【シール2】を手に入れた。
【1階西階段】の手すりにあった亀の像に貼られていたものと同じ物で、可愛い猫のプリントが描かれたシールはなんだか私達に既視感を漂わせている。
粘着力がほとんど無いことから貼り付けられてから、多大な時間の経過が伺える。



澪「……2枚目のシールか。それも全くの同じ種類の。粘着力も1枚目とさほど変わらないから同時期に同一人物が貼ったと考えるのが適当かな?」


律「だろうなぁ。でも、何の為にこの人は2枚もシール貼り付けてんだろ?」


澪「……さぁ?」


気がふれたのかもよ、っと言おうと思ったがやめた。ますます気が重くなるだけだからだ。


律「……おっかしいなぁ。」


律の幸せのサチ子さんのお守りは結局【2のAの教室】では見付からず、私達はすごすごとその部屋を出た━━━━━。


   【2階廊下】


      ブブッ


律「……あぁっ、もう!やっぱりハエうぜぇ!」


今、私達は【2階東階段】の奥にある廊下を歩いている。
やはり、ここら周辺に来るとハエが多数飛んでいる。


澪「……(なんで、ここに来たとたんハエが出てくるんだろう?
いや、むしろ進むに連れてハエの数が増えてる……。)」


まぁ……ハエくらい気にすることじゃないか。


澪「さわ子先生や憂ちゃんの声が聞こえたってことは、次元が重なったってことなのかな?」


      ブブッブブッ


私は、【2のAの教室】で出会った人魂が言っていたことを思い出しながら律に話を切り出す。


律「どうなんだろうな?だけど、実際、声が聞こえたところに行ってもさわちゃんには会えなかったわけだし……」


律「あれ?でも、そこにいなけりゃ声なんて聞こえないはず……?」


     ブブッブブブッ


律「だぁぁ!やっぱりわかんねぇ!」


澪「もっとあの人魂が情報くれれば良かったのになぁ……。」


律「まぁ、そんなこと言ってもしょうがないだろ。気楽に行こうぜ~!」


澪「……、」


     ブブブッブブッ

いつまで『気楽に』なんて言えるのだろうか。
いや、もともと私達にはそんな余裕は……


律「おっ!理科室発見!」


律の楽しそうな声が響く。
普段は場を和ませているこの声が、今ではハエの羽音と同じで私をいっそう苛立たせているような気がする。


律「って、理科室も開かねぇ!ここも、窓や玄関と一緒で固定されてるような感じだ!」


私達はさらに奥へと進んだ。


ブブッブブブブッブブッブブッブブッ


澪「……なんか臭い。」


律「えっ?いや、だから風呂はちゃんと……」


澪「あぁ、わかってる。そうじゃない。」


そう、これは……この臭いはあれだ。
【1のAの教室】の戸棚に漂っていた臭い……。


澪「血と……内臓の臭い……。」


      ブチュ━━


律「んっ?なんか踏ん……」


律「ギャアァアアッ!?」


私がそう呟いた途端に律の怒鳴り声にも似た叫び声が私の頭蓋骨を揺らした。


澪「律っ!」ダッ


澪「……っ!?」


そこには凄惨な光景が広がっていた。
律の足元の床と壁一面は乾いた血で黒く染まっている。
しかも、そこら中に千切れた肉片や内臓が散乱していて、それらにはびっしりとハエがたかっていた。

……通りでハエがたくさんいるわけだ。


澪「き、気持ち悪い……。」


律「ふ、ふふふ踏んだッッッ!?」


澪「ほ、ほら……ティッシュやるからさっさと拭いとけっ!」


律「あ、あぁ……ありがとう。」ゴシゴシ


澪「……」


律「私が踏んだこれ……絶対に腸だよ……。だって、踏んだ瞬間っ、ブチュって!うんこみたいなのが出たもん……。」


澪「……うぷっ……や……めろ……けほ……吐いちゃうじゃないか……こほ……」


律「ご、ごめん……。」


澪「……いったい 何なんだよこれっ……」


律「何があったかはわからないけど……なんか、壁に思いっきり、 向こうか、叩き付けられて、潰れた死体っぽい……。」


澪「けふ……う うう…… う……ふう……っ」


律「大丈夫か!?ほら、全部出しちゃった方がスッキリするよ……。」


澪「うぅ……悪い 律……。」


律「とりあえずどこかで休もう……!」


律「ほらっ!澪!あそこ!保健室がある!あそこで休もう!」


律「……澪、歩けるか?」


澪「ん……大丈夫。」


澪「悪いな、律……。面倒かけちゃって……。」


律「気にしない気にしなーい!辛いときはお互い様だぁ!」ニコニコ


律「それにしても、近くに保健室があるなんてラッキーだな♪これで澪の足の手当ても出来るかもしれないし!」


澪「……ありがとう。」


        カチャリ


律が手早く扉の鍵を開けてフラつく私を支えながら、保健室の中へと入っていった。


    ━━━━━━。


   【保健室】


保健室は床の破損も少なく、他の部屋に比べれば割りと綺麗な部屋だった。

戸棚がいくつかと流し台、あとストーブが設置されており、壁には

 "せっけんで 手
      を洗おう"


などと言う張り紙もしてあった。


保健室の先生用の机もあり、その上にはスタンドライトや日記が整理されて置かれていた。


律「おっ!ベッド発見~!」

澪「そりゃ、保健室だしな。でも、ベッドだけは案外、埃っぽくないね?」


さっきまで誰か使ってたのかな?


