開扉
KAIBYO
教室
紬「あれ?」
紬「私、いつの間に……? 確か電車に乗っていたはずなのに」
律「よっ、部活行こうぜムギ」
紬「あ、りっちゃん」
律『ムギがいないとケーキが食べられないからな』
律『あ、もちろんキーボードがいないと困るってのもあるけど』
律『まあ、あれだ。せっかくくれる物なんだから、貰わないと損って感じでさ』
紬(りっちゃんまで……)
律『ああ、早く部室行かないかなムギの奴』
律『私だけ行ってもどうしようもないじゃないか』
紬(……信じらんない)
紬「私、もう行くね」
律「あ、おう。私も一緒に行く~」
律『やった、ケーキケーキ』
紬(来ないでよ……)
ガララッ
部室
紬「えっ?」
紬(また……飛んだ?)
梓「あ、こんにちはムギ先輩。早いですね」
紬「あ、梓ちゃん?」
紬(時間の感覚がないからよくわからないけれど……)
梓「はい。梓ですよ」
梓『当たり前じゃないですか、もうムギ先輩っては。何言ってるんですかね~』
紬「また、聞こえる……」
梓「はい? 何がですか?」
紬「う、ううん。なんでもないわ」
梓『はぁ……絡みにくいなぁ。ああ、早く澪先輩たち来ないかな』
梓『……なんでよりによってムギ先輩なんだろう』
紬「……」
紬(だんだん、慣れるものね)
梓『あ、でもお菓子だけでも出してくれないかな』
梓『そうすれば、ちょっとは時間潰せるのに』
紬(お菓子を食べるのは、時間潰しのためなの?)
梓『……早くしてくれないかなぁ』
紬「……」イラッ
紬「……」ガタッ
梓「あれ、ムギ先輩。どうしたんですか?」
紬「……私、帰る」
梓「ええっ、な、何でですか?」
梓『あんたが帰ったら、ケーキもお茶も無しじゃないですかぁ!』
紬「そうよ、だから帰るのっ!」
梓「い、いや……だから理由を聞いてるじゃないですか……」
梓『何怒ってるの? 最悪……』
紬「話す事なんてないわよっ!」
ガラッ……バンッ
唯の家
唯「あ、ムギちゃん。いらっしゃい」
紬「……今度は唯ちゃんなんだ」
唯「えっ、何が~?」
紬「……」
唯「ま、ま。上がってよ。今お茶持っていくからさ~」
紬「お邪魔、します」
紬「……」
唯「ふふっ、お待たせ~」カチャッ
紬「唯ちゃん、今日は部活どうしたのかしら?」
唯「えっ。今日は日曜日だよ……?」
紬「あら、そうだったかしらね」
唯「う、うん……」
唯『どうしたんだろうムギちゃん。具合でも悪いの、かな?』
紬(ほら、聞こえた)
唯「もしかして体調悪い? 大丈夫?」
紬「……大丈夫よ」
唯「そっかよかった~。あ、でも無理しないで、今日は帰る?」
唯『ムギちゃん、明日学校大丈夫かな?』
紬(……学校行かないとケーキ食べられないもんね)
紬「まだ来たばかりじゃない。そんなに私を帰したいのかしら~?」
唯「えっ!?」
唯『そ、そんなつもりじゃないよ~……』
紬「そうなんでしょ? 私が学校休んだら、ティータイムが無くなっちゃうものね」
唯「……え?」
唯『違うよ、ただムギちゃんが心配なだけで……』
紬(え……)
紬「唯ちゃん、心配してくれてるの……?」
唯「? そりゃあ心配するよ~」
紬「ケーキのためでしょ?」
唯「ケーキ?」
唯『ケーキ?』
紬「そうよ……私、みんなにお菓子を配るしか役割が無いんですもの。学校休んだって何も……」
唯「そんな事ないよ!」
唯「そんな事ないよ!」
紬「……」
唯「だって私、ムギちゃんがいないと寂しいもん」
唯『別にケーキやお茶は無くてもいいけど……部室で誰かがいないのは寂しいんだよ』
