澪「あれ……どこに行ったんだろうな」

唯「? どうしたの澪ちゃん」

澪「ん? あぁ、何でもないよ。気にしないで」

唯「ん~?」

澪「……」ポケー

梓「(澪先輩どうしたんでしょうね」

紬「(今日は一日中上の空……心配ね」

唯「(りっちゃんが風邪でおやすみだからかな?」

梓「(他にも理由がありそうですけど……」


澪「どこ行ったんだろうな……」

紬「(さっきからどこ行ったんだろうって呟いてるわね」

梓「(何か落とし物したんでしょうか?」

唯「(それとなく聞いてみよう!」


唯「澪ちゃん何か落とし物でもしたの?」

澪「えっ?」

梓「全然それとなくないじゃないですか……」

澪「うん……まあ、そうなんだけど。今更どうにかなるものじゃないし」

紬「いつ落としたの?」

澪「……小学四年生ぐらいかな」

梓「それは……確かにどうにもなりませんね」

澪「うん。だから、いいんだ。心配かけてごめんな」

唯「澪ちゃん……」

澪「ただ……何となくこの時期になると思い出すんだ。どこに行ったのかなって……」


────

澪「じゃあ、私はこっちだから」

唯「うん。またね~澪ちゃん」

澪「……」トボトボ


梓「元気なかったですね、澪先輩」

紬「りっちゃんのお見舞いにみんなで行けばちょっとは気が紛れると思ったんだけど……」

梓「仕方ないですよ。この時間は点滴らしいですし」

唯「むぅん……」

梓「何唸ってるんですか唯先輩」

唯「澪ちゃんの無くした大事なもの……探してあげられたらいいのにな~って」

梓「そうですね……律先輩がいなくてただでさえ元気がないのに無くした物の思い出まで思い出すなんて……でも」

梓「小学四年生……今から8年も前の落とし物を探すなんて無理ですよ」

紬「もし、……無理じゃないとしたら?」

唯梓「!?」

梓「何か手がかりでもあるんですかムギ先輩!?」

紬「ううん、でも……『その場に居合わせれば』、可能じゃないかしら?」

梓「その場に居合わすって……」

唯「ムギちゃん……まさか!」

紬「琴吹グループは色々なジャンルで仕事をしているの」

梓「車とかロケットとかの開発もしてるとか、ですよね?」

唯「凄いねムギちゃん!」

紬「私は何もしてないんだけどね。お父様が凄いの」

唯「じゃあムギちゃんのお父さん凄いね!」

紬「ふふ、ありがとう」

梓「それでそれがさっきのとどう関係があるんですか?」

紬「うん……その中の1つにね、あるの」

梓「……ま、まさか」

紬「時間逆行制御装置……つまり、タイムマシンよ……」

唯「じゃあ早速それで澪ちゃんの落とし物を探しに行こう!」

梓「ちょちょちょ、まってください! なんでそんなあっさりなんですか唯先輩は! タイムマシンですよタイムマシン!
あの実現不可能と言われているタイムマシンがあるなんてノートン先生もビックリなことですよ!?」

唯「やだな~あずにゃん。ドラ○もんだと21世紀になったら当たり前にあるって言ってたよ~?
あずにゃんったら遅れてる~」

梓「アニメと現実を一緒にしないでください!
この世界じゃ車は空を飛ばないしタイムマシンもないんです!」

紬「タイムマシンはあるわよ~」

唯「ほら~あるんだって!」

梓「ああもうっ」

紬「梓ちゃんが驚くのは無理もないわ。時間って概念は通常私達人間じゃ越えられないものね」

梓「擬似的に越えることは出来たりするらしいですけど……タイムマシンって言うにはちょっと違いますもんね」

紬「梓ちゃん詳しそうね~」

梓「そんなことないですよ。ちょっとSF小説をかじったくらいで」

唯「とにかく今大切なのは澪ちゃんだよ!
あんな辛そうな澪ちゃん見たくないもん」

紬「そうね……何とかしてあげられるなら何とかしてあげたいわね」

梓「でも……(タイムトラベルには危険も伴う……)いや、わかりました。やってやりましょう!
時間を越えての落とし物探し!(所詮は本当に行ったことのない俗説です! 私が真のタイムトラベラー、アズ・タイターになってやるです!)」


