~昨日!~
「お客さん今日は暑くなるみたいですよ」
タクシーの運転手がわたしに声を掛ける。
唯「うー最近の夏は暑くて困るよー」
運転手「そうですね。私がこどものころはもっと涼しかった気がします」
唯「いいなぁー!」
こどもという言葉を聞いて、わたしはふいにみんなのこと思い出す。
こどもっていうのは、いつまでのことをいうんだろ?少なくとも、今はこどもじゃないってことぐらい、わたしにもわかる。
運転手「今日は仕事ですか?」
唯「ううん、違うよー。親戚のあつまりがあるのです!」
運転手「でも、気分的には仕事ですか?」
唯「すごーい!なんでわかったの?」
運転手「お客さんの顔見れば誰でもわこらますよ」
そう言って、運転手はいたずらっぽく笑う。
唯「わたしそんな顔してたかなー?」
運転手「してました、してました」
唯「でも、ホントにつまんないんだよー!」
唯「憂も来られないって言ってたし」
もう、最悪だね。
わたしはそれから、親戚のあつまりのつまらなさ、例えばケータイばっかいじってる従姉妹だとか、セクハラまがいの質問を投げかけてくる叔父だとかについての愚痴を言う。
そのうちに愚痴をこぼすのにも疲れて、わたしは窓の外に目を向ける。そこで、あるものが見えたので、わたしは言う。
唯「運転手さん!ちょっと止まって!」
どうしたんですと運転手はブレーキを踏んで、タクシーが止まる。
唯「ちょっと降ります!!」
運転手「お客さん逃げないよね?」
唯「がんばるよ!」
そういう問題じゃないでしょと言いつつも運転手は降りることを許可してくれる。 わたしはタクシーを降り、さっき見たものがいるはずの場所にかけていく。
そこには、泣いているこどもがいる。
こども「うわぁぁあん」
唯「どうしたの?」
こども「えーんえーん」
唯「ほらっもう大丈夫だから、お姉さんに言ってみて?」ギュッ
こども「うっう…ママとはぐれちゃったの」
唯「どこでかな?」
こども「えーとね、おっきなおみせ」
おっきなおみせ?
この辺で大きい店といったらデパートのことだろうか。だとしたら、ずいぶん歩いてきたんだなと思う。
唯「ほらっママのところまで連れてってあげるよ」
こども「うん!」
こどもを連れて、タクシーに再びもどる。
唯「あのー次はあそこのデパートまで、行ってくれるますか?この子のお母さんがそこにいるんだってー」
運転手「そういうことならメーターがたおせないじゃないですか」
運転手がアクセスを踏んで、タクシーが動き出す。
こどものお母さんはすぐに見つかった。デパート内にこどもがいると思い必死にさがしていた。
わたしは迷子センターにこどもを連れていき、お母さんに無事にこどもを届けた。 お礼をしたいというお母さんの申し出を辞退して、わたしはタクシーにもどる。
唯「待っててくれたんだー!」
運転手「そりゃあ待ってますよ。まだ料金もらってないんですから」
唯「すいません」
運転手「いや冗談ですよ。それにしてもすごいですね。普通なかなか行動にうつせるものじゃないですよ」
唯「困ってる人を助けるのは当然だよ!」
運転手「ははっ当然ですか。それにしてもこどもをすぐなだめられましたね」
唯「実はわたし、保育園の先生なのです!」
運転手「そうなんですか。それと時間は大丈夫ですかね?」
唯「あーっ!運転手さん超特急で!」
――――
「りっちゃんせんせー」
生徒がわたしの名前を呼ぶ。
わたしは今、高校教師をしている。桜ヶ丘高校に勤めるとまではいかなかったものの、2つの偶然には恵まれたと思う。
生徒1「せんせーここのドラムどう叩くのー?」
そう、1つは軽音部の顧問になったってことだ。
律「ここはなードンドンチャッチャッって感じに叩くんだ」
生徒1「ぜんぜんわかんないよー」
律「ほらっちょっと貸してみな」
ドンドンチャッチャッ
生徒1「ふうんなかなかじゃん」
ドラムは今でも練習している。だから、腕はなまっていない、はずだ。
生徒1「というかさー最初からそうやって教えてくれれば、良かったのに…」
律「まったく、それが教師に対する態度かよー」
生徒1「だって、りっちゃんせんせーぜんぜん教師っぽいとこないじゃん」
律「なにぃーわたしにだって教師っぽいとこあるぞー」
生徒1「ほんとぉ?ねぇねぇ生徒2いまからせんせーが教師っぽいとこ見せてくれるってさ」
生徒2「えー!りっちゃんにはむりだと思いまーす」
律「よしっ見てろよ?」
律「人っていう字はなあ…」
生徒2「りっちゃーん、それぱくりだよ?」
律「う、うるせーし」
部長「そろそろ、練習終わりにしよーか」
生徒1「おっ終わりだ」
生徒2「まったく、りっちゃんより部長のほうがはしっかりしてるよ」
律「お前なぁー」
やれやれ、これでもわたし部長だったんだけどな。
部長「あっ先生一言お願いします」
わたしは部活の最後にある、先生の一言が苦手だ。
律「え、えーと暑いので熱中症に気をつけるよーに…以上!」
部長「はぁ先生…」
律「どうした?そんな目でみるなよ」
部長「でも先生3日連続これじゃないですか…」
律「あーもーはやく帰った帰った!!」
じゃあねーと手を振り、生徒たちが帰っていく。全員が出ていくのを見届けて、わたしも学校を後にする。
「あらっりっちゃん」
校門から少し出たところで、ふいに声を掛けられる。
2つ目の偶然、さわちゃんだ。
