シティセブンの公園!

夜の公園。
アクショのはずれの小高い丘にそこはある。

澪「……。」てくてく

シティセブンの夜景を見降ろすことができて、なんだか夏フェスの夜を思い出す。

リー、リー、リー

鈴虫が泣いている。芝生も木々も“自然”そのものを再現できているはずなのであるが、やはり“不自然”。

澪「……。」

私は何かがもやもやしていて眠れなかったのだ。

「恋をするように~、声を重ねれば~、oh kiss!♪」



澪「ん!?」

律「私のハートは~、ここにあるよいつだ~って♪」

澪「律!?」

丘の上の歌声は律だった。

律「あ、ああ。澪。」

澪「ミレーヌさんの歌か。珍しいな。」

律「ああ、なんか恥ずかしいな…。」

澪「…。」

律「だけどoh君の~、輝く目は何を~、探し続けるの~♪」

澪「眠れなくてさ…。」

律「そういえば今日全然歌ってなかったよな。」

澪「!?」

私ははっとした。歌わなかった?歌えなかったんじゃないだろうか…。
バサラさん達は自身が歌う“意味”を知っている。
“私はなぜ歌うのか?”そんな素朴な問いが初めてぶつけられ、葛藤していたのかもしれない。

律「oh my friend~♪」

この幼馴染はすべてお見通しなのだろう。

律「君と走り出す~、夢の続く星へと~♪」

律「私だって怖いさ…。」

澪「律…。」

律「でもここにあるのは私たちの未来かもしれないんだ。」

律がシティセブンに灯る光を見つめながら言う。

律「君と探してた~、未来の地図を持って~♪」

澪「…。」

律「走り続けたら~、たどり着くはずだから♪」

律「澪!」

澪「ん?」

リー、リー、リー

律「私、澪には本当に感謝してる。」

澪「なんだよ、急に。」

律「音楽始めたのも澪のおかげだし、音楽続けてるのも澪やみんなといっしょにいたいからだ…」

澪「わ、私こそありがとう…。」

そうだ!かけがえのない友と、律といっしょに歌える。
理由なんてそれだけで十分だ!

律「それで、聞いてくれるみんなも幸せになれたらやっぱ最高じゃん?」

律がとびっきりの無邪気な笑顔を見せる。
この笑顔は小学校のころから変わらない。

澪「そうだな!」

この笑顔を、大切にしたい。

律「」タカタカタン♪

律がスティックで石を叩く。

律「君と探してた~♪」ツツタン

澪「uh~、uh~、uh~、uh~、uh~♪」

律「未来の地図を持って~♪」タタタ

律「走り続けたら~♪」

澪「wa~、wo、wa、wa~、ha~♪」

律「たどり着く~、はずだから♪」

リー、リー、リー

私と律と、鈴虫が、夜のシティセブンに向かって歌っていた。



バトルセブン艦内!

バトルセブン艦内にある会議場。
私たちは緊張し、行儀よく座る中、バサラさんだけはいつもと変わらない。

バサラ「…。」

ミレーヌ「ちょっとバサラ!大事な会議なんだからちゃんとしなさい!」

バサラ「うるせーなぁ。」

プシュー

マクシミリアン「待たせてすまない。今日集まってもらったのはほかでもない、今回私たちが戦っている敵についてだ。」

律「なにか分かったのか?」

マクシミリアン「ああ。千葉、頼んだぞ。」

千葉「はい。こちらをご覧ください。」

ホログラムに映し出されたのは、敵の立体映像。そして赤と青の折れ線グラフ。二つはほぼ重なっている。

千葉「赤い曲線はシティセブン市民の不安度を表している。プロトデビルンとの戦いの前後から急上昇していることが分かる。」

唯「ふむふむ。」

千葉「そして青いグラフは潜在的な敵の戦闘力を表していて、青い点は敵が現れたポイントを表示している。」

レイ「うむ。」

千葉「グラフを見ていただいた通りなんだが、敵の強さ、出現率と市民の状態不安の間には統計学的に有意な正の相関があることがわかる。」

バサラ「何がいいてえのかさっぱりわからねえよ。」

我がHTTにも二名ほどさっぱり意味が分かってなさそうな顔をしているやつがいる。

澪「つまり、今回の敵の出現はシティセブンの人たちの不安となんらかの関わりがあるっていうことですね?」

千葉「ああ、その通りだ。」

マクシミリアン「だからこそ、敵にも市民にも君たちの歌を聴かせると効果があるということの根拠になりうる。」

バサラ「そんなの最初から分かってたことじゃねえか。」

ぶっきらぼうに聞こえるが、バサラさんはすでに自分が歌うということに何がしかの“確信”を持っていたのだろう。

エクセドル「『“彼のもの”への恐怖こそが風を生み、“彼のもの”への恐怖こそが太陽神を現す。また、“彼のもの”への恐怖こそが“アグニ”や“インドラ”、“死神”などを生むのだ。』」

マクシミリアン「アグニ?いったい何を言っているんだ?」

エクセドル「プロトカルチャーの遺跡に書かれていた文言です。」

マクシミリアン「何!?なぜ今まで黙っていた?やつらの正体はなんなんだ?」

エクセドル「…。」

エクセドル参謀が口をつぐみ、一時会議室を沈黙が支配する。

エクセドル「神々…。プロトカルチャー以前に智慧を持っていた神々、原理であると…。」

全員「…!?」

一同は絶句した。

沈黙を破ったのはレイさんだっだ。

レイ「お、俺たちは神々を相手に、戦争しているっていうのか…?」

エクセドル「遺跡に書かれていた通りならそういうことになりますな。」

律「し、しかも、少なくとも“アグニ”と同様かそれ以上の敵がまだいるってことか…。」

エクセドル「いや…。神々を生みだしたという“彼のもの”はそれ以上どころか桁違いな相手でしょうな…。」

マクシミリアン「その“彼のもの”とはいったい何ものなんだ…。」

ウーーー! ウーーー! ウーーー! ウーーー!

