律と唯の腕にまいたポケギアがもうすぐ18時をさそうとしていたころ、

2人はもう一度草むらのなかにいた

律「さてと、むしとり大会もあと5分か」

唯「あっちゃー、もうそんな時間だったんだねー」

律と共に歩いていくのは唯だ

律「唯は捕まえに行かなくていいのか?」

唯「うーんとね、よく考えたら私、野生のポケモンって普通にゲットしたことないなぁと思って」

「というか、ゲットできない……ボールが当たらない……」

律「なんだそりゃ。今までどうやってきたんだよ」

唯「うーん、みんななんか気付いたら仲良くなっちゃって」

律「………ボールいらなくね?」

唯「いや、お家になるんだから、そのためにはいるよ~」

律「うん、どこか唯はおかしい」

唯「えぇ~、そんなことな………りっちゃん!!」

律「あぁ、私にも聞こえた。ガーディ、警戒しろ。このさきにきっといるぞ」

ガーディ「クゥン!!」

――シュン

そのとき、律の目前の草むらが横一文字に斬れた

そしてそこには刈り取られた草。

サークル上の小さな広場ができていた

律「あれは……ストライク!!」


No.123 ストライク
すばやい うごきが じまん。
あいては たおされたことにすら 
きづかないほど はやく うごける。


律「いまさっきのは、しんくう波か!!」

唯「まって、りっちゃん。あっちにも大きいのがいるよ!!」

ストライクと向かいあうようにいたのは、大きなはさみを持ったクワガタのようなモンスターだ


No.127カイロス
ツノに はさんでも ちぎれない 
ばあいは はさんだまま ふりまわし 
なげとばす せんぽうを つかう。


律「よっし、2匹いっぺんにいっちゃる」

唯「おー」

ぱちぱちと拍手をする唯を、手で後ろへと制し

律「よっし、まずはガーディ吼えろ!!」

ガーディ「――!!」

にらみ合った2匹に向かって吠えたことで、2匹の視線がガーディを捉えた

唯「くるよ!!」

律「あぁ」

始めにきたのカイロスだった。ガーディよりもはるかにでかい巨体がはさみを開いて突進してきた

律「ガーディ、もぐりこんでとっしんだ!!」

横へと倒した大きく開いたハサミの下

そこへともぐりこんだガーディが真下からカイロスへとぶちあたり、吹き飛ばした

だが、

律「まずい!!ガーディ後ろにジャンプだ」

ガーディが後ろにさっと下がった

さきほどガーディがいた位置には、うっすらと透ける綺麗な鎌がある

律「ストライクか……でも、速さはつくしのほうが早かったな」

律「さぁ、炎の牙でその鎌をボロボロにしてやれ」

退いたガーディが今度はさっと前へと跳躍した

噛み付く先は、その地面に刺さった鎌

ガーディ「グルル!!」

熱を帯びた牙は、その刃を焦がし、やがて炎がともったが

ストライクが一振りしただけで鎮火してしまった

そして

律「次は2匹いっぺんにってわけね……」

吹き飛ばしたカイロスが、再びガーディに襲い掛かろうとし、ストライクがもう一度飛び掛ろうと前傾姿勢をとった

律「2匹の周りを走れ!!ガーディ」

挟むようにジリっと距離をつめてきた2匹の周りを円を描くように駆け抜け

律「――かえんぐるま!!」

その軌道上に炎が灯った

そのうえここは草むら地帯だ

炎は勢いを増し、2匹の囲いながら渦をつくった

律「いまだな。これをっと」

取り出すのは受付でもらったコンペボールだ



――36番道路

唯「あ~あ、優勝できなかったね」

そうぼやいたのは、不満たらたらの唯だ

律「しょうがないさ。タイムアップだったんだから」

唯「うーん、それでも絶対りっちゃんのほうがあの優勝してた人のポケモンよりすごかったよ」

律「まっ、それでもポケモンはもらえたんだから良しとしよう」

そういってコンペボールをのぞきこみ

律「なぁ?ストライク」

ボールの中に入っているストライクへと話しかけると

――カタカタ

返事をするかのように、反応があった

律「で、唯は私と一緒に来ていいのか? 飛行手段があって目的のジムへはひとっとびでいけるんだろ?」

唯「うん、でも……ロケット団のこともあるしね……」

律「……そう……だな」

唯「それに、りっちゃんって意外と寂しがりでしょー」

「だから、私が……」

律「はいはい、わかったわかった」

唯「ぶぅ~、りっちゃんノリわる~い」


北には初めに来たときと同じように塔が見える

唯はその塔を見て、うわぁ~と子供のように走っていった 

そして律は

律「もう大丈夫さ」

呟きの言葉と共に、手のひらに4つのモンスターボールをとりだした

……大丈夫、もう震えることはない。

……怖さも、胸を刺す痛みもまだ消えることは無いけど



律「――強くなろうな」


すると、一斉に手のひらのボールたちが震えを返した

唯「おーい、りっちゃんはやくはやくー」

遠くからは唯が呼ぶ声がする

見れば、こちらに手を振っている

律「すぐに追いつくから待ってろよー」




「VSカイロス」 〆




――エンジュシティ(ポケモンセンター前)


