梓
梓「……動いている」
ヒュウウゥゥゥ
グジャッ
ワアァァァァッ!
グジュッ
ウワァァァァアア
グシャグシャ
梓「……」
梓「ナナちゃん。律先輩が危ない」
澪
団地 屋上
澪「……あ、あの~。そんな所で何をしているの、かな?」オソルオソル
ナナ「近寄らないで! みんなが見ている……」
瞳 瞳 瞳 瞳 瞳 瞳
澪「っ……」ゾクッ
ナナ「もうだめなの。ナナ、死ぬしかないの」
澪「ま、待った待った。何いきなりバカな事言ってるんだよ……」ガクガク
澪(ヤバい、足がすくむっ……)
澪「え、ええっと。ナナちゃん……だっけか?」
ナナ「……」
澪「あ、あのさ。ダメが理由で死んだら……人間なんていなくなっちゃうと思うんだ」
澪(何言ってるんだ私、頭真っ白……)
澪「ち、違うかなっ?」ニコニコ
ナナ「……わからないのよ! あんたたちなんかに、わからないの!」
澪「お、お、お、お、落ち着きなってば……れ、れいせいれいせいになって、ねっ?」ガクブル
ナナ「もう遅い……さっきの人だって助けてくれなかった。みんな嘘ばっかりだよ!」
澪「……」
ナナ「……」
澪(や、ヤバい。こういう時は何か話してあげないと……)
澪「あ、あのさナナちゃん」ガタガタ
さっきの人って……?
誰が見ているの?
ウソつかないよ
※ウソつかないよ
澪「う、ウソなんてつかないよ……!」
ナナ「……」
澪「大丈夫、大丈夫だから。ほら、もう止めような? こっちの、安全な
場所までおいでよ……な?」
ナナ「……さっきの人もウソついた」
ナナ「ナナの事、助けてくれなかった!」
澪「わ、私はウソなんて……」
澪「た、助けたいんだよ。だからこっちおいで……ねっ?」
ナナ「ウソってわかるもん!」
澪「ひっ!」ビクッ
ナナ「……アズサって、あなたの友達でしょ? 一緒だよみんな」
澪「アズサ……? どうして梓が……」
ナナ「騙したの。ナナの事騙したの」
ナナ「それで……」
澪(本当に、梓が?)
澪「え、えっと。勘違いじゃないかな?」
澪「あの子はほら、確かにちょっと生意気な子かもしれないけどさ」
澪「そんなに悪い子じゃないし……」
ナナ「……アズサちゃんの声がして。そしたら」
澪「そしたら……?」
ナナ「……」
本当にアズサの声?
慰める
※本当にアズサの声?
澪「あのさ、それ本当にアズサの声だったかな?」
ナナ「絶対そうだよ。アズサって言ってたもん」
澪「……そこに、アズサはいたのかな?」
ナナ「いなかったけど……でも絶対にそうだったもん!」
澪「……」
澪「あのさ、それが本当にアズサだったとしてもさ。ナナちゃんは……ア
ズサのせいにしてるんじゃないかな?」
ナナ「……」
澪「どうして、自分の意思で考えないの?」
ナナ「自分の意思って……ナナは騙されたんだよ! 傷付いたんだよ!」
ナナ「もう……いや……」
澪「……ナナちゃん」
ナナ「もう、決めた事なの。ナナは安らぎが欲しかっただけなのに」
ナナ「だから、もう終わりにする! ナナの事は放っておいて!」
澪「……」
叱る
慰める
相手にしない
※叱る
ナナ「もういい! 私死ぬんだ!」
澪「……いつまで」
澪「いつまでバカな事、言ってるんだっ!」
ナナ「えっ……」
澪「お前は一体、誰に安らぎを求めているんだよ……両親? 友達?」
澪「それとも自分?」
ナナ「……」
澪「いくら待っていたって、安らぎなんてこないんだよっ!」
ナナ「でも、誰もナナの事見てくれない……」
澪「それはナナちゃんが、誰の目も見ようとしないから……」
澪「ナナちゃん自身が、本気で誰かと接しないと、気づいてくれないもん
じゃないのか?」
ナナ「……」
澪「人はそんなに、優しくない。優しくないんだよ……」
ナナ「……じゃあどこにいるの? どうすればナナの事見てくれるの?」
ナナ「最初からさらけ出して、それでもナナの事見てくれなかったら嫌だよ」
ナナ「傷付くだけで……」
澪「怖いんだよ、誰だってさ……恐ろしい事なんていっぱいあるよ」
澪「でもね、ナナちゃん。怖がったらいけないんだよ……」
ナナ「……」
澪「傷ついても、もう一回反動つけて戻ればいいんだ。まあ、口でこうい
うのは簡単……実際はちょっと難しいけど、さ」
ナナ「……」
澪「私も、気持ちが沈んだり傷ついたりする時はたくさんあったよ。でも
、頑張って生きてるんだ」
澪「……いつでも死ねるんだからさ」
ナナ「……ナナにそんな事できるの? ナナにはできないよ」
澪「大丈夫、ナナちゃんにもできるよ。誰かにできて、あなたにできない
事なんて無いはずだよ」
ナナ「ナナ……頑張れるかな?」
澪「うん、大丈夫。心配しちゃいけないさ」
ナナ「うん……わかった」
クルッ
目 目 目
目 目 目 目
目 目 目 目 目 目 目
目 目 目 目
目 目 目 目目 目 目
ナナ「!」
ナナ「や、やっぱりダメなんだ。わ、私なんか……」クルッ
澪「ダ、ダメだってナナちゃん。急に……な、何を怖がってるんだよ?」
ナナ「やっぱりナナ狂っているんだ! 監視されているんだよ……隠れられない!」
澪「ナナちゃん……どうしたね? ダメだよ」
ナナ「……リル。見ているんでしょう」
ナナ「私、リルなんかに負けない。私のダイブ……見せてあげるから!」
