~昨日!~

憂「梓ちゃん久しぶりー」

梓「憂ー元気だったー?」

 わたしは憂と久しぶりに会った感動を分かち合う。
 憂に促されて、家の中に上がる。
 ここも久しぶりだ。何回もお世話になった。唯先輩がいた時はもとより、憂と純と遊んだときはだいたいここだったなと思う。

純「あっやっと梓来たよー。よっ!久しぶり!」

梓「あの純もしばらく会わないと懐かしいもんだ」

純「嬉しいくせにっ」

 テーブルの上に憂の作った料理がならべてあるのあるのを見て、腹の音が鳴ってしまう。

純「梓も食べたいと言ってることだし、さっそく食べますか」ニヤニヤ

梓「//」

 残念だけど、反論ができない。

梓純「いただきまーす」

憂「どーぞ召し上がれー」

梓「おいしい!」

 本当においしくて、意識するより、先に声がでてしまう。

憂「ふふっありがと」

純「梓、今日はどうしてこっちにきたの?」

梓「あーそれは出張だからね。で、仕事は月曜から」

純「さすがはエリート社員!」

梓「エリートなんかじゃないって。それより、憂はどうなの?」

純「憂はすごいんだよ。みんな憂に教えてもらいたがるんだって!神様扱いだよ!」
梓「なんで、あんたがいばってんのよ」

憂「そ、そんなにすごくないよ…ただ教えるのは楽しいよ~」

梓「確かに憂にピアノの先生は似合ってるよ」
梓「教えるの得意そうだし、唯先輩の宿題も教えてたしね」

憂「あははっ」

純「ねぇわたしは?」

梓「特にいいや」

憂「ふふっ、でも梓ちゃん電話で、ライブと日程が合うかすごい心配してたよ~」

純「ほんっとに素直じゃない!」

梓「わたしだって素直になったよ!」

憂「えー?じゃあ今でもお姉ちゃんのことは好きなの?」

梓「…!!す、好きかな…//」

純「なんと!素直になってる!?」

憂「それで、お姉ちゃんとは会ってるの?」

梓「えーと、最後に会ったのは半年前くらいかな…」

純「電話はー?」

梓「3ヶ月前かな…」

憂「梓ちゃんはそれでいいの?」

梓「よくはないけど…しかたないとは思ってる」

 そう、しかたない、あの日わたしが自分でこうなることを選んだんだから。

憂「ねえ、梓ちゃんは逃げてるだけじゃないかな?自分に嘘ついて…もっとがんばってもいいんじゃない?」

梓「……」

憂「あっごめん」

梓「ううん、いいんだ。ホントのことだから」

 憂には何でも見透かされてるなと思う。わたしは逃げてたんだ。あの日よりあとだってチャンスはあった。

梓「でも、終わったって気もする」

 あの日、わたしは怖れた。女同士ってことを。しかも、もう時は過ぎてしまった。あのころのようには戻れない気もする。

純「でもさ、終わったんならまたはじめればいいじゃん!」

憂「なあんだ、簡単だよー!」

 そんなふうに言われると本当に簡単に思えてしまえそうで、困る。

梓「ちょ、ちょっと待ってよ!2人ともなんでそんなに積極的なの?」

純「えーだってー、梓の恋応援するのは面白いじゃん!」

梓「やれやれ」

憂「ふふっ梓ちゃん、ほんとはね純ちゃんも私も梓ちゃんの助けになれればいいなーって思ってるんだー。ほら、梓ちゃんあんまり人頼らないからさ」

純「ういーそれは言わない約束だったのにー」

憂「あっ!忘れてたっ!」

純「そーゆーとこ唯先輩に似てるよねー」

憂「梓ちゃん、おせっかいだったかなー?」

梓「とんだ、おせっかいだよっ」グスン

純「やっぱり素直じゃないっ!」

梓「うるさいっ…ありがと…憂…純…」

純「…あ、梓の泣き虫!」

憂「純ちゃんも素直じゃないねー」

 私たちって変わったけど、変わらないねーと憂が言う。それを聞いて、そうかもしれないなと思う。いろいろ変わっていくなかで、変わらないものがある。それがいい意味であったらいいなと思う。

