宿舎!

澪「な、なあ、私たちにはなにもできないよ。帰れるようにお願いしよ?」ブルブル

律「そんなこと言って~。澪もノリノリだったじゃん?」

澪「だ、だって…」

紬「律っちゃん、それなあに?」

律「これか?この中にFire Bomberのライブ映像が入ってるんだって。さっきもらったんだよ。」

唯「わあ!見たい見たい!」

紬「うん!見たい見たい!」

律「たぶんここに差し込めば見れると思うんだけど…」ガサゴソ

梓「律先輩、壊さないでくださいよ。」

律「だいじょぶだって!」

…………………
テレビ

バサラ「みんな!待たせたな!」

ミレーヌ「行くよ!」

タタン!タンタン♪タカタカタカタカ♪

バサラ「さあ始まるぜSaturday night♪…」

…………………
テレビに映し出されたのは大勢の前でライブをするFIRE BOMBERの姿だった。
演奏技術にも歌唱力にも驚愕したが、心の一番深いところから熱くさせるような何かがそこにはある。

梓「す、すごい…」

律「このドラム、ヤバいだろ…。なあ、澪?」

澪「…。」

律「どうやって三つもバスドラ蹴ってるんだ。」

澪「す、すごい…」

梓「お客さんもかなり入ってますね。」

唯「大大大スターだったんだね。」


ガチャ(ドア)

アキコ「それを言うならあなたたちももう大スターよ。」

私たちが談笑しているところに中国人風の女性が入ってくる。

唯「だれ?」

アキコ「ごめんなさい。私はFIRE BOMBERのプロデューサーをしていた北条アキコよ。」

日本人なのか?

梓「はじめまして、放課後ティータイムです。」ペコリ

律「大スターって?」

アキコ「これよ。」

-「ヒーロー再来!新生サウンドフォース!!」
iPadのようなハイテク機器に私たちの写真がデカデカと映し出される。

律「こ、これは?」

アキコ「銀スポの記事よ。これだけじゃなくて各社とも一面であなたたちのことを扱っているわ。」

唯「すご~い!」

律「私たち、一躍有名人になっちゃったんだな!」

アキコ「それでね、お願いがあって、あなたたちにライブをしてほしいのよ。」

唯「ライブ?」

アキコ「そうよ。」

澪「大勢の前で…、ライブ…」ガクガク

アキコ「今シティの人たちは不安な毎日を送っているし、度重なる戦争に疲れているわ。」

澪「…。」

アキコ「だからあなたたちの歌で元気づけて欲しいっていう市長からの要請なのよ。」

梓「私たちで良いんですか?」

アキコ「もちろんよ。英雄の再来に皆勇気づけられると思うわ。」

プシュー

ミリア「私からもお願いするわ。」

アキコ「ミリア市長。」

唯「市長…?キレイな人…」

確かに市長というには若くてきれいな女性である。

ミリア「まあ!うれしいこと言ってくれるじゃない♪」

律「サウンドフォースをやらせていただいています、放課後ティータイムです。」

梓「よろしくお願いいたします。」

ミリア「こちらこそよろしく。必要なものは何でも言って。こちらで用意するわ。」

律「そういうことなら協力しない手はないよな、澪?」

澪「う、うん…」

戦争に行くのとはわけが違う。私たちの演奏で元気づけられるなら願ってもない。でも…。

律「よーし!いっちょド派手にいくぞーーっ!!」


バルキリー前!

ライブの打ち合わせをしている最中、私たちは再びバルキリー格納庫へと呼び出された。

ガムリン「艦長、これは!?」

マクシミリアン「ああ。新生サウンドフォースのために緊急配備した新型のバルキリーだ。」

目の前にある真新しい三機のバルキリーはサウンドフォースのバルキリーによりさらに斬新なデザインとなっていて、どこかより親しみやすい雰囲気を持っている。
しかし依然としてそれが戦争へ駆りだすための「兵器」であることには変わりない。

律「ほえ~…」

唯「かっこいい♪」

千葉「これらにはデフォルトでサウンドブーストが内蔵されている。」

ガムリン「被弾や接触不良のリスクを回避できるわけか。しかしこんな短期間でどうやってそんなものが開発できたんだ?」

千葉「唯君たちが持ってきた楽器のデータを使ったんです。」

唯「ギータを?」

千葉「ああ。天然素材で作られた楽器はそれぞれの「歪み」を持っている。その「歪み」は音に深みを与えるだけでなく、人から発する歌エネルギーをも増幅させられることがわかったんだ。」

なるほど。私たちが親しみを覚えるのもそのためだろうか。

梓「楽器ってすごいんですね…。」

千葉「ああ。過去の時代の職人の実力には感服した。」

唯「ねえ、おじさん、これがギータでしょ?」

黄金色の機体を指さして唯が言う。

千葉「さすが唯君、鋭いね。左からVF22T改、『ギータ』だ。KORG TRITON Extremeのサンプリング音データと最新型のサウンド兵器を内蔵している。紬君もこちらに搭乗してくれ。」

