唯「それでこの破壊の遺伝子はどうすればいいの?」

疑問の言葉にナツメは顔を苦くして答えた

ナツメ「できれば……唯に引き続き唯に守ってもらえれば……と思っていたけど、
これ以上唯に負担はかけられないわ」

唯「私は大丈夫だよっ!」

そして、ただ、と言葉を繋ぐと

唯「……一度ロケット団に負けているから……守りきれるとはいいきれないかも……」

カツラ「ならば、ワシが預かろうか。唯君とナツメ君ばかりに負担をかけているわけにもいかん」

カツラ「それに

――元々の発端はワシにあるのだから」

カツラの口から発される言葉は重く、

そして深い懺悔の意味をもっていた

カツラ「あれはもともとワシが作ったもの……」

唯「……カツラさん……」





――やはりそれは俺の手にあるのがいいようだな。ゴルバット、泥棒で奪い取れ!!

声の先は上空。ゴルバットが唯の手の中にあった破壊の遺伝子をかすめとった

見上げた唯の視線の先

そこには

ランス「最近はどうやらついているようだな。研究日誌を探しにグレンへ着てみれ

ば、ナツメ、そしてあの女、カツラまでいるじゃないか!!」

「どうやら、研究日誌のほうは無駄だったようだが。とうとうこれが手に入った!!」

もう一体のゴルバットにつかまり、浮遊しているロケット団の男がいた

ナツメ「ロケット団……っ!!」

ランス「おやおや、ナツメ、なんだそのツラは? 自慢の長い髪まで切り、ここまでごまかしてきたというのに、このザマがそんなに悔しいのか?」

カツラ「待て、それだけは持っていかれるわけにいかん。置いていってもらうぞ!!でてこいブーバー!!」ボンッ

「大文字だ!!」

ランス「おいおい、焦るなよ。そんな大技があたるとおもうか?」

ランスがつかまっていたゴルバットの手放し地面に着地した。

ランス「あとはもう一つ。その女にシオンでの借りを返させてもらうだけだ」

言った直後、動きがあった

ナツメだ

ナツメ「そう簡単に事が運ぶとおもっているの?」

「でてきなさい、バリヤード。サイケコウセン!!」

繰り出されたバリヤードが手のひらをランスに向け

放った

ナツメ「(……なに……あの余裕は。焦り一つもみせずに……どういうことなの)」

放たれた光線にランスがとった行動は一つだけだった。

それは

ランス「……せっかちな女だ――でてこい」

「――サンダー!!」

ボールから、ポケモンが繰り出されるだけ。

それだけの仕草だったが……

たったその1つの行動だけで、莫大な電気が周囲の空気を鳴らした

稲光と共に姿を現したのは

黄色い羽毛で体を覆い、全体的に刺々しいフォルムをした鳥ポケモン

その体に常に纏う電気が、あたりにいやな轟音を響かせていた

唯「……っな、なにあれ……!?」

その姿に威圧された唯が慌て、図鑑を開いた


No.145 サンダー
くもの うえから きょだいな 
いなずまを おとしながら 
あらわれる でんせつの とりポケモンである。


唯「伝説のポケモン!?」

ランス「安心しろ、女。お前の相手はコイツじゃない――サンダー、ナツメを引き離せ」

飛ばされる言葉にサンダーは、ナツメのバリヤードに狙いを定め

連れ去った

廃墟となったグレンの南東へと雷雲とおもに移動をはじめた

ナツメ「っ!!ごめんなさい、私はバリヤードとサンダーを追うわ。気をつけてね唯、カツラさん」

そうしてナツメがこの戦場に背を向け、自分の戦場へ足を走らせた

カツラ「ブーバー、火炎放射だ」

隙をみせたランスに、すかさず攻撃をかけた

だが

ランス「ちっ、こいつも邪魔だ。でろ、ファイヤー」ボンッ

先ほどと同じ形で攻撃が阻まれた

今度姿を現したのは

朱の翼、朱の鬣、朱の尾