紬「唯……ちゃん」
唯「具合が悪いなら言って。お家の人呼んだり……あ、ちょっと家で休んでく?」
紬(……)ウルッ
紬「で、でもそんなの悪いわよ……」
唯「悪くなんかないよ~。辛そうなムギちゃん見てると、私が悲しくなるんだもん……」
唯『顔色悪い、心配で心配でたまらないんだよ。無理しないで、ね?』
紬(……泣いちゃいそう)
唯「ほら……布団で休もうよ……」
唯『元気になって、一緒に学校行こうよ、ね?』
紬「っ……!」ギュッ
唯「……あはは、どうしたのムギちゃん」ナデナデ
紬「ぐすっ……うっ、うっ……」
唯「よしよし、大丈夫。大丈夫だから」ナデナデ
唯『ムギちゃん、何か辛い事があったんだ……』
紬「そうなの、わ、私。もうお友達が怖くなっちゃって……」
唯「え?」
唯『怖いって……私もなのかな?』
紬「違う……! 唯ちゃんだけだったの……」ギュッ
唯「ム、ムギちゃん?」
唯『まるで、私の心の中聞かれちゃってるみたい……』
紬「唯ちゃん……」ギュッ
唯「……落ち着いた?」ナデナデ
唯『ムギちゃんの髪、いい匂いがする』
紬「……うん。ありがとう唯ちゃん」
唯「もう大丈夫?」
唯『いつまででも、髪の毛クンクンしてたいな~』
紬「……まだ、ちょっとダメかも」クスッ
唯「じゃあもう少しこうしてよっか」ナデナデ
唯『ふふっ、まだムギちゃんと一緒』
紬「うん……私、唯ちゃんが友達でよかった……」
唯「私もだよ。とても嬉しいよ!」
唯『でも、残念だなぁ……』
紬(え……)
唯「これからも、ずっとずっと友達だよっ!」
唯『もうこの夢は、終わりなんだもん』
紬(え……)
唯「えへへ、ムギちゃん大好き~」ギュッ
唯『おはよう、ムギちゃん……』
紬「あ……」
……。
ガタン ガタン
紬「ここは……また電車の中?」
ふふっ、どうだった? 人の心の中を覗き込んだ気分は
紬「あなたの仕業、なの?」
そんな事どうでもいいじゃない。
刺激的な遊び……気に入ってくれた?
紬「……私、あんな風に思われていたんだ。ちょっとショック」
くははっ、違うよ、違う。
あれはね、みんなの本音だけど本音じゃないんだよ。
紬「え……?」
ボクが勝手に、みんなの気持ちを代弁してあげたんだよ。
あはは、きっとみんな紬ちゃんの事をあんな風に思っているって……ひゃ、面白かった~。
紬「な、何よそれ。全部君のイタズラだったのね!」
紬「ひどい、私……唯ちゃんとわかり合えたと思ったのに……」
……ああ、唯だけはね、ボクの行動は関係ないんだよ。
紬「え?」
唯が何を言ったのか、ボクは知らない。
ボクはただ、紬をここに呼んだだけだから。
紬「私を……呼んだ?」
そうだよ、ほら。あの光が見えるでしょ
ボーッ
紬「光……」
紬はあの光の中に行かないといけないんだ。
君は選ばれた人間なんだから……。
紬「……唯ちゃん」
あははっ、唯の事は呼んでもだよ。唯はここにはいないんだもの
紬「……」フラッ
そう、そうだよ。
一歩、また一歩。
そう……遮断機をくぐって、そのまま……
カンカンカンカンカン
カンカンカンカンカンカン……
「……おい君。何やってんだ、危ないぞ」
紬「唯ちゃん……」フラフラ
カンカンカン
「お、おい。止まれ、電車が来てるんだぞ、おい!」
カンカンカン カンカンカン
紬「光……」
「だ、誰か! 緊急停止ボタンだ、早く!!」
紬「ふふっ、私……よかった、お菓子だけの存在じゃなかった」
プァァァァアアアアン
紬「唯ちゃん……ずっとともだ」
グシャッ
最終更新:2011年06月05日 23:31