律「せめてリルって子の部屋がわかればな~……」ブツブツ

梓「あ、律先輩!」

律「おっ、梓。ずいぶん早かったんだな」

梓「ええ急いできましたから。それより……大丈夫でしたか?」

律「いやあ、中学生に脅されて、死体チョーク発見しちゃったりで……さんざんだったよ」

律「ほら、そこ。梓が立ってるとこ」スッ

梓「……に、にぎゃああああ!」

律「な?」

梓「な、生々しいですね……ああビックリした」

梓「あ……それより。大変なんですよ律先輩!」

律「えっ、今日自殺する子に会ったって?」

梓「はい、そうなんですよ。今日がその順番だって言ってて……」

梓「急がないと、リルに連れていかれるって……」

律「リル?」

梓「はい。すごく怯えてる様子でした。私、見ていてとても可哀想で……」

律「ん~。こっちの中学生もさ、言ってたんだよ」

律「リルにバレたらヤバい、ってさ」

梓「……鍵を握ってるのは、そのリルって子みたいですね」

律「……みんなから連絡は?」

梓「いえ、まだ何も。ちょっと遅れてるみたいです……」

律「ったく。澪のやつ、私にあんだけ文句言っておきながら」ブツブツ

梓「ねえ律先輩。何にしても急ぎましょうよ。そのリルっていう子がナナちゃんを迎えに行ったら……終わりです」

律「ナナちゃん? その自殺する子か?」

梓「ええ、ナナちゃんです。部屋で待ってるって言ってました」

律「……さて、どうするかな?」

ナナを助ける
リルを探す

※助ける


○ナナを助ける
 リルを探す

梓「その子、両親が音楽家なんですって。今、ツアーで全国を回っているって言ってました」

律「梓。それって……」

梓「はい、私のお家とそっくりなんですよ。だから私も他人のような気がしなくて」

梓「あの子も楽器とか、興味あるのかな~って。ふふっ、ちょっと思ってみたり」

律「……そっか。そうだな、じゃあその子を助けよう」

律「助けてから、リルって子の部屋に案内してもらえばいいな」

梓「はいっ!」

梓「えっと、C棟って言ってましたから……向こうですね」

律「よし。じゃあ行くか!」

梓「はいっ」

タタタタ……


C棟803号室

ナナ「……」ガタガタ

……ピンポン

『ナナちゃん……私、梓だよ~』

『助けに来たから開けて、ね』

ナナ「本当にきてくれたの……」スッ

『当たり前です。私は嘘はつきませんからね』フンス

除き穴からは、先ほどまで一緒にいた梓の姿が見えた。

ナナ「本当、本当にアズサちゃんだ……ああっ、よかったあ」

『さ、早くここを開けるです』

ナナ「うん……ありがとう、アズサちゃん」ガチャッ

「……」

ナナ「え、嘘……」

ナナ「どうして。助けにきてくれるって言ったのに……」ガタガタ

「……」

ナナ「いや、いや、いやぁ……」

ナナ「いやあああぁぁああああっ……!!」


C棟入り口

律「ここがC棟か……あれ、何号室だっけ?」

梓「ちゃんと覚えてて下さい! 803号室ですよ、律先輩!」

律「わわっ、あんまり大きな声出しちゃまずいっての! ここのガキに気付かれたら厄介なんだからさ……」

梓「はいはい。とにかく部屋に向かいましょうよ、ナナちゃん待ってますよ」

律「ったく……」スタスタ

梓「ふふっ」スタスタ


C棟8階

梓「……静かですね。これだけ部屋があるのに」

律「不思議な場所だよな、この団地ってさ」

梓「……」

律「さて、803だったな」

梓「はい」

律「……ん。梓ほらっ」

ドア

梓「……」オホン

梓「ナナちゃん。梓だよ~」

シーン

梓「約束通り迎えにきたよ。開けて開けて」

シーン

律「……」

律「反応ないな」

梓「……」

梓「コホン、ナナちゃ~ん。助けにきたよ~。出てきていいんだよ~」

ピンポン

シーン

梓「いないの……?」

梓「ひょっとして……」

ガチャッ

律「鍵が……開いてる」

梓「……ナナちゃん」

梓「どうして開けちゃったの?」

梓「ねえ、どうして……」

律「梓……」

律「そのリルって子を見つけるしかないな。行こう、梓……」

梓「……はい」

梓「ナナちゃん」

律「……」


C棟入り口

スタスタ

律「んっ」

男「……」

律「さっきのガキんちょだな」

男「まだウロウロしているの?」

梓「……ねえ、ナナちゃん知らない?」

梓「ナナちゃん。リルに連れていかれちゃったんだよ」

男「ナナが……? リルの奴、なんでナナを!」ピクッ

律(おっ……)

