今年度も終わりだから、進めないと」

稲葉さん「生徒の子たちからは、先生を取っちゃう形になるけどね……」

KSK「それだけは、心が痛むよな」

ときど「ウメさん、かなり慕われてましたからね」

KSK「うん。特に軽音部の子たちにとっては大事な顧問だから」

ときど「……でも、ウメさんは決めたんですよね」

稲葉さん「うん。だから、梅原くんのために早くあの件を進めよう」

KSK「……そうだね」

紬「……え?」

梓「これって……先生が……いなくなっちゃうってこと?」

唯「――!」

ドア「がちゃ!」

KSK「!?」

澪「唯!」

唯「今の話、どういうことなんですか?」

ときど「唯ちゃん!」

稲葉さん「……聞いてしまったのかい?」

紬「ごめんなさい。盗み聞きしてしまって……」

KSK「隠していても仕方ないか。……でも、出来ればクラスのみんなには内緒にしておい
てほしいんだ」

律「……わかりました」

KSK「今、日本の格闘ゲームは大きなうねりと共に動き始めているんだ」

梓「……」

KSK「この流れを止めるわけにはいかない。だから、俺たちは日本のプロリーグに向け
て動き出している。もちろん、その中心は梅原大吾。キミたちの先生だ」

KSK「国内のプロリーグともなると、人の目は集まる。だから、先生はできなくなるんだ。
分かってほしい。大人の事情に、君たちを巻き込むことになってしまって、本当にごめん」

澪「……梅原先生も、それは」

KSK「合意してくれた。今年一杯で、先生を退職すると思う」

澪「……そう、ですか」

稲葉さん「それでも、彼はギリギリまで渋っていたんだ。教師という職に、誇りと生きがいを
覚えたんだろう。国内の大会で負けが続いた梅原くんは、足を洗うことも考えた。だから
教師になったんだ」

KSK「でもね。そうはいかなかったんだ。4月ごろは中途半端にゲームをしていた。それ
を世界選手権に行こうという気持ちにしたのは他でもない。梓ちゃんの言葉なんだ」

梓「――!」

ときど「もっとふてぶてしく、もっと図々しく、いつだって強いビースト」

梓「あ」

ときど「その言葉らしくあろうと、ウメさんは決めたんだ」

KSK「鈍ってしまった牙を磨ぐために、昼は学校でも夜は一晩中ゲームをしていたんだ」

稲葉さん「そして世界選手権の優勝。国内のトッププレイヤーも参加した大会で優勝した
んだ。もう、誰にも彼を止められない。止められるとしたら本人だけだった」

ときど「そう。最後の最後まで悩んだウメさんは、格闘ゲームの道を選んだ」

ウメハラ「でもそれは。決して生徒たちを捨てたんじゃない」

KSK「ウメハラ!」

ウメハラ「俺は確かにプロリーグに参加する。でも、それは決して学校が厭になったから
なんかじゃあ。決して、ない」

律「でも……」

ウメハラ「マトモに高校生活を送らなかった俺が、こんなに楽しい高校生活を送れたんだ。
すごく、素晴らしい1年だった。だからこそ、プロである以上は前を見る。いつだって、俺
はそうやってきたんだから」

稲葉さん「……梅原くんにとって、君たちは大事な生徒なんだよ」

ウメハラ「夏は、みんなにいいところを見せたくてアメリカに連れて行った。今度は、俺の
生徒たち皆に、いいところを見せたくなったんだ。勉強ばかりに縛られて、つまらない大人
になんてならないで欲しい」

唯「――あ」

ウメハラ「俺は確かに、学校では不良生徒だったかもしれない。でも、俺は同級生だった
どんなやつよりも『ビッグ』になったと思ってる」

紬「……」ぐすん

ウメハラ「あと一歩なんだ。最後まで、やらせてほしい」

梓「……せんせぇ……」

ウメハラ「あと1カ月だけど、よろしくな。放課後ティータイム」


――帰り道――

唯「……」ぐすん

澪「……」ぐすっ

律「……」めそめそ

紬「……」うるうる

梓「……」ずるずる

澪「梅原先生……」

紬「このこと、さわ子先生は知ってるのかな」

梓「聞いてみますか?」

唯「やめとこう。秘密にしといてって言われたんだから」

律「そうだな。私たちにできるのは、あと1カ月、ウメちゃんに私たちの先生でよかった
って思わせるしかないんだから」

澪「でも、どうやって」

律「……考えがある」

唯澪紬梓「考え……?」


――そして、卒業式の日を迎えた――

姫子「今日で終わりだね。唯」

唯「うん。でも、なんだかそんな感じしないね」

姫子「そりゃあそうだよ。今日が世界の終わりじゃない。地球は今日もいつもの日曜日だ
よ」

和「……ねえ、唯」

唯「ん?」

和「今日、一緒に帰りましょう」

唯「……うん」

和「唯は、私といて楽しかった?」

唯「……和ちゃんのばーか。楽しくなかったら、14年も一緒にいないよ」

和「――ありがとう」

エリ「この色紙、書いて。さわ子先生と大吾先生へ送る言葉」

和「うん。わかったわ」

唯「私、先にウメちゃん先生の書くね」

和「じゃあ、私はさわ子先生のを」

澪「律」

律「んー?」

澪「今日で、高校生活が終わるんだな」

律「そうだぞ。澪ったらひどいよな。文芸部に入ろうとしてさ」

澪「だって……」

律「でもいいよ。今、澪はこうして私の側にいる。隣にいる。それだけで、いいよ」

澪「……臭い台詞だな」

律「いいじゃん。そういう日なんだから」

澪「ハハ。それもそうだな」

律「……わり。ちょっとこっち見ないで」

澪「おいおい。まだ、卒業式も始まってないんだぞ」

律「……」

澪「まったく。しょうがないな。りっちゃんは」ぎゅ

律「――離れたく、ないよぉ……さわちゃんとも、ウメちゃんやクラスのみんなと、ずっと、
ずっと一緒にいたいよぉ……」

澪「……私は、一緒にいるよ。だから、大丈夫。大丈夫だよ」なでなで


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最終更新:2011年05月26日 22:45