アテナ「邪魔はいっちゃったわね。私がやろうか」

ランス「いや、いい。俺がやろう」

律は隠れたまま動けずにいる

入り口にいたのは、何度もかかわってきた少年だ

その少年と目があうが、少年は何も言わずボールを投げた

律「(……シルバー!!)」

そして少年は足元にだしたマグマラシとともに、男達の声のするほうに走る

律の隠れていた場所の前を通り過ぎるが、やはり何も言わず、ただ前へと進んでいく

マグマラシの炎により、よりはっきりと空間が浮かび上がる

そして、シルバーの声がはっきりと告げた

シルバー「……やれ」

律の隠れている場所からはその様子は見えないが、おそらくシルバーが攻撃をしかけたのだろう

律「(なんで……あいつがロケット団を……そういえば、ヒワダのときも……)」

いろいろな情報に頭が整理しきれず、混乱してくる

ただ、時間はそれを整理することさえもまってくれそうにもなく

状況は進んでいく



ランスの機嫌はどんどんと悪くなっていく

己だけで進めていた計画も失敗し、いかりの湖へと収集がかかったと思えば、すぐにこんな下っ端みたいな仕事だ

その上、帰ってきたときには自分の部下達はヒワダで捕まったという報せ

極めつけは目の前のガキだ気に入らない、と唇を噛んでみれば血の味がした

最近はガキの邪魔がよく入る と口の中で呟いた途端にイライラが蘇った

そして目の前にいる赤毛のガキはいきなり攻撃をしかけてきた

ならば、やることは一つだろう

マグマラシから放たれる火の粉を後ろにステップする形で回避し、ボールを手にした

ランス「やれ、ゴルバット」



突っ込んでくるマグマラシをゴルバットの翼が受け止めた

ランス「おい赤毛、ガキだからといって加減などせんぞ」

すると、ランスの横にいたアテナがケラケラと笑った

アテナ「あらら、じゃぁ、カントーで子供に負けたのは加減でもしたからって言うの? 違うんでしょ? あははこれは傑作だわ」

黙って横に並ぶアテナをにらみつける

アテナ「……あー怖いわ。このままここにいたら私が殺されちゃいそう」

そういってアテナはボールからヤミカラスを出し、その足に捕まり

二階の焼けてしまい壁がなくなったところから、外へと飛び立った

ランス「チッ……」

その様子を気に入らないとでもいうようにランスが舌打ちをした

目の前にはすでにシルバーがいる

シルバー「……かえんぐるまだ」

ゴルバットと押し合いを続けていたマグマラシの体を炎が逆巻いた

その様を見たランスが、ゴルバットへと声を飛ばす

ランス「かみつけ……!」

ゴルバットの大きく開いた口の中の牙が、マグマラシを映し出した

そして

炎を気にもとめずに、その牙で噛み付いた

ランスは顔色一つかえることもない。

ゴルバットのアゴがやける音がするが、そんなものはかまわないと思う

所詮はガキ一人にも勝てないポケモンだ

ランス「そんなことで怯むんじゃない……距離を取ってエアカッターだ」

自らのダメージを気にとめるゴルバットへ鬼のような言葉をかけ、さらに攻撃をしかけさせた

シルバー「スピードスターで応戦しろ」

マグマラシが星型の光りを放ったが、ゴルバットの翼から出た風の凶器がその光線を食い破る

ランス「……雑魚がっ! エアスラッシュ」

シルバー「…!?」

追撃をかけるように、風による追撃がマグマラシを襲った

そしてそのままマグマラシが地面に伏す

ランス「レベル差を考えろよガキが。だが、ここで終わりじゃない。二度と邪魔などしようとおもわないようにしてやるぞ」

そこからは酷かった

シルバーの出すポケモンを次々とゴルバットだけで突破していく

シルバーの足元には、すでにHPがないコイルとズバットが倒れていた



レベル差が違いすぎる

シルバーの感じたものはそれだ

場数、戦闘経験、技の精度、どれをとっても向こうのほうが上だ

だが、引くわけには行かなかった

引けない理由があった

潰したいと思う組織があった

だが、その組織は自分が潰す前に、少し年上のまだ少年といってもいいトレーナーに潰されてしまった

モヤモヤした気持ちを持ちながらも、時はすぎ

それはそれでよかったのかも知れない と思い始めたころだ。

再びその組織が活動を始めたという話が耳に入った


もう一度、決意を固めるのに時間は必要なかった

だが、そのためには力が必要だった

あるとき、ワカバの研究所には戦闘用の3匹のポケモンがいると聞いた

だから、盗みをしてでもそのポケモンを手に入れた

全ては目的のためだと割り切った

