時は戦国───

強きが生き、弱きは死ぬ……そんな波乱の時代の中、一つの小さな村があった。

純「もう……終わりだよ……」

頭がもふもふとした農家の娘が項垂れる。

村人「くっ!」

村人「そんなもん持って何しようってんだ!」

村人「これで野武士を突き殺してやるッ!!! 村こんなめちゃくちゃにしやがってッ!!! 皆殺しにしてやるっ!」

村人「竹槍なんかで敵う相手じゃないだろ!!! 死にに行く気か!」

村人「でも……じゃあどうすりゃ……」

純「侍……」

村人「ん……?」

純「お侍さんを雇いましょう!」

全てはこの一言から始まった……。

    \七人の侍/     デデーン


村長「しかし純、侍を雇うにはたくさん金がいる……この村にそんな金があると思ってるのか」

純「……。 ……! お腹が減っているお侍さんにいっぱいご飯を食べさせてあげるんです! そしたらやって……くれないかな?」

村人「はんっ! そんな食うにも困った田舎侍が野武士に勝てるか!」

村人「雇うならエリートなやつにしねぇと!」

村長「うむ……しかし金が……」


「お姉ちゃんしっかり!」
「う~い~……ご~は~ん~……」

純「!?」

「もう村だからそこで何か食べさせてもらおっ!」
「ご~は~ん~……」

村長「なんじゃ……あの二人は」

唯「」ガツガツ
憂「」モグモグ

唯「うまうま」
憂「お姉ちゃんご飯つぶついてるよ」

純「……」
村長「……」

村長「(刀差してるから侍だと思ったが……よく見ればまだ年端も行かぬおなごじゃないか。
「主が刀持ってます!お侍さんですよ!」とかなんとか言って騒ぐから飯を用意したというに」

純「(ダメ……ですかね?」

村長「(まあよい……。ここで餓死されては目覚めも悪いからのう」

唯「ぷは~美味しかった!」

憂「ごちそうさまでした。すみません、助かりました」

村長「いやいや、大したおもてなしも出来んですまんの」

憂「……失礼なこと聞くんですが……この村はいつもこうなんですか?」

純「そんなわけないじゃんっ!」

村長「純!」

純「あっ……ごめんなさい」

憂「ううん。失礼なのはこっちの方だから」

村長「いつもは田んぼも豊かで水車が見売りの綺麗な村なんじゃ……しかし野武士がここに目をつけてから収穫時期を狙っては村荒らしに来る……」

憂「野武士……」

純「私達が一生懸命に育てたもの全部持ってくんだ……壊して行くんだ……だから……この村はもう」


唯「そろそろ行こうか、憂」

憂「……うん」

村長「そうですか……。またいつか通りかかった際には寄ってください」

純「村長っ!!!」

村長「無理を言うな……たかが白飯で受けてくれるわけもたった二人で四十をも越える野武士を倒せるわけがなかろう……」

純「でも……じゃあこの村は」

村長「移村じゃ……皆の者にも納得してもらうしかあるまい」

純「産まれ育った場所なのに……離れるなんてやだよ……」

唯「……一つ、人に受けた恩義、特にごはんの恩は絶対に忘れるべからず……だよ!」

純「えっ……」

憂「お姉ちゃん!」

唯「ごはんはおかず、野武士退治、私達が引き受けましょう!」

村長「ほ、ほんとうかっ!?」

純「ありがとうございますお侍さんっ!」

唯「その前に……」さわりさわり

純「え、あの……」

唯「思った通り良い毛並みだよ! 憂も触ってみなよ!」

憂「お姉ちゃん……」

純「よ、喜んでもらって何よりです」

村長「ほんと大丈夫かこの侍」

こうして、唯達の野武士退治が始まった!


【一人目 平沢唯

ごはんをこよなく愛し、また刀を正義の為のみに使う流れ侍。
唯我独尊流初代師範代でもあり(他に使える人が見当たらない)道場も構えていたがある理由であっさり潰れてしまい食うに困っている。

愛刀 義意太
部類 太刀

【二人目 平沢憂

唯の妹であるが性格は真逆で几帳面。姉を残し剣の修行に出るも姉が心配で三日で帰宅したという逸話を持つ。

優しい性格だがごはんと交換で看板を売り渡していた姉に「めっ!」と怒鳴り付けた恐ろしい一面もある。

愛刀 何でも(今は太刀)
部類 太刀



唯「さて、どうしよう」

憂「何にも考えずに受けちゃったの?」

唯「だってぇ……純ちゃんかわいそうだったから」

憂「はあ……でもお姉ちゃんのそういうところが私は大好きだよ!」

唯「えへへ」

憂「とりあえず仲間を集めないと! 後は村にちょっと工夫をしないとね」

唯「工夫?」

憂「ちょっと考えがあるの。お姉ちゃんは他に戦ってくれる侍を探して」

唯「わかったよ!」噴酢ッ!