梓「ナナちゃん、どこいったかわかる?」

男「……」

梓「ねえ!」

男「俺だって、ナナを助けたいさ。でも、リルには逆らえないんだよ……!」

梓「そんなの……おかしいよ」

男「あんたら外の人間には解らないよ。わかってもらうつもりもない」

梓「……」

律「なあガキんちょ。お前リルの部屋知らないのか?」

男「……誰も知らないんだ。だけど」

梓「何? 言って!」

律「梓。興奮するなって……それで?」

男「……A棟からよく出てくるって、噂は聞いた事あるよ。あそこに行けば……」

梓「急ぎましょう、律先輩!」ダダダッ

律「あ、ま、待てよ梓……」

男「……」

律「なあガキんちょ。お前さ、ナナちゃんの事守りたいんだったら行動しないと」

律「そうじゃないと、なにも始まらないって。リルを恐れていても何も……」

男「……わかってる」スタスタ

律「……」

律「ふふっ、今のはちょっと部長っぽかったな。結構イケるな、私も」フンス


律「さて、梓はっと」

シーン

律「……いるわけないか。興奮してたもんなあ、梓」

律「ここからは私一人で動いた方がよさそうだな……よしっ!」

律「えっと……」クルッ

律「部屋から電気が漏れてるのは……と」

律「210と307と」

律「701……」

律「801と、809、902と……」

律「1009か」

律「暗記に自信がないから、これを携帯にメモしてっと」ピッピッ

律「……よしっ。早速調査開始だ!」ダダダッ

律「ふふっ、こうやって効率的に調査をするりっちゃん、なんて頭がいい

~……」カチッ

律「……あれ?」カチッ

律「おかしいな~。エレベーター反応しないぞ?」

律「もしかして、故障中?」

シーン

律「わ、私の……効率的な調査の第一歩がっ!」ガーン

律「頼むよっ、動いてくれよっ!」カチカチッ

シーン

律「はぁ……仕方ない」

律「階段かぁ、階段。はぁ」トボトボ

律「一番上は1009号室かぁ……長いなぁ」

律「はぁ、ため息しか出てこないや。あはは~……」

律「はぁ、行くか……」トボトボ

……。



夜、団地前

澪「や、やっと着いた」

紬「ここまで長かったわね~」

唯「ね~」

澪「まったく、梓のやつ……家で待ってたら急にコンビニまで来いだなんて」

唯「でも肝心のコンビニが見つからなくって……困ったよね」アハハッ

紬「梓ちゃんたち、大丈夫かしらね。無事ならいいけど……」

唯「だいぶ遅れちゃったからね。急ごうよ」

澪「そうだ……な。えっと、梓に聞いていた話だと自殺があったのは確か

この先の……」

紬「あそこの棟ね」

……。


澪「んっ、どうしたんだ唯?」

唯「……」

唯「?」

スタスタスタ

ヤヨイ「……」

唯「やっぱり……」

澪「んっ、唯。知り合いか?」

ヤヨイ「お久しぶり、唯」

紬「あらあら、唯ちゃん、お友達?」

ヤヨイ「私たちはそんな生易しい関係じゃないわ。部外者の方は、黙っていてくれないかしら?」

紬「ぇ……」

ヤヨイ「そうよね、唯?」

唯「……やっぱり、あれは夢じゃないんだね」

ヤヨイ「さあ、どうかしら。私にとっては夢よりも楽しい一時だったわよ」

唯「……私はあなたを知らないよ」

ヤヨイ「ふふっ、私は知ってる。親友ですもの」

紬「唯ちゃん……」

澪「ムギ、ここは唯に任せよう」

紬「ん……」

ヤヨイ「あれからどう? 元気みたいで安心したわよ」

唯「……どうしてあなたがここにいるの。これも、夢なのかな?」

ヤヨイ「やっぱり、彼には気付いていないみたいね。うん、いいよ唯。知らなくてもいい事だから……」

唯「彼って? 誰の事? 前に私を襲いそうにしてた変な人?」

澪「……」

ヤヨイ「ふふっ、やっぱりわかってない。それでいいんだよ唯」

唯「わからない……なにも解らない……ねえヤヨイちゃん」


唯「どうしてヤヨイちゃんは、ここにいるの……?」

ヤヨイ「……私はいつでも中立だから」

唯「……解らないってば」

ヤヨイ「でも安心して。私は唯の親友だから……大丈夫だから」

澪「唯、そろそろ行こう。梓たちが」

紬「……唯ちゃん」

ヤヨイ「くすっ。私意外のお友達も大切にするんだもん、唯ちゃんは優しいよね」

唯「……ヤヨイちゃん」

ヤヨイ「大丈夫、私はそれを解っているから。唯ちゃんの事は偽善者だなんて思っていないから」

紬「……」

澪「……」

唯「ねえヤヨイちゃん。一つだけ聞かせてくれない?」

ヤヨイ「なに? 親友の頼みだもの。何でも聞くわ」

澪(いちいち、カチンとくる言い方だな……)ヒソヒソ

紬(まあまあ……)ヒソヒソ

唯「すごく気になった……ヤヨイちゃんの言っている『彼』って」

唯「誰……?」

ヤヨイ「あなたは知らなくていいの。でも、一つだけ教えてあげる」

ヤヨイ「見ているわよ……彼」

ヤヨイ「いつでも私たちの事を、ね」

唯「……」

澪「二人とも、一体何を話しているんだよ……」

ヤヨイ「あら、部外者は気にする必要なんてないって言ったばかりなのに。でしゃばるんだ」

ヤヨイ「やっぱりバカな存在よね、あなたたちってさ」

澪「な……!」

唯「ヤヨイちゃん! 私の友達バカにしないで……あなた、私の親友なん

でしょ?」

ヤヨイ「……」

唯「だったらもう少し、澪ちゃんたちにも優しくさ……ねっ?」ニッコリ

澪「唯……」

ヤヨイ「……澪ちゃん」

バチッ

澪「!!」

澪(なにこれ、彼女の体が……光って……)


ヤヨイ「あなた、邪魔よ!!」

バチバチッ!

澪「えっ……」

紬「澪ちゃん!」

唯「ヤヨイちゃん……なにを……!」

ヤヨイ「……」

バチ、バチッ

……。


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最終更新:2011年06月05日 22:56