ミナキ「おい、マツバ。あのレディに何をみたんだ?」

マツバ「なにがだ?」

ミナキ「言っていたじゃないか。きっと意味があるんだろう って」

マツバ「あぁ、羽の話か」

ミナキ「千里眼で未来視したんだろ? オレにぐらいその成りえるかも知れない未来ってやつを教えてくれてもいいんじゃないのか」

マツバ「未来視なんてできるわけないだろう?あんなのが意図的にできるのはもっと修行を積んでからだよ」

ミナキ「なら、なぜあんなことを? あの子がいろいろ背負ってしまって潰されてしまわなければいいが」

マツバ「はは、感かな。なんとなくあの子があれを持っているべきだと思ったんだよ。それに――」

ミナキ「?」

マツバ「潰されないよきっとあの子は」

ミナキ「それも感かね?」

そしてマツバがコクリと頷いた

ミナキ「ははは、お前が感に頼るとはね。これは面白い」

マツバ「まぁ、お前は笑っていられないぞ」

ミナキ「は?」

マツバ「なにせ彼女はお前の愛してやまないスイクンに、お前より一歩近い位置にいるわけだ」

ミナキ「!!」

マツバ「……オレの夢が叶う鍵も、お前のスイクンへの道も彼女が鍵になりそうだなぁ」

そして背後に聳え立った2つの塔を見比べた

マツバ「まぁ……それも」

マツバ「感だけど」 ミナキ「感だろ?」

声が重なり、二人は顔を見合わせた

そして町には二人の青年の笑い声が響いた。



――コガネシティ

???「ふふふ、買っちゃったね」

そういったのは傍らにハクリューをつれた女の子だ

そしてその手にもつのは、おそらく今、背後にたったコガネデパートで買ったのであろう新品のポケギアだ

???「えっと、これをここにつけて……っと」

「どう、リュー太、似合う?」

ハクリュー「りゅーー!!」

???「えっへん」

ハクリューの反応に満足した少女が、胸を張った

???「昨日は疲れちゃったから、そのままこの町に滞在しちゃったけど、今度こそは進まないとね」

「えっと、ジョウトで強いジムの3つは……っとたしかアサギ、チョウジ、フスベだからとりあえず北だね」

買ったばかりのポケギアのマップ機能で場所を確認して

???「さーて、進むよー!!いくよー、リュー太………っと行かないといけないんだけど……」

少女がフラフラととある看板に近づいていく

???「ポケモン美容室だってー、えっと地下通路か~」

「あ、あっちに地下通路への入り口が~~」

そして少女は地下通路のほうへと走っていき、ハクリューがその後を追った



「VS スイクン」 〆



――エンジュシティ


ジムの扉の前に少女がいる。

律だ

律がこのジムにきたのは今日で3回目になる

一度目はあの焼けた塔での一件の前。

2度目は昨日だ

目覚めた後、すぐにでもジムに行ってバッチを取ってやると意気込んだものの、ジムの前に来て急に尻込みしてしまった

先日マツバに迷いが晴れたら来い と言われたことが律の心に棘を残していた

自分でもなにかに引っかかっているが、その引っかかっている部分、なにに迷っているのかがわからないのだ

そして、そんなこんなで今日になり、また扉の前で固まっている

律「……はぁ……」

今日で何度目かになる溜息をつき、また出直すことにした

「こんなところでなにしてはるんどすか?」

言葉と同時に肩にポンと手が乗った

タマオ「キキョウで会ったお嬢さん」

振り返るとそこには、以前会った舞妓さんがいた

タマオ「マツバさんへのジム戦にきはったん?」

律「いや、その……」

居心地の悪さに少しつまった言葉になってしまい

律「……勝負っていう気分じゃないっていうか……あぁ、もう私はなにがしたいんだああ」

タマオ「なにかお悩みでも?」

その言葉に律がコクリと頷くと、タマオが腕をポンと叩いた

タマオ「……そや!それなら気分転換に自然公園にいってみたらどうやろか? 今日はたしかむしとり大会の日どすから」

タマオが着物の懐に腕をいれ、一枚のビラを取り出し律に手渡した

タマオ「まぁ、気が向きはったら行くといいどす」

そしてニコっと笑うと、そのまま律を通り過ぎ、律が開くことのできなかったジムの扉を開き中へと入っていった

律「むしとり大会か……」

ビラを眺め、それもいいかも知れないと考える

……なんにせよこのもやもや感が晴れればいいや


――自然公園(東口ゲート)

律「へぇ、結構参加者っているんだなぁ……」

あたりを見渡すと、老若男女様々だ

そんなことを思っていると、数人並んでいた受付があいた

律「っと、受付はここですか?」

係員「はい。こちらに、登録ポケモンとお名前をお書きください」

律「登録ポケモン?」

係員「こちらのイベントははじめてでしょうか? この大会ではムシポケモンを捕まえるために使えるポケモンは一体となっております。
なので、ここにその使用するポケモンをお書きください」

