~ 三年前 冬! ~


律「話ってなんだよ」

澪「実はさ私、ずっと考えてたんだ」

律「…」

澪「私たちって付き合ってから、二年たったけど、ときどき思うんだ。前のほうがよかったのかもって」

澪「ほら、私たち最近は人の目とか気にしてぎくしゃくしてるよな」

澪「…だから、なんとかなんないかなーって」

律「なんとかってなんだよ…」

澪「正直律はどうなの?前のほうが楽しかった?」

律「今は周りに変な目で見られたりして、嫌な気分になるときもあるし、ぎくしゃくするときもあるよ」

律「でも、今だって楽しいことはあるだろ」

澪「…まあな。でも、こう思っちゃうときがある」

澪「私、律のことほんとに好きなのかなって」

律「…!」

澪「違うんだ。多分律の思っている意味とは違う」

澪「例えばさ、律と手つないで歩いてるとして、そこで誰かが私たちのことを変な目で見ると、私、手放したいと思っちゃうんだ」

澪「なんていうか、それって律と付き合う資格あるのかなって…」

律「…資格とか関係ねーよ」

澪「…でも」

律「…なあじゃあ一回別れてみる?」

澪「そ、そういう意味で言ったんじゃないんだ!」

律「わかってるって、でもさこういうときはお互いに距離をとったほうがいいんじゃないかってさ」

律「それで澪の気持ちの整理がついたらまた、そのときにな」

澪「………わかった」

律「でも、こうやって会わなくなるパターンがほとんどだよなぁ」

澪「縁起でもないこと言うなっ!」ポカッ
律「痛っ!!」

澪「私はどうすればよかったのかなぁ?」
律「それわたしに聞いちゃう?」

律「澪は真面目なんだよ…少し悪いことでもしてみれば?」

澪「例えば?」

律「えーと、そうだな遅刻?そして、なんで遅刻したんだって言われたら、『愛を探してました』って言うとか」

澪「くだないな。でも律だったら簡単にできそうだ」

律「できねーし。こんな、澪の歌詞みたいに恥ずかしい台詞」

澪「おいっ」

澪律「…」

澪「そうだ1つわがままを聞いてくれないか?」

律「まったく澪はわがままだなあ」

澪「そんなこといったら、律のほうがわがままだろっ!」

澪「…いっつも宿題教えてだとか、遊びに行こうとか……それでそのたびにさぁ…」ポロポロ

律「……いや澪だろ?小学校のときはいっつも1人で帰るのが怖いって泣きついてきたり、中学のときには親が出掛けて1人は怖いから家に来てくれとか……高校もさぁ…」ポロポロ

澪「…泣くなよ」

律「…泣いてねーし」

澪「…あのさーこれ、預かってて欲しいんだ」

律「でもこれ大事だろ?」

澪「だからだよ。それでまたいつか届けに来て欲しいんだ。私たちがまた会えるように」

澪「わがままだけど…」

律「わかったよ」

澪「…約束だからな」

律「…ああ、約束だ」



~ 今日! ~


 待つという行為は簡単そうに見えて難しい。それが、来るあてのないものとなるとなおさらだ。
 だけど、わたしはそこで来るあてのないそれを待っていた。

 わたしは公園に行くために8時にホテルをでた。朝の公園には誰もいないと思っていたので、犬を散歩させている老夫婦やランニングをしている婦人などがいて、少し意外に思う。 適当な位置にあるベンチを見つけて、座る。
 暇な時間を持ってきたプレイヤーを聞いて過ごした。お気に入りのアルバムが4巡したところで、昼食を買うためにコンビニ向かう。


