マツバ「もう一度お見舞いしてやれ、シャドーパンチ!!」

ストライクの真下からぬっと伸びてくる腕が来る前に

律「飛び上がれ、つるぎのまい!!」

ストライクの体が宙にふわりと飛び上がった

パンチに打たれたからではない、自ら飛び上がったのだ

当然ゲンガーのシャドーパンチは空振りとなるが、

マツバ「避けるだけでは勝てない!!」

もう一度影に潜った

そしてふらりと体を揺らしながら舞うストライクの体をもう一度パンチしようとするが

そのたびにストライクは空中に飛び上がり、綺麗な着地をきめる

幾順かのループだ

地で舞をおどりながらも、攻撃が来ると宙へと逃げる。だが、紫の影も攻撃が終わると影へと逃げる

その一連の攻防自体がまるで舞の一部のようだ

だが、あるときマツバが笑った

丁度ストライクが空中で着地の体勢に入ったときだ

マツバ「君には今ゲンガーがどこにいるかわかるかい?」

不意に飛んできた言葉に律は驚きながらも

律「どこって、影の中だろ?」

マツバ「そうだよ、影の中さ。それは間違いないさ。でも!!」

そしてストライクが律の目の前で着地した

マツバ「さぁゲンガー、シャドーパンチ!!」

攻撃の支持にストライクが再び飛び上がった

だが、さきほどのように真下から来ると思われた攻撃はストライクの真後ろから叩きつけるようにきた

律「――!!」

そう今飛び出したのは、ストライクの真後ろ

律「私の影か!!」



律は宙を舞うストライクを見て思う

……よしっ!!狙い通りだ

律はゲンガーが影に潜ることができるのを知っていた

それはかつてのシルバーとの共闘したときに見た能力だったからだ

そして、シャドーパンチ

遠距離攻撃のシャドーボールから近距離攻撃のシャドーパンチに変わることも待っていた

そのために最初の挑発するかのノーマル攻撃や虫タイプの攻撃からの回避行動だった

こうすれば、焦れて接近戦に持ち込んでくるだろうとふんでいた

……そろそろだ

だが、そう思ったとき不意に言葉が来た

丁度ストライクが宙へと跳んだときだ

マツバ「君には今ゲンガーがどこにいるかわかるかい?」

その言葉に疑問を持ちながらも

律「どこって、影の中だろ?」

そう当たり前のように答えた

だが、そのときマツバが楽しそうに笑った。

マツバ「そうだよ、影の中さ。それは間違いないさ。でも!!」

そしてまずいと悟る

なにか来る とも

しかし

マツバ「さぁゲンガー、シャドーパンチ!!」

さきほどと変わらない指示に一瞬だがほっとした

なぜならストライクは完全にゲンガーが飛び出してくるタイミングを掴んでいたからだ

だが、それがいけなかった

変わらぬ指示に安堵している場合ではなかった。

変わっていたのは

ゲンガーの潜んだ場所のほうだった

律「私の影か!!」

自分の影から飛び出したゲンガーはストライクの飛び上がった瞬間に飛び出し

上から叩きつけるように殴りつけた

……やられたっ!!