艦内に警報音が鳴り響く。

マクシミリアン「敵襲か!?」

プシュー

オペレーターの女性が2人、あわてた表情で会議室へ駆けつける。

サリー「艦長、敵がシティ内に入り込み市民を襲っています!」

マクシミリアン「シティ内?どうやって入りこんだんだ…。敵は今どこにいる?」

サリー「B3地区で市民を攻撃した後B7地区に移動。その後見失いました。」

マクシミリアン「しらみつぶしに探すしかないか…。」

エクセドル「レーダーが通用しないのであれば仕方ありませんな。」

マクシミリアン「ダイヤモンドフォース及びHTフォースはB5地区から捜索し北上せよ!」

ガムリン「了解!」 律「了解!」

マクシミリアン「エメラルドフォース及びサウンドフォースはC2地区から捜索し、南下するように!」

ドッカー「了解!」 レイ「了解!」

マクシミリアン「各バルキリー隊を緊急配備し、市民をシェルターに避難させてくれ!」

ミホ「了解いたしました!」


シティセブン市街!

緊急発進した私たちはファイター形態で市街へと飛ぶ。

ガムリン「D1からダイヤモンドフォース及びHTフォースへ。市街へ到着後は散会し、敵を捜索するように。なにか異変があったら即時報告しろ。」

「了解!」

市街へ到着後、ギータとムスタングは“ガオーク形態”と呼ばれる戦闘機とロボットの中間形態へと巧みに変形する。

唯「あずにゃん、私は右を探すから!」

梓「了解です!」

シューーーーーンッ

その後も2機は変形、旋回を繰り返し、煩雑な市街を素早く飛び回る。


エリザベスバルキリー内!

ピッ

(ガムリン「澪さん、市街ではガオーク形態へ変形するんだ!その方が機体が安定し、小回りが利く!」)

澪「は、はい!」

急いでエリザベスもガオーク形態へ変形する。

澪「唯と梓の動きについていけない…」

私からすれば数日であそこまでの操縦技術を身に付けた二人は“天才”としか言いようがない。

(ガムリン「VF17とVF19、22とでは機体性能も違う。特に大気圏内ではVF17は無理が利かない。自分にできることをするんだ!」)

澪「は、はい!」

ピッ

ビビビビッ…
(梓「HT1から全機へ…!C3地区で敵と…思しき“影”を…発見…!」)

通信に少しジャミングがかかっているようだ。
梓の少しあわてた声がバルキリー内にこだまする。

澪「(影…?)」

(「了解!」)

澪「りょ、了解…。」


C3地区!

澪「な、なんだあれは…?」ガクガク

そこにあるのは文字通りの巨大な“影”。
“影”は形を留めず、時折人の形に変形したり、おぞましい形相でこちらを睨む。

市民「ひ、ひい…」ガクガク

逃げ遅れた市民はその姿に腰を抜かす。

ヤーマ「フ…」

シューーーーーー

“影”は鎌の様な黒い触手を市民たちに向ける。

市民「う、わ…」ガクガク

触れられたものはその瞬間に黒い霧となって中空に消えてしまった。


エリザベスバルキリー内!

澪「こ、これは…」ガクガク

ピッ

(ガムリン「D1からダイヤモンドフォース及びHTフォースへ。敵に近づきすぎるな!フォーメーションBで!」)

(「了解!」)

6機のバルキリーが距離を取りながら“影”を取り囲む。

ブシューーーン! ブシューーーン! ブシューーーン! ブシューーーン!
ババババッバババッ!

ダイヤモンドフォースの実弾兵器は全て“影”を通り抜けてしまう。

ヤーマ「フ…」

バシューーーーーン!

“影”から同心円状に衝撃波が繰り出されると辺りのビルが半壊していった。

(律「くっ…。このままじゃまずい…。いくぞ!ワンツー!」)

ヤーマ「」ギンッ

律のカウントと同時に“影”の赤い目が私を睨んだ。

おぞましい、おぞましい、今までに味わったことのない恐怖!

澪「う…、あ…」ガクガク

テレー、テ、テー、テ、テーン、テテーー♪



4人の演奏が始まるが、私は身体が震えて演奏することができない。

(唯「澪ちゃん!?どうしたの?」)

澪「あ…、あ…」ガクガクブルブル

(律「しょうがない!唯!頼むぞ!」)


ギータバルキリー内!

唯「ホワイトボードでひしめき合う~♪落書き、自由な願い事~♪」

ヤーマ「フ…」

バシューーーン!

再び衝撃波が私たちを襲う。

唯「放課後のチャイム夕闇に響いても~♪夢見るパワー、ディスれないね、生憎♪」

(梓「な、なんで歌が効かないんですか!?」)

紬「5人そろってないからサウンドブースターが起動しないのよ!澪ちゃん!」


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最終更新:2011年12月12日 21:59