澪「……また床が壊れてる……。」


飛び越えるのはちょっと無理そうな穴が私達の行く手を阻んでいた。


律「くそっ、階段はすぐそこだってのに……。」


回りを探しても使えそうなものは特にない。


律「なにか、橋になるようなものがあればな……。」

澪「橋……橋か。」


なんだ?なにか私の頭に引っ掛かっている。
この状況を打破できそうな物を私は既に知っているような……。


律「そこら辺に転がっている板より長いのがあれば、向こうにわたることができるかも……」

澪「板……長い……それだっ!」

そうだ、思い出した!
私の頭の中の電球が一斉についたような気がする。


律「どうした、澪?」


澪「律!一回、【1のAの教室】に戻るぞ!」ニヤッ


   ━━━━━━━━。

澪「これだっ!」


私は肩に担ぐようにして床に落ちてるそれを持った。
それは、私が目を覚ました時に教室の左隅に落ちていたのを偶然見つけた、あの長い板。
これぐらい長ければ、橋がわりにして崩れた床を渡るのも可能だろう。


律「でも、それけっこうボロボロだぞ?私くらいなら大丈夫かもしれないが……。」


律「澪、そんな体重で大丈夫か?」


澪「大丈夫だ、問題無い。」キリッ


律「……。」


澪「なんだその目は。これでも最近ダイエットしてたんだぞ!……一応。」


律「その分だと大して痩せなかったんだな。」


澪「……皆までいうな。」


   ━━━━━━━━。


律「おぉ、けっこうこれ丈夫だぞ♪」


橋代わりにした板の上で律が無邪気に跳び跳ねる。
たしかに板はきしまないし、折れるような気配も無い。
気がつけば律はもう向こう側まで渡っていた。


律「ほら、澪も来いよ!」


澪「……あぁ。」


私は慎重に一歩踏み出す。片足に力を入れて板が折れないかを確かめると、さっきとは対照的に早足で一気に渡りきった。


澪「ふぅ……。」


思わず安堵の息がもれる。

律「お疲れさん!んじゃ、降りるぞ!」


澪「うんっ!」


私は、ずんずん進んでいく律の後ろをついて回る。


その階段は、半分ほど降りると平らな場所が設けられ、そこから折り返すようにしてもう半分を降りるっという、よく学校に使われる作りの階段だった。


私は、その階段で見慣れてる物を見つけた。


澪「あれは……亀の像?」


そう、それは私達の学校【桜ヶ丘高校】にもある、手すりのところに固定された亀のオブジェだった。


律「おっ、なんだか懐かしいな!……あれっ!?」


澪「どうした?」


律「いや、この亀の頭にさ。なんかついてるみたいで……よっと!」ビリッ


律が亀の頭から何かを剥がした。


律「ほらっ!これっ!」


律が人差し指に付けてそれを差し出してきた。


澪「……シールか?」


私は律の指からそれを取る。


律「……なんか、どっかで見たことあるよな?」


澪「あぁ、私もそう思ってたところだ……。」


律「まぁ、一応持っておいて後で考えようぜ!」


澪「そうだな。まずは玄関だ!」


『【シール】を手に入れた。
可愛い猫がプリントされたそのシールは、私達の脳に既視感を漂わせている。』

階段を降りきった私達は外が少しだけ明るくなっているのに気づいた。
窓から、見える景色はまだぼんやりしているが、自分達は今、1階に降りたっと言うことが確認できた。


律「1年の教室が2階にあるなんて変な校舎だな。」


澪「いや、そうでもないよ。1階に教員が使う部屋を集めて、2階から生徒達が使う教室とかを集めてる学校もなくは無いから。」


律「そうなのか~。物知りだな!」


澪「……それほどでも。」


    ━━━━━━━。


玄関はそれほど苦労せずに見つかった。

というのも、私達が今歩いてる1階の通路は床が崩れてるせいで玄関まで一本道になっていたからだ。

しかし、、、


澪「んっ━━んー……。」


澪「ダメだ開かない……。」

【玄関】
重い扉はドッシリと閉じられ、開けられそうにありません。


澪「鍵もかかってないのに……なんだか、力ずくで、開く感じじゃないみたい……」


律「マジか……でも、なーんか、そんな予感はしてたよ……な……。」


澪「そうだな……まぁ、ずっとここにいてもしょうがないし……どうした?」


私は、律がしきりに床に視線を送っていたのに気づく。
そこには、小さな靴が乱雑に散らばっていた。


律「小っちゃい靴……」


律「ここ、やっぱり小学校の校舎なんだよな……。」

澪「……あぁ。」


律「聡……腹減らしてるかな……。」


澪「……そっか、律ん家、今 お父さん……帰り遅いんだっけ?」


律「うん、ほらっ!ウチは母さんが『アレ』だったからさ……なんせ家計がなぁ……。」


律の母親は、律がまだ小さい頃に失踪していた。

しかも、律の母親は失踪する前日に多額の借金を追っており、失踪した今では律のお父さんが負担しているらしい。

どうして、借金を負ったのかも不明で、私も律母には何度も会ったことがあるが律と同じく気さくで明るい人だった。

何か危ないことに巻き込まれてしまったんじゃないかと律達や、私も今だに帰りを待ちわびている。


律「父さんが頑張ってる間、私が主婦やらないとな……あはは~~~~。」


澪「聡も、まだちっちゃいからなぁ……。」


澪「律、偉い!女子高生にして立派なお母さんだ!」


律「えー……なんかソレビミョーだぁ!!」


澪「あはは♪」


律「早く帰ってやらないと……。」


律「ってか、澪もだよな。澪ママ、『一人』で待ってるぜ。」


澪「うん そう……。ウチ もお父さん死んじゃっていないし……

ママ、心配してるかな━━。」


律「……絶対帰ろうな、澪!大丈夫!なんとかなるって!」


澪「あぁ!」


一人の時はどうしようかとおもったけど……
律といたらなんだか元気が出てくる。


私もしっかりしなくちゃな!