 わたしは、唯先輩に告白してもいいかなと思っている自分がいることに気づく。


――――

後輩「澪せんぱいこれなんですかぁ?」

 後輩は一枚の紙をもっている。どうやら、私の渡した資料の中に入り込んでいたらしい。

後輩「えーと、なになに…」

後輩「『チョコレートはちょこっとだけよ。わたしの心はミキサー状』ってなんですかぁ!これっ!」

 私は赤面する。

澪「読むなっ!そして、返せっ!」

 私はそれを後輩の手から奪い取ろうとする。だが、後少しで紙に手が届きそうというところで、後輩は紙を引っ込める。

後輩「これがなんだか教えてくれたらぁ、返しますよぉー」

澪「…か、歌詞だ//」

後輩「お菓子?たしかにお菓子の名前はいっぱい書いてありますけどぉ…」

澪「う、歌の歌詞だよっ!」

後輩「スイマセン、その発想はなかったです」

澪「う、うるさいっ!」

 私は今度こそ後輩の手から、紙をひったくる。

後輩「でも、澪せんぱいって音楽やってるんですねぇー」

澪「ああ、まあな」

後輩「どんな楽器ですかぁ?」

澪「ベースだ」

後輩「ヴェース」

澪「ベースな」

後輩「へぇー正直驚きですよぉ!あの澪せんぱいがベース弾いてるなんてぇ!」

澪「あはは…」

後輩「不思議でしたからねぇー。澪せんぱい、仕事以外のときは何してるだろぉ?って」

澪「…私は何に見えてたんだ」

後輩「土地に例えるなら、砂漠ですよぉ!砂漠。こっちはやっとオアシスを見つけた気分です」

澪「まったく、私にだって趣味くらいはあるさ」

後輩「てことは、バンド組んでるんですよねぇ?」

澪「ああ、今は休止中だけどな」

 休止中でいいんだよな?みんな。

後輩「なんていう、バンドですかぁ?」

澪「放課後ティータイムっていうんだ」

後輩「これはまた、澪せんぱいの命名ですか?」

澪「残念だったな。これは私の高校の頃の先生がつけたんだよなー」

後輩「ああ!どおりで格好いいわけだぁ!」

澪「どういう意味だ、コラッ」

後輩「あっじゃあ復活したら、ライブとかやるんですよねぇ?」

澪「ああ、もちろん!」

 復活するよな?

後輩「そしたら、ライブでこれやってみてくださいよ!」

 そう言って、後輩は右手の親指以外をたてる。

澪「なんだ?4か?」

後輩「違いますよぉ!ダブルピースです!」

澪「普通、ダブルピースっていうのはこういうのじゃないか?」

 私は両手それぞれにピースをつくる。

後輩「知らないんですかぁー最近はこれが流行ってるんですよぉ」

澪「ほんとか?」

後輩「嘘です。私と私の友達の流行らせようとしてるんです」

澪「流行らないだろ?」

後輩「なんでわかったんですかぁー」


――――

「かんぱ~い」

 グラスがぶつかる小気味よい音が響く。 わたしとさわちゃんは学校の近く、安さがうりの居酒屋にやってきていた。

さわ子「どう?もう仕事には慣れた?」

律「とうぜん!あっ授業は大変だけどね」
さわ子「はあ、あなたそこが教師の一番の仕事なのよ」

律「わかってるって、さわちゃんはいいよなー。音楽ってラクそー」

さわ子「そんなことないわよ。まずね…」
律「わかったわかった。さわちゃんは酒がまわると愚痴しかいわなくなるからな」

さわ子「りっちゃんはぜんぜん飲めないじゃない」

律「あーあーそっちの方が健康的だろ」

さわ子「まあいいけど…軽音部のほうはどう?」

律「楽しいよ。まあわたしたちのときとは、ずいぶん違うけどな」

さわ子「そうね。というかあなたたちが異常だったんだけど…」

律「でも、さわちゃんだって楽しんでただろー」

さわ子「そんなことなかったわよーあなたたちを注意するのは大変だったんだから」
律「いいのかー?デスメタばらしちゃうぞー」

さわ子「ちょっやめなさいよ!わたし今度こそおしとやかキャラで通してるんだから」

律「いやムリがあるだろー歳的に」

さわ子「うっさいわねーりっちゃんだってすぐにババアになるわよ」

律「あっ、その台詞高校のときは笑えたのになぁー」

律「そういえばさ、今でもティータイムとかって続いてるのか?伝統みたいな?」

さわ子「残念だけど、梓ちゃんの代で終わったわよ」

律「そっかあ…まっあれはムギがいたからなぁー」

 そこでわたしのケータイが鳴る。ポケットから出すときについた2つのストラップが揺れる。

さわ子「あらっかわいいのつけてるじゃない。ウサギなんて」

律「う、うるせーし//」

 わたしはそう言ってから、ケータイを開いて、発信者を確認する。なんの偶然か画面にはムギの名前が映し出されていた。

紬『…もしもし、りっちゃん?』

律「よっムギ!久しぶりじゃん!どうしたー?」

紬『久しぶりっ。実はね今度日本に行けることになったの~』

律「ほ、ほんとかっ?」

紬『うんっ!まだ詳しい予定はわからないんだけど…明日の夜にはつけるかしら』

律「それって日本時間だよな?」

紬『ふふっそうよ』

律「いやームギが帰ってくるなんてなぁー。そうだ、今、さわちゃんといて、ちょうどティータイムの話になったんだぜ」

紬『ホント!?…もう少し話聞きたいんだけど、これからこっちをたつ前にしなきゃいけないことがあるから…』

律「あっそうなの?ムギも大変だなぁー」

紬『そうだっ!澪ちゃんにはりっちゃんから言ってくれないかしら?』

 何で?とは聞かなかった。あのことを知らないものは軽音部にはいない。それに一番それを残念がってたのもムギだった。

紬『やっぱ、難しいかしら?』

律「…いや、任せてくれよっ!」

紬『ありがと。じゃあ詳しい事が決まったら、また連絡するわね』

 そう言ってムギは電話を切った。

 それから、わたしはさわちゃんと二時間ばかり飲んで、家に帰った。すぐにシャワーをあび、パジャマを着て、ベットに横になる。
 そろそろ約束を果たすときが来たのかもしれないな。わたしはゆっくりと目を閉じる。




