律「澪っ!」


澪「り、律……わた……あっ、私……」


呂律が上手く回らない。
声も震えていて、ちゃんと言葉になってるかどうかすら不安だ。


律「落ち着け!大丈夫か!?何があった!?」


澪「こ、これ……」


私は腐汁のついた手で『それ』を指差した。


律「…………え!?」


律が目撃した『物』。
それは、まだ腐りかかった肉やポロポロの服が所々骨を覆っている、人の死体だった。


律「うわぁアァア!?し……死体ッ!?本物ッ!?嘘だろォッ!!?」


律「み、澪!立て!こっ、こんな所……ッ、早く離れなきゃ……」


      キ……


澪・律「!?」


      キ、キ


澪「今……なんか声がしなかった?」


    ギ、ギギ


律に問うまでもない。
紛れもなく、その腐った死体から聞こえてくるものだった。


律「み……お。」


その時、ボゥッと青白く光る『何か』が死体からスズズッと飛び出してきた。
その丸い物体(?)は、宙に浮いたまま私達の反応をうかがっている。


澪「ひっ人魂!?」


私は逃げ場を求めるようにして律の顔を見る。
相当酷い顔をしているが、私はもっと酷い顔をしているのだろう。


?「……キ・ミ・タ・チ」

人魂がしゃべりかけてきた。

?「キ・ミ・タ・チ ハ、新シイ犠牲者か……」


澪「あ、あ……ぁ、あなたは……?」


?「……キミ達と同ジように……無理ヤリ此処に、『監禁』サレタ者だ……。」


律「監禁って……外には出られないって事か……?」


?「……そうサ。この学校ハ、キミ達のイタ世界とは 切り離されて存在している。」


澪「どうして……そんな所に、私達……」


?「『彼等』ガ。何人も何人も、この空間に送り込んでいるらしイ……。」

?「……何の罪も無い、生きた人間を次々とね。」

?「……此処は、恐ろしい力を持つ 怨霊が作り出シた、呪われた異次元空間…… 幾つモの空間が重なり合う、」


?「閉じられた【多重閉鎖空間】さ……。」


?「キミ達も我々も、運悪く手ニ掛カった……『誘拐』の被害者ト云う訳だ。」


澪「多重……閉鎖空間?」


?「ソウだ……。」


?「キミ達二人の他にも…… 此処に連レて来られた者が、何人かイルみたいだね……」


澪「━━!(まさか……本当に……みんなもここに?)」


澪「(……無事……なのかな…… 心配……)」


律「み、みんなも、この学校の何処かにいるの?」


?「何人かは、ワタシニはワカらないが……
君達と同時に 連れて来られた人間ガ 数名、」

?「この学校に確かニいる……」


律「よっしゃ! 澪、みんなも一緒だってさ!」


澪「…………っ」


律「憂ちゃんや、さわちゃんもきっと居るよ!いやぁ、良かったぜ澪!」


?「ダが……会えない」


澪・律「えっ?」


?「……この学校内二 確かに居るが、存在している次元が違う。」


?「再ビ仲間と逢いたけレば、"同じ次元"に存在する方法を見つけなけレばならない…… そうすれば」


?「脱出は出来なくトモ……せめて一緒に死ヌ事くらいは出来るカモ知レないな……」


律「そ、そんな……どうやったら 帰れるんだ?」


澪「怨霊って、何者だ? どうしてこんな事を?」


?「……わからない……
彼らの目的モ、ここから抜け出す方法モ……」


?「だが……頑張れるカもな ……キミ達は一緒ノ次元に存在出来タだけ……まだ幸運ダ」


?「頭が二つアレバ、発想も広ガル」

?「……なんとか脱出方法を見ツケ出スンダ……」


?「ワタシ達ノヨウニ……
ナラナイデクレ……」


   …………ガラッ


澪・律「・・・?」


突然、閉まっていたはずのドアが音を立てて開いた。

そのドアの向こうには……?


律「……誰もいないぜ?」


澪「そんな……風で勝手に開くようなタイプのドアじゃないのに?」


?「……ヒィ!?」


律「どうした!?」


?「い、イル……黒板の所に……」


?「赤い少女が……!」


澪・律「なにっ!?」


私と律が同時に黒板の方に目を向ける。
そこには、血のように真っ赤に染まったワンピースにお腹の裂けた熊のぬいぐるみを持った、まだ小さな女の子がいた。

*「……キャハ♪」


血走った目……っというより、血が溢れて垂れている目をギラつかせながら、狂ったように笑い出す。


*「キャハハハハハッ♪」


律「うわぁ!?み、澪逃げるぞ!早くっ!(この笑いを聞いてると……)」ダッ


澪「う、うん!(頭痛や耳鳴りがする……)」ダッ


澪「うっ……足が……」ズキッ


澪「わぁっ!?」ドテン


律「ちょっ!?」ドテン


突如、足の痛みに耐えきれなくなった私はドミノ倒しのように律を巻き込んで転倒した。
そんな間にも赤い服の女の子はこっちに迫ってきている。


律「あ……あ、あ……」


澪「ごめんっ!?大丈夫か!?」

私は律の腕をつかんで引き上げるようにして、一緒に立ち上がろうとした。


澪「……律?」


律がカッと目を見開いたまま動かない。
その視線の先は、赤い服の女の子のおぞましい目に吸い込まれていた。


澪「おい!律!しっかりしろ!律っ!!」


律「……はッ!?」


律「み……お……?」


澪「あぁ、私だ!逃げるぞ!!」ダッ


私は律の手を引っ張って教室の外に出た。


   ━━━━━━━。


澪「ハア……ハァ」


律「ゼェー……ゼェー」


必死で逃げた私達は廊下の壁を背にへたりこんでいた。
2人とも荒くなった息づかいを静めようと、躍起になっていた。
しかし、私達の意志に反して心臓の鼓動の高鳴りがなかなか収まってくれない。