搭載された大小様々のスピーカーとミサイルの様なものが「最新型のサウンド兵器」だろうか。

紬「はい!」 唯「ギータ♪」

千葉「真中がVF19T改、『ムスタング』だ。Hip gigのデータを基にしたウーハーサウンドブースターも内蔵されている。律君もこちらに乗ってくれたまえ。」

黄色いラインの入った赤い機体はファイヤーバルキリーと酷似しているが、両肩部、両足部と背部に巨大なスピーカーが設置されている。「ウーハーサウンドブースター」だろう。

律「よっしゃーっ!」 梓「はい!(むったん♪)」

千葉「そして最後が澪君のVF17S改、『エリザベス』だ。無駄な兵装を省いた代わりに“サウンドフレーム”を装備している。ボディの全てがサウンドブースターの役割をするんだ。」

グババ「キィー!」

白地に青の入ったバルキリーは確かに「エリザベス」であると直感した。
ミレーヌバルキリーよりはがっしりしているものの、ダイヤモンドフォースのVF17よりは細身になっていて、女性的な流線形のフォルムをかたどっている。

澪「また私だけ…、一人…。」ガクブル

マクシミリアン「君たちの部隊はこれから、バンド名にちなんで『HTフォース』と呼ぶこととする。」

律「『HTフォース』か…。よし!」

ガムリン「これから飛行テストに向かいますか?」

マクシミリアン「ああ、そうだな。」


プシュー

ドアの向こうから先日の市長が不機嫌そうな顔で入ってきた。

マクシミリアン「ミ、ミリア…!」

ミリア「あなたたち、そろそろライブの時間よ!」

律「あ、ああ。そうだった。」

マクシミリアン「待ってくれ、これから大切な飛行テストがあるんだ!」

ミリア「市民を勇気づけることも大切なことよ!あなたたち、行くわよ!」

唯律紬梓「はーい♪」

澪「は、はい…」

マクシミリアン「全く…」



シティセブンライブ会場!

唯「いかれた、ダンスで答えを探すだけさーーーっ!♪」


正確な観客動員数は把握していないが数千人は入っているだろうか?
改めて「サウンドフォース」がシティセブンの人たちにとって大きな存在であったことがうかがえる。

観客「」ワーーーーッ!

六角形のライブ会場は「武道館」を思わせる。こんな形で私たちの入部当初の夢がかなうとは当然思ってもみない。
もっとも私は緊張とあわただしさに巻き込まれて、「夢」を実感することすらできなかった。


紬「(すごい人の量ね。)」

梓「(はい…。)」

澪「」ガクガク

律「(あちゃ~。澪!リラックスリラックス!)」

唯「はじめまして、放課後ティータイムです。」

観客「」ワーーーっ!

唯「歌エネルギーがどうたらこうたらで、地球から呼ばれてきちゃいました~。」

観客「」パチパチパチ

唯「シティセブンはすごいですね。私はハイテクな機械の使い方が分からなくて、テレビを壊しちゃって、ガムリンさんに怒られちゃいました~。」

観客「あっはっはっはっは~」

澪「(さすが唯…)」ブルブル

梓「(こんなに大勢の前なのに全然どうじてませんね。)」

初めての学園祭ライブでも感じた事ではあるが、人前に立った時の唯の落ち着きには感心する。
それが数千人の前でも同じなのだからもはや尊敬するしかない。

唯「FIRE BOMBERの代わりにはなれませんが一生懸命歌います!次は私たちの曲、U&I!」

観客「」ワーーーーッ!

テーレレレーレー♪テーレレレーレー♪

ジャッジャッジャッジャ♪

唯「君がいないと何にもできないよ~♪君のご飯が食べたいよ~♪」

……………
…………


バトルセブン艦内!

キム「艦長、戦艦右前方より巨大な生体反応発見!」

マクシミリアン「よし!モニターを回せ。」

(ガビル「ウヲォーーーーーーッ!!」)

マクシミリアン「プロトデビルン!?」

モニターに映るのは数百メートルはあろうモンスターが宇宙空間を飛んでいる姿。
“プロトデビルン”だろう。

エクセドル「何やら様子がちがうようですなぁ。」

(ガビル「久しぶりだな!アニマスピリチア!献身美ッ!!」)

マクシミリアン「何…!?どこへ向かっているんだ…。」

キム「艦長、戦艦左前方に人方の物体を目視しました。」

マクシミリアン「目視…?」

エクセドル「本命の敵ですな。」

(アグニ「我が名はアグニ…、行け、アスラ…」)

エクセドル「アグニ…」

アグニと名乗る生命体の大きさは数十メートル。全身眩いばかりの赤と黄色に覆われるその姿はまさに威風堂々!

(アスラ「クカカカカ」 アスラ「カカカカッ」 アスラ「カカッカカカ…」)

“アグニ”を囲むようにバルキリーほどの体長の“悪魔”が無数に湧いてくる。

キム「数十メートルの生命体一体と十数メートルの生命体数百体です。」

エクセドル「エルガーゾルンに乗っていた生命体と同じものですなぁ…」



宇宙!