律「さてと、それじゃあジムに挑戦してきますか~」

唯「うん、りっちゃん頑張ってね」

唯が胸の前で小さく手を振った

律「唯はその間、この町の観光だっけ?」

唯「うん、そうしようと思ってるよ。あ、りっちゃん、ジム戦が終わったらここに集合ね?」

律「あぁ、それはいいんだが。たぶんスズの塔はここのバッチを持っていないと入れてくれないぞ? 
だから見るならカネの……焼けた塔ぐらいしか……」

唯「えー、ということはあっちの高い塔は入れない?」

指指した先にはまさしくスズの塔があり

律「まっ、そういうことだな。あっちの焼けた塔なら入れるからそっちにしときなさい」

ふとそこで一つ注意しておくことを思い出した

律「……穴には落ちるなよ」

唯「?」

そして唯は街中を走り出す

だが少し距離をあけたところで、くるりと振り返り

唯「りっちゃーん、約束は健在だからねー。お互い8つ集めたときは勝負しようねー!!」

律は顔に少し嬉しそうな苦笑を浮かべた。

律「……ほんと唯には救われるよ」

誰にも聞こえないように呟くと、律も唯を見送ったほうに背を向けた



場所はエンジュジムの前

もう一度律は深く息を吸い込み、吐き出した

そして強く頷くと、エンジュジムのドアへと手をかけた

……大丈夫

そして扉を大きく開き

律「たのもー!!」

声を張り上げた


――エンジュジム

マツバ「きたか……」

そこには、先日あったバンダナの青年、マツバがいた

マツバ「……ふむ、どうやら。なにかふっきれたようだね」

「いいだろう、やろうかジム戦を」

律「よろしくお願いします」

マツバ「さっそくオレが相手になろう。使用ポケモンはそうだな……」

律「1匹だけの勝負でお願いします!!」

その言葉にマツバが眉を顰めた

マツバ「オレはいいんだが、君はそれでいいのか?」

律「ハイ。私はこの先日捕まえたストライクだけで行きます」

マツバ「……いいのかい?出すポケモンまで教えてしまって」

律「はい、こちらの条件を飲んでもらった対価だと思ってもらってかまわないです」

「それに、私はこれで勝ってこそなにかを取り戻せる気がするんです」

「だから……」

マツバ「そうか。余裕といったわけでもなく、それなりの覚悟があってきたわけかい。いいだろう、それでやろう」

「ただし、それで勝てるかどうかは別問題だ」



マツバ「悪いが、オレのポケモンは君のストライクにとって最悪といっていいポケモンだ」

「さぁ、いこうかゲンガー!!」ボンッ

黒くガス状のずんぐりとした人影。それは以前みたことあるモンスターだ

律「いけっ、ストライク!!」ボンッ

一方律のボールからでたのは、鋭い刃を携えたカマキリのポケモン

両手の刃をサッっと一度振ると、身構え

律「でんこうせっか!!」

走った

だが、それはどちらかというと宙を滑るように見える

体はぶれず、平行に移動していく。

マツバ「無駄だ」

その言葉と共に、ゲンガーはただ笑う

そしてストライクがゲンガーに直撃しようとしたとき、

その体を通過した

ストライク「――!!」

マツバ「ゴーストタイプにノーマルタイプの技はきかない!!」

透き通った体を貫通したストライクの背後で再びゲンガーが笑う

そして、その背中目掛けて

マツバ「ジャドーボール!!」

放たれ

黒の塊が不意のストライクの背中を襲い、直撃した