さわちゃんはわたしがこの学校に来る前の年にここに赴任してきたらしい。もしかすると、わたしが教師という仕事にすぐ慣れることができたのは、さわちゃんおかげかもしれない。
さわ子「りっちゃん部活帰り?よかったら乗ってく?」
律「もちろん、家に送ってはくれないんだよな?」
さわ子「幸いなことに明日は休みよ。朝まで飲み明かしましょ」
律「わたし、まだ給料少ないんだからな」
さわ子「おごらないわよ」
律「知ってるし」
そう言って、わたしは車に乗り込む。
――――
「梓ー聞いてる?」
ケータイの向こうで純が声を出す。
梓「えっ?あっ聞いてる聞いてるー」
梓「駅前のカフェ集合でしょー」
純「はぁ違うって…憂の家集合に変更になったっていったじゃん」
梓「えっそうだっけ?」
ごめん純、聞いてなかった。
純「もうちゃんと聞いててよ」
梓「だ、だって電波が…」
純「まったく、梓は言い訳ばっか…素直になりなよー」
梓「じ、純に言われたくないしっ」
純「…まあいいけど、憂の家覚えてるの?こっち久しぶりじゃん」
確かに久しぶりだなとは思う。 わたしは大学をでたあと、桜ヶ丘のある企業に勤めた。それから、少しして、転勤になったのだ。悪い意味ではなく、俗に言う本社転勤ってやつだ。
梓「大丈夫、覚えてるって。N女のわたしの記憶力なめてるの?」
純「でもそこ、唯先輩や律先輩も受かってるじゃん」
梓「…そっかぁじゃあダメだ」
純「ひどっ!」
梓「最初に言い出したの純だけどね」
純「それに、わたしのいった大学より下じゃん」
梓「切るよ?」
純「電話?」
梓「純の首」
純「こわっ!」
梓「うそうそっ冗談じゃ切るよー」ブチっ
わたしは純との電話を切り、辺りを見渡す。
その風景を見ると、懐かしいさが胸にこみ上げてくる。と、同時にあの人のことを思い出して切なくなる。
…道わかるかな?
――――
「せんぱーい、また部長怒ってますよぉ」
後輩が私の肩をこづく。
私たちの会社は二人一組で仕事をこなす。私の相方がこの後輩ってわけだ。
澪「誰か何かやらかしたのか?」
後輩「さぁーでもあの人いっつも怒ってますよぉー」
澪「まあな、でもミスしなければおこられないだろ」
後輩「そーですねー。その点わたしは大丈夫ですね。澪せんぱいがついてますからぁー」
私はその言葉に対し、苦笑する。
確かに、私は仕事に関してミスはしないし、与えられた以上の結果を出すこともできると思う。
だけど、会社の人との付き合いは薄い。どうやら、周りからは仕事一筋の女と思われているようだ。
後輩「そういえば、知ってます?駅前に新しくできたカフェ」
澪「ああ、聞いたことはあるよ。行ったことはないけどな」
後輩「実はわたしもなんですよぉー。雑誌によるとそこのパフェちょーおいしいらしいんですよねぇー」
澪「じゃあ、行けばいいんじゃないか?」
後輩「それがちょー高いんですぉー。誰か連れてってくれないかなぁー」
澪「私は連れてかないぞっ」
後輩「あっわかってますよぉー。せんぱい、私の中であの部長の次に頭かたいですからぁー」
澪「はぁ、私はそんなふうに見えるのか?どうすればいいかな?」
後輩「そんなの知りませんよぉー」
後輩「あっ今日この後飲み会あるんできます?」
澪「いや、遠慮しとくよ」
後輩「あーさっきので、せんぱいが一番になりましたぁ」
澪「それは、喜んでいいのかな?」
後輩「はいっ!」
澪「今日は自分のノルマだけやって、帰るかなっ」
後輩「せんぱーい、それはひどいですよぉー」
――――
「琴吹さんこれでよろしいでしょうか?」
部下が私に確認を求めてくる。
紬「えーと…いいんじゃないかしら」
そう言って、私は承認の判子を書類に押す。
今の私の作業を見たら、みんなは退屈だって言うでしょうね。現に私だって、そう思ってるのだから。
部下「琴吹さんは休みをとられるのでしたね」
紬「そうね、少し羽をのばそうかと思って」
部下「どちらかへいらっしゃるのですか?」
紬「ええ、日本に」
部下「そうでしたか。それでは、こちらも忙しくになりますね」
私がいなくったって何も変わらないわ、と言うかわりに、大丈夫よ、頑張ってと笑ってみせる。
どうしてこうなったのかしら?私はポーチについた、ティーカップのストラップに触れる。
私は大学を出たあと、お父様の力に頼りたくなくて、自分で就職先を探し、その一つに入社する事ができた。
はじめは仕事はつらかったけど、慣れてくると楽しいものがあり、どんどん成果を出していった。
そのうち、私の仕事が認められ、海外への配属が決まった。みんなと離れるのは嫌だったけど、わがままも言ってられなくて海外へと渡った。
だけど、そこで偉くなっていって、いつの間にか判子を押していた。もちろん、判子を押すだけが仕事じゃない。つまり、それだけ私の仕事は内容がないのだ。
紬「私に足りないものはどこへ行ったのかしら」
気づくと声に出ていた。そこで彼は、お前は金も地位も持っていて十分じゃないかと言ってもよかったのかもしれない。だけど、彼はこう言った。
部下「誰にでも、足りないもの1つや2つありますよ」
紬「そうね、ありがとう」
私はそう答える。
私は子供の頃から抱いていた夢、つまりこの退屈な日常から誰かが私をさらっていくことについて考える。
それは一度みんなが叶えてくれた。
…もう一度なんて、甘いかしら?
