南口──

紬「来たわね……」

純「……思ってたより数が多いです。大丈夫ですか?」

紬「ええ。問題ないわ」

純「私達も矢で援護しますから! ご武運を!」

紬「これが終わったらなにしようかしら。みんなでピクニックとかいいかもしれないわ」

一人佇んだ紬の先には数十騎の野武士。

野武士「どけぇ変眉が!」

野武士「構わねぇ! このままひ殺してやる!!!」

紬「まあ終わってから考えましょうか」

紬は思いきり地面を蹴る──

ヒヒィンッ ブルルル キョォンッ

軽い地震のようなものだが、馬はそれにも敏感に反応し、慌てふためく。乗っていた野武士達はたまらず次々と落馬していく。

紬「馬に罪はないものね」

斬馬刀を抜き、鞘を投げさる。その鞘がぶつかった衝撃で木がメキメキと音をたてながら折れて行くのを見て、野武士達はただ顔を青らめることしか出来なかった。


北口──

和「ここが一番数が多いらしいわ。死なないでね」

澪「私は誰も殺さない、そして自分も死ぬつもりはないよ」

和「逆刃刀……ね」

澪「今まで打ってきた中の一番の自信作だよ」

和「以前私はあなたの店に買いに行って断られてるの、覚えてる?」

澪「断った客はあんまり覚えてないかな」

和「そう……。その時私悔しかったのよ。一流の私の刀を作れるチャンスを蹴るなんてってね」

澪「それは悪いことしたな」

和「この戦いで今の私が刀を打つに値するかどうか、見てくれない?」

澪「その余裕があればね」

和「50かそこらってとこかしら、別に大したことないわよ」


乱戦に継ぐ乱戦。

後ろを取られないように移動を重ね間合いを測り牽制を繰り返す。

紬の地震で馬は逃げてしまった為に全員白兵戦の状態だが、2対50ではさすがに部が悪い……。

和「囲まれた……か」

野武士「覚悟しろや!」
野武士「こいつ真鍋和だぞ! 将軍侍の!」
野武士「首を取れば名が上がるぞ!!!」
野武士「その首もらいうけるうううううう」

和「うるさいハエね。今楽にしてあげるわ」

そういうと、静かに柄に手を当てる。

和を囲むように10人、一斉に斬り殺しに来る野武士。

野武士「しねやあああああああ」

チンッ────

音が鳴った─────

よく聞いて無ければ何の音なのかもわからないぐらい小さな音。

この戦場の中でそんな微かな音など拾う価値もない、

和「秘剣……」

それが和が刀を抜き、鞘に入れた音じゃなければ。

囲んでいた野武士達の胴体が一斉にずり落ちる。

和「風車(かざぐるま)」

澪「和大丈夫かな……」

野武士「おらっ!」

澪「ぐっ!」

野武士「なんだなんだそのなまくらは!? 農民はまともな刀さえ持てないのかァ?」

澪「農民も侍も関係ないっ!」

澪「善と悪、ただそれだけだ!!!」

野武士「何を偉そうに!!! てめぇらなんぞ俺らの肥やしでしかねぇんだよっ!」

澪「刀を……」

野武士「あっ?」

澪「刀を汚すなっ!」

首筋を思いきり逆刃刀で強打。これにはたまらず野武士も昏倒する。

澪「あっ……」

野武士「後ろとった!」

澪「しまっ」

和「はあっ!」ザンッ
野武士「ぎゃあああああ」

澪「助かったよ!」

和「そんなに死んだか死んでないかが心配?」

澪「うん。唯と約束したからな。不殺の道を行くって。だから見せてやるんだ、刀は人を殺さずともいいってことを」

和「理想ね。でも悪くないわ。せっかくの戦国時代だもの、夢は大きく楽しまないと」

二人は自然と背中を合わす。
四方八方にいる野武士を迎え討つために。

澪「ああ! 夢はでっかく行こう!」

野武士「うしゃらあっ!」
野武士「ひゃっはっ!」
野武士「うひゃっ!」

「死ぬなよ」澪和「そっちこそ」

純「弓三番四番、うてーーー!」

ヒュンヒュンヒュン

純「次はえ~と」

村人「純! 敵がこっちに向かって来るぞ!」

純「えっとえっとこういう時は……!」

野武士「うおおおおおおおお」

純「そうだ!!! 竹槍を全面に!!!」

村人「よっしゃあ!!!」

突き出された竹槍に次々と串刺しにされてゆく野武士達。

純「純ちゃん作戦針ネズミ! 参ったか野武士!」


数は圧倒的に多かった野武士側だが、七人の侍と村人の思わぬ反撃に合い、その数を半数以下に減らしていた。


野武士の頭「どうなってやがる!!」

野武士「それが……北口にはあの真鍋和が、南口には怪物みたいな強さのやつが……あれはもしかしたら夢牛なんじゃ……それに西にも刀狩りがいて全く中に入れないんです!
村人のやつらも妙に連携組んでやがるし……」

