――38番道路

エンジュの西にあたるそこは草原地帯になっている
中型の野生ポケモンも生息するその道路はアサギシティへの道だ
この先のアサギシティを目指していた唯と律も必然的にここを訪れることとなった

律「結局あずかっちゃったなぁ」

そういった律の手には不思議な色の輝きを放つ鈴がある
一見すれば銀の色に見えるが、よくみれば銀の色に層がありとても神秘的に見える

唯「まぁ、しょうがないよ。りっちゃんが認められた証ってことだしね。
  ロケット団がこれを狙って歌舞練場に何度も襲撃してきたんじゃ、
  練習にならないだろうし」

律「あー、なんか唯は結構落ち着いてるな」

唯「うん、まぁ私もちょっと似たようなことあったしね」

そういって唯が少し引きつったような笑みを浮かべた

かつて唯はカントー地方でロケット団にかかわったことがある
それは一つの預かりものをしたことから生まれたわけだが……
当然危険もあったわけだが、後悔はしていなかった

律「っていっても、伝説のポケモンに繋がる鈴ねぇ……
  やっぱりあんまり実感はないな」

唯「そうだね。私も伝説のポケモンって見たこと…………あ」

律「んっ どうした?」

唯「うんうん、なんでもないよ」

唯の脳裏に浮かぶの三匹の鳥ポケモン
ロケット団に使役されていた3鳥だったが、今頃は野生に戻っているだろう
そして伝説のポケモンはそう簡単に使役できるわけではない と言っていた人のこ

とも思い出す
それは唯が敗北し、ジョウトに来るきっかけになった人物

唯「(強くならないとね……)」

あくまでジョウトに来た目的はあの人に勝つための経験をつむことだ
回り道や色々なことに首を突っ込んでもそれは忘れてはいけない と思う

律「そういや、次は唯もジムに挑戦するんだよな?」

唯「うん、そうだね。私もいよいよだよ」

律はまだ唯の強さを全てを知らない
当然、ある程度の力というのはわかる
そしてそのある程度の力という判断材料だけでも、はるかに自分より上にあること

は分かる
ただ少し前、自然公園で不本意ながら唯のスピアーを相手にしたことがあった。そ

れも唯の指示抜きで
トレーナーである唯の指示抜きだというのに、それはとても強かだった。
だから律は思う。かならず追いついてやると
そして

律「(強くなるさ)」

とは思うものの

律「いろいろややこしくなったなぁ」

唯「?」

律が人差し指でつまんだ鈴を一度揺らし、その音を響かせた



――エンジュシティ(歌舞練場)

時は昨日にまで遡る
ロケット団の襲撃場面に遭遇した唯と律は、それを追い払い
そこの舞妓さんたちを救っていた

タマオ「単刀直入に言って、これ預かってもらえまへんやろか?」

それが始まりだった

律「え?」

唯「すず……だよね?」

唯がそう言うとタマオが頷くかわりに、一度その音を響かせた

律「きれいな音……」

唯「……うん、そだね」

二人がその鈴の音に耳を傾けていると自然とそんな言葉がでた
そんな様子をみていたタマオもまたニッコリと笑う

タマオ「どうでしょか?」

律「えっと……この鈴はどういう……」

律がそういったとき、横から少し幼さを残した声がきた
サクラだ。彼女はこの歌舞練場の姉妹のなかでも、一番下。つまり末妹だ
その彼女を見れば、少し真剣な面持ちになっている

サクラ「それは伝説のポケモンに繋がるかも知れない といわれた鈴です。
     羽と一対になって海の神様へと繋がる、という言い伝えがこの地方に残されてるんです」

海の神様――それは律の記憶にも少し覚えがある
焼けた塔の一件の後のことだ
この街のジムリーダーがそのことを少し話していた
そして、今彼女が言った羽は

律「これか……」

唯「りっちゃん、その羽……もしかして?」

律「うーん、よくわかんないけど伝説のポケモンの羽らしい」

タマオ「えぇ、おっしゃるとおり、その羽は間違いなく伝説のポケモンの羽。
    私が先日マツバはんのところを訪れた時、あなたがそれを持っているとを

おっしゃってました」

律「(あの時か……)」

先日、唯に会う前のこと。
少し悩んでいた時期だった。
律はジム前で立ちすくんでいるときに、このタマオに会っていた

タマオ「きっとこの機会は神様のめぐり合わせどす。だから私はこの鈴もあなたのもとにあるべきだと。
     そしてあなた達に任せたい と」

唯「……どうするのりっちゃん?」

律「うぇ!? 私が決めるのかよ」

唯「当たり前だよ。この旅はりっちゃんの旅だもん。わたしはおまけだよ」

律「む……」

そう言われると、返す言葉がない
そして目の前のタマオが頭を下げる

サクラ「ただ……」

サクラが続きの言葉を言い淀んだ

サクラ「その鈴を持つってことは、ロケット団に狙われることにもなるかもしれません」

タマオ「……さっきのロケット団もこれを狙ってきていた節があります。
     そのことを、そういった負担を負わせるかもしれない。そういうことを承知でお願いします。
     もちろん断ってもらっても構いません」

