やけた塔の2階から飛び出した影がある

ランスだ

ゴルバットに捕まり、空中をぶらりと飛遊する

ランス「ふんっ……あれではもう無理だろう……」

マタドガスの大爆発はたしかにあの場にいたガキ二人をしとめたはずだと思う

ランス「邪魔は入るが、目的のものはいない……」

「とんだ茶番だな」

そして顔の前にポケギアをもって行き

ランス「こちら、ランスだ。伝説の3獣は確認できず。またホウオウの現れる気配もなしだ」

『ご苦労。もう一度いかりの湖へ戻ってきてくれ。いよいよ実験は成功だ」

ランス「了解」



――やけた塔 B1

体が動かない

律は必死にもがこうと、頭だけでも働かせようとするが、それもあまり意味をなさない

あの大爆発には直撃はしなかった

それには理由がある

ただ、自分とシルバーの立っていた位置。

そこの地面が抜けたのだ

律「(なんとか、助かったけど……ここに地下なんてあったのか……)」

そして、律は見る

自分と同じように倒れてうごかないシルバーの背中を

律「(気を失っているのか……)」

「(くそ、なんだ……私も意識が……)」

途切れる寸前、律の眼前に水色4つ足があらわれた

シルバーの前にはオレンジ色の4つ足と黄色の4つ足がある

律「(なんだ……まさかこんなときに野生のポケモンか……)」

ぼんやりと薄れていく意識の中、その水色の体を視界にいれ

???「――」

美しい鳴き声を聞いた



――コガネシティ

リニア乗り場の前に、うーんと伸びをする少女がいた

どうやら、リニアに乗ってきたため少しくたびれた様子だ

???「わぁ、ここがジョウトだね!!」

「大きいなぁー」

少女が大きなビルを見上げては、感嘆の声をあげる

???「タマムシシティとかヤマブキシティみたいだね」

そういったとき、少女のポケットが振動した

少女はポケットに手を突っ込み、おもむろにモンスターボールを眼前にもってきた

???「えー、うんうん、この景色がみたいの? もうしょうがないなぁ」

しょうがないと言ったわりにはやけに楽しそうだ

???「いくよ、出ておいで」

「――リュー太!!」





「VSゲンガー」〆




――???


これはなんだ?

律にまずでてきた疑問はそれだった

目に映るのは、緑とオレンジ色の生えた木々

懐かしい森の風景だ

そうして気付いたのは

律「(これは………夢か……)」

気付いた瞬間に意識が途切れた


そうして繋がれた意識が、また次の夢に移ったことを自覚するのに時間はかからなかった

なぜなら、そこにはかつての自分の記憶と一致する光景があったからだ

トキワの森、まだ小さかった自分、隣には今にも泣き出しそうな澪、夕方の橙色の

空気、そして……

律「大丈夫だよ、澪ちゃん」

そうだ、あの時はまだ澪のことをちゃん付けで呼んでいたんだっけ

俯瞰して自分を見るのは変な感じがする

澪「……でも、もう暗くなって……」

律「それでも大丈夫」

なんの根拠もなかったはずだ。それでも澪の手を握り締めずにはいれなかった

そしてこのあとはたしか……

律「げっ……」

澪「あっ……」

幼い自分達の前に大きな蜂がいた

律「逃げよう、澪ちゃん……」

澪「……うん」

でも、小さな体に残っていた体力なんて知れたもので

手を引いて、一生懸命に走ったけどおいつかれて

律「こうなったら、いっけガーディ」

ガーディ「がう」

全然バトルなんてしたこともないのに、精一杯強がって

――

そのとき、風景にゆがみが現れた

……あれ、このあとどうなったんだっけ?

そして律の意識が反転した



――エンジュシティ(ポケモンセンター)


律「………ん」

知らず出した声に、意識がはっきりとしてくる

目覚めと自覚したのはそれからだ。

そして

律「あれ? たしか、焼けた塔で……」

「そうだっ……! シルバーは……」

現状に思考が追いついた時、声がきた

???「目覚めたようだね……」

そこには、バンダナを巻いた青年が腕を組みながら立っていた

マツバ「オレの名前はマツバ。この町でジムリーダーをやっている。目覚めて早々悪いんだが、君に聞きたいことがある」

律「ちょっ、ちょっと待って。私は……私はどうしてここに」

マツバ「……まずはそっちから話したほうが事は早そうだな」

律「……」

マツバ「オレの友人があるポケモンを探していてね。それの手がかりを得るためあの焼けた塔に通っていたんだが、
昨日あそこに行ってみると、床に大きな穴があいてるじゃないか。そしてその穴の中には……」