全てが炎を纏う、美しい火の鳥だった

ランス「こいつも伝説の鳥ポケモンの一匹だ!!」

言葉が大気に響いたとき

唯の図鑑が自動的に認識をはじめた


No.146 ファイヤー
よぞら さえも あかく するほど 
はげしく もえあがる つばさで 
はばたく でんせつの とりポケモン。


唯「そんな、二匹目っ!?」

ランス「お前はあのジジィをひきつけろ、いいな?」

その命令を聞くと、ファイヤーが炎の翼を広げた

――飛翔する

そう思ったときにはすでにブーバーが宙に浮かんでいた

カツラ「こいつら、ワシらを引き離す気か!!――唯君、すまないワシはあのファイヤーを必ずしとめる」

「だから、この場を任せるぞ!!」

そしてカツラもファイヤーが飛んでいった方向、

グレン山のほうへ足を急がせた

残されたのは二人

ユイとランスだ

沈黙が流れたが

口を最初に開いたのはランスだった

ランス「どうして、俺がお前を残したかわかるか?」

問うた

唯「そんなのわかんないよっ!」

べーっと舌を出す唯に、ランスはさらに続けた

ランス「……このさいだ、正直に言おう。俺は……シオンであの2匹の竜に威圧された時、負ける……そう思った。そして俺は逃げ出した……」

ポツリと紡ぐ言葉には重みがある

ランスも唯と同じだった

シオンでの闘いを。あのバトルを自分の敗北だと思っていた。

ランス「そして、あのあと一つのことに気付いた。」

「俺達のボス――サカキさまは……あのときの弱さ、あのふがいなさのために一人修行のたびにでてしまわれたのだと……」

唯「(……サカキ?)」

ランス「だから、だ」

「――俺はここでお前を圧倒し、最強のポケモンを作り出し、もう一度サカキ様をお迎えする!!」

そして

ランス「さぁ、ポケモンを出せっ!俺はあのときの弱さをここで捨てる」

唯「……」

唯の沈黙が続き

唯「……だからって……それがそんな勝手にポケモンをつくる理由にはならないよ」

「あなたたちはそのポケモンできっと多くの人を苦しめる」

振り絞った声が場を支配した

唯「勝つよ。だって、そんな世界じゃ私もポケモンたちも楽しくないと思うから」

「なにが正しいかなんてわからないけど……私にとって闘う理由はそれで充分」

いつもののほほんとした顔に意思がやどる。

勝ちたい。勝とう、と。

だから

唯「力を貸して。でてきてリュー太!!」ボンッ

ハクリュー「リュウウウウー!!」

ランス「そうだ、そいつだ。そのドラゴンだ。まずはそいつを倒させてもらうぞ」

言ったランスがボールを放つ構えをとった

空気が変わる。

文字通り大気がひやり、とした

唯の肌は、あたりの寒気を感じ取る

ランス「さぁ、でろ!フリーザー!!」

水色の羽毛。美しく光る翼。青く、ときおり白く光る鶏冠

3匹目の鳥ポケモンが放たれた


No.144 フリーザー
ふゆぞらの くうきに ふくまれる 
すいぶんを こおらせて ゆきを 
ふらせる でんせつの とりポケモン。


唯「また伝説のポケモン!!」

ランス「さぁ、はじめようか。トレーナー!!」

あたりには、白く小さな粒――雪が降り出し

グレンの空が3つの色を仕立て上げていた

唯「リュー太!高速移動!!そして神速」

ハクリューが宙を翔る。身は空を這わすようにし、風をまとった

ランス「フリーザー、白い霧だ」

フリーザーの身を隠すように霧が発生した

青の体がその白に紛れ込んでいく

構わない、そう唯は思っていると、ハクリューは今までフリーザーがいた場所へ突

っ込んだ

だが、そこにすでに姿はなく

声は別のところから響いた

ランス「少しは学べよ、トレーナー!!ゴルバット、女を狙え!!」ボンッ

