よく見ると鍵は外したままになっていた。


澪「うそだろ……!?鍵かかってないのに、開かない……!」


扉は空間に固定されていて開きません。


      キャハハ……
       ……アハハ


澪「……? こ……子供の ……声?」


 夏休みニハ 皆さんで     遠足ニ 出掛け マショ     ウ   ?

澪「だ……誰? 何?」


澪「なんか……頭が痛い……耳鳴りがする……」


      キャハハ━━


澪「あれっ……?あの張り紙!?」


私は壁にかじりつくようにして張り紙の内容を何度も確認する。

そこにはこう書かれていた。


 "せっけんで
    血  を洗おう"


澪「ヒィィっ!?」


手を洗おうだったはずなのに……内容が変わってる!?

      ジジッジ━━

今度は照明が音を立ててフッと消えた。
明るかった部屋が暗くなり、よりいっそう恐怖感を煽られる。

しかし、そんな部屋の中でも一部だけ明るい場所があった。
そう、机の上にあるスタンドライトが狂ったようについたり消えたりを繰り返しているのだ。

しかも、ボールペンで何かに書きなぐる音まで聞こえてくる。


澪「ひ、人の……気配……。」


その時……、


?「 サッちゃーん 迎えに来てくれたの ?」


      ズズズッ


子どもの声とは別の女性の声。

何もないところから人の形をした黒い霧のようなものが這い出てきた。

直感でなんとなく分かる。
間違いない。

     こいつが……


    怨霊


澪「……ッ……!」


そいつは獲物を見つけた狩人のように、一歩、また一歩と私に迫ってくる。


澪「(に、逃げなきゃ……!)」


澪「……!?やっぱりこの扉開かない!?」


反射的に扉を開けようとするもののやはり扉は全く動いてくれない。


澪「何でだ!?くそっ……ヒッ!?」


思わず、口から悲鳴がこぼれてしまう。
なぜ、扉が開かないのか今分かった。

なぜなら、扉にたくさんの黒い髪の毛が 何重にも絡まっていたからだ。


澪「どうなってんだよ!いったい!……うわっ!?」


私は、肩を捕まれそうになったのをかろうじて回避した。

だが、━━━━


澪「ウソ……こっち行き止まり……」


澪「(逃げられないっ……!)」


澪「きゃあっ!?」


……とうとう、黒い霧のようなものが体中に絡み付いて来た。


触手のように伸ばした霧の腕が穴という穴から私の体の中へ侵入してくる。


澪「(このままじゃ……こいつに取り込まれるっ!?)」


澪「うっ……ぐっ うっ……」


澪「ケ……う……クヒッ ひっ……く……」


澪「(も…もうダメだ……口や鼻を塞がれて……息ができない……。」


澪「(意識が……律……助け……)」


「…………お!?」


「澪ッ!!!」


澪「(律が……私を呼んでる……)」


澪「(そうだ、私はみんなと一緒にここを出るんだ!こんなところで……)」


澪「死ね……ない!」


澪「この……このおっ!
放せェェェエェエ!」


私はこの霧を振りほどこうと力を振り絞り、ジタバタともがいた。
すると、耐えかねたのか怨霊がたまらず私を宙に投げ出した。

      ドンッカラン


澪「痛ッ……うぅ……」


怨霊を振りほどけたのはいいが、投げ出された勢いで戸棚に頭から思いきり衝突して思わずうめき声がでた。


澪「(危ない……頭打って意識が飛びかけた。)」


しかし、そんな間にもあいつは私を取り込もうと再び追い詰めてくる。


澪「く、来るな!」


私が戸棚にぶつかった拍子にいくつか落ちてきたビンの中の一つを怨霊に投げつけたが、虚しくもビンは怨霊には当たらず、壁に衝突して割れた。


……しかし、これが幸を成すことになる。


澪「(くそっ、どうやったら逃げ切れる、考えろ私!)」


再び怨霊と距離を取る。
今度また取り込まれそうになったら恐らく……


澪「……んっ?このスゥーっとする臭い……これはアルコールのビンなのか。」クンクン


澪「アルコール……そうだ!」


私は怨霊を牽制しつつも摺り足でストーブのところへ移動した。


澪「どこだ!あるはずだろ!頼む、出てきてくれ!」

澪「……あった!」


【マッチ】手に入れた。
箱が汚れてる割りには中身は湿気ていなく良好です。

澪「よしっ!これで……」


私はアルコールのビンを扉に投げつけた。
当然のようにビンは割れて中身が髪の毛に降りかかる。


澪「お願い!ついて!」


      ジュッボッ


マッチを擦ると直ぐ様柔らかな光が私を包んだ。


澪「……点火ッ!」


     ボッーパチパチ


私は火のついたマッチを扉に投げ捨てる。
アルコールの染み込んだ髪の毛は激しく燃え上がりあっという間に塵になって消えた。


澪「……これで扉が開くはず……熱っ!?」


取っ手にかけた右手を思わず引っ込めてしまう。


澪「が、我慢できるような熱さじゃない……」


      ズズズッ


澪「……ひっ!?」


背中のすぐ後ろにチクチクと視線を感じた。