ポケモンに愛着などは無かった

ただ、それを利用するのが一番都合がよかった

気付けば、盗んだポケモンは自分になつくようになっていた

だが、それに答えることもしなかった

必要ないからだ。そんなものは邪魔になると考えたからだ

甘さとは弱さだ。そんなものはいらない

だが、強さが足りない。勝てない。

このままでは一番負けたくないと思っていたヤツらに負けてしまう

だから、最後のモンスターであるゴーストを出してまでまだ闘おうと思っていた

シルバー「……」

ゴーストのボールに手を伸ばす

だが

――カタリッ

ボールが地面を叩く音がした

手に握ったはずだと思ったボールはそのまま、重力に負け落ちたのだ

ランス「なんだ、もう終わりか。やはりガキはガキだな。」

言い返せ

はっきりとまだ終わっていないことを告げてやれ と脳が命令を送るが口が動かない。

それどころかひざから力が抜けていくトンと地面にひざがついた

ランス「まさかこのまま逃がしてもらえる、なんて思ってないよな。………じゃぁな、さっさと死ね」

そしてランスの腕に止まったゴルバットの羽がキラリと光った

そして手を振り上げ、シルバーめがけて振り下ろす

それはまるで刃物のように空を滑る

だが

――

それを止める動きがあった

気付けば、シルバーとゴルバットの間にはアリゲイツが入り込み、その翼を冷気を

放つ拳で受け止めていた



律「……なんなんだよ……あいつ……レベル差がありすぎる……」

シルバーの戦いを陰で見ていた律の感想はそれだ

あっという間に3体のポケモンを倒してしまったロケット団の男は、シルバーにしだいに近づいていっている

律「(おい…逃げろよ……おい、まて……いいから逃げろよ……なんで立ち尽くしてるんだよ)」

今にもランスは次の指示をだそうとしている

だが、シルバーは動かない

律「(助けるか……!! いや、でもあの強さに私は対抗できるのか? 無駄になるんじゃないのか)」

ランスが手を振り上げた

律「(いや、そうじゃない!! 行くんだ……それでも行くんだ)」

そしてアリゲイツのボールを見た

律「大丈夫、やれる」

言い聞かせたのはアリゲイツにだろうか、それとも……

律「いけ、アリゲイツ!!」

物陰から飛び出し、シルバーとロケット団の間に滑り込ませるようにボールを放った



ランス「ほう……また邪魔が入ったか」

ボールが飛んできた方向をみれば、トレーナーがいる

カチューシャを頭につけた少女だ

ランスを痛いほど睨んでいる

そして

律「アリゲイツ、冷凍パンチだ!!」

ゴルバットの片翼が力任せに殴りつけられ、凍り始める

ランス「またガキの邪魔か……しかも今度は女だと!」

邪魔が入ったことにより、ランスがシルバーから離れまた後ろにステップした

逆に律は距離をつめていく

シルバーのところへ駆け寄るためだ

律「おい、立つんだよ。……立てってば!!」

シルバーの肩をつかみ、強引に立ち上がらせる

律「私が止めてるうちにさっさと逃げろ!! いいな?」

シルバー「……お前は……」

律「マダツボミの塔とヤドンのイドの借りを今ここで返す。だからはやくボールにポケモンたちを収めて逃げろ」


だが

ランス「しゃべっている暇などあると思うなよ!!」

「ゴルバット、翼で打て」

律「っ!! もう氷が治ったのか……アリゲイツ、もう一度凍らせてやれ!」

ランス「そんな攻撃、2度もくらうかっ!!」

翼がアリゲイツの拳の下を通り、アリゲイツの腹の部分を強く打った

――バタン

律「一撃っ!? 戻れ、アリゲイツ」

「いけ、ガーディ!!」ボンッ

ランス「邪魔なんだよ!! ゴルバット、どくどくの牙だ」

律「ガーディ、かえんぐるま!!」

だが、さきほどのシルバーのマグマラシと同じ結末を辿る

炎を纏うガーディの体にかまわずゴルバットが牙を立てた

その身を炎で焼いているが、かまわず牙を刺しこんだ

律「戻れガーディ!!」

ランス「なんだ、もう終わりか……おっと、さすがにこいつも限界か」

ゴルバットがやけどのダメージで苦しそうにしていた

ランス「こいつが倒れようが別にかまわんのだが、飛べなくなるのは困るのでな。戻れ、ゴルバット」

律「(くそ、このままじゃ、どうにもならない……)」

そのとき、横にいたシルバーがボソっと呟いた

シルバー「おい………聞け。必ず俺が道を開けてやる………だから、あそこに転がるボールを俺の手に」

指差したのは、さきほどシルバーが最後に出そうとしたモンスターボールだ


そして