ナナ「ナナのダイブでここは変わるんだよ……」
澪「ま、待ってナナちゃん!」
ナナ「……お姉ちゃん」
ナナ「ありがとう」
フッ
ヒュゥゥゥゥゥ……
……。
律
1階 101号室
律「……あんたがリルなのか?」
リル「そう。目の前にいるでしょ、逃げも隠れもしないよ」
律「じゃあ話は早い。あの、さ」
リル「うん、回りくどいのは嫌いだから。全部説明してあげる」
リル「連続ダイブの事でしょ?」
律「……そうだけど、さ」
リル「私は……ただのシンボルに過ぎない」
律「シンボル?」
リル「そう。私が何かを指揮しているわけじゃないの。この団地に広がる
パルス」
リル「独特の周波数みたいなのを感知している」
律「えっと……パルス? 全然わからないんだけど」
リル「……ここの団地は、ほとんどが共稼ぎの家ばかり」
リル「親がいないから、小学生はどこかの部屋に集まってゲームをしたり
……高校生たちは、街へ出かけたり」
リル「この時間、生活から遮断されるのは私たちの年代だけ」
律「……そんなもん、なのか?」
リル「この空間は、各家が過疎になりやすいの」
リル「それぞれの時間が分断されて、世界も空間も分断される」
律「……でもいくらなんでも、ねえ?」
リル「どうだった? この団地を歩いてみて」
リル「人が少ないでしょう?」
律「……」
リル「考えてみて。あなたと同じ世代もここに住んでいるわ」
リル「でも、誰一人団地にはいない。帰ってくるのは深夜になってから……」
律「……」
リル「そして、決まった一ヶ所に固まって集団になるの」
リル「もしそこに、外から誰かが近づいたら……全力で追い払うのでしょう?」
律「別に、そんな」
リル「同じ様式、細胞、醜い言動……そんな場所に好んで近付く人がいると思う?」
律「そりゃあまあ、そうだけどさ……」
リル「深夜の団地はあなたたちの物なの」
リル「朝はそれぞれの時間。昼間は主婦と子供たちの時間」
リル「そして、夜はまたあなたたちの時間……私たちの時間は、月が見えるまでの間の隙間の時間なの」
律「……」
リル「序列が決まっているの。二十年の間で築かれた生態系」
リル「世代毎で、時間も過ごし方も変わっていくのよ?」
律「妄想だよ……そんなの」
リル「ここの小学生、みんな時間を与えられていないのよ」
リル「小学生たちは時間を与えられないの、自分たちの時間がないの」
リル「小さな村でも掟はある。みんなそれに従っている……」
リル「だから小学生たちは、どこかの部屋に集まってゲームをしているのよ」
律「……そんなの、寂しすぎるよ!」
リル「だから私たちの世代は改革するの」
リル「私たちはあなたたちの世代を踏襲なんてしない」
リル「私たちがこの団地を変えていくの……」
律「そんな事……!」
リル「その行動が、ダイブなの。だから私が指示しているわけじゃない」
リル「みんなが勝手にやっている事なのよ」
律「なんだよそれ……そんなの……!」
リル「信じてもらえる?」ニコッ
律「……」
信じる
信じない
※信じる
律「……まあ、その話は信じるよ」
律「だからって、なんで自殺しなきゃいけないんだよ?」
リル「自発的なものなの。パルスが人を選んで、呼び掛け」
リル「ダイブに導いていく……それだけの事よ」
律「……なあ、どうすればいいんだよ? 誰が自殺を止められるんだ?」
リル「警告が届けばいい。元凶に届けば……いい」
律「?」
リル「みんな『安らぎ』が足りてない、優しいに飢えている」
リル「真っ暗な部屋で一人ぼっち……そこに生まれる、優しさ、安らぎ」
リル「みんながそれを取り戻せば、自然に無くなる」
律「そんな事……できるのか?」
リル「誰にもできない。でも私たちにはできる……その思いがパルスなの」
リル「そのためなら、犠牲もやむを得ない」
律「……なあ、お前、リーダーなんだろ?」
律「シンボルっていっても、あんたには力があるじゃないか」
リル「……」
律「あ、そうだよ。みんなを集めて、自殺を食い止めれば……」
リル「そんな単純な話じゃない」
リル「蓄積された感情は止められない。でも……」
律「でも?」
リル「ある事は、ある」
律「ん、自殺を食い止めるの?」
リル「そう。私にしか……できない事」
律「……」
止めて……
どうやって止めるの?
※どうやって止めるの?
律「なあ……その、どうやって止めるんだ?」
リル「教えられない」
律「なんだよそれ」
リル「私自身の問題になるから。他者は関係ない」
律「……聞いた手前、気になるんだけどさ」
リル「私のやり方で止めるの。あなたは口出しをしない」
リル「……それでいいなら、止めるけど?」フッ
律「……」
止めて……
止めないでいい
※止めて
律「……お願い」
律「あんたにできるんなら、なんとかしてくれよ」
律「そうしないと……」
リル「わかった。準備するから、お茶でも飲んでて?」
律「ん……」
リル「……はい、どうぞ」
コトッ
律(暖かそうな湯気が、薄暗い部屋に揺れている……)
飲む……
飲まない……
※飲まない
スッ
リル「飲まないの?」
律「……なんか、毒でも盛られそうだからさ。いいよ」
リル「最低の、世代だね」
リル「あなたたち、そんなんでどうやって生きていくの?」
最終更新:2011年06月05日 23:03