澪「野武士相手に村人と侍三人だけじゃ厳しいな……もっと集めないと。他にあてはあるの?」
唯「ないよ!」
澪「ないんだ……。……私に一人あてがあるんだけど」
唯「ほんとに!?」
澪「でも、ちょっと荒れてるって言うか……やさぐれてるっていうか……」
唯「強いの? その人」
澪「ああ。きっとここらじゃ三本の指に入る侍だよ」
唯「!!!」
澪「名は……」
律「っしゅんったらぁっ!」
律「ちぇっ……誰も来やしねぇ」
決闘場!我に勝てば金10両、ただし負ければ身ぐるみ置いて行け!
という木の札の下に髪の毛を坂上げ、脇差しを腰に二本差した女の子が座っている。
侍「」コソコソ
律「おいアンタ」
侍「ひっ、な、なにか?」
律「腰に差してる刀は飾り物か?」
侍「無礼な! 私は歴とした武士の家系で……」
律「ならかかって来いよ。女一人倒せないで何が侍だ? ほら、来いよ」
侍「ぐっ……」チャキン
通りすがりの侍「バカやめとけっ! こいつ刀狩りの律だぞ!」
侍「デコ丸出しで二本差し……やはりこいつが噂の」
律「ほらほらどうしたよ? かかってこいって」へらへら
侍「ぬぅうううっ! 拙者をここまでバカにさせたことを後悔させてやる!!!」
通りすがりの侍「全く、田舎侍が。知らないぞ……」
侍「ちょええええいっ!」
抜いた刀を高らかに掲げながら律に斬りかかる。
律「チャンバラじゃないんだから……よっ!」
一本だけ抜いた脇差しを思いきり振りきり横から侍の太刀を薙ぎ払う。
侍「なっ……脇差しが太刀より重いだと!?」
律「こいつはそこいらの刀とは違うんでね。まだやるかい?」
そう言った時、既にもう一つの脇差しが侍の顎の下に伸びていたのを見て、侍は「降参だ」と小さく声を漏らした。
律「いい刀持ってたな、あの坊っちゃん侍。高値で売れそうだ」
澪「そんななまくら家じゃ買い取らないけどな」
律「うおおっと! なんだ澪かよ。驚かすなよ」
唯「私もいるのです」
律「うわっ! 今度はほんとに誰だっ!?」
律「平沢……? どっかで聞いたことあるような(にしてもトロそうなやつ)」
澪「話があるんだ、いいか?」
律「ああ聞いてやるとも。ただし、茶屋でな!」
澪「ハイハイ」
────
律「野武士を退治するだとー?」ムシャコラ
唯「そうそう! その為に仲間を集めてるんだよ!」ムシャコラ
澪「食べながら話すなよ」
律「腹が減ってはなんとやらだろ!」
唯「そうだよ澪ちゃん! お腹が減ったら戦えないんだよ!」
澪「なんでそんな意気投合してるんだよ……」
唯「で、どうかな?」
律「う~ん……まあやってやらなくもない」
唯「ほんとに!?」
律「ああ。ただし私に勝てたらな」
食い終わった団子の串を唯に飛ばす、
それを唯は顔色一つ変えずに摘まみ取って見せた。
律「へぇ……トロそうなやつって思ってたけど。人は見掛けによらないもんだな」
唯「やめときなよ、りっちゃんじゃ私に勝てないよ」
澪「やっぱりこうなったか……」
切り開かれた林の中、二人は佇む。
律「参ったって言った方が負けだ、いいな?」
唯「わかったよ!」
澪「危なかったら私が止めるから。いいな?」
律「わかってるって」
脇差しを二本抜くと左右に構える。
唯「二刀流……いや、違う」
律「二天一流……それが私の流派」
律「見せてもらおうか! 唯我独尊流の実力!!!」
それと同時に律が駆ける。