シルバー「頼む……」

それに答える形で律はコクっと静かにうなずいた

ランス「なんだ?二人して死ぬ覚悟でも決まったか? なら今すぐに死ね」

「いけ、マタドガス!!」

律「いけ、イーブイ!!」

ランス「マタドガス、ヘドロ爆弾だ!!」

律「イーブイ、走れ。目標は分かるな」

その言葉に、イーブイが地をかけた

イーブイがマタドガスから飛ばされるヘドロ爆弾をかわしながら、走る

目指すべき場所は、転がっているモンスターボールだ

残り3m……2m………1m……

そして、その場所へとたどり着く

と同時、後ろ足でイーブイがモンスターボールを律のほうへと蹴った

しかし、それが隙となり

ランス「そこだ、ヘドロ爆弾!!」

イーブイの体を直撃した

律「イーブイッ!!」

シルバー「………がとう……」

シルバーが足元に転がったボールを拾いながら小声でなにかいったようだが聞き取れない

だが、言葉は続く

シルバー「イーブイを戻せ!!」

律「戻れ、イーブイ!!」 シルバー「いけ、ゴースト!!」

代わりにでてきたのはゴーストだ


No.093 ゴースト
ほんとうに なにも みえない 
くらやみで ゴーストは しずかに 
えものを ねらっているのだ。


律「こいつは………あのときのゴースの進化系か!!」

それはマダツボミの塔でのことだ

あのときも協力してなんとかその場をきりぬけたが

そのとき、ランスの様子が一変した

ランス「ポケモン図鑑だと……!……くっくっく……はははは!! そうか、こいつもポケモン図鑑を持つトレーナーか!!」

ランスの視線は律を捉えている

ランス「お前には直接恨みはないが、あの唯とか言う女と繋がってる可能性があるからな。
あの女には返しても返しきれない借りがある。ここいらで、利子分でも返済しておこうか……」

「お前になー!!」

「マタドガス、あの女に大文字だ!!」

律「なっ……!?」

シルバー「お前の相手はこっちだ。ゴースト、ふいうち!!」

ゴーストの姿は闇に溶け、マタドガスの後ろをとっていた

そしてそのままマタドガスの攻撃方向をずらすように、その風船状の体を殴りつける

マタドガスから放たれた大文字は明後日の方向へ飛んでいき、建物の側面を焼いた

ランス「こざかしいわ!! まずはそいつを片付けろ!!大文字」

シルバー「っく、パワー不足だったか。戻れゴースト」

マタドガスの炎に晒される直前、シルバーがボールにゴーストを戻した

ランス「あぁん?」

ランスがシルバーを睨みつける

ランス「どういうつもりだ?」

シルバー「……こういうつもりだ!!うけとれ!!」

律「へっ?」

シルバーが戻したばかりのゴーストの入ったボールを律へと放りなげた

そのボールを慌てながらも右手でキャッチし

シルバー「そのまま、ボールを投げろ」

言われたとおりに律が、ボールを投げた

そこからは再びゴーストがでてくる。

そう思っていた

だが、そのボールの開く音がしたとき、

その位置にはなにもなかった

律「…………え?」

ランス「……くっく……ははははは、とうとう諦めたのか!! だが、もう泣こうが喚こうが許されることはないぞ」

シルバー「許してもらおうなんてはじめからおもっていないさ……」ニヤリッ

ランス「もういい、さっさと死ね。大文字!!」

今度はシルバーめがけて炎が発射されようとしたとき

マタドガスが真上に吹き飛んだ

律「あれは……!!」


No.094 ゲンガー
よなか ひとの かげに もぐりこみ 
すこしずつ たいおんを うばう。
ねらわれると さむけが とまらない。


そこにあったのは寸胴の黒い影

律「マタドガスの影の中に忍んでいたのか!!」

ランス「これくらいでは倒れんわ!! マタドガス、だめおしだ!!」

ランスの怒声が、マタドガスへと飛ばされるが

マタドガスが指示にしたがうことは無い

シルバー「【のろい】であんたのポケモンはもう瀕死寸前だ。もうろくに行動もできない」

「……これで終わりだな」

だが

ランスは不敵に笑う

ランス「甘すぎる……HPがなくなったわけではないのだろう? なら、終わるのはお前らだ」

「――大爆発!!」

律「!!」 シルバー「!?」

やけた塔内をまばゆい光りが包み込んだ

爆風が来る

――ガラッ

そのとき、律の体が空を踏んだ

律「うわああああ」


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最終更新:2011年06月13日 02:42