澪「(もう、すぐ後ろまで来てる!?くそっ、熱いなんて言ってられない……。)」


澪「ぐっ……く……うわぁぁああ!」


        ガラッ


私は手のひらが熱でジリジリと焼ける痛みを奇声に変えて思いっきり扉を開ける。


私は切り開けた脱出口に、蹴飛ばされた猫のようにしてすごい勢いで駆け抜けた。


【2階廊下・保健室前】


澪「ハァッ、ハァッ、
   ……ハァッ、ハァ」


澪「(……追って……来ない?)」


人間には怖いもの見たさと言う恐ろしい機能が備わっている。

あの場を切り抜けて半ば興奮気味だった私は、恐怖感より好奇心の方が勝り、バッと扉の開いた保健室に振り返る。

だが、振り返ったとたんに後悔した。

怨霊は追ってこそ来ないがそこから出ようと抵抗しているかのように、扉をガタガタッと揺らしながら私をずっと睨み付けていたからだ。



?「殺 し て や る」


澪「ひぃ……!」


澪「うぷっ……おぇっ…………」


奴の瞳の奥深くから伝わってくる、あまりにも強い殺意に気圧された私は激しい嘔吐感に教われ、胃の中のものを全て廊下の壁にぶち撒けてしまった。


澪「……けはっ、ごぼっ けほっ、けぼっ!」ガチガチガチガチ


      ガシッ


不意に肩を掴まれた。
瞬時に私はその場に凍りつく。
私の脳裏にはさっきの黒い霧の人がチラチラと姿を見せている。


澪「わぁっ!?(まさか……追ってっ!?)」


肩に乗せられた手を振り払うようにして、バッと振り返った私の視界に入ったのは……


律「澪! どうしたんだ!?大丈夫か?!」


心配そうに私の目を覗き込む幼なじみの姿だった。


澪「律……」


澪「ごめん、戻しちゃった……」


律「謝ることないじゃん……澪……」


澪「うっ……ぷ……」


もう、胃の中にはなにも残ってないはずなのに……
それでも、私はまだ吐き足らないらしい。


律「大丈夫、吐いちゃったら楽になるよ」


律「背中……擦ってあげる……」


澪「うん ……ありがと
でも……もう、平気っぽい。」


私は律に心配は掛けますまいと無理矢理笑顔を作って見せる。
だが、その顔は引き吊っていて相当酷い顔をしているようだ。
律の困ったような表情を見ていたらわかる。


律「ところでどうしたんだ、澪?」


律「戻ってきても扉開かないし、呼んでも返事がないからいないかと思って他探してたのに」


律「やっぱりいないから、こっちに戻って来てみれば、すごい勢いで澪が扉から扉から飛び出してきて……」


澪「休んでたら急に……
真っ黒な幽霊みたいなのが出てきたんだ……」


律「マジ!? ……大丈夫だったのか?」


澪「なんとか……でも、どっちにしろあの部屋には今後近付かない方がいいと思う……。」


律「そうか……よかった とりあえず無事で……。」


澪「……それより、憂ちゃん、いた?」


律「ううん……」


律が静かに首を降る。


律「……やっぱり 此処には……この学校には」


律「私達2人しか……生きてる人いないみたい」


律「人を探す叫び声も呑み込んでしまうくらい……静か過ぎるもの」


澪「…………。」


律「……じゃ、そろそろ行こっか 立てる?」


澪「……あぁ」


私は膝に手をついてなんとか立ち上がる。

そんな私の胸の中にはある疑念が渦巻いていた。


澪「でも、
  行くって何処に?」


ズバリこれだ。


律「ん……と……」


澪「もう、大体廻っただろ……校舎」


澪「見つける人、みんな……死んでたじゃん」


律「…………。」


澪「(あ……やばい また私……)」


澪「もう、無理だよきっと
……疲れた」


澪「(また、子供みたいになってる……。)」


律「み、澪 元気出せよ?何とかなるって!」ニコッ


律「ありえないじゃん? 死ぬなんて、私達……」


律「明日は朝イチで、スタジオの予約入れてるし……」


律「午後からは ほら、
 新作の予約してたCD取りに行かなくちゃいけないし」


律「ついて来てくれるんだろ?」ニコッ


またっ……あの笑顔。

……不快だ。


澪「……帰れたらな……」


澪「(……律にあたっても仕方ないだろ……)」


澪「(……止めなきゃ、心……)」


律「み、澪疲れちゃったか?
らしくないぜ? なんか」

律「……もっとテンションアゲて行こうぜ!そしたら 全然 全く 毛ほども怖く無いって!」ニカッ


幼少の頃……
引っ込み思案だった私を救ってくれたあの笑顔が

今の私に取ってはこの理不尽な状況への怒りの矛先へとなっていた。


澪「……なぁ、何が そう楽しいんだ?」


律「ん、ん?」


澪「なんか、ずっと笑ってる」


律「そ、そうかな……」


澪「このまま、ホントに出られなかったら……どうするの?」


律「…………。」


澪「真剣に考えてる?何とかなるよ、じゃなくてさぁ!」


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最終更新:2011年06月15日 03:16