――キキョウシティ

その町には大きな塔がある

キキョウの名物でもあるその塔は、町全体を見渡すように聳え立つと同時、当然のように町にいれば誰もが見上げる建物だ

律もその例外ではなく、その塔を見上げていた

律「しかし、参ったなぁ……明日にならないとジムリーダーが帰ってこないとは……」

彼女の腕の中に抱き上げられたイーブイが律をマネしたかのように溜息をつくる

朝のうちに済ましてしまおうと、ジムへ向かうと

そこで告げられたのはジムリーダーの不在だった

午前のあいだにどうしようかと迷っているうちに、すでに時刻は午後だ

律「しかたない、あの塔でも観光しにいこうか、な、イーブイ?」

イーブイ「ブイッ♪」

言って地面に降ろしたイーブイが機嫌よさそうに鳴いた



???「あらまぁ、イーブイをつれてはるとは珍しいどすなぁ」

目的の三重塔を目前にして、後ろから声がかかった

気付けば、さきほどまで少し後ろのほうを歩いていたイーブイもいない

???「主人以外にはあまり心を許してへんのやろか」

声の主をみた

そこには少し困った顔で頭を撫でられるイーブイと

華やかな着物で身を包み、薄っすら白化粧をしたまいこがいた

律「うおっ!?……誰……どすか…?」

律がおどろおどろしながら、なれない言葉できりだした

???「ふふっ、普通でよろしおす」

上品に微笑んだ舞妓が続け

タマオ「うちはエンジュのほうで舞妓をやっとります、タマオと申します。以後よろしゅうおたのみもうします」

礼の動作すらにもどこか気品が漂っていた

律「えっと、そのまいこさんが何かようですか?」

タマオ「いえいえ、かいらしい子がおりはったのでつい」

ほのぼのとした雰囲気をかもし出すお姉さん系の舞妓が嬉しそうに言った。

タマオ「あらまぁ、もうこんな時間。もう行かんと…!」

「もしエンジュに来はったときは、是非歌舞練場へおいでやす」

そういって、少しおっとり系の美人は町の中へ消えていった。

律「……なんだったんだ……?」

ポカーンとした律とイーブイがその場に取り残されていた



――マダツボミの塔


キキョウの北側にあるそれは、近くで見ると、より壮大さを感じさせた

歴史的建造物というのだろうか。

それには迫力に似た貫禄がある

中に入っても同じだ。

年月を経過した建造物にもかかわらず、形を保ち続けているのは管理者の努力があってこそだろう

律「なんだ、あれ?揺れてる?」

イーブイ「ブイ?」

目に入ったのは建物の中心で揺れ続ける太い柱だ

地震のように小刻みに揺れるわけではなく、ユラリユラリと大きくしっかりと揺れる

『――それはここでは巨大マタツボミの体と言われてましてな』

声は後ろからだ。

振り向くとそこには、坊主がいた

モクネン「ここは修行の場でしてな。一勝負いかがかな?」

モンスターボールを取り出し、坊主には似合わぬ不敵な笑みを浮かべた

律「よっし、やったろじゃんかよ!! いくぜ、イーブイ!!」

ブイ「ブーイ!!」


――マダツボミの塔(2階)


