エリザベスバルキリー内!

(律「澪っ!」)

澪「」ガクガクブルブル

くそっ…、意思とは関係なく身体を動かすことができない…。
私の感情は恐怖で支配されていた。

(唯「Let’s sing もっともっともっと声高く~♪くちびるに希望携えて~♪」)

(梓「きゃああああああっ!!」)

唯の歌よりも大きくバルキリー内にこだまする梓の悲鳴。

澪「!?」

私が顔を上げた目の前に広がるのは信じたくない光景。
ガオーク形態のムスタングが“影”に捕まっていた。

澪「律っ!」

ムスタングがもがくが振りほどけない。
“影”が触手を伸ばし始める。あの触手がコクピットへ届けば全てがおしまいになってしまう!

(唯「ワード放つたび光になるワタシタチノカケラ~♪」)

澪「え!?」

ムスタングのコクピットが開いている。
コクピットの前に人影?

澪「り、律っ!?」


ムスタングバルキリー!

(唯「思い出~♪なんていらないよ~♪」)

梓「律先輩!?」

律「大丈夫だ、梓。」

誇るべき私の親友はそのとき、両手を伸ばしてコクピットの前に立っていた。
大切な仲間を守るために…。

(唯「だって“今”強く、深く愛してるから~♪」)


エリザベスバルキリー内!

澪「り、律…」ガクガク

“影”の黒い鎌が律に迫る。

(唯「思い出浸る大人のような甘美な世界~♪」)

エリザベスから見える律は、両手で風を受け誇らしげにほほ笑んでいた。

(唯「まだちょっと~♪」)

最後の瞬間、私は見逃さなかった。
誇らしげにほほ笑む律の頬に光るものを…。

(唯「遠慮したいの…。」)

鎌が触れた瞬間、律は霧となり、空へ消えた。

(梓「律先輩っ~~!!」)

澪「律ぅーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


バトルセブン艦内!

律が消えた後、サウンドフォースによって“影”は撃退された。
律一人の犠牲が私たちの命を守ったのだ。

澪「…。」

涙は出なかった。
“悲しい”というよりも、今まで律や皆と過ごしてきた現実が、スクリーンに映し出されたもので、それが目の前で崩れていったような感覚だった。

“現実”というものがかくもはかないものであることを私は思い知った。

唯「澪ちゃん…。」

澪「…。」

律の写真、ドラムスティックを囲むように皆が立っている。

ガムリン「田井中律大尉に、敬礼!!」

軍人たちが律に向かって敬礼する。

大尉?3階級特進?ふざけるなよ。
茶番だ。私たちの律を返せ!

澪「…。」

しかし私は声も、力も出なかった。

紬「ふざけないで!!律っちゃんを返してよっ!!!」

ムギが私の感情を代弁するように大きな声を上げる。

唯「ムギちゃん…。」

紬「うえ~~~ん」

ムギが泣きだすと、私の目からも涙があふれてきた。

マクシミリアン「本当に、本当にすまない…。」

唯「ムギちゃん、澪ちゃん、落ち着いて…。」

バサラ「バカバカしいぜ…」

プシュー(ドア)

バサラさんがぶっきらぼうに退室する。

ミレーヌ「ちょっとバサラ!何がバカバカしいのよ!」

バサラさん達に怒りを向けてもしょうがない。
わたしはただただ自分自身を責めていた。

澪「あのとき私が歌っていたら…」

その後、私たちはガムリンさんの計らいで退室し、宿舎へと帰った。


アクショ!

宿舎を抜け出し、アクショをさまよう私の身体は死体のようだった。

澪「り、りつ…」ゆらゆら

友を見捨てたこの身体は、“私”は、ここで朽ち果てるのがふさわしい。

澪「律…、ウソだろ…」

そう思いながらも私の身体はどこかへと歩みを進める。


シティセブンの公園!

たどり着いたのは律と最後に二人きりで話したシティセブンの公園だった。

澪「!?」

どこかからギターの音色が届く。



バサラ「お前が~、風になるな~ら~♪」

澪「バサラさん…」

律と誓いを立てた丘の上では、バサラさんが一人ギターを抱えて歌っていた。

バサラ「果てしない~、空になりたい~♪」

私はバサラさんの隣に座り、うつむく。

バサラ「激しい雨音に~、立ちすくむ時は~♪」

澪「やっぱり…、私のせいですよね…。」

演奏の手を止め、バサラさんがつぶやく。

バサラ「くだらねえぜ…。」

澪「くだらないって…!?律は私の大切な大切な親友なんですよ!!」

バサラ「親友ならなんで信じねえんだ!なんで聞こえねえんだよ!!」

再びバサラさんが演奏を始める。

バサラ「ギターをかき鳴らし~、心を鎮めよう~♪」

澪「え!?」

バサラ「あいつの、“ビート”がよ…」

澪「!?」

バサラさんがまたシティセブンの夜景に向かって歌い始める。

バサラ「COME ON PEOPLE 信じて欲しい~♪」

律の…、ビート!?

バサラ「今すぐ~、分からなくていいから~♪」

バサラさんには聞こえるのか?

バサラ「COME ON PEOPLE 命の限り~♪」

親友なのに…、信じていたか?律を!

バサラ「お前を~、守り続ける MY SOUL FOR YOU~♪」

私は…、親友の死を、決めつけていないか!?

澪「ごめんなさい!」がばっ

ひと言だけ言うと、私はその場から立ち上がり、走り出した。

バサラ「へへっ…」


シティセブン!