~三年前 夏!~


ピーンポーン

唯「あずにゃんいるー?」

ガチャ

梓「はいはーい…ってなんだ先輩方でしたか」

律「なんだとはなんだっ」

唯「あずにゃん!お出掛けしよっ?」

梓「えーと今日はちょっと…」

澪「何かあるのか?」

梓「たいしたことじゃないんですけど…」
律「じゃあ、いいじゃん!ほらっいくぞっ!」グイグイ

梓「ちょっ、ちょっと待ってくださいよー第一どこにいくんですか?」

紬「みんなで街を散策するの~」

梓「それってつまり、行くあてなしってことですよね」

唯「いいじゃーんあずにゃーん、堅いこと言わずにちょっとだけっ!ねっ?」

梓「まあ少しだけなら…」

律「じゃあ、しゅっぱーつ!」

梓「せ、せめて服くらい着替えさせてくださいよー」ズリズリ

澪「でも、どこに行こうか?」

梓「そうですね。ただ街をブラブラするのもあれですし」

梓「あっ楽器屋がありますよ」

律「あーあるな」

唯「けど、それがどうかしたのー?」

梓「はあー、仮にも音楽やってるんですから、少しは興味もってくださいよっ!ねぇ澪先輩?」

澪「いや、あそこはレフティのあつかいが悪いからなっ!」

梓「はあー」

唯「あーっ!」

紬「どうしたの唯ちゃん?」

唯「あの服かわいいー」

律「どれだ?」

唯「もうっりっちゃんにはあの服が発するオーラを感じないの?」

澪「あれか?」

律「…いやあれはないだろ」

梓「澪先輩の歌詞のセンスがこんなとこまで生かされてるとは…」

唯「みんなっこれだよっ!これ!」

律「へえーいいじゃん」

梓(唯先輩に似合いそうだな~)

紬「もう唯ちゃんに着せてあげるなんて、はやいわねー梓ちゃん」

梓「なっ、なにがですかっ//」

律「一回試着してみたらどうだ?」

唯「うんっそうするよ!」

パタン

律「…のぞくなよ、梓」

梓「の、のぞきませんよっ//」

唯「どうかなー」ジャン

律「おっ似合ってるぞー」

澪「いいんじゃないか」

紬「かわいいわっ!唯ちゃん」

梓「まあ、なかなかですよ」

唯「ホントっ?あっでもどれくらいするんだろ?」

梓「えーと、けっこうしますね」

唯「えへへー買っちゃおーかなー」

律「でも、唯最近服買ってなかったっけ」
唯「そーなんだよねーどーしよー」

唯「あっ!いいこと考えたー」

澪「どうしたんだ?」

唯「えーとね、次このお店の前を通ったのが女の人だったら買うよっ!」

律「おっ面白そうだなー」

唯「うーん、やっぱ男の人にしようかなーでもなーそうだっ!」

唯「次このお店の前を女か男の人が通ったら買うことにしようっ!」

律「おいっ!!」

澪「もう買っちゃえばいいんじゃないか?」

唯「それじゃあダメなんだよっ!澪ちゃん!さあ、ばっちこいだよ!」



スタスタ にゃあ~

紬「あっ」

律「あっ!」

澪「あーあー」

唯「あーーっ!」

梓「あぁーーっ!」


澪「というか、何で梓もそんなに驚いてるんだ?」

梓「あ、あずにゃん二号です…」

律「あずにゃん二号?」

梓「つ、つまり純から預かってる猫です」
紬「追いかけたほうがいいんじゃないかしら?」

梓「そ、そうでしたっ!」ダッ

唯「……服欲しかったなぁ」

律「梓ー見つかったかぁー?」

梓「いいえ…」

唯「うーんとじゃああっちかこっちに行ったのかなぁ」

紬「手分けしたほうがよさそうね」

澪「そうだな。どうやってわける?」

律「グーパーでいいんじゃないか?」

梓「ちょ、ちょっと待ってください」

律「どーした?なんかあるのか?」

梓「そうじゃなくて、先輩たち探すの手伝ってくれるんですか?」

唯「あったりまえだよ!困ってる人を助けるのは当然だよっ!」

澪「まあ、どうせ行くあてもなくて暇な身だしな」

律「というか、連れてきたわたしたちも悪いし」

紬「だから、梓ちゃんは気にしなくていいのよ?」

梓「先輩方…ありがとうございます!」


3
最終更新:2011年05月30日 23:28