男は今日も楽な任務だと思っていた

自分の上にいるものから、任されたものはあるものをこの歌舞練場から奪ってくることだけだった

あらゆる犯罪行為にも手を染めているロケット団で、たかが盗みなど楽に部類に入る

さらに盗む相手はポケモンバトルのエキスパートというわけでもなく舞妓だ。

たしかに自分にはそれほどの強さがあるわけではないが、この程度は楽勝だと思っていた

だが、男は念を入れ稽古中を狙い、強盗に入ることにした

稽古中ならば、人もいないだろうし、手持ちのポケモンを持っていないだろうと考えたからだ

そしてそれは予想通りだった

そこへ入ったとき、ポケモンを出して脅せばすぐに、舞妓たちは諦めたのか抵抗す

ることなく縄についた


だが、そこからが問題だった

この歌舞練場を物色するも、目的のものは見つからず

脅しの色を込めながら、一度持ち主の本人達に尋ねてみることにした

――そんなものは知りやしません

長女と思われる舞妓がたった一言それだけを告げた

それ以降はだんまりだ

そして、どうしようかと思った時、その音が響いた

ドアを蹴破る音だ

振り向けば、そこに一人の少女がいる

いや、いた といったほうが正しいのかもしれない。少女は常に移動し続けているのだから

こちらへと一直線に

……だれだ?