律「ストライク!!」

ゲンガーの攻撃に前方に吹き飛ばされたストライクだが

ストライク「ストッ!!」

くるりと回り着地した。

マツバ「まだだゲンガー、追撃のヘドロ爆弾!!」

今度はストライクの着地したところを狙って、ヘドロの塊が飛来した

律「高速移動!!」

だが、投げられたそれはストライクに当たることはなく、

マツバ「速いなっ!!」

高速で地を滑ったストライクは、気付けば再びゲンガーの目の前にいた

律「シザークロス!!」

その鎌がキラリッと光り

――スッ

影を真っ二つに裂いた

だが

律「やっぱり、駄目か」

斜めに一閃されたゲンガーの体が繋がり、また怪しく笑い始めた

マツバが‘最悪’と言った理由はここにあった

ストライクの主力といえる虫タイプの攻撃はほとんどきかず、ノーマルタイプの攻撃にいたっては当たらない

その上ゲンガーは虫タイプに有利な毒タイプの攻撃ももっている

そのことを指した上でのさきほどの言葉だった

律「なら、攻め方を変えるか……それにゲンガーなら……」

すると律がふっと笑った

マツバ「……」

そのことにマツバは少しの危うさを感じていた

あからさまに不利といえる状況であのように笑えるのは、無謀な馬鹿かそれとも…


マツバ「ゲンガー、シャドーボールだ!!」

至近距離からの大きな黒い一撃がゲンガーの手のひらから放たれた

だが、ストライクは後ろに大きく跳び、着地すると

律「ストライク、今は避けることに専念しろ!!高速移動!!」

シャドーボールが移動するストライクを目掛けるが

寸でその姿を消し、少し離れた地点でまた姿を現す

そしてそこへと再びゲンガーがシャドーボールを放つと

また姿を消し、今度はゲンガーの目の前に現れ

また消える。

それはゲンガーの目には挑発されているようにうつり

だんだんとゲンガーの焦れったさも目に取れるようになってくる

マツバ「(……うーん、向こうの決定打がないとは言え、長引かせるのも良くないか……)」

そしてマツバが指をパチっとならした



それは合図だった

マツバ「ゲンガー、ナイトヘッド!!」

赤いゲンガーの目が、妖しくも眩く光り

ストライクの周りの空間が締め付けられたようにゆがんだ

律「っ!!ストライク大丈夫か!!」

その言葉にストライクはコクっとうなずきゲンガーのいた方をみると

そこにゲンガーの姿はなかった

マツバ「さぁ、ここからがゲンガーの本領だ!!」

律「まずっ!!――ストライク、しt……!!」

だが、その言葉は遅かった

マツバ「シャドーパンチ!!」

――ドンッ

衝撃と共にストライクが感じたのは驚きだった

その攻撃は真下

地面からアッパーのように打ちだされたからだ

そして吹き飛ばされながらストライクはゲンガーを見る

ストライクの影にまどろむように溶ける紫の影を

律「ストライク、体勢を立て直せ!!」

指示にしたがい、くるりと宙返りをしきれいに着地した

律「ストライク、もう少し我慢してくれ!!絶対に……絶対にお前を勝たせてやる!!」

マツバ「(ほぅ……)」

律の目を見てマツバは思う

……あぁ、やはり待ってよかった と


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最終更新:2011年06月13日 21:00