 コンビニから戻ってくると、さっきまでわたしがいたところに誰かが座っているのが見えた。それと同時にわたしは驚く。

梓「澪先輩っ!」

澪「あ、梓じゃないか!」

梓「久しぶりですねー。どうしてここに?」

澪「ああ、私さ、そこで働いてるんだ。今は昼休みだよ」

 そう言って、澪先輩は近くのビルを指差す。

澪「梓は?」

梓「あっわたしは出張でこっちに来てて」
澪「それじゃあ、今日はサボリ?」

梓「ち、ちがいますよっ!仕事は休み開けからです」

澪「そうなんだ。でも、なんでわざわざここに?」

梓「待ってるんですよ」

澪「待ってる?何を?」

 わたしはそこで時間が気になったので、そのことについて、澪先輩に尋ねてみる。
梓「あのー時間は大丈夫ですか?」

 澪先輩はちらっと公園の柱時計を見た後言う。

澪「ああ、平気だよ」

梓「じゃあ、それでですね。待ってるんですよ」

澪「待ってる?」

梓「えーと、はい。実はわたし、あるものに借りをつくっちゃったんですよ。それで、大事なことをする前にはそういうの返しておきたいじゃないですか。で、それを返しに」

 まあ縁起を担いでるんです、と言う。

澪「大事なことっていうのは?」

梓「告白しようと思うんです」

澪「唯か?」

梓「まあ、そうです…ってなんでわかったんですかっ//」

澪「見てればすぐわかるって!みんな知ってたよ?」

梓「え、ええっ!…誰にもばれてないと思ってました」

澪「…それもわかってた」

梓「…恥ずかしいですね//」

澪「でも、告白するんだよな?」

梓「…はい。待ってるものが来たらですけど」

澪「がんばれっ」

 澪先輩はそう言ってわたしの肩をたたいた。

 それから、わたしのたちの間に沈黙が続いた。沈黙の我慢できなったからというわけではないんだけど、わたしは澪先輩に尋ねている。

梓「律先輩とはどうなんですか?」

 尋ねてから、少し後悔する。
 だけど、予想に反して、澪先輩は悲しい顔ひとつせずに言う。

澪「音沙汰なし、だよ」

梓「それって…」

澪「でも、律は約束を破ったりしないと思うんだ」

梓「約束の時間に遅れたりはしますけどね」

澪「ははっそうだな、遅刻はするけど、大切な約束を破ったりしない。そういうやつだろ田井中律は」

梓「そうですね。そうかもしれません」
ニコッ

 わたしは澪先輩の誇らしげなその言葉を聞いて、微笑む。


 それから、わたしたちは今の仕事の話だとか、好きなロックバンドの話をした。
 長い時間が過ぎて、ふと澪先輩が言う。
澪「もしかして、梓が待っているものは簡単には来ないんじゃないか?」