律「すまない、ストライク!!今のは私のミスだ」

「まだいけるか!?」

叩きつけられたストライクが、ゆっくりと起き上がると

再びその刃を構えた。それは肯定の意思

律「そうか。なら――――そろそろ勝とう」

告げた瞬間ストライクが、走り出した

律「高速移動」

そのスピードは一度目にみせたスピードよりかは劣っている

マツバ「……さっきのシャドーパンチがきいたようだな。それではもう長くは避け続けれないだろう」

「ゲンガー、シャドークローでとどめだ!!」

影に潜むゲンガーにとってストライクの地上を走るスピードはほとんど関係がない

影はどこにいてもストライクについてまわるからだ。

それでもスピードを上げるのは、己を奮い立たせるためか

そして、攻撃が来る

走るストライクの影から、ぬっと手が伸びた

影の手は握りこぶしではなく、鋭利な3つに割れた爪の形をしている

律「ストライク!!」

掛け声と共にストライクが飛び上がった

だが

マツバ「ゲンガー!!あわせて飛び出せ!!この一撃で終わらせるぞ!!」

飛び上がったストライクを追うように、ゲンガーが影から飛び出し

ストライクの後を追った

律「――きたな」

ストライクの跳躍が最高点に達したとき、くるりと宙がえりをする

今まではそのまま着地に入るための一回点のジャンプだった

しかし今度は

マツバ「半回転!! 迎え撃つ気かっ!!」

頭を地へと向けた状態で、落ちる

その先には飛び上がったゲンガーの姿がある

そしてゲンガーが爪を振りかぶったとき

律「――つじきり!!」

落下のスピードと共にまっすぐに刃を振り下ろした

ゲンガー「!?」

物理攻撃の態勢をとっていたゲンガーは今、質量を持っている

だから、律はこの物理攻撃をしかけてくる瞬間を狙っていた

――スパッ

空中で影が真っ二つに割れる

そして

ストライクが着地した

空中で二つにわれたガスは2つから1つに合わさり、ゲンガーの形をつくる

だが

そのまま落下し、地へとひれ伏した

みれば、ゲンガーが戦闘不能なのは明らかだ

マツバ「……オレの負けか」

マツバはボールにゲンガーを戻し、律へと歩み寄ろうとしたとき

律が言葉を放った

律「マツバさん……次のポケモンをお願いします」

はじめの勝利の条件。1対1の勝負。だが、今自分は次のポケモンを待っている

これは自惚れだ。それは分かっている。だが

律「今、私はもっと強くなれる気がする――だから」

マツバはさきほどからこちらをじっと見ている

それでなにか伝わるのならばそれでいいとも思う

マツバ「……いいだろう。ならばそれに答えよう」

「いこうか――ゲンガー!!」

そしてマツバは2匹目のゲンガーを繰り出した



――エンジュジム

広いジムの中央に座り込んだ青年がいる

そしてその青年に近づく影も

ミナキ「負けたのか……マツバ」

マツバ「あぁ……」

ミナキ「それにしてもこっぴどくやられたな」

マツバ「みてたのか」

ミナキ「それでどうだった」

マツバ「………」

なにも答えないマツバにミナキがやれやれといった風に手で動作を行った

そこへポツリと

マツバ「いや、本当に驚いた」

ミナキ「……ん?」

マツバ「彼女だよ」

そしてマツバが地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がると

マツバ「彼女は結局オレのポケモン3体を1匹だけで倒していったよ」

ミナキ「ほぅ……」

マツバ「それにしても後半は凄かった……まさに怒涛だ。あと一発食らわせること

ができればあのストライクは戦闘不能だった。だが……それができなかった」

マツバのゆったりとした口調は続く

マツバ「後半になるたびに、強くなるんだ……あれはノリ始めると止められないタイプだ」

ミナキ「……とんでもない才能だな。迷いとやらはなくなったのかな」

マツバ「あぁ、もうその心配はいらなさそうだ。それになミナキ」

まだなにかあるのか といったミナキにさらにマツバが

マツバ「彼女のそのストライクは先日捕まえた と言っていたんだ」

ミナキ「なにっ!?……つまりは」

マツバ「あぁ……そういうことだ」

ミナキの背中に底知れないなにかが走った

これが鳥肌だと気付いたのはそれからしばらく言葉を失ったあと

マツバ「本当に……さすがスイクンたちに選ばれただけはあるよ」

ミナキ「あぁ……そうだな……って待て、あれは単なる仮説だろ。それになスイクンはこの私が捕まえるのであってな……」

ミナキの言葉は続くが、マツバの意識はすでに別のところだ

マツバ「(もう迷うことはないだろうな)」

思いながら見た方向には窓がある

そしてその先には

うれしそうに歩くカチューシャの少女がいた





「VS ゲンガー(2)」 〆