律「私が倒れていたってわけか……」

マツバ「? ……いや、君はその穴の横で寝かされていたみたいだが」

律「え?」

マツバ「オレが君をみつけたのは、その穴の横。あの地下にあったフロアじゃない」

どういうことだ、と律は思う

そして

律「そうだ……私と一緒にもう一人赤毛の男が倒れていなかった?」

マツバ「いや、オレが見つけたときには君だけだったな……」

ん?と首を傾げながら疑問の顔をつくる律にマツバが続けた

マツバ「だいたい君がここにいたるまでの状況は分かってもらえただろうか? なら、今度はこっちの質問に答えてほしい」

律「あぁ……」

マツバ「まず一つ、あの建物を破壊したのは君か? 二つ目、あそこでなにがあった?」

深刻そうな顔をマツバがつくった

律「一つ目の答えだけど、半分正解って感じかもしれない」

はっきりしない答えにマツバが困ったような顔をつくるが、律がそのまま無視し続けた

律「私は……いや、もう一人一緒にいたんだけど、私とそいつはあそこでロケット団と戦った……」

マツバ「……!!」

律「あの地面の穴はロケット団が大爆発の技を使ったときに地面が抜けた。そこに

落ちて私ともう一人は気を失ったんだが……」

律が話している間、マツバは律の様子をうかがうように凝視していた

マツバ「……うん、嘘はいってないみたいだね」

律「……わかるのか?」

マツバ「あぁ、オレには少し変わった力があってね。それに……」

律「それに?」

マツバ「人が嘘をついているかどうかぐらいは、わかるつもりだ」

その言葉を聴き律は、あぁ悪い人間ではないな と思う

マツバ「それにしても、ロケット団か……」

「またやっかいな組織が絡んできたもんだね……また彼らは最近頻繁に目撃されるようになってね」

律「………」

そしてマツバがポツポツと話をはじめた

マツバ「君は知っているだろうか? あの塔とスズの塔にまつわる伝説を?」

黙ってマツバの話を待つ

マツバ「まずあのスズの塔だけど、あそこにはこのジョウトの伝説の鳥ポケモンが存在していて、
今はいないんだけど時が来れば舞い降りると言われているんだ」

「そして対になるカネの塔には……」

その時、律が寝かされていた部屋にノックの音が響いた

マツバ「……ちょうどいい」

そしてマツバがドアに近づき、その人物を招きいれた

そこにいたのはマツバと同じくらいの年齢の男だ

???「やぁ、レディ。お目覚めはどうだろうか? さっそく君には一つ聞きたいことがあるのだが」

やたらテンションの高いマントを羽織った青年が律に尋ねてくる

律「えっ?だれ」

ミナキ「おっと紹介が遅れたね。私はミナキだ。あるポケモンを追っていてね。レディの名前をきてもいいだろうか」

律がマツバの顔を見た

マツバ「あぁ、さっき話した友人だ」

そして

律「律……」

律がうさんくさいものをみるような目でミナキを見、マツバがやれやれといった表情をした

ミナキの動作がいちいち白々しいからだ

ミナキ「そうか、律。君はあの塔でスイクンをみなかっただろうか?」

律「スイクン?」

そこへ、マツバが割って入ってきた

マツバ「さっきカネの塔にも伝説があるといったね?あの塔にもかつて伝説の鳥ポケモンがいたといわれているんだ。
しかしあのとおり焼けてしまってから鳥ポケモンは姿を消したという伝説がある。」