はじめに来た疑問はそれだった

だから

下っ端「なっ……!?お前は……」

だれだ?と続けようとしたが、その言葉を言い切ることはない

少女が次の行動にでたからだ

少女の手にはモンスターボール。そしてそれをそのまま放り投げた

そして

「イーブイ!! 真下からとっしんだ!!」

ボールから飛び出したポケモンは自分のドガースを吹き飛ばすと

今度は

「イーブイ、次はそっちだ」

少女がこちらを走りながら指した

……まずい、くるか

そう思い、イーブイから距離を取るために後ろへとステップした

そのとき、こちらへとまっすぐ走ってくる少女とすれ違いざまに目が合った

少女はニヤリッと笑っていた

そして気付いた

……しまったっ! 人質が

だが、もう遅い

すでに人質と自分の間には少女が割って入ってしまった

こちらへと攻撃しようとしたイーブイは、こちらが数歩下がると少女の下へと下がる

まるで、最初からそれが目的だというように

「……ったく、ここで逃げてくれたほうが楽なんだけどな」

少女がポツリと呟きを残した

……っく

そういうわけにもいかない。こちらもまだ目的を果たしたわけではない

だから

少しでも思考時間を取るために

「……お前は誰だ? 邪魔をするな!!」

意味のない言葉を告げた

答えなど求めたわけではない

すると少女は言う

「見ちゃったからには……っとそういうわけにもいかなくてね」

その言葉を聞き届けたあと、ゆっくりとボールに手をのばした

律「イーブイっ!!来るぞ!!」

………たかが鈴の奪取でこれほど苦労するとは

頭にそんな言葉が浮かんだが、言わずボールを放り投げた



律「(やっぱり、ドガース一体だけってことはないよな)」

相手から出された犬のようなポケモンを見て思う

律のガーディとはまた違った犬のポケモンだ

その体色は黒

どこか野犬を彷彿させる

律「あれは……」


No.228 デルビル
なかまに れんらく するときと 
えものを おいつめるときでは 
なきごえの しゅるいが ちがうのだ。


律「(デルビルか……仲間を呼ばれるのはやっかいだなぁ……)」

「(まぁ、こっちも保険はとってあるから大丈夫かな)」

そんなことを思っていると、もう一度後ろから声が掛かった

タマオ「ちょいとお嬢さん」

捕らえられた状況だというのに、のんびりとした声で律を呼んだ

律がふりむくと

タマオ「この縄を解いてもらえませんか? さすがにお客さんに相手させるわけには行きまへん」

???「おねえちゃん!?」

おそらく妹なのだろう。一緒に捕まっていたマイコが驚いた声を出した

律「でも……」

下っ端「なにをごちゃごちゃいっている! デルビル、かみつけ」

黒の猛犬がイーブイに襲い掛かった

イーブイは噛み付かれながらも、その場に踏みとどまるが

やはり、指示なしには力も出し切れず、押されてしまう

タマオ「お嬢さん!!」

律「あぁ、もう!! わかったよ。 イーブイ、じたばたでデルビルを吹き飛ばせ!!」

体を大きく振るわせ、噛み付いていたデルビルを壁まで吹き飛ばした

そして

律「振りほどいたらこっちだ。この縄をかみきってくれ」

律がイーブイを手元に呼び戻した

そして縛られていた舞妓の縄を噛み千切ると

タマオ「さぁ、後は私達に任せておくれやす」

ゆったりと着物が崩れぬように立ち上がると、力強くそういった

???「でも、おねえちゃん!! 稽古中だからボールが……」

タマオ「これのことどすか?」

タマオが袖から取り出したのは正真正銘モンスターボールだ

???「えっ?姉さんなんでもっているの?」

今度は違う舞妓がタマオに尋ねた

タマオ「コウメちゃんもサクラちゃんも備えあれば憂いなしって言葉が……」

にっこりと笑いながら言う

コウメ「でも、姉さん……稽古中はよけいなものはもってくるなって……」

タマオ「あらっ?なんのことどすか?」

律「えっと、とりあえず任していいんだよな?」

タマオ「あら、そうでした。 それでは下がっといてもらえますか」

そして律を手で制すと

タマオ「お痛がすぎたようどすな」

体勢を立て直したデルビルとロケット団に向き直した

その振舞いは

律「(あぁ……なんでこんなにも……)」

律が思った感想はただ一つだった

……華麗なんだろうか

一つ一つの仕草から艶やかさすらもうかがえる

サクラ「えっと、少しさがってましょうか?」

さきほどサクラと呼ばれていた少女が律の手を引いてにっこりと笑った



下っ端「くっそ、とりあえずやっちまってから考えるか」

「いけ、デルビル!! おしおきだ!!」

無防備なタマオにデルビルが一直線にかけていく

そして跳んだ

黒犬の狙いはタマオの頭

だが、タマオは慌てずにそっと目の前に手をかざし

ニコリと笑った

そして次の瞬間には

――ガンッ

デルビルが吹き飛ばされていた

下っ端「!!」

ロケット団の目にも、律の目にもなにが起こったのかまったくわからなかった

ただ事実として

――

タマオの差し出した腕の上には一匹のポケモンが乗っていた

タマオ「ようこそ、歌舞練場へ」

そっと告げると、タマオの腕に乗っていたポケモンがストンと床へと飛び降りた