紬家前──

梓「ムギ先輩遅いですね……」

唯「ねぇあずにゃん。タイムマシンってやっぱり乗るのかな!?」

梓「どうですかね……フィクションの世界でならいくつも登場しますけど」

唯「車がいいな~。こうぎゅあ~ん! どしゃーん! ぎゅんぎゅんっ! ズババババーって!」

梓「バック・トゥ・ザ・フューチャーですか。有名ですもんね。
でもタイムトラベルの衝撃が物理的な衝撃とも限りませんし……乗り物とは限りませんよ」

唯「なんかよくわかんないけどあずにゃんカッコいい!」

梓「まあ唯先輩よりは知識ありますかね」

唯「じゃあこれからあずにゃんのことあずにゃん先生って呼ぶね!」

梓「いえ、結構です」

唯「えー」

紬「お待たせ二人とも」

梓「タイムマシンは!? タイムマシンはどこですかムギ先輩!?」キョロキョロ

唯「あずにゃん落ち着きなよ」

紬「これよ~。お父様の書斎からこっそり持って来ちゃった」

梓「これは……」

唯「時計?」

紬「そう。懐中時計」

梓「はは……ははは、あはははは」

唯「あずにゃん?」

紬「どうしたの梓ちゃん?」

梓「どうしたもこうしたもないですよ! タイムマシンですよ!? 時間を越えるんですよ!?
そんな大質量を産み出さなきゃならないものが懐中時計なんて……あり得ないですよ!」

紬「で、でも……お父様と斉藤がタイムマシンだって……」

梓「聞き間違えたんじゃないんですか?
『それはこの屋敷の奥にあるタイムマシンを起動させる暗号になっているのだ、ふふふ』とかのタイムマシンだけを抜き取って聞いちゃった……とか」