ガビル「行け!グラビル!」

グラビル「グアぁーーーーッ!」

“グラビル”の掌が星型に輝いたかと思った次の瞬間、直径数十メートルはあろう巨大なビームが放たれる。

ビシューーーーーーーーーーーン!!!

強大なその一撃によって全て消滅…、したかのように見えた。

しかし次の瞬間に目の前に映ったのは一騎たりとも傷つくことなくこちらへ向かってくる敵の姿だった。

アスラ「クカカカカ」 アスラ「カカカカッ」 アスラ「カカッカカカ…」

アグニ「他愛ない…」

ガビル「グ、グラビルの攻撃がまるで効いていない…!!」

アグニ「焼き尽くせ…、全てを…」

“アグニ”の身体が一瞬その輝きを増す。

ブフォーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッ!!!!

直径数百メートルはあろう火柱が体長数十メートルの“アグニ”からまっすぐに発せられる。

アスラ「グがっ…」 アスラ「ガッ…」 アスラ「クガ…」

ガビル「う…、が…、焼滅美ッッ!!!」

火柱は“悪魔”ごとプロトデビルンを焼き尽くした。


バトルセブンブリッジ!

ミホ「プロトデビルンが一瞬で…」

マクシミリアン「仲間ごと焼き消すとは…。いったいどういうことだ!?」

エクセドル「酸素のない空間で炎を発するとは…」

“アグニ”は自身に発せられるビームを気にすることもなく堂々とバトルセブンに近づいてくる。

(アグニ「焼き尽くす…」)

サリー「艦長、艦内の温度が急上昇中です!」

マクシミリアン「敵のデータはまだなのか!」

サリー「それが…、物質反応もエネルギー反応もありません。」

マクシミリアン「なに!?」

エクセドル「幻…、ということになりますかな…。」

マクシミリアン「幻?確かにこちらを攻撃してきているんだぞ!」


ライブ会場!

唯「想いよ~、届け~♪」

「U&I」の演奏を終え、5人が観客の拍手に酔いしれる中、天空から警報音が響く。

ウーーーーーーーーッ! ウーーーーーーーーッ!

観客「」ざわざわ…

紬「な、なに?」

観客席にいるスタッフが律に合図を送る。

律「敵襲のようだな。」

観客「」ざわざわ…

梓「みなさん、落ち着いて避難してください!」

梓はあらかじめ打ち合わせの際に指示を受けていた避難経路に観客を誘導する。

唯「続きは空の上で歌うので聞いててね~♪」

澪「ちょっと、唯…」

皆混乱しているだろうと思われていた中、唯のひと声で観客が再び一つとなる。

観客「HTフォース!!HTフォース!!HTフォース!!HTフォース!!」

律「これは…。行くしかないだろ!」

梓「はい!」

澪「で、でも…」ガクガク

律「澪、お客さんを見てみろよ。」

観客「HTフォース!!HTフォース!!HTフォース!!HTフォース!!」

観客の声援で胸の奥に何かがこみ上げてくる。恐怖が消えたわけではないが身体が熱くなる。

澪「わ、分かったよ…」

律「行くぞーっ!!」

唯澪紬梓「おーーっ!!」

私たちは急いでバルキリーへ乗り込んだ。


エリザベスバルキリー内!

これから戦闘空域へ向かって発進する。
狭い空間の中で私は緊張に耐えていた。

ピッ!

(律「HT1からHT2、HT3へ。発進準備大丈夫か?」)

ピッ!

(唯「大丈夫です!隊長!」)

澪「あ、ああ…。大丈夫だ。」

(律「よし!行くぞ!HTフォース!発進!!」)

ブフォーーーーーーーーーーーーーーンッッ!!!

“急加速”が再び私を襲う。

澪「う…、わ…」

今回もなんとか気絶せずに済んだようだ。

澪「無事発進できたか…。」ハア、ハア

(アスラ「クカカカ…」ビシューーーーンッ!)

“悪魔”が私に向かってビームの様なものを発する。

澪「うわっ!」

ガゴーーーーーンッ!

“ビーム”はよく見ると水と風が混ざったもののようだ。

私はとっさにレバーを傾ける。
バルキリーは私が意図したように動き、“ビーム”を巧みにかわす。

澪「この感覚…。」

そうだ。乗り物と楽器という大きな違いはあるが、この違和感のなさ、身体にしっくりと来る感覚は確かにエリザベスそのものだ!

(唯「すごいよこれ!ギータだよ!!」)

ああ。これなら、行ける!!

(律「よし!行くぞ!ワン、ツー」)

律の合図とともに三機のバルキリーがファイター形態(戦闘機)からバトロイド形態(ロボット)へと変形する。

テーンテーンテテーテーンテ♪テーンテーンテテーテーンテ♪


澪「頭の中想いでいっぱい~、あふれそうなのちょっと心配~♪」


4
最終更新:2011年06月08日 21:09