律「……追って来ないな?」


律が【2のAの教室】の出入口をひたと見据える。


澪「あぁ……なぁ、さっきの子ども?幽霊?」


澪「ぼんやり光ってたよな……。幽霊とかなんとか……信じられないんだけど……!」


澪「本当に現実なのか?これ……」


律「でも……人魂とか いたし…… あんなの初めて見たぜ?」


澪「律も見たんだよな……?」


律「あぁ……、話もしたよ……。」


澪「わけ、わからない……!」


澪「けど……ただ校舎を出れば家に帰れる……なんて、簡単な状況じゃないのかも……。」


律「……だ、大丈夫だって!いつもみたいに元気よく行こうぜ!……な?」


澪「……、うん」


律「それとさ……やっぱり3階行ってみよう?
さっき、澪を追いかけてる時、誰かが登って行った気がしたんだ。」


澪「唯達……かな?」


律「わかんない……けど 知らない人だとしても 、もしかしたら脱出するのに協力してくれるかもしれない。」


澪「……そうだな。よし、行こう。」


澪「……ところで、どっちの階段だ?」


この通路の左右の突き当たりにはそれぞれ登る階段がある。


律「えっと……あ、あれ?」


律「……どっちだっけ?」


澪「……おい、自慢の頭の中の地図はどうした……。」


律「むっ……、誰かさんが急に走り出すから、ここまでの道を覚える暇無かったんだよ。」


澪「……、」


律「あっ、ご ごめん……澪……」


澪「……別にいいよ。」


律「……とりあえず、あっちの階段見てみよっか!」

澪「……うん。」


私達は左側の階段に向かうことにした。


   ━━━━━━━━。


律「あっ、あれは……【1のAの教室】!」


澪「なるほど、こっちの階段は1階に降りる前に見た、上に上がる階段か。」


律「ここに繋がるのかぁ!……って、おい!?
これって私達、【1のAの教室】周辺しか、まだ調べられてないってことじゃないか?」


澪「……常に恐怖でストレスを感じてるから、時間や距離の感覚が狂っちゃってるんだろうな……。」


律「……けっこう走り回った気がするのに……。」


澪「私もだよ……。」


律「……とりあえず、登ろうぜ!」


律が先に上り始めた。
私もその後ろをちょこちょことついていく。

しかし、3階を目指す私達の目の前に現れたのは…………


律「なんだ?これ?」


階段には、机や椅子が複雑に積み重なり、屈強に立ちふさがっていた。


澪「……バリケードみたいだな。これじゃ通れない……。」


けど、誰が何のためにこんな物を?


律「くそっ、誰かが登って行ったのを見たのは、向こうの階段だったのか……?イマイチ思い出せない……。」


   クルシイ……イタイ……


律・澪「……っ!?」


律「……聞こえたか?」


澪「……あぁ、私達の背後から……だよな?」


私は律の手をギュッと握って、そぉっと後ろを振り返った。


?「イタイ……イタイ……。」


澪「ヒッ!?」


律「また……人魂か?」


?「オマエ 達 が、新タナ 迷イ子 か」


迷い子?あぁ、犠牲者ってこと……か。


澪「そうだけれど……あの、あなたは?」


?「キミタチノ 先輩 ってトコだ キミタチも モタモタ シテイタラ いずレ コウナル」


律「……それはどういう……」


?「コレダケハ 覚エテオケ 」


律「おい!?無視か!?」


?「コノ、ガッコウ デ死ヌト 死ンダ、トキノ 痛ミ クルシミ、ガ、永遠ニ 続ク……」


?「成仏ノ ミチ ガ、完全二 閉ザ サレテ イルカ、ラ」


?「ウゥ……オレハ ナンデ アンナ、死ニカタヲ……ウァゥア。」


?「ドレダケ 探シテモ 【あいつ】は 見ツカラナイ。」


?「目二 ツクノハ ただタダ 絶望ノミ ダッタ。」


律「お、おい……」


?「……先輩カラノ 選別ダ コレヲ 持ッテ イケ」


      ━━チャリンッ


金属質の物が床に落ちる時の独特の音が響き渡る。


【不明の鍵】を手に入れた。
タグも何もついてないのでどこの鍵かはわかりません。


律「これは?」


?「オマエラ二 必要 な 物ダ」


澪「どこの鍵……」


?「ソロソロ、時間……」


律・澪「……!?」


人魂の輪郭がどんどんぼやけていってる。


?「オ前ラハ……負ケルナ……ヨ」


━━━━━コレデイインダヨナ?マ……ゆ……



そう言い残してその人魂は消えていった。


澪「し、死んだ瞬間の痛みが永遠に……」ガクガク


律「……できるだけ考えないでおこうぜ?」


立て続けに出会った2名の犠牲者。
それに謎の赤いワンピースの女の子。
この先にどんなことが待ち受けているのか、嫌でも頭についてしまう。
それらを振り払うようにして私達は淡々と行き止まりだった階段を降りていった。


澪「結局、律の見た人影ってなんだったんだろうな?」


律「気のせいだったのかな?」


澪「年のために向こう側の階段も調べて見ようか?」

律「……そうするか。」


   ━━━━━━━━。


4
最終更新:2011年06月15日 03:09