今度はストラップを強く握りしめる。
~三年前 春!~
唯「う~ん、おっいしぃぃー」もしゃもしゃ
梓「ハンバーガーをそんなにおいしそうに食べる人はじめてみましたよ」
律「唯は何でもうまそうにくうからなぁー。おっポテトもーらいっ」ヒョイッ
澪「勝手にとるなっ」ポカッ
律「いったぁー」
紬「私ももらーい」ヒョイッ
澪「あっムギまでー」
律「なんでムギは叩かないんだよー」
澪「なんか許せちゃうんだよなぁー」
紬(残念…叩いてもらいたかった)
澪「そーいえばさ、みんなは就職希望、決めたのか?」
唯「わたしは一日中ゴロゴロしてたいなぁー」
梓「それもう就職関係ないですよね?」
律「ニートだなぁー」
唯「違うよ!アイスも食べるよ!」
律「それがニートだろっ!」
唯「わたしはアイスの評論家になるのです」フンス
梓「ひどい夢ですね…」
唯「あずにゃんアイス評論家をバカにしちゃあダメだよ!」
梓「やれやれ」
澪「ムギはどうなんだ?」
紬「私は職業とは関係ないんだけど夢があるのー」
律「なんだー?」
紬「私、攫われるのが夢だったの~」
みんな「」
梓「えっ、えーと…」
律「そ、それはなぁ澪?」
澪「あ、ああいくら夢とはいえ…」
唯「ダメだよ!ムギちゃん!危ないよ!」
紬「ち、違うのみんな」
みんな「えっ?」
紬「攫われるっていうのは比喩的な意味で…」
紬「私、子供の頃から家の影響もあって、いろいろ自由になれない部分があって、それで誰かが私を攫ってくれないかなーって」
梓「そ、そういうことでしたか。びっくりしました」
澪「ムギに変な趣味があるのかと思ったよー」
紬「ごめんね?」
唯「ムギちゃん!じゃあ、わたしたちがムギちゃんを誘拐してあげるよ!」
梓「そしたら、確実に唯先輩のせいで失敗しますね」
唯「あずにゃんしどいっ」
紬「ふふっ…でも、もう叶っちゃったかしら」
律「うれしいこと言ってくれるぜー」コノコノー
律「澪はどーなんだよ?」
澪「実は私も決まってないんだ。だから、みんなに訊こうと思って」
澪「でも、まだみんな決まってないみたいだなー」
律「おいっまだ聞いてない人がいるんじゃないのかー?」
澪「どこにだ?」
律「ここだよっ!ここ!!」
澪「わかった、わかったで律は決まってるのか?」
律「決まってないよ☆」
澪「なんだよっ!」ポカッ
律「アイタッ」
紬「あらあら」
梓「でも、先輩たちはみんな決まってないんですね。それで大丈夫なんですか?」
澪「その大丈夫には私も入ってるのか?」
梓「はい!今回は澪先輩もムギ先輩も入ってます」
澪紬「ガーン」
唯「わぁ!あずにゃんが最近どんどん冷たくなってるよぉー!」
梓「先輩は冷たくないアイスを食べたいですか?」
律「くっ…うまいこと言ったつもりかぁー」ガシッ
梓「うわっ!ギブー」バタバタ
紬「梓ちゃんは将来何になってるのかしら」
澪「ミュージシャンとか似合いそうだな」
唯「あずにゃん!そしたらライブ毎日見に行くよー!」ダキッ
梓「ちょっ…唯先輩//」
律「ラブラブだなー」
澪「そうだな」
紬「りっちゃん、澪ちゃんもね」フフッ
律澪「なにがっ//」
最終更新:2011年05月30日 23:26