唯「とは言ったもののどこを探せば見つかるんだろう……」

唯「う~ん……」

クンクン
唯 ~ぷわ~ん

唯「こっちからごはんの匂いがするよ! とりあえずごはん食べてから考えよ~っと」



唯「何だか刀がいっぱぁ~い。ごめんくださ~い」


唯「ごめんくださ~い」


唯「ごめんください!」

澪「うわっ! な、なに勝手に入って来てるんだよ! 今ごはん中なんだ、話なら後にして……」

唯「……」ゴクリッ

澪「……食べる?」

唯「いただきますっ!」

澪「で、何の用?」

唯「一緒に野武士と戦ってください!」

澪「やだよ怖い! 野武士なんて関わらない方がいいぞ! あいつら歯向かう連中には容赦ないからな……。
こないだも向こうの村が荒らされて……」

唯「その村の人達に雇われたんだ、野武士を倒してくださいって」

澪「刀……お前侍か」

唯「唯、平沢唯だよ」

澪「私は澪、秋山澪だ。見ての通り刀打ちさ」

唯「!! ほんとだ!! 刀がいっぱいあるね~」

澪「今気づいたの!?」

澪「……野武士と関わるつもりはないから。帰ってくれないか?」

唯「そんなぁ……そこをなんとか」

澪「やだ」

唯「お願い!」

澪「やだっ」

唯「……脇差しだけじゃ?」

澪「やだ!」

唯「太刀もなきゃ?」

澪「やだ!!」

唯「うふぅふぅ~」

澪「って遊ぶな!」

唯「どうしても駄目?」

澪「……私は生涯不殺を志してるんだ。人の命は尊い、それが野武士であってもだ」

唯「……そか、わかったよ」

唯「……そうして生きた悪は何人もの善を殺して行くんだろうね……」

澪「!!」

唯「お邪魔しました」


澪「まっ、……いや……いいんだ。これで……」


澪「私は誰も殺さない。そして守る為だけにこの刀を打つんだ。
そう決めた……親を殺されたあいつの為にも」

澪「殺したり殺されたり……恨んだり恨まれたり……そんなのはもうやめなきゃいけないんだ」

澪「それにお前達も人を斬る為だけに生まれてきたわけじゃないよな……」


―――――

唯「う~い~」

憂「あ、お姉ちゃん! どうだった?」

唯「無理でした!」ビシッ!