梓「そうですね。奇跡かもしれません」

 でも、わたしはここで奇跡が起こんないなら、奇跡なんて必要ないじゃないか、とも思っていた。

澪「奇跡かぁ…でも、大丈夫、きっと来るさ!」

 そして、奇跡は起こる。
 わたしは向こうの信号にタクシーがとまっているのを見つける。

澪「梓が待ってたのってタクシーなのか?」

梓「はい、あのタクシーです」

澪「そうかぁ」

梓「でも…澪先輩が大丈夫って言うと、ホントに大丈夫だから不思議です」

 わたしは笑う。

そして、タクシーに向かって歩き出そうとする。そこで、ふと思って聞いてみる。

梓「澪先輩遅刻ですよね」

澪「そうだな」

梓「言い訳とか考えてるんですか?」

澪「愛を探していました、だ」

梓「ふふっ、変です」

澪「だよなぁ」

 澪先輩は嬉しそうに笑う。

 タクシーにたどり着くと、わたしは車に乗り込み、唯先輩のマンションの位置を伝えて、一万円札をだす。

梓「おつりはいりません」

 運転手はわたしの顔を見て、驚く。

梓「わたし、一度この台詞言ってみたかったんですよ」

 運転手は笑って、そして言う。

運転手「また、会いましたね」




~ 三年前 冬! ~


梓「唯先輩もうすぐ卒業ですね」

唯「そうだねー」

梓「唯先輩は保育園の先生として、働くんでしたよね」

唯「そうだよー」

梓「どっちが子供なのかわからなくなっちゃうんじゃないですか?」

唯「あっあずにゃんひどいっ!」

唯「そんなあずにゃんにはおしおきだよっ!」コチョコチョー

梓「にゃっ!?ひゃっはははっ…や、やめてくださいよー」

唯「やめろと言われて、やめるバカがどこにいる~」

梓「バカなら目の前にいますけどね」

唯「もう怒ったよー!」ホラホラッ

梓「わ、わっはっはっー」

梓「こうなったらお返しですっ!」ガバッ
唯「わっあずにゃん?…ひゃっはっはっはっー」

唯「あっああん//」

唯「あっ、あずにゃんそこはダメだよ//」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハアハア

フウフウ

ゼイゼイ


梓「まさか、唯先輩があんなに首が弱いとは思いませんでした」

唯「昔からなんだぁー」

梓「というか弱いというより…」

唯「うっ…恥ずかしいよぉー//」


梓「あ、あのっ!」

唯「どうしたのー?」

梓「す、す、す…」

唯「す?」

梓「スマイルですっ!」

唯「?」

梓「え、えーと笑顔を忘れないでくださいってことですっ!それが唯先輩の唯一のとりえなんですから」

唯「ゆいいつ…しどいよぉあずにゃーん」
梓「でも、その笑顔になんど救われたか…」ボソッ

唯「あずにゃぁーん!」ダキッ

梓「もうっ//」

ギュウウー

唯「あずにゃんあったかいよー」

梓「そうですか、それはよかったですね」
梓(よくないよっ!今日言うって決めたじゃん!)

唯(あずにゃんさっき…ここはわたしからっ!)

梓「唯先輩っ!」
唯「あずにゃんっ!」

梓「唯先輩何ですか?」

唯「それより、あずにゃん何か言おうとしてたよねー」

梓「唯先輩、先に言っていいですよ」

唯「わたしは優しい先輩だから、後輩に先に言わしてあげるよっ!」

梓「優しい先輩なら先に言ってくださいよ」

唯「じ、じゃあじゃんけんで決めよう!」
梓「まあ、それならいいですけど…」

唯梓「最初はグ~ジャンケン…」

唯「…ポンッ!」パー
梓「…ポンッ!」グー

梓「…」

唯「わたしの勝ちだねっ!」

梓「しかたないです…言いますよ?」


「あっ!」

女1「あれって、平沢さんと中野さんじゃない?」

女2「ああ、大学でライブやってた」

女1「あれかっこよかったよねー」

女2「他にもいくつかバンドあったけど、一番良かったなあ」

唯(嬉しいなぁ)

梓(でかい声でしゃべってるなぁ)

女1「知ってるー?あの2人できてるって話」

女2「うわっマジぃーでも噂でしょー」

女1「まあね」

女2「じゃあ平沢さんたちに失礼でしょ」
女1「そうだよね、女同士とかありえないかー」

アハハハハハハッ

唯梓「…」

唯「行ったね」

梓「行きましたね」

梓「それでさっき言おうとしてたことですけど」

唯「うん」

梓「唯先輩、いつまでも変わらないでいてくださいよ。わたし、こうやって唯先輩とバカなことして笑いあうの好きなんですから」

唯「あずにゃん大丈夫だよっ!わたしが変われると思う?」

梓「ふふっ、たしかにそうですね」

梓「唯先輩は何て言おうとしたんですか?」

唯「…わたしは、これからはあずにゃんともあんまり会えなくなっちゃうよね?」

梓「まあ、そうですよね」

唯「だから、その間もわたしがちゃんと活動できるようにたくさんあずにゃん分を補給したいのです!」

唯「いい?」

梓「別にいいですけど、抱きつくのってそんなにいいですか?」

唯「うん!だけど、あずにゃんはさらに特別なんだよっ!」ギュッ

梓「………ばかっ//」ボソッ

唯「そのうちあずにゃんも抱きつくことの良さに気づいて、唯せんぱーいって抱きついてくるよっ!」

梓「そんなことないですっ!じゃあもしそうなったら、唯先輩の言うこと1つ聞きますよ」

唯「ふふふー楽しみにしてるよっ!」


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最終更新:2011年05月30日 23:32