律「あ、はい」

律が係員に渡された紙に必要事項を記入すると

係員「はい、承りました。こちらがコンペボールになります。それでは開始のアナウンスまでおまちください。
なおアナウンスは自然公園内とこの受付の東ゲート、南ゲートだけになりますのでお気をつけください」


――自然公園

律「さてと、ムシポケモンかぁ……あんまりいい思い出はないんだけどなぁ」

ガーディ「がう」

律の言葉にガーディが喉を鳴らしながら答えた

とくにとあるむしポケモンとは腐れ縁といっていいほど係ってきた

おもにこちらが襲われ、それを追い払うといった形なのだが

律「っと、ここの公園の草むらって結構深いんだよなぁ……」

律の目の前には律の全身すらも隠してしまえそうな草むらがある。

それほど草の密度が高いというわけでもないが、視界を遮るのには充分すぎるぐらいだ

律「さてと、それじゃぁさっそく行ってみますか~」

そして一人と一匹が緑の中へと消えていった




時々、草むらに虫取り網がささっているのは、そこに他のトレーナーがいるのだろう

あちこちの草むらからガサゴソという音が聞こえるが、どうも人が出した音らしい

しかし、そのときブンッと言う音が聞こえた

律「うしろからか……!! ガーディ、ダッシュでこの草むらから抜けるぞ」

ガーディ「ガウ!!」

ガサガサという草を薙ぐ音が耳に障るが、気にしてなどいられない

前傾体勢だった姿勢をさらに倒し、草むらを抜けた

高さはあってもあまり広さはない草むらなので、すぐに終わりが来る

そして、草むらを抜けた瞬間クルりと反転した

律「ははは、ほんと腐れ縁だよ。お前は」

そこにはよく見慣れた姿

先日夢でも見た姿だ

スピアーだ。だが、群れではなく一匹。

珍しいなと思うと同時に

律はこいつに何度襲われたのだろう……と内心思う

そして

律「お前を倒して調子を取り戻させてもらうぞ」

「先手だ。ガーディ!! ひのこ」

<<どくどくの牙>>

そのとき、律の脳内で嫌な記憶がよみがえる

律「なんだよ……私はもしかしてビビっているのか……」

耳にまとわりついて離れないよみがえる声は先日のものだ

そして脳に焼き付いて離れない光景すらも。

律「……トレーナー相手でもない野生ポケモン相手でもダメなのか……」

己の震えた手を見て、思いが言葉になった

だがそんな律の思いとは別にして、技は繰り出される

ガーディの口から出た赤の粉がフワリと宙をまい、スピアーに絡まるようにまとわりついた

チリッっという音がかすかだが、律の耳に届く

しかし、次の瞬間。スピアーが消えた

本当に消えたわけではない

律が目で追えなかっただけだ。

炎の攻撃に宙でもがき始めるだろうと思われたスピアーは、一瞬で距離をつめていた

そう、ガーディの真上にだ

律「……なっ……!? ガーディ、下がれ」

その指示に朱い体が後ろに思い切り飛び退く

だが、スピアーは焦ることなくその上の空にピタリと張り付いたままだ

律「ガーディ、吼えろ!!」

ガーディが真上を向き、大きく喉を鳴らし、声を張り上げるが

そこにスピアーの姿はない

気付けばそのスピアーはガーディの目の前

喉元へと針を向けたまま、止めていた

まるでそれは降伏を忠告する騎士のように

それは野生のスピアーにはあるまじき行動なのだが、律はそんなことに気付ける状態ではなかった

律「なんだよ、このスピアー……こんなに強い野生のポケモンがいるのかよ」

「それとも……」

脳がその言葉を言うな とストップをかける

やめろ、認めたくないと

だが

律「私がそんなに弱いのかよ……」

自信はあった

律「(今まで4つのジムを勝ってきたんだろ……? それでも私はこんなに弱いのか……)」

どうしてだろう。以前はこんなに怖くなどなかったのに

いつからだろうと自分に問えば、それはあの敗北からだ

律「……っ、戻れ……あっ!!」カタッ

ボールはガーディを収めることなく、地に落ちた

見れば手がさきほどより震えていた

そして、しびれをきらしたスピアーがガーディを制した逆のほうの腕を振りかぶった

それは誰の目にも見て明らか

とどめだ

律「(やめろ……やめろって……やめろやめろ……もう)」

「やめてくれ」

その叫びと同時にようやく自分がなにが怖いのか理解した

律「(そうか……こいつらが……私についてきてくれたポケモンたちが傷つくのが怖いんだ。私の力不足のせいで負けるのが怖いんだ)」

気付いたと同時

「すとーーっぷ!!ビー太!!」