律「あのポケモンは……」


No.197 ブラッキー
まんげつの よるや 
こうふん したとき ぜんしんの 
わっかもようは きいろく ひかる。


律「ブラッキー……このポケモンは」

律は足元にいた自分のイーブイを見るが、イーブイはその姿に夢中なようで一心不乱に見つめていた

律「イーブイの進化系……か!!」

そしてタマオがそっと腕を振るった

袖がゆったりと空を薙いだ

タマオ「ブラッキー、くろいまなざし!!」

ブラッキーの目が光ると同時、全身のわっか模様が黄色い光りをはなった

下っ端「かみつけ、デルビル!!」

デルビルがブラッキー目掛けて飛びつく

黒の体と黒の体がぶつかり合おうとしたとき

タマオ「かげぶんしん」

タマオがゆったりと告げた

ブラッキーの体がかみつかれる直前

4つに別れ

そのままデルビルは空を透かし、地面へと着地する

タマオ「ブラッキー、挑発」

1つのブラッキーがデルビルに向かって喉を鳴らす

タマオが一歩後ろへと下がった

下っ端「デルビル、火炎放射だ」

デルビルが大きく口を開け、構えた

そして、口の中で炎の渦を作り

――はなった

向けた先はさきほど挑発したブラッキーだ

避ける様子もないブラッキーはやはり

下っ端「……影かっ!!」

そう呟いたとき、炎を放つデルビルの横に黒い影が笑っていた

いや、黄色いからだのわっかもようが笑っているような目に見えただけだ

タマオ「さぁ、お客さん。終幕どす。だましうち」

ブラッキーが横から思い切りデルビルを吹き飛ばした

下っ端「くそ、戻れデルビル。いったん退くぞ」

ロケット団がボールにデルビルを戻し、その場に背を向けた

律「なっ……逃がすかっ!!」

タマオ「あらあら……」

追おうとする律に、のんきに頬に手をあてるタマオ


そして団員が振り返ると

律たちの真上を指差しす

律「……ドガース!!」

真上を見ると先ほどのドガースが上空でフワフワと漂っていた

そして

団員が扉付近までちかづくと、ただ叫んだ

下っ端「だいばくは……」

律「(なっ、しまった……!!)」

だが

その言葉が最後まで告げられることはない

「――フィーちゃん、とっしんだよ!!」

団員が叫びながら扉から出ようとしたところを一匹のイーブイが、全力で体をぶつけた

律「……唯」

そこにはVサインで立ち尽くす友人の姿があった



時刻はすでに夜だ

日も沈みきり、町も夜の帳に包まれている

唯「……りっちゃん、正直に言ってね?」

唯が律に向かってニコリと微笑んだ。

だが、よく見れば目は笑っていない

唯「私のこと……忘れてたでしょ?」

律「!!」ギクリッ

「えっと……ははは、なんのことかな」

実際、律は唯の言うとおり、途中から唯のことを忘れていた

本来は律が先に突入してから、安全を確保して、前から律が、後ろから唯が取り押さえる気でいたのだった

律「でもさ、唯だって早くこなかったのが悪いんだぞ」

唯「いやぁ、だってなんかタイミング逃しちゃってさ」

そういって後頭部に手を当ててエヘヘと笑った

唯「それにしても……綺麗だったね」

それはさきほどの舞妓さんの闘い方をいっているのだろう

まるでそれは舞いを見ているようだった

サクラ「えっと、すいません。タマオお姉ちゃんから少し話があるそうなんででここで待ってもらっていいですか?」

先ほどの舞妓の少女の一人がこちらへと申し訳なさそうに尋ねてきた

律「あぁ、別にかまわないよ」

唯「どうせ、りっちゃん暇だもんねー」

律「おい、どういうことだこら」

唯「あいたっ」ゴチンッ

サクラ「あはは、仲がいいんですねー」

律「あ、それでタマオさんは?」

サクラ「……あはは、えっとあのとおりです」

指指した方向を見れば、タマオが正座をさせられ

「なんで姉さんはポケモン持っていたのに、はじめに抵抗しないの?」とか

「そもそもなんで姉さんは稽古場に持ってきてるの?」などと怒られている

どうやらその周りにいる3人も全員姉妹なのだろう

律「えっと、サクラちゃんだっけ? あそこにいるのは全員お姉さん?」

サクラ「はいっ!! 私が一番の末っ子なんです。あそこの右からサツキお姉ちゃん、コウメお姉ちゃん、コモモお姉ちゃんです」

嬉しそうに告げる

唯「へぇ~、仲いいんだね~」

サクラ「エヘヘ……」

律「唯のところも仲いいだろ……」

唯「エッヘン!!しっかりお姉ちゃんしてますから」

律「どこに威張るところがあったのかがよく分からん。それにどっちかというとお

姉ちゃんさせてもらってますじゃないのか?」

唯「りっちゃん………現実って過酷だね……」

ホロリと泣きまねをする唯にサクラと律が笑った

そこへ

タマオ「すんまへん、お待たせしてしまって。それでお話なんですが
……単刀直入に言ってこれ預かってもらえませんやろか?」

タマオが袖からとりだしたのは

唯・律「すず……?」

ニコリとタマオが笑みを作り、頷いた



「VS デルビル」 〆



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最終更新:2011年06月13日 21:03