タマオがもう一度深く頭を下げた
そして横にいたサクラも続き、気付けば歌舞練場にいた姉妹達全てが頭を下げていた

律「……っとさすがにここまで言われたら断れないよなぁ」

唯「りっちゃん」


そして

律「わかりました。えっと顔を上げてください。その鈴預からせてもらいます」

タマオが頭を上げて、少しためながら、ただ……というと

タマオ「まぁ、その鈴も本物かどうかわかりやせん」

律「へ?」

サクラ「その……言いにくいんですが、レプリカも多いんです。
    神様の鈴ですから、それにあやかろうって作られたものが……
    だから、そんなに気負わないでいってくださいね」

最後に気の抜けるような事実をきかされ、ふと心の中の緊迫した気持ちが削られた

ようだったが
それでも鈴は彼女達の手に渡った
タマオの手から律の手に渡る時鈴がもう一度その音を響かせた
やはりそれは綺麗な鈴の音だった


………
……


それから数十分後
歌舞練場にはすでに唯と律の姿はなかった
そこにあるのは舞妓たち、姉妹の姿だけ
その中でサクラがタマオに向かい一つの疑問をぶつけていた

サクラ「お姉ちゃん、なんで嘘をついたの?」

タマオ「はて、なんのことですやろ?」

サクラ「……」

タマオ「はぁ、サクラちゃん怖いわぁ~、そんな顔して」

サクラ「とぼけないでよ~」

頬を膨らませながら、サクラがタマオに詰め寄った

サクラ「あの鈴、レプリカじゃなく本物だよね。私達の家で受け継がれてきた正真正銘の……」

タマオ「あらっ、サクラちゃんだって、その後それらしくレプリカの話なんかしちゃって」

サクラ「むっ、私のは嘘はいってないもん。
    それにあの人たちいい人だったからあの鈴のせいで色々縛られるのもいやだなって……」

そういったあとサクラの後ろでふふっ、笑い声が聞こえた
そしてその笑い声の持ち主は

サツキ「ふふっ、やっぱり姉妹ね。きっとタマオ姉さんも同じことを考えてたのよ」

サクラ「サツキお姉ちゃんっ!」

タマオ「あら、サツキちゃん、もう舞台の点検はいいの?」

サツキ「うーん、もうちょっと確認したいけど……っていうか姉さん達も手伝ってよ!それに姉さん京言葉を忘れてるわよ」

そういってサツキがタマオを引っ張り、舞台の上へと上がっていく
その様子を見たサクラが苦笑いで見送った

タマオ「(どうかいい旅を……そしてどうか……)」



――38番道路

ややこしくなった と告げた律に唯が首を傾げた

唯「?」

律「いや、なんか全然問題が解決されないうちに、次々と積まれていくなぁ とおもってさ」

やはりその言葉に唯はよくわかっていないといった風な顔をする

律にはおおまかに3つの問題が積まれている

一つは、伝説のポケモンの問題
この件に関しては、ほとんど成り行きに任せて積まれていったため、自分でもよく

わかっていない

そして二つ目、ロケット団の問題
ヒワダ・エンジュと関わってきてしまい、さらにさきほどの問題の鈴の件もある

律「(……おそらくこれではおわらないだろうなぁ)」

そして3つ目、シルバーの問題だ
ウツギ博士から受けた依頼からはじまったこと。
捕まえるのが目的だったのだが、焼けた塔で倒れていた後どうなったかは分からない
同時に、あれほどロケット団に執着していたことも気にかかる
ともあれ、行方がわからない上、手がかりもないことにはどうしようもない

とその時、律は服を軽く引っ張られる感覚を覚えた
引かれるほうに振り向くと、すぐに原因がわかる
唯だ
だが、その唯もどこか真剣な面持ちで足をとめている

律「どうしたんだ、唯」

唯「ねぇ、りっちゃん。おかしくないかな?」

律「?」

律は唯の言っている意味がわからない
そしてそんな律の様子を見た唯が説明をはじめた

唯「……さっきから野生ポケモンがいないよね……それに静かすぎるよ」

言われ律が周りを見渡した
身長ほどもある草、茂るように豊かな木々、そして地面に大きな影をのこす岩場
そのどこにもポケモンの姿がない
そしてそのことに気付いてみれば、連鎖的にほかのことにも意識は向かう