一気に距離を詰め、お互いの刃が届くか、と言ったところでようやく唯は刀を抜いた。
律「おせぇよ!!!」
澪「バッ(律のやつ本気で腕を落としにっ)」
左手の脇差しが唯の腕を捉える寸前、
唯「あ、お金落ちてる!」
律「んなっ!」スカッ
唯「わわっ! 真田の六文銭だよっ!」
律「なんだ……こいつ」
澪「戦ってる様子がない……まるで律がいないかのような立ち振舞い」
律「偶然避けたぐらいで!」
くるりと半回転し、その勢いでもう一度斬りかかる。
今度の狙いは胴体、脇差しとは言え当たれば必死な一撃。
唯「」キンッ
律「ぐっ」
次はそれを鞘から少し太刀を出し、その刀身で受け止める。
律「へへ、ようやくやる気に……」
唯「もっと可愛い鍔ないかなぁ……」
律「この子戦い中に鍔見てるよ!」
澪「これが……唯我独尊流っ……!」
唯「唯我独尊流、それ即ち自然体であれ。自分だけを見つめ、自分だけの世界で戦う」
律「なに意味のわかんねぇことをっ!」
右手の間接をしならせながら放った一撃も虚しく空を切る。
まるで中空にただよう綿を切れと言わんばかりの無感触。
律は攻撃を繰り出す回数を重ねる度にそれを実感して行く。
律「(当たらねぇ……! どうなってんだよこれ)」
唯「降参しなよ、りっちゃん」
律「誰がっ!」
蹴り、突き、柄落とし、しゃがみながらの足払い。
どんな攻撃の連携を組んでも唯にはカスりもしない。
唯「なら、仕方ないね」
澪「(来た……あの時の殺気だ)」ゾクッ
律「やっとやる気になったか! 避けてるだけじゃ参ったって言わせられないからな!」
律「こっちも取っておきを見せてやるよ!!!」
唯「……!」
突き、と見せかけた切り上げ、唯の顎先を僅かに掠める、が、唯は南蛮から伝わりしラジオ体操でこれを回避。
左の脇差しから胴体に向かっての斬撃、も南蛮から伝わりし紐を飛び越えて遊ぶ遊びにて回避。
ここで、唯は見た。
律の両手がクロスしていることに、そして手に持たれている脇差しはいつの間にか内側に刃が向いている。
そしてそれはちょうど唯の首を挟んだ辺りで静止している、
律「妙技、戯露賃──」
澪「律やめろっ!!!!」
唯「参りました!」ゴツンッ!
律「がっ……」フラフラ
律「」バタン
澪「えっ……」
唯「あいたた……」
頭を擦りながら痛そうにする唯。
そう、簡単に言えばただ頭突きだ。
高速で謝った際の勢いがそのまま律のおデコにクリティカルを出し、一撃で昏倒にまで追いやった。
澪「……ふっ。参ったって言ったのは唯の方だけど、勝ったのは唯だよな」
律「うーん……」
澪「そうだろ、律」
唯「澪ちゃん血出てない?!」
澪「血っ! ……は出てないみたい。良かった……」
唯「ねえねえ、りっちゃんどうしよう」
澪「うーん、とりあえず村に運ぼうか」
~~~
ドゴッドゴッドゴッドゴッ──
馬の足音が聞こえてくる……。
奴等だ、奴等がまた来たんだ……!
何もかも奪いに……。
お父さんお母さん聡ばあちゃんじいちゃん……。
これだけ奪ってもまだ足りないってのかよ……!
ドゴッドゴッドゴッドゴッ──
どんどん近づいて……
やめろ……こっちに来るな!
お願いだから……!
もう……何も奪わないでくれ……!!!!
…やめろ……やめろ……やめろ……
律「やめろっ!!!」ガバッ
唯「わわっ! どうしたの!?」
律「なんだ唯かよ」
唯「ずっと看病してたのになんだはないよー!」プンスカッ!