野武士の頭「泣き言はいい!!! たかが七人の侍と農民の村人にやられてみろ!
末代までの恥だぞ!」

野武士「しかしお頭……」

野武士の頭「ちっ……俺が行けばそこは落とせるが後が続かん。
囲まれて終わりだ。
何とか一回の突破で村の物を根こそぎ奪える方法が……あるじゃねぇか」

野武士「えっ?」


東口

野武士「なんだこいつ! 攻撃があたらねぇっ!」

唯「唯我独尊流は唯我独尊流を極めたものにしか当てられないよ!」

憂「さすがお姉ちゃん!」


モクモクモク……


野武士「狼煙……ちっ、撤退か」

ぞろぞろと引いてゆくのように戻って行く野武士達。

唯「撤退……? ってことは」

憂「うんっ! やったよお姉ちゃん! 私達の勝ちだよ!」

唯「うん……」
憂「どうしたの? 嬉しくないの?」
唯「嬉しいけど……妙に引き際が良すぎるような……」

憂「確かにそれは気になるね……。でも勝ちは勝ちだよ!
一旦村に戻ってみんなと合流しよう!」

唯「そうだね」

唯「(胸騒ぎがする……なんでだろう)」


南口

南口は地獄と化していた。地面はひび割れ、龍でも現れたかのような爪痕が地表を抉り木は何本も薙ぎ倒されている。

野武士「やったぞ! 撤退だおまえら!」
野武士「生き延びた! 生き延びたんだ!」

狼煙を見て嬉々とした声をあげながら戻って行く野武士達。

紬「撤退……諦めたのかしら?」

引いて行く野武士を見て気を緩めたのか、ゆっくりと斬馬刀の鞘を取りに向かう最中だった。

野武士「(喰らえ化物!)」

シュゥゥゥゥ……


純「ムギ先輩、どうやらあいつら撤退したみた……」

パシュンッ──

紬「あっ……」

種火が降り、火薬の爆発の勢いで鉛を飛ばしつける。

この火縄銃が、ムギの体に傷をつけた最初で最後のモノとなった。


北口

和「はあ……はあ……はあ……」

澪「ふう……はあ……ふぁ……」

二人とも肩で息をしながらギリギリ立っている。
野武士の撤退をキッチリと見届けた後、背中合わせのまま地面にへたりこんだ。

澪「生きてる……あははっ! 生きてる!」

和「あの数に囲まれて尚、不殺とはね……恐れ入ったわ」

澪「こうしてる場合じゃない! 早く合流……の前にここでノビてる野武士を縄でしばらないと!」

和「手伝うわ」

澪「ありがとう!」

和「他のみんなは無事かしら」

澪「きっと大丈夫。私達七人は何があっても欠けない……何故かそんな気がするんだ」


西口

律「おうらあああっ!」

まさに回転剣舞と言わんばかりの剣幕。

野武士の腕や足を容赦なく切り落とし、その度に鮮血を浴びて行く。

梓「律先輩……」

律「ひゃっはっは!」

梓「ひぃっ」

明らかに死んでいる死体をほじくり回すように刀で突き込む。

律「次はどいつだ!!!」

そう高らかに吼えるも、そこにいた野武士は既に全滅していた。
地面に転がる無数の残骸がその激しさを物語る。

梓「もう敵はいませんよ……帰りましょう?」

律「……おっ」

その時律の目に入ったのは梓ではなく、撤退してゆく野武士達だった。

律「逃がすかっ!!!」ダッ

梓「律先輩っ!!!」

律は、血を浴びすぎて、或いは殺しすぎて、もしくはその両方で感情のヒューズが飛んでしまっている状態だった。

律「こいよオラァッ!」

強い自分に酔っているという見方出来る。

野武士「こいつ……!」

野武士「てめぇ!」

後ろを取られあっさりと一太刀浴びる、鎖帷子を着ていた為致命傷ではないが、これで足は止まった。

律「あっ……?」

上手く足が動かないと言った様子で自分の足を眺める律。

何時間も一人で、梓をも守りながら野武士20人以上を相手に戦って来たのだ。
体に影響が出ないわけがなかった。

野武士「もらったあっ!!!」

首を掬い上げるような軌道で刃が迫る。

律「嘘……だ」

ガキィィッ──

梓「死なせませんからっ!」

律「梓……?」

大太刀を持って割って入ったのは紛れもない梓だった。