憂「だめでしょ~? ちゃんと見つけないと。村を守るって村長さん達と約束したんだから。
約束を違える者に正義あらず、だよ?」

唯「だってぇ……みんな野武士って聞いたとたん「用事が出来た……」とか「風が呼んでいる……」とか言ってどっか言っちゃうんだもんっ!」

憂「野武士は怖いからね……当然と言えば当然だよ」

唯「でもね、一人だけちゃんと話聞いてくれたよ!」

憂「ほんとに? なんていう名前の人?」

唯「澪ちゃん!」

憂「聞いたことある! もしかして刀鍛冶の人?」

唯「そうそう!」

憂「もし協力してくれるなら武器とかも貸してもらえるから心強いんだけど」

唯「……生涯不殺を誓ったって言ってた」

憂「……そっか。じゃあ仕方ないね……」

唯「憂、」

憂「お姉ちゃん、戦わないと守れないものがある、それは確かだよ」

唯「そうだね……わかってる」

憂「村の方はまだまだ時間がかかりそうだからお姉ちゃんは引き続き一緒に戦ってくれる侍を探してきてね」

唯「うん! 合点承知だよ!」

唯「(最後にもう一回だけ澪ちゃんのところに行ってみよう……。
私や憂の刀は確かに血で汚れているけど……でも)」


唯「ごめんくださ~い」

澪「はーい、って唯か」

唯「何してるの?」

澪「見てわからないか? 刀を打ってるんだ」

唯「刀ってやっぱり毎日いっぱい注文が来るの?」

澪「ううん。全然。これも趣味みたいなものだから」

唯「ほへぇ? 趣味?」

澪「毎日こうして一本づつ刀を打ってるんだ」

唯「ふーん……そうなんだ」

澪「ッ! ッ! ッ! っと……こんなもんかな。少し休憩しようか。唯もお茶飲む?」

唯「うんっ!」

縁側で二人茶を啜る。

唯「ぷは~……生き返るね~」

澪「大袈裟だな唯は」

澪「……。さっき注文が来るの? って聞いたろ?」

唯「うんうん」

澪「昔はいっぱい来てたんだ。まあパパがやってた時だけど」

唯「パパ?」

澪「南蛮の言葉でお父さんって意味らしいよ。南蛮から来るお客さんもいるから……ちょっとでも馴染んどこうかなって」

唯「ほ~ん」

澪「パパは鍛冶屋でさ、私はその後追いなんだ」

澪「でも昔この村にも野武士が来て……私のパパとママ……そして律の両親も」

唯「律?」

澪「何でもない……気にしないで」

唯「ぷはぁ~ごちそうさま!」

澪「お粗末様でした」

唯「美味しかったぁ! ありがと澪ちゃん!」ニコニコ

澪「……不思議だな、唯といると何だか落ち着くよ」

唯「?」

澪「初めだってわけのわからない内に一緒にごはん食べちゃったし、今日だってほんとは次に来たら追い返してやるっ! って思ってたのに」

唯「んふふ~。入れてくれてありがと」

澪「全く、掴み所がわからないやつだな。ほんとに侍なのか?」

唯「侍だよ……」

澪「ッ!!!!」

唯が義意太の鞘に手を触れただけ、ただそれだけで澪は蛇に睨まれたように固まってしまう。

澪「(こんな子が……なんで)」

唯「澪ちゃん。刀ってさ、何のためにあるんだと思う?」

澪「それは……(なんで迷うんだよ、ここで。私の作る刀は人を守る為だけに使うってハッキリ言ってやればいいんだ! よしっ!)」

澪「わ、わ、たしの作る刀はみんなを守るんだぞっ!」

澪「(間違ったー!!!)」

唯「そうかもしれないね。澪ちゃんは自分の打った刀をちゃんと身分や用途を証して、それを澪ちゃんが見て判断してから売ってるんだよね」

澪「なんで知って……」

唯「でもね、その刀だって人は殺すよ。だって刀は人を殺す為のものだから」

澪「っ……」

澪「それでも……私は殺さないっ! もう嫌だ……あんな思いをするのも、あんな思いをさせるのも、あんな思いをしているやつをただ黙って見ていることしか出来ないのも!」

唯「だったら殺さなければいいんだよ」

澪「えっ…」

唯「多分この戦国の世に刀を持って人を殺さず、なんて人はそういない。
だから澪ちゃんがそれを成し遂げたらいいんだよ」

澪「私が……?」

唯「殺さない刀、私はまだ見たことがないけど……澪ちゃんならきっと成し遂げれるよ!」

澪「殺さない刀……守る為だけの、刀。
うん! そうだな! その方が刀達も喜ぶよ!」

澪「本当はわかってたんだ……。刀がある限り人は死ぬ……持つ者の善悪関係なく」

唯「けどそれで守られる命があるのも確かだよ。私と憂はそうして来たから。
だから澪ちゃんにもそうしろ、なんてことは言わないよ。だけどその道はあまりにも長く険しい。それでも行くんだね?」

澪「ああ。生涯不殺……仮にそれで自分が殺されることになっても、後悔だけはしないとここに誓おう」

澪「唯、私を仲間にいれてくれないか?
野武士を倒す、みんなを守る為にこの刀達を使いたいんだ」

唯「勿論だよ! よろしくね! 澪ちゃん!」

澪「こちらこそよろしく」

澪「(律……いつかお前も気づくよ、自分の生きる意味ってやつに)」


【三人目 秋山澪】

両親の跡を継いだ二代目の刀鍛冶屋。
幼い頃に村を野武士に襲撃され両親を失う。
それ以来、刀は人を殺すだけのものじゃないという旗を掲げて鍛冶屋を営む。

武器は全般使えるが、血と怖いものが苦手。打った刀には必ず名前をつけるのが特徴。

愛刀 得利座部守(南蛮の言葉で守護せし者という意味)
部類 長太刀


────

2
最終更新:2011年06月06日 22:01