律「たしかに……静かすぎるな」

のんびりとした農場地帯にしても、この静けさは異常すぎる と思う

唯「やっぱりだよね」

だが、そうはいったものの二人には原因がまるで分からない
だから

唯「のどかな風景なんだけどねー」

暢気に言うが、その声色に警戒の色は隠せない

律「おい、唯……原因がわかったかもしれない……あそこだ」

律が指差した先、そこには違和感があった

唯「なにあれ……?」

共に捉えた視界の先
広大な草原に朱い体がある
そしてそれが立つ地面の草は焼き払われ、土がむき出しにされている

律「私は一度みたことある……」

律の記憶の中
思い出されるのは先日のことだ
焼けた塔――その地下で気を失う前に見たポケモンの一匹


No.244 エンテイ
ほえると かざんが ふんかする。
みなぎる ちからを おさえきれず 
みちという みちを かけめぐる。


律「伝説の一匹か!!」

その言葉を言ったとき、圧倒的なプレッシャーがきた
思わず後ずさりそうになりながら、律はそれでもそれを見据える
横を見れば唯も気圧されているようにも見える

そしてそのプレッシャーは

律「来たっ!!」

熱量を伴いながらその体が大地を踏んだ
駆ける。足元の草がその足に踏まれるたびに焦げていく
やがて駆け出したその獣はスピードを捉える。一直線に
ただ律を目掛けて



律が反応したのはそのスピードの初速を見届けてからだった。
臆したわけではない
ただその毛並みを風に揺らしながら走る姿が美しく見えたからだ
だが、それをゆったりと眺めているほどの余裕もない
だからモンスターボールに手を伸ばし、開閉スイッチを押そうとしたとき

唯「行って、カラ太!!」

律の少し後ろ、そこに立っていた唯が律よりはやく行動を起こしていた
エンテイと律たちの間、その一直線上に飛び出たカラカラが骨を前に構える。
突進に備えるために

律「唯っ!!」

唯「りっちゃん、二人で行こう。きっと余裕を出していられる相手じゃないよ」

言っているうち、エンテイとカラカラがぶつかった
カラカラの骨が軋む。かろうじてその巨体を受け止めたが、
どうしてもその体格差の前には押されてしまい
やがて

カラカラ「!?」

真後ろへと吹き飛ばされた

唯「カラ太!!」

律「行け、アリゲイツ!!」

唯のカラカラが後ろへと吹き飛ばされたかわりに、律がアリゲイツを繰り出す
だが――エンテイが飛び出してきたアリゲイツに向かい一吼えした
呻りに近いその声に律は大地が揺れたかのような感覚にとらわれる

エンテイ「―――」

アリゲイツ「!!」

アリゲイツの勢いがその遠吠えだけによって止まる
まるで声という実体がアリゲイツを押し返したように……

律「アリゲイツ!?」

だが、その遠吠えをするためにエンテイの足も止まり、
場が硬直した。

そして吹き飛ばされたカラカラも体勢を立て直しエンテイの前に立ちふさがる
現在この場にいるのは3体
うち2匹はこちら側で数ではこちらが有利だと思う
だが同時に

律「(……体格差が違うか)」

こちらのモンスターはどちらかというと小型のモンスターである
体格差だけで勝負は決まるわけではないが、やはり直接のぶつかりあいでは大きな要因となる

律「なら……手数でいくしかないか」

唯と目を合わせると、同じことを考えていたのかコクリと頷いた
そして

唯「カラ太、ボーンラッシュ!!」

律「アリゲイツ、隙ができたところに冷たい一撃をぶち込んでやれ!」

カラカラが前へと飛び出しながら、宙へ跳んだ
目指すはエンテイの頭
そこを目掛けて振り下ろし骨で打撃する

エンテイ「――グルル」

真正面から頭で受け止めたエンテイがその攻撃に唸った
だが、攻撃は終わらない
そのままエンテイの懐へと着地したカラカラが今度はエンテイの顎をめがけて突き上げた

巨体がわずかだが揺れる

唯「カラ太!!もう一度上から揺らして!」

再びカラカラが跳び上がり、今度も頭を目掛けて振り下ろす
だが、今度はそれだけではない
もう一つ動きがある。
――アリゲイツだ。

カラカラのさらに上へと飛び上がったアリゲイツがそのままエンテイの胴のほうへ

と、
滑空するかのように飛び越えて行き拳を作る。
拳に纏うのは冷気だ。

律「冷凍パンチ!!」

その指示と共にエンテイの体めがけて拳が振り下ろされた
――よし、決まる
そう確信した律だが、それはすぐに裏切られることになる

律「!?」

気がつけば、アリゲイツの体を泡のようなものが包み込んでいた
そしてその泡は攻撃の勢いをとめることにまで成功している

唯「え?」

律「なんだ……?」

律があたりの風景を観察する
これはあきらかに水タイプによる攻撃、つまり目の前のポケモンの攻撃ではない
ということは、あきらかに第3者による介入があった証拠だ
そして律はあることに気付く

律「(エンテイがこっちを見ていない……?)」

唯「りっちゃん、あれ!!」

今度は唯がとある方向を指差した
それはエンテイの見ている方向。
そしてそれは律から見てずっと東の位置。

そこに水晶のような体をもった透き通るほどの青のポケモンがいた


「VSエンテイ 〆」



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最終更新:2011年06月13日 21:04