律の真横に刀を打ち立てるようにして斬撃を防ぐ。
まともに振れない彼女唯一取れた方法と言えるだろう。

野武士「すっこんでろ!!!」

梓「あ゛っ……」

鳩尾を蹴られまともに息が出来ないまま地面に踞る。

野武士「じゃあな」

虫でも殺すかのように容赦なく降り下ろされる太刀。

梓「ごめんなさい……」

ザクッ───

血を撒き散らしながら何かが宙を舞う。

首……。










いや、それにして長い……何か。


律「謝るのは私の方だよ、梓」

梓「律先輩……っ!」

梓が悲壮あげるのも無理はなかった。

律の右腕はごっそりとなくなっており、見るも無惨になった切り口から血が吹き出している。

宙を舞っていたのは梓の首ではなく律の右腕だった。


────

なにやってんだ……私は。

ざまあないな……強くなった気でいて……強さ追い求めるなんて目標作って生きてるのに必死なふりして……結局はこのザマかよ。

数秒後、あの刀が私の首を跳ねるだろう……それで何もかも終わりだ。

約束守れなくてごめんな……。

ガキィィッ──

梓「死なせませんからっ!」

律「梓……?」

あんなに臆病で人一人斬れない梓が、私を助ける為に野武士の群れに来てくれたと、気付くまでにずいぶん時間がかかった。

わがままで身勝手で一人での垂れ死ぬのがお似合いのこの私を……。

梓「ごめんなさい……」

謝るなよ、謝るのはこっちなんだから。

刀は、持ってない。

探して持ち直す時間もない。

他に太刀を止める方法は……これしかないよな

──

律「鎖帷子を着こんでて良かったよ。私の腕で勢いが止まってくれて……ほんとに良かった」

梓「何がいいんですか……大事な右腕が……もう……」

その先はもう言葉にならない。

律「右腕一本で梓を守れたんだ、安いもんさ」ニコ
梓「!!!」

野武士「なにごちゃごちゃぬかし──」

梓「喋らないでください」

地面に刺さっていた大太刀をいつの間にか抜き出し、野武士の顔面を側面から殴り倒す。

野武士「てめがっ……は……」

後ろを見ずに突き込んだ大太刀が見事に野武士の腹を抉っていた。

梓「早く手当てしないと!」
律「ああ……そうだな」

梓は律の肩を一生懸命担ぎながら村へと向かう。

律「これでようやく……本当の七人の侍、だな」
梓「そんなこと言ってる余裕あるならもっと走って!」
律「へいへい」


──

唯「りっちゃん……」

律「たかが腕一本なくなったぐらいでわめくなよ」

唯「でも……」

律「そんなことよりムギは……? さっきから顔見てないんだけど」

澪「……ムギは」
和「くっ……」
唯「……ムギちゃんはっ」

律「まさか……っ」

ダッダッダッダッ

紬「りっちゃん大丈夫!!!??」

律「うわっ、ちょっ、大丈夫だから! 変なとこ触るなって……の……ん」
梓「そこまでですムギ先輩! 律先輩は重症なんですから!」

紬「でも……腕が……りっちゃん」

律「そんなことよりムギ! 無事だったんだな! 良かった……ってお前ら!」

澪「誰も死んだなんて言ってないだろ~?」
律「和はなんかくっ……とか言ってたろ!」
和「私はくしゃみを我慢しただけよ」

唯「でも普通なら死んじゃってるよ! 火縄銃を受けてあんな軽傷なのはムギちゃんだけってこの村のお医者さんも言ってたし!」

澪「全くどんな体してるのやら」

紬「でも凄い痛かったのよ? あんなに痛かったのは村長に叩かれた以来だもの」

和「火縄銃と同じ威力の平手って……」



梓「律先輩」

律「なんだ?」

梓「痛くないですか?」

律「痛いに決まってんだろ」

梓「ですよね……」

律「なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ」

梓「……あの」

バタンッ

純「大変です!!!! 」


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最終更新:2011年06月06日 22:05