――ポケモンセンター前

太陽が傾き始めた

遅い、そう律が呟いたのももう何度目になるのだろうか

律「唯のやつ、なにやってるんだ……?」

やけた塔を見るくらいしかないのだから、そんなに時間がかかるわけはない

ということは

律「どこで寄り道してるんだよ……」

はぁ、と溜息を吐くと律は歩きはじめ

律「まぁ、唯のことだから大丈夫だろうとおもうけど……」



――歌舞練場前

律がそこの前をとおりすぎたとき、見知った後ろ姿があった

なにやら窓から中の様子をのぞいているようだ

……やっぱり寄り道か

律「おい、覗きは犯罪だぞ」

後ろから声をかけると、さっと唯は振り返り

唯「あ~、りっちゃん別に覗きじゃないよ~」

律「いや、どうみても覗きにしか見えないぞ」

「それより、ポケモンセンター前に集合はどうし……た……って、なにを見てたんだ?」

そういいながら律も唯の覗いていた窓を横から顔をだして覗こうとする

すると

唯「あああ、りっちゃん今は駄目ー!!」

律「いやだって気になるじゃ………えっ?」

そこには1人の男と数人の女がいる

数人の女性は、華やかな着物にその身を包んでいることなどから舞妓なのだろう

そこには知った顔もある

律「……あの人は……」

数ええてみれば5人の舞妓が一箇所に集められて、縄で動けないように縛られていた

その周りにはドガースが漂っている。

そして、一人の男だ

見れば、男は捕らえられた5人に対してなにかを聴いているようだ

あまり穏やかといった様子ではない

さらにその男は律と唯にとって忘れるはずもない

律「またロケット団か……」

すると、しばられていた舞妓と窓越しに目があった

律「タマオさん……か」

そして一度、窓の下にかがみこむと

唯「どうやって助けるかを迷ってたんだけど……」

唯が小さく呟いた

律はもう一度窓を覗き込み

律「(人数は一人か……問題はあっちのドガースだな)」

フラフラと舞妓の周りを回るドガースが厄介な問題となっていた

下手になにかすると、危害加えられるかもしれないからだ

それに

律「(こんなとこで大爆発なんてされたら……)」

考えただけでぞっとする

となると

律「唯、ちょっといいか?」

そういうと、唯の耳にヒソヒソとなにかを告げた



律は扉の前に佇んでいた

そして深呼吸一回

音も立てずにゆっくりとノブを捻る

だが当然のごとく鍵は掛かっていた

分かっていたことだが、さすがにあまり荒いことはしないほうがいいだろうとおもっていた

しかしそう都合よくいくはずもなく

――もう一度呼吸を整えた

そして

――ドンッ

扉を蹴破った



目の前にひろがる光景はさきほど窓から見た光景とそれほど変わらない

あえて変わったことといえば、さきほどまで5人に対して屈み込んでいたロケット団が驚いた顔でこちらを見ていたことだ

ただそこまでの10m。

その直線を思い切り走る。

ただ、相手に考えさせる時間を与えないように額に緊張を伴った嫌な汗が流れるが、速度のままに流されていく

律「(まずは安全第一……っと)」

ロケット団下っ端「なっ……!! お前は……」

立ち上がり振り返ったロケット団がなにかいいたげだが、気にせずその距離を縮めていく

見れば、捕らえられた舞妓さんもこちらを見て驚いた顔をしている

そして

腰のボールに手を伸ばした

投げる先は、漂うドガースの真下

ボンッという音ともにそれが飛び出した

律「イーブイ!! 真下からとっしんだ!!」

下からの衝撃に耐え切れずドガースが天井へと吹き飛ばされる

律「イーブイ、次はそっちだ」

指差した先にはロケット団がいる

着地したイーブイが、そのまま団員に向かって走り出した

ロケット団下っ端「くそっ、なんだってこんな……」

男がそのまま3歩バックステップする形で下がる

そしてそのまま走ってきた律とすれ違う形になった

位置が入れ替わった

今では律が舞妓が捕まっていた近くのポジションにいた

律「(とりあえず、安全面はこれでなんとかなるかな……)」

タマオ「あらっ……あなたは……」

すると後ろからのんきな声が聞こえた

これまで何度か会ってきたタマオだ

だが、律はそれに答えず、手をかざすことでその言葉に静止をかけた

向き合った男が逃げる気配もないからだ

律「……ったく、ここで逃げてくれたほうが楽なんだけどな」

下っ端「……お前は誰だ? 邪魔をするな!!」

男が激昂する

律「見ちゃったからには……っとそういうわけにもいかなくてね」

男が新たなボールに手をかけた

律「イーブイっ!!来るぞ!!」


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最終更新:2011年06月13日 21:01