律「そうだ、澪。ちょっとそこに腰かけといてくれよ!」


澪「えっ?……うん、わかった。」


律がなにやら戸棚の中をごそごそとあさり始める。

再び私の元に戻ってきたに、律の手にはある物が握られている。


律「ジャーン♪板切れと包帯ゲットしたぜ!」


澪「……?」


律「訳がわからないって顔してんな。よーし!見てろよ!」


律「えーっと、ここに板切れを添えてっと。後は包帯でグルグルに巻いて固定……うん!カンペキ!」


律「どうだっ?澪?」


澪「……すごい楽になったよ。ありがとう、律!」


澪「これなら、またしばらく動けるよ!さっ、憂ちゃんとさわ子先生探しに行こう!」


律「ちょ……ストップ澪!」


律「憂ちゃんもさわちゃんも、もう声が聞こえないわけだしさ。とりあえずここで待とうよ!」


澪「えっ?」


律「いや、だってさ。声がしないと、どこにいるか見当もつかないし、やみくもに走っても疲れるだけだよ。」


律「それに澪の顔色もまだ悪いし。」


澪「う……」


律「横になってたら気分も少しは良くなるだろうし……憂ちゃん達はまた声が聞こえたら探そう。」


澪「律……わかった。ならちょっとだけ横にならせてもらうよ。」ヨイショ


律「おうっ……なんでわざわざ隅っこのベッドを?」


澪「エヘへ♪隅っこの方がなんか落ち着くんだよな、私!」


律「……やみっこ?」


澪「否、断じて否!」


律「ククッ、冗談だよ!ちなみに私も隅っこ大好き派だ!」ガバッ


澪「ガバッってお前も寝るんかい!」


律「……zzz」


澪「って、もう寝てる……まぁ、いっか。」


律「お許しもゲット!では遠慮なく……」


澪「へんな律……。」


律「ひでぇ。澪だって今日は十分変だぜ。」


律・澪「…………、」


律「なぁなぁ、澪ォ?」


澪「んっ?」


律「唯に会ったら何したい?」


澪「……は?」


律「だってさ、ほら……釣り橋効果だっけか?
極限状態に置かれた二人って、恋に落ちやすいって言うじゃん?」


律「さっさと覚悟決めてさぁ 告っちゃぇよ!」


澪「待てっ、なんで私が唯のことが好きなのを知って……」


律「片耳ピアスは同性愛者の密かなアピール。」


澪「……、」ピクッ


律「最近、唯の前でだけ必ずつけてるだろ?
まぁ、今はこんな状況で外すのも忘れてるみたいだが。
あとは、雰囲気と幼なじみとしての勘!」


澪「……それ、他の人には言ってない?」


律「私が?言うわけないだろ。」


いや、お前だから心配なんだよ……。


澪「……唯、受け止めてくれるかな?」


律「正直なところ、どうとも言えない。ただ、一つだけ言えるのは……」


澪「……言えるのは?」


律「どんな結果であれ、私は澪の恋を応援するってこった!」


律「いつでも、私は澪の味方だよ!」ニコッ


澪「……ありがとう、告白は考えとくよ。」


律「早く会えるといいな」


澪「……うん」


律「でも一方で、唯までこんな酷い目に遭ってなければ良かったのにって」


律「ここにいなければ良かったのにって心配してるんだよな……澪」


律「これって母性みたいなものなのか?……深いわ~」


澪「(軽い口調でよくみてるよね……律。やっぱりかなわないや。)」


澪「(さっきから結構 辛くあたってるな私……あとで、謝らなきゃ)」


……おねぇ……ちゃぁーん ……うぁーん
  ……うぁ ー ん


澪「━━また 憂ちゃんの声……!」


律「聞こえたな……ちょっと見てくるよ。」


澪「うん、それじゃ私も……」


律「澪は、もう少し休んでてくれ。 すぐに戻るからさ!」


澪「でも、心配だし 私も行くよ。」


律「ん、ダイジョブだって! ここでちょっと待ってて?」


澪「でも……」


律「四の五の言わずに、せっかくの機会なんだし、もう少し休んでろって!」


澪「……うん、わかったよ……」


私がしぶしぶ頷いたのを確認してから、律は保健室から出ていった。


澪「(……あ……ホントに楽になった……流石だなぁ、律)」ガタッ


澪「ふぅ……」


澪「それにしても、この足だと確かに全力では走れないけどさぁ 置いてくことないじゃんか……」


澪「…………(律 憂ちゃんのこと見つけてくれるといいけど……
ちょっと心配だな。)」


澪「(先生……みんな……唯……どうしてるかな)」


澪「……、」


澪「会いたいよ……」


澪「何で……こんなことに……」


澪「……くよくよしててもしょうがないか。律のおかけで足もだいぶ楽になったし……やっぱり私も憂ちゃんを探しに行こう。」


そう思って、私は保健室の扉に手をかけた━━。


        ガチャリ


澪「……? どうして鍵まで閉めてるんだ……!?」


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最終更新:2011年06月15日 03:15