シティセブンの街を、私はただただ走った。

―「ここに来ると思いだす~、まだ夢ばかり見ていた頃を~♪」

友が待っているところへ、ただただ走った。

澪「はあ、はあ…」

―「星からたなびく風が~、俺を昨日へとさらってく~♪」

ドンッ

市民「いてっ」

澪「す、すみません!」

―「派手なブルーの空~♪」

ドクン、ドクン、…

聞こえる!

―「笑顔を写す君~♪」

ドクン、ドクン、…

私の鼓動、

―「ふたりで描いた千年先の未来~♪」

ドクン、ドクン、…

律のビート!!!

澪「まだ忘れたわけじゃないんだぜ~♪」ハアハア

律、聞こえるか?

澪「あの時の約束を~♪」ハアハア

私の歌、私の鼓動、

澪「同じ強さで、同じスピードで~♪」ハアハア

必ず届けるから!

澪「夢の途中~、REMEMBER16~♪」


宿舎!

プシュー(ドア)

澪「はあ、はあ…」

唯「澪ちゃん!」

澪「みんな…」ハアハア

澪「律を…、律を迎えに行くぞ!」

さっきまで泣いていたムギは目に涙をいっぱいためながら笑顔をこちらへ向ける。

紬「うん!」

ふさぎこんでいた梓も身体を起こす。

梓「はい!」

不思議なものだ。4人が同時に同じ“予感”を感じていたのかもしれない。

唯「じゃあみんな、行くよぉ!」


バトルセブン会議室!

マクシミリアン「では、次回の襲撃の際にはダイヤモンドフォース、エメラルドフォース、サウンドフォースが中心となってしのいでくれ。」

「了解!」

プシュー(ドア)

唯「ちょっと待った~!」

マクシミリアン「放課後…、ティータイム!?」

ガムリン「君たち、大丈夫なのか!?」

梓「はい!私たちも行きますから!」

バサラ「かたき討ちにでも行くのか?」ニヤ

バサラさんがおちょくるように言う。

澪「バカ言え。律に私たちの歌を届けに行くのさ!」

唯、ムギ、梓が無言でうなずく。

バサラ「へへっ、ノッてきたじゃねえか!」

なんだか機嫌がよさそうだ。

紬「実はみなさんにお知らせしなくておかなくてはならないことがあります。」

マクシミリアン「なんだ?」

紬「信じてもらえないかもしれませんが、私たち、過去の時代から来たんです。」

会議場が一瞬静まり返る。

梓「意外と、驚かないんですね。」

マクシミリアン「やはりそうか…。」

唯澪紬梓「!?」

エクセドル「君たちの格好や持ち物、発話のアクセントは数十年前の地球のもの。」

マクシミリアン「実は君たちの歌エネルギーを検出する直前に、特殊なフォールド断層とデフォールド反応を検出していたんだ。」

エクセドル「信じる根拠は十分にある、ということになりますな。」

唯「『特殊なフォールド断層』…?」

エクセドル「おそらく敵が作り出したもの…」

澪「だったら神だろうがなんだろうが敵の首根っこ捕まえて、律と一緒に私たちの時代に帰るまでだ!」

マクシミリアン「無論、私たちも全力で協力させてもらう。」

澪「ありがとうございます!」

梓「5人でいっしょに帰りましょう!」

唯紬「うん!」

マクシミリアン「問題はいかにして敵と対峙するかということだな。」

千葉「せめて“彼のもの”とはなにものかが分かれば手の施しようがあるのですが…。」

エクセドル「遺跡が消滅してしまった今、文言の続きを知る手だてがありませんからな。」

プシュー(ドア)

和「『“彼のもの”は無限であり、そして“我”もまた無限である。無限は無限から生みだされる。無限から無限を取り出しても、それはまた無限なのである。』」

一同「!?」

澪「和!」

唯「和ちゃん!どうしてここに?」

和「唯…。私も舞台にいたから、巻き込まれちゃったみたいね。ようやくここにたどり着いたわ。」

ドアの向こうから現れたのは疲れた表情の和だった。

ガムリン「どうやってバトルセブン艦内に!?」

和「彼女のおかげよ。」

背後からプロトデビルンの少女が姿を現す。

シビル「バサラ…、コォーーーーーーー!」

うるさい。

バサラ「シビル!」

エクセドル「“満たされたもの”とは…?」

和「ええ。宇宙の根源、そして私たちの心の、主体の根源です。」

一同「!?」

マクシミリアン「しかし、なぜ過去から来たはずの君たちがプロトカルチャーの遺跡の文言を知っているんだ!?」

和「いえ、プロトカルチャーの遺跡のことはもちろん知りませんでした。」

千葉「じゃあさっきのは何なんだ?」

和「ウパニシャッド。今のはイーシャ・ウパニシャッドですが、いずれも紀元前のインドで書かれたものです。」

エクセドル「なるほど…。古代文明はプロトカルチャーの影響を直接受けている可能性が考えられますからな。」

唯「なんでそんなこと知っているの?」

和「倫理のレポートがあったでしょ。私はたまたまそこまで調べてたから覚えてたのよ。」

梓「さすが和先輩。」

澪「で、律をさらっていった影は何者なんだ?」

シビル「ヤーマ…。」

少女が答える。

澪「ヤーマ?」

シビル「死神…。」

澪「えっ…。」

死神…。


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最終更新:2011年06月08日 21:17