律「誰のせいだよ。で、ここは?」
唯「村だよ。私達が依頼を受けた村」
律「……ちょっと外見回っていいか?」
唯「うん。立てる?」
律「ああ」
────
律「こりゃ酷いな」
唯「そうだね……」
律「……澪からどれぐらい聞いた?」
唯「……両親が野武士に殺されたってとこまでかな」
律「全部じゃねぇか」
唯「なんであんなことしてるのかとか、好きな食べ物とかは聞いてないよ」
律「金稼ぎ、団子」
唯「端的すぎるよぉ~」
律「野武士に村を襲われて家族を失うなんてよくある話だ」
唯「……うん」
律「だから強くなって、いつか復讐してやる、そんなこと思ってた時期もあった」
唯「うん」
律「強くなって、でもそれは生きる為に必要なことじゃないことに気づいたんだ。
あの時の野武士を殺したってみんなが戻って来るわけじゃない、ならこの強さは生きる為に使おうって」
唯「そしたら?」
律「ははっ、目標見失った。なにしたらいいのかわかんなくてただがむしゃらに生きてさ……でも唯にやられて気づいたよ。私もまだまだだなって」
唯「上には上がいるのが世の常だよりっちゃん!」イバリフンス!
律「言ってろ」
律「だからさ、これは復讐とかそんなドロドロしたもんじゃなくて、ただ強さを求める為に手を貸すだけだから」
唯「じゃあ!?」
律「ああ、私も仲間に入れてくれ、唯。嫌とは言わせないぜ?」ニヒッ
唯「もちろんっ! よろしくね! りっちゃん!」
律「よろしくな、唯」
目標は、まだない。
でもいつかそれを目指して生きられるような、そんなものを唯は持っている気がする。
だからごめん、お父さん、お母さん、聡、村のみんな。
死ぬまではもうちょっとだけかかりそうだ。
少なくとも、野武士との戦いでだけは死ぬわけにはいかないな!
敵討ちじゃなく、強さを追い求める為に、こんなとこで負けるもんか。
【四人目 田井中律】
二天一流の使い手。自由と柔軟な動きで脇差しを操り、思いもよらない変則的な攻撃を得意とする。
坂上げした髪の毛は前が見えずらくならないようにと施したものである。
元々農民の産まれだが、連続する戦いの中で侍以上の経験を得ており、その力は今ではこの辺りで三本の指に入る実力である。(澪談)
団子と澪だけが好き。(本人談)
愛刀 左 枝(シ) 右 零
部類 長脇差し
憂「お疲れさまお姉ちゃん!」
澪「この子が憂ちゃんか。ほんとだ、話の通りそっくり…」
憂「姉がお世話になってます」ペコリ
澪「じゃ、なかったね、うん」
唯「澪ちゃん酷ーい」
律「へぇ……村を要塞化してんのか。兵法でも習ってんのか?」
憂「ええ、少しかじったぐらいですけど」
澪「憂ちゃんは凄いなぁ。お姉ちゃんと違って」
律「うんうん」
唯「ああんっもうっみんな酷いっ!」
憂「お姉ちゃんは私なんかよりもっともっと凄いですから!」
唯「憂! こっちにおいで! なでなでしてあげよ!」
憂「わーい♪」
澪律「出来た妹だ……」
唯「さて、憂を入れて四人になったけど……まだ足りない?」
憂「う~ん……こうパワフルさが足りないっていうか」
律「澪は乳だけはパワフルだけどな!」
澪「全部小さいお前が言うな」
律「聞きました奥さん? おっきい乳自慢ですことよ」ボソボソ
唯「私達に対するあてつけかしら」ボソボソ
澪「真面目にしろ!」
憂「パワフルさと言えば一つあてが……」
律「奇遇だな……私もだ」
澪「私もだよ」
唯「へ? 何々?」
澪「唯……知らないのか? この辺りに伝わる夢牛伝説を」
その者、片手で牛の角を掴んで投げ飛ばす。
白昼夢の如しの剛力の持ち主である。
故に人はこれを──
澪「夢牛(ムギュウ)と呼んだ……って話」
律「まさか実在するなんてな……噂が本当なら一人で野武士壊滅出来そうだな……」
憂「三つ先の山の村にいるそうですよ」
澪「三つ先か……ならだいぶ遠出になるな。その間に野武士が来ないか心配だ」
純「大丈夫です! やつら決まって収穫日にしか来ませんから!」
律「誰?」
憂「この村の子の純ちゃんです」
純「お侍さんがひ~ふ~み~よ~てんぱ~のでいっぱいだ! って誰が天パーよ!」
律「大丈夫かこの子?」
憂「きっと侍がいっぱいいるから感動してるんですよ! 純ちゃんは大の侍好きですから」
最終更新:2011年06月06日 22:02