シオンでの映像がよみがえる

不意をうったゴルバットの攻撃

再び、ゴルバットが唯に襲い掛かった

――ドンッ

音が響く

骨にあったときのような音だ

ランス「もう終わりか?あぁ?」

きりの中から声が響く

どうやら、むこうからもあまりこちらの様子は見えていないようだ

なぜなら

唯「へへん、2度も同じ手は食わないよ!」

たしかにゴルバットは唯の腹部へと翼を突っ込ませていた、が

そのあいだを阻むものがある

骨だ。

唯「カラ太の守るだよっ」

いつのまにか出されていたカラカラがゴルバットの翼をその骨で受け止めていた

唯「カラ太、みねうち」

受け止めた骨にかけた力を抜き、骨を手放した

力の抵抗がなくなったゴルバットは宙をよろけ

カラカラは落とした骨を左の手で受け止め、バックハンドで打ち抜いた

――

ゴルバットが地上に堕ちるが

かまっていられないと、唯は次の指示をだした

唯「そっちも一匹相手だと思っているところに、2匹目で攻撃してきたんだもん。

こっちが何体でいっても文句はないよね?
 カラ太、骨ブーメランで霧を切り裂いて。リュー太、姿が見えたらすぐに攻撃で

きるように構えて」

カラカラの骨が投じられる

白の霧は2つに切り裂け、そして骨の帰還で4つにきりさかれた

唯「見えた!!そこだよリュー太、神速!!」

水色の羽がちらりと見えたところへと、ハクリューに指示をだす

もう一度ハクリューが別たれた霧の中へダイブした


ランス「ふはははは、そこもはずれだ!!狙い打てフリーザー、冷凍ビームだ」

唯「なっ!!」

唯が影をみつけたところとは、別のところから冷気をまとったビームが出る

攻撃は唯の言葉を待たず、ハクリューの居場所に向かって放たれた

ハクリュー「……リュウウウウウウ!!」バタッ

倒れた音だけが残り

唯「リュー太!?」

ランス「おっと、そろそろ霧も晴れるか……」

白の世界に、視界が戻る

ハクリューは地に凍ったまま横倒しになっていた

ランス「ドラゴンタイプは大抵の攻撃には強いが、この冷気には耐えられん」

「俺が3匹の鳥のうち、こいつを残した理由はそこにある」

敵はどこだ と焦る気持ちを押さえつけながら、唯はあたりをみわたすと

唯「空っ!?」

フリーザーの背に乗るランスがはるか上空にいた

唯「そんな……さっき確かに、あそこに影が」

ランス「氷は時に、鏡より鋭く物を写す」

唯「つまり氷に写った影を攻撃していた……」

ランス「ほう、察しはいいじゃないか。さぁそっちのモンスターもだ、フリーザー、こおりのつぶて!!」

フリーザーが己の翼を一振り、二振りした。

その結果

大気の水分が礫となり

唯とカラカラに襲い掛かった

唯「カラ太、まもって」

カラカラが手に持った骨で、礫を打ち返すように捌くが

カラカラ「カラっ……!!」

数の多さに全てが捌ききれず

いくつかの礫は唯へと向かう

カラカラ「――!!」

だが、カラカラはそれを許さなかった

捌ききれない分は自分の体で守ればいい 

そう考え、カラカラが唯の目の前に飛び出した

ランス「そら、直撃だ」

唯「カラ太っ!!」

叫ぶ声はむなしく、カラカラが地に落ちた

唯「ごめんね、カラ太。ありがとう、戻ってね」

空のボールにカラカラをしまうと、新たなボールをとりだし

唯「GO,ヒー太!!」

リザードン「ガアアアアア!!」

炎の竜が大気をかき鳴らした。

唯がその背に乗ると、大翼を広げ

空のフィールドへと飛び立った


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最終更新:2011年06月13日 00:40