律「ふぅ、ここ一体何人坊主がいるんだよ~。しかもさっきからマダツボミばっかり」

すでにこれまで3人の坊主をごぼう抜きにしてきた律が愚痴る

律「よっし、そろそろ次の階の階段も……ってあれ!!」

言葉通り上への階段はすぐ近くにあった

だが、そこには同時に

律「えーと、名前なんだっけ……あれ、たしか…………そう、シルバーだ!!」

赤毛の少年がいた

律の声に反応した少年がこちらを振り向く

シルバー「お前は……ウツギ研究所の……」

「丁度いい。……勝負だ……」

さっ、と取り出したモンスターボールをこちらに放り投げた

シルバー「行けっ、マグマラシ!」ボンッ

マグマラシ「マグッ!!」

律「なっ、つい先日までヒノアラシだったのが、もう進化してるのか」

それはヒノアラシに比べ、耳が生え、炎の勢いも増している

律「ならっ、行くぞガーディ!!」ボン

ガーディ「ワオーーン!!」

対して、オレンジと白の毛皮を纏う子犬ポケモンがすでに臨戦態勢をとってくりだされる

その喉からは、ガルルと呻るような音が漏れている

シルバー「マグマラシ、先手を取っていけ。でんこうせっか」

しなやかな体が速度に頼った攻撃をしかけ

律「ガーディ、迎え撃て。かみつく!!」

ガーディは待つ形で相手を引き込んだ

だが

――ドン

ガーディは衝突した時の力にこらえきれず、後ろに退けられる

律「くそっ、力では押し負けるか……ならっ」

「火の粉だ!!」

ボウッと炎が散り、マグマラシを襲う


しかし

シルバー「無駄だな……」

避ける様子もなく、その体に浴びた

そして

シルバー「マグマラシ、にらみつけろ!」

攻撃をものともせずに、マグマラシは行動を行った

律「な……!?」

シルバー「残念だが、マグマラシの毛皮は炎を通さない」


No.156 マグマラシ 
からだを おおう けがわは 
ぜったいに もえたりしない。
どんな ほのおこうげきも へいきだ。


律「(くそっ……ガーディじゃ相性が悪いか……)」

「交代だ。戻ってくれガーディ!出番だぞ、ワニノコ!」

引き際を悟った律がガーディをボールに戻し、代わりにワニノコを繰り出した

律「ワニノコ、水鉄砲だ!!」

ワニノコ「ワニワニ!!」

ワニノコの口から、勢いよく水が発射された

そしてその判断は正しかった

弱点となる水の攻撃をもろにうけたマグマラシは、その水圧に怯み押されている

――いける!

そう律が思ったとき

シルバー「っく、レベル差を相性でうめにきたのか……」

そして、と告げる

シルバー「相性など関係なくしてしまえばいい」

マグマラシ「マグ!!」

水圧に負けないようにマグマラシが4つの足で踏ん張り

シルバー「えんまくだ…!」

水鉄砲により炎の勢いがの弱まった体のあちこちから、黒い燻ぶりがまず出た

そして、その色は黒から白へと変化していき

ゆらっと漂いながらも、部屋を満たしていく

そして、辺り一体を覆うと

シルバー「この靄の中だ。水鉄砲は当てられまい。体当たりでそのワニをはじき飛ばしてやれ」

白の煙幕の中、シルバーが見えぬマグマラシに指示をだした

――ドンッ

律の耳にぶつかり合う音だけが聞こえた

しかし、そのぶつかり合う音だけで吹き飛ばされたときにどこかにぶつかったりした音はない

つまり

……まだ耐えているのか

律「ワニノコ、耐えろよ……もう少しだ……」

そこへ追撃をかけるような指示が飛んだ

シルバー「もう一度、ぶちかませ!マグマラシ」

――ドン

2度目の衝突音が響いた

だが、ワニノコがどこかに吹き飛ばされた様子はなく

律「(よっし、だんだん靄がはれてきたな)」

律が待つのはタイミングだ

狙いは一つ

そう

律「――ワニノコ、今までの'いかり'をぶつけてやれ!!」

ワニノコ「ワニッ!!」

はれかかった白の靄の中、うっすらと見え始めたワニノコが右腕に力を込めた

そして

渾身ともいえる力で

ワニノコ「――」

マグマラシ「――!?」

組み合っていたマグマラシを下へと殴りつけた

律「(これで倒せたか……?)」

だが、その考えは甘いものだと知らされる

ボロボロの様子だが、マグマラシは再びその4つ足で床を強く踏んだのだ

シルバー「よしっ、マグマラシ――いや、まて」

指示をだそうとしていたシルバーが一つのことに気付いた

同時に律も同じことに気付く

律「(また靄がかかりはじめた!?)」

またマグマラシの煙幕かと思うが、マグマラシの体からそれは出ていない

なにより、今周りを取り巻こうとしていた靄はずっと黒いままだ

そして今度はマグマラシとワニノコの周りだけではない。

この部屋すべてを黒の靄は覆おうとしていた

気付けば、律とシルバーの周りには濃い黒の靄が漂っていた

シルバー「っく……」

律「これは……ポケモンなのか? ワニノコもう一度いかりだ!!」

それは周りの濃い靄への攻撃だ

だが

ワニ「ワニッ!?」

叩きつけるように殴りつけたワニノコの腕は空をきる

そうしているうちに

円をだんだんと小さくしていく濃い靄は、二人を中心へ中心へと寄せていき

気付けば背中合わせになるぐらいまでになっていた


その時

シルバー「おいっ、さっきのガーディを出せ……」

小声で呟くように律へと話しかけた

律「なっ……」

命令のようにも聞こえるそれを一瞬、反抗するかのように無視してしまおうかと思ったが

今はほかに手が無い

律「しかたない、でろ。ガーディ!」ボンッ

「なにか手があるんだろうなぁ……?」

シルバー「おそらく、これはゴーストポケモンの仕業だ」

「だから、一気に炎の攻撃で切り抜ける……」

シルバーの足元にはマグマラシが、律の足元にはガーディがそれぞれいつでも攻撃

できるように構える

シルバー「いいか……タイミングをあわせろ………1」

律「2……」

律・シルバー「「3!!」」

――かえんぐるま!!