ミナキ「そう、あの塔は焼けてしまった。そしてその焼けた時、犠牲になった名もない3匹のポケモンがいてね。
でもその3匹は空の神様の目に止まり、命を与えたんだ」

律「(あぁ、なんでこの人の動作、こんな演劇みたいな動作なんだろう)」

そんな律の目も気にせず、ミナキは続ける

ミナキ「その中の一匹がスイクンさ!! あの透き通るような水色の体色。水の上を走る颯爽とした姿」

そううっとりと自分の世界に入り込んだミナキを傍に、律は今の特徴をどこかでみたような……と思い出す

そして

律「あっ!! あの時の!!」

ミナキ「!! やはりみたのかね!!」

律「……あぁ、私が倒れる寸前、あの地下のフロアで……でも赤いのと黄色いのもいたぞ」

マツバ「……!! やはり、あそこに3匹が帰ってきていたのか!!」

驚いたような声をだしたのはミナキではなく、マツバだった

マツバ「そうか……つまり近々……」

マツバがブツブツ呟きながら一人自分の世界に浸っていく

ミナキ「それでスイクンの行方は……?」

律「いや、さっきも言ったけど意識が飛ぶ直前にぼんやりと見ただけだから……」

ミナキ「……そうか、それでも私は諦めないぞー!! 私は今すぐにでもあのスイクンを追おうではないか」

マツバ「いや、待て」

考え事をしていたマツバが、部屋を飛び出していこうとするミナキをとめた

そして、律のほうを向くと

マツバ「最後の質問だ。この羽をどこで?」

マツバが“これ”とさしたものは、その手の中にあった羽だ

見たところ鳥の羽のようだが、その色はまばゆい銀の色を放っている

律「……? 私はそんなものもっていなかったぞ」

マツバ「んっ? これは君が倒れている時に、その手に握り締めてたものなんだが……」

律「へっ?」

何のことかわからない といった風な律に対して、マツバはゆっくりと息を吐き

マツバ「これはおそらく……空の神様と呼ばれるスズの塔に対になる海の神様の羽だ」

「そしてさっき、カネの塔が燃えた時に飛び立った鳥ポケモンの伝説があるといったね?」

律「あ、あぁ……」

マツバ「それがオレはこの海の神様だと考えている。スズの塔とついになったカネ

の塔。空の神様と対になる海の神様。
どうだい?なかなかできたものだと思わないかい?」

「つまり、君がこれをカネの塔で拾ったというのなら、その線も濃くなると、思ったんだが……」

律「そう……なのか……でも私は本当にその羽を手に入れた記憶がない」

マツバ「そうか………」

ミナキ「もしかしたら、スイクンが君へと託したものだとは考えられないかね?」

冗談じみた口調でミナキが言った

マツバ「!!」

ミナキ「はは、冗談だよ!!」

マツバ「いや、それもありえるかもしれない。元々はカネの塔にいた3聖獣だ。ルギアがここにいたというのなら、それを持っていてもおかしくはない。そしてそれがもし真実であるのなら……」

「スイクンはなにかを伝えたかったのかもしれない」

律「……でも、なんでわたしなんか………」

さきほどからチラチラと脳裏によぎるのは負けた記憶ばかりだ。

こうやって話している間もその記憶はどこか虚ろな気分へと引き摺り下ろす

へんな夢を見ていたことも関係しているのだろう。

あの敗北が頭から焼きついて離れない。

だからこそ、なぜ私にそんなものを と思う。

もっと託すのにいいトレーナーがいたのではないのか? なにか伝えるべきなのは

もっと別のトレーナなのではないか?

そんなネガティブな考えばかりが浮かぶ。

律「(私らしくないなぁ……)」

マツバ「………」

マツバの視線はずっと律をとらえていたが、そのとき

ミナキ「まぁ、仮定ばかりの話だからね。それにスイクンは私というトレーナーを

まだ知らなかっただけだ。
私のことを知ればきっと次は私を選ぶだろうさ」

またしてもミナキが茶化すような口調で言った

マツバ「まぁ……なんにせよ。これは君が持つべきだな……」

律「え?」

そういってマツバは律の手に、銀色の羽を握らせた

律「これは私が持つより、マツバさんがもったほうが……」

マツバ「いいや、きっとこれはなにか意味があるんだろう」

それだけを言うと、ミナキの襟を掴み背を向けた

マツバ「それと君はジムを巡っているようだね。ジムバッチを見せてもらったよ。
当然オレの元にも挑戦にくるのだろうが……」

律「?」

マツバ「迷いが晴れてから来るがいいさ。今の君と戦っても全力で戦えそうにないしね」

ミナキ「おい、マツバ、引っ張るな。ちょ、おい、歩けるから引っ張るな。おいきいてるのか……」

そして扉の外へと二人の姿が消えた

残されたのは、知らず間にはいた溜息と手のなかに握らされた羽の重みだった


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最終更新:2011年06月13日 02:50