律「……んん~♪」


澪「きゃ!?」パチン


律「ふぎゃっ!?」


澪「何してんだ━━━!!」


律「あっはは~♪澪ってば私の顔じっとみつめてるんだもん♪
キッスを求められてるのかと思って━━」


澪「んなわけあるかっ!」ゴチン


律「あぅ……」イテー


澪「まったく……。」


律……いつも励ましてくれてありがとうな。


   ━━━━━━━━。


律「……ってわけで【1のAの教室】に戻ってきたわけですが!」


律「さて、次の目的地の非常口はどこにあるのでしょうか……澪さん?」


澪「人まかせかい!」


律「いや、こういう考えて推測するってのは私には向いてないだろ?」


律「それに、私の頭は今、地図の作成に脳の85%を、思い出に残りの15%を使うことになってるから、あまり複雑な思考はできないんだ!」


澪「そうか、じゃあまずはお前のそのどうしようもない幻想をぶち殺す必要があるな。」ゴツン


律「痛っ……男女平等パンチ反対!」


澪「フフッ……って、やってる場合じゃない。さすがに非常口は推測のしようがないぞ。」


律「えっ、どうして?」


澪「割と新しい学校の場合なら、各階に備えつけられてるはずだが……ここは古い校舎みたいだし、どっかの教室に一つだけとか、非常口すらない場合もある……。」


律「ってことは手当たり次第に探すってことか!?」

澪「あぁ……。気の遠くなる作業になりそうだ。」

律「……でも、アレだ澪。心配するな。」


澪「うんっ?」


律「ほら、そっちの方が私達軽音部らしいだろ!
探検してるんだと思って楽しんで行こうぜ!」ニコッ


澪「……あぁ!」ニコッ


軽音部……その言葉を聞いただけでなんだか勇気が出て、本当にどうにかなる気がした。


律「とりあえず、あそこの上に上がる階段に上がってみるか?ここが2階だから、3階に通じてるはずだぜ?」


ボソッ━━



澪「いや、先にこの2階を調べ……?」


ボソボソッ━━━


律「……今度はなんだ?」


      ボソ

澪「しっ!」


私は人差し指を口に当てて律を黙らせる。


     ダ・レ・カ━━


澪・律「━━!?」


律「人の声!?私達以外にも人が━━っておい!澪!」

澪「……、」ダッ


私の足は気がつけば走り出していた。

怪我をしていることを忘れてしまうくらいに、ひたすら、今にも消えてしまいそうな声に向かって来た道を引き返す。

そんな私の脳裏には淡い希望が詰まっていた。


澪「もしかして……唯たちかも。」


澪「うッ……」ズキッ


足の痛みが再び私を襲ってきたが気にせずに降りてきた階段を登る。


律「おい!待てって!」


遠くから律の制止の声が聞こえた。
だが、今の私の足を止めるにはそれくらいの物では不十分だった。


   ━━━━━━━。


澪「……この教室だ。【2のAの教室】か。」ガラッ


律の声を振りきるようにして私はその教室の扉を開けた。


澪「(真っ暗……?)誰か居ますか……?」


この教室も【1のAの教室】と同じで床はあちこち崩れており、転倒している机がいくつもあるが元々は並んでいた形跡があった。


澪「おかしいな(確かに人の声が聞こえたんだけど……)……ハッ!」


私は机の影に隠れていて、さっきまで見えなかった人影を見つけた。


澪「……(人が倒れてる!?)」


澪「(やっぱり私達の他にも誰かいたんだ!)大丈夫ですか!?」

私は床に座ってその人を抱き起こした。



      グチャ━━


澪「えっ?」


嫌な音共に『それ』を抱き起こした私の手から嫌な感触が伝わってくる。


   ━━━━━━━━。


律「ったく、澪のやつ先に走っていっちまいやがって……。本当に足を捻挫してんのかな?」


律「いくら私が短足だとしても、怪我してる相手にはさすがに負けない……」ブツブツ


律「……『唯』たちかも、か。そう言えば最近唯の前でよく片耳だけピアスしてるよな、あいつ。」


     まさかな……


律「……しかし、澪のやつどこにいったんだ?
姿は見失ったし、おまけにさっきまで聞こえてた声もしなくなった……。」


律「まさか死……。いやいや、悪い方に考えちゃダメだ。らしくないぞ田井中律!」


律「とにかく、徹底的に探すんだ。まずはあの教室から……
んっ?今、あの階段を誰かが登ってった気が……」


もしかして澪か?


「ギャアァアアァアァア!!?」


律「……!?違う、今のが澪の叫び声だ。……?
なら、さっきのは誰だ?」


律「……いや、とにかく、今は澪だ。
急げ、ワタシ。」ダッ


   ━━━━━━━。


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最終更新:2011年06月15日 03:07