2人が同時に二匹のポケモンへと告げた

それに答えるようにポケモン達は、同時に行動へとうつった

二匹の炎タイプのポケモンが、己で噴出した炎を体に纏い

黒の靄を切るようにあたりを走り回った

あたりを駆け回る炎圧は、靄を吹き飛ばすには充分だった

靄が晴れる

そしてそこにいたのは

律「ゴースの大群だったのか!!」

No.092 ゴース
うすい ガスのような からだで 
どこにでも しのびこむが 
かぜが ふくと ふきとばされる。

浮翌遊するように、今までふらりふらりと浮いていた大量のゴースが、炎にやられ

次々に地へと落ちていく

律「よっし!!」

シルバー「いや、まだだ!」

この熱の中、まだ地へと落ちないゴースが一匹いる

それは先ほど自分達の周りをぐるぐると回っていたやつだ

シルバー「こいつが、ボスだ!! マグマラシ!」

今まで炎を撒き散らしながら走っていたマグマラシが、その一体だけに向かって炎を放つ

炙るように攻撃されたゴースはだんだんと消耗していき

シルバー「いまだっ…!」ヒュン

シルバーが空のモンスターボールをゴースへと投げつけた

そして

地に落ちコロコロと転がり、やがて静かになると

捕まえたばかりのボールを拾い

そのまま背を向けた

律「ちょ、おい待てよ~。おい、ってば」

その言葉に一度だけシルバーが振り向くと

シルバー「群れあう気はない」

その言葉だけをこの階に残し、去っていった

律「なんだよ、あいつ~。少しはいいやつかとおもったのに……!」

「……あーー!! 完全に盗難のこと忘れてた!」




――32番道路

陽が沈んでいく中、シルバーはキキョウシティから逃げるように走っていた

シルバー「くそっ、馴れ合う気などなかった……」

マダツボミの塔で、カチューシャの女と協力をしてあの場を切り抜けた

そのことがシルバーの中に棘を残す

頭にはいつも黒のスーツを身に着け、偉そうにしていた男のことが浮かぶ

シルバー「……俺は絶対にアイツのようにはならない」

まるで自分を言い聞かせるかのような言葉がどうしようもなく沁みるなぜ自分は走っているのかすらもわからない。

ただあの町には居たくなかった。それだけのことだカタカタと腰につけたモンスターボールが震えたマグマラシだ

なにかと思い、そのボールを目の前にもってきた

なにか言いたいのかと、そのすごく心配そうな眼を見た

だが

シルバー「…………くそっ」

なににイライラしているのかすらもわからず、シルバーは走り続ける

そこへ

男「よっ、そこのお急ぎのぼっちゃん。ヤドンのしっぽ買わんかね?」

ふっくらとした体格のいい男が話しかけてきた

どうやら、ここで商売をしているようだ

シルバー「………」

そのこと事態に興味はなかったが、どこかこの男からシルバーの嫌いなやつらと同じ雰囲気があった

だから黙って続きをきくことにした

すると、男がシルバーの耳にこっそりと呟いた

男「今なら卸したてだから、新鮮だよ、ぼっちゃん」

シルバー「……こいつはどこから卸しているんだ?」

男「おっと、ぼっちゃん、それは言えないなぁ」

シルバー「……そうか、ならいい」

そういって男を残し、その場を去ろうとする

もちろん演技だ

男「ちょ、まって、ぼっちゃん……しょうがない」

そういってさらに距離をつめると

男「ここだけの話、ヒワダのロケット団から仕入れてるんだよ……だから、新鮮だよ」

あるキーワードを言った瞬間シルバーの纏う空気が変わった

男「さぁ、一本10万円だけど、 ぼっちゃんなら特別に98000円で売ってあげるよ」

男は何も気付かない

シルバーの手がボールに伸びたことも

そしてその顔が、どこか嬉しそうにも悲しそうにも見える笑みを浮かべたことにすらも




「VS マグマラシ」



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最終更新:2011年06月13日 01:28