前方、先ほど自分達が抜けてきた草むらから聞きなれた声が聞こえてきた

うつむいた顔を上げるとそこには懐かしい顔があった

律「……ゆ……い?」



唯「りっちゃあああああん!!」

駆け寄ってきたと思えば、すぐに抱きつかれた

律「うおっと……唯?なんでここに?」

唯「いやー、それがいろいろありましてねー」

「あ、っと、ごめんね。このこ私のポケモンなんだ」

そういって指差すのはさきほどのスピアーだ

そのスピアーは唯の肩の辺りに羽音を鳴らしながら浮いている

唯「さっき、バタフリーを捕まえようとしたんだけど、ボールをもたついているうちに超音波をくらっちゃって
……それで混乱してビー太がそのままどこかにいっちゃうし……」

「えっと、大丈夫だった……よね?」

唯が不安げにこちらに尋ねてくるので、こちらとしてもその言葉にあぁ、と返すしかなかった

唯「そっか。よかった。でも、ジョウトっておもしろいねー。昨日も美容院にいって……」

律「ちょっと待った。唯。その前になんでこっちにいるか なんだけど?」

唯の思い出話も少し話も長くなりそうだったので、

唯「うーん、それじゃぁ、あそこのベンチに座って話そう?」

その言葉にも軽くうなずき、同意をすると

唯「ほら、いこう!!」

唯が律の手を引いてベンチへと向かった



『実はね、私まけちゃったんだ……』

唯の口から出たのはトキワのジムでの敗北のこと、そしてジョウトでもバッチを3つ集めなければならないということだった

律「……そっか」

唯「うん、まったく敵わなかったよ。さすが、りっちゃんたちの町だよ」

律「はっは、すごいだろ!! って、なんでやねん」

唯「あー、りっちゃん、コガネ弁だね!!」

唯がおおっーっと声を上げた

律「まぁ、うちの町は最強のジムリーダーで有名だったからなぁ~」

律「あれそういえば…? ということは唯はもうバッチ7個はもってるのか」

唯「うん、そだよ。 あ、りっちゃんは今いくつー?」」

律「私はまだ4つだ……」

唯「おおー、順調だねっ。」

その唯の言葉が胸に刺さった

順調なものか

律「でもさ……私はもう駄目かもしれない。……唯と澪との約束もさ……」

唯「……どうしたのりっちゃん?」

すると律は一呼吸入れ

律「なぁ、唯。唯はさ、ロケット団と闘ったんだろ?」

唯「!!……なんでりっちゃん知ってるの?」

律「はは……やっぱり唯だったのか。あの男が言ってたのは」

唯「……まさか、りっちゃんも闘ったの?」

律「あぁ………でも結果は惨敗だったよ。ヒーローごっこの果てがコレだよ」

「なぁ、唯?唯は怖くなかったのか。私は今でも思い出すと手が震えるんだ……」

唯ねぇ、「りっちゃん……」

「私も怖かったよ……でもさ、私が旅にでた理由はポケモンバトルにもトレーナーにも憧れたっていうのもあるけどさ、始めに憧れたのはりっちゃんだったんだよ」

律「――」

唯「だって、りっちゃんは私達のヒーローだったんだよ。
澪ちゃんや私がポケモンに襲われたときもりっちゃんとガーディがすっとんできてさ、守ってくれるんだ。
それでありがとうって言ったら、りっちゃんは照れながら笑うんだ。」


それは幼い頃の記憶

……そうだ、そこにはじまりがあったんだ。自分も。

……あの時、シルバーを助けたのも間違いじゃない。だってあいつはありがとうって言ってたから

……いつだって、その言葉が嬉しかったんだ

唯「だから、わたしも誰かを守れるようになりたいなぁ ってきっと思ってたんだよ。だから怖くても、それでもここまでこれたんだ」

「だからこれだけは知っててほしいなぁ。」

「――始まりはりっちゃんだったことを。ね?」

律「………ははははは、あはははは」

唯「りっちゃん?」

唯が首を傾げるが、律は笑い続ける

律「唯には敵わないな。ほんとに。そこまで言われたらもう一回立ち上がろうって気になっちゃうじゃないか」

「まだ自分は強くなれる。まだもっと大きなものを守れるようになるんだって」

「なぁ?唯。最後に聞いていいか?」

唯「?」

律「私は、そのときの私はかっこよかったか?」

すると唯が楽しそうに笑った

唯「うん!! それにね」

律「?」

唯「りっちゃんにナーバスな雰囲気は似合わないよ」

律「なんだと、こんにゃろー!!」ゴンッ

唯「あいたっー!!」

握った拳が震えることはもうなかった


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最終更新:2011年06月13日 20:59