紬「……そうなのかしら」

唯「でもこの時計の中についてる石……綺麗だね~」

梓「本当ですね……。ダイヤモンド……じゃないですね。真っ白……真珠みたいだけど……透き通ってます……ずっと見てたら何だか吸い込まれそうですね」

紬「お父様達が言うには特別な石らしいわ。それがタイムトラベルを可能にしてるんだとか」

梓「この石が……ですか」

唯「とりあえずやってみようよ! タイムトラベル!」

紬「そうね! 百聞は一見に如かずですもの」

梓「……はあ(そんな簡単に時間を越えられるわけないですよ……」

唯「澪ちゃんが小学4年生の頃だから~」

紬「今から八年前ね。時期は今頃って言ってたから今日にしましょう」

梓「どうやって年月日を決めるんですか?」

紬「この短針を右に進むと未来に、左に戻すと過去に飛べるらしいわ。つまり八年前だから左に8、短針を戻すの」

梓「ふむふむ」

紬「長針は月、つまり今は6月だから6に合わせて……」

梓「なるほど……」

紬「後は秒針を行きたい日時に合わせるの。13日だから13ね」

梓「秒針も60ありますけど日は30しかありませんよね?」

紬「1~30はその日の午前、30~60はその日の午後に飛べるらしいの。何時かはあまり指定出来ないらしいわ」

梓「ふむふむです。で、出力は……」

唯「早く行こうよぉ~!」

紬「最後にこの横の時間を合わせるボタンを押せばタイムトラベルよ!」

唯「なんかドキドキするね!」

梓「はいっ! 時間を越えるなんて一生に一回出来るか出来ないか、いや、普通出来ませんよね!」

唯「何かこうポーズとか決めた方がいいかな?」

梓「ポーズ、ですか?」

唯「ターイムトラベルースイッチ! オンッ! みたいな」

梓「何かロボットの合体シーンみたいですよそれ」

唯「うぅ~でもなんかやりたい」

紬「こんなのはどうかしら? 澪ちゃんの思い出を探す時間旅行だから……」

紬「タイムトラベル Look for memories」

梓「思い出を探しに時間旅行ってことですね」

唯「英語わかんなーい」


────

唯「じゃ、行くよ!」

紬「ええ!」

梓「はい!」


唯「タイムトラベル!」ビシッ

紬「Look for~♪」ホワホワ

梓「memoriesです!」ポチッ


梓「なっ……時計の針が……めちゃくちゃに回って……」

唯「なんだか……ぐにゃぐにゃするよ~?」

紬「何かに掴まってないと……吹き飛ばされそう……!」

梓「皆さんこの懐中時計に掴まって!!! 早く!!!」

ギュワアアアアアアアアアアアア──

────


4時30分13秒────

唯「ここは……ムギちゃんの家の前?」

紬「ん……あら? 明るいわ」

唯「おはようムギちゃん」

紬「おはよう唯ちゃん。タイムトラベルは成功したのかしら?」

唯「さあ?」
紬「梓ちゃんは?」

唯「あ、そう言えばあずにゃんがいないよ!」
梓「後ろですよ唯先輩」

唯「無事だったかあずにゃんよ!」

梓「はい、なんとか。唯先輩よりちょっと早く目覚めたので……手早くタイムトラベルの成否を確認してきました」

唯「どうやって?」

梓「一回はやってみたかったんですよ……これ」バサッ

紬「これは……!」

梓「そう、新聞です。さっきコンビニで買って来ました。日時は……」

梓「2003年の6月13日……間違いないです。私達……タイムトラベルしたんですよ!!!」

唯「来たんだね……本当に!」

紬「お父様ったらこんなことを隠すなんてずるいわぁ」

梓「どうやって来たかとか、時間軸がどう移動したのとか、色々気になることはありますけど……まずはここに来た目標を達成しましょう」

唯「澪ちゃんの落とし物探しだね!」

紬「まずは澪ちゃんの家に行きましょう!」

梓「時間は……この懐中時計4時30分13秒で止まったまま動かないですね。
さっきコンビニで見たら朝の7時ぐらいでしたから、ちょうど澪先輩が学校へ行く時間です」

唯「急いでつけないと!」

紬「おー!」

梓「時間を飛んでもいつも通りですね……二人とも」


澪の家────

唯「たしかここだよ!」

梓「そう言えば澪先輩の家って初めて来ますよ」

紬「私も~」

唯「私もりっちゃんに教えてもらっただけで遊びに来たことはないよ~」

梓「案外謎に包まれてましたね、澪先輩」

紬「りっちゃんと澪ちゃんしか知らないことがいっぱいあるのねきっと」

唯「む! 誰かくるよ!」

唯紬梓≡ササッー
◎◎◎≡ササッー


幼澪「行ってきまーす」

幼澪「」トコトコ


唯「み、み、澪ちゃんだよねあれ!」
梓「そ、そうみたいですね!」
紬「」ほわ~

唯紬梓「か、可愛い~」

梓「はっ! こんなことしてる場合じゃないですよ! 早く後をつけないと!」

唯「持って帰りたい可愛さだよ~」

紬「お菓子あげようかしら~」
梓「もうっ! 二人ともしっかりしてください!」

────

幼澪「」トコトコ

唯紬梓「」じ~

幼澪「」トコトコ
唯紬「」じ~
梓「」じ~

幼澪「?」キョロキョロ

唯紬梓∥「……」

幼澪「」トコトコ

梓「近いですよ二人とも! 危うくバレるとこでしたよ!」
唯「だってランドセル背負ってる澪ちゃん可愛いんだも~ん」
紬「連れて帰りたいわね~」

唯「よ~しこの飴ちゃんで誘惑しちゃおう!」

梓「誘拐するためにタイムトラベルしたんじゃないんですよ!」

幼澪「うぅ……」ブルブル

唯「ややっ! 何か震えてますよ澪ちゃんが!」

梓「どうしたんでしょうね」

紬「お腹が痛いのかしら?」


犬「グルウウウウウ」

幼澪「うぅ……怖いよぅ」

唯「犬が怖くて通れないのかな?」

梓「か、可愛い~……守ってあげたくなりますね」

唯「あずにゃん?」

梓「はっ! な、なんでもないです!」

紬「よぅし! みんなで助けましょう!」

梓「駄目ですよムギ先輩! 極力接触は避ける、それがタイムトラベルの基本です!
私達がいなくても何とか出来たんですから、ここは静観しましょう」

紬「タイムトラベルって難しいわね……」

幼澪「えいっ」ダダッ

唯「おおっ! 澪ちゃん渾身のダッシュ!」

紬「犬通りを抜けたわ♪」

梓「怖がりは今より深刻みたいですね……門に隔てられたロープつきの柴犬に怖がるなんて」

唯「そう言えばこの頃の澪ちゃんってもうりっちゃんと知り合ってるのかな?」

梓「そこら辺は私より付き合いの長い二人の方が知ってるんじゃないんですか?」

紬「う~ん、いつ知り合ったかとかは聞いたことないわね」

唯「幼馴染みだから幼稚園ぐらいかな?
私と和ちゃんはそれぐらいだったよ」

梓「その話はまた今度あっちでゆっくりしましょうか。それより今は小さい澪先輩を追いましょう」

唯「よしよ~しわんころ~」犬「くぅん」

梓「唯先輩っ!」



幼澪「はあっ……はあっ……!」

梓「まだ走ってますね」

紬「がんばって~」


幼澪「んはぁっ……はあっ……」ポロ

唯「あ、ランドセルから何か落ちたよ?」

梓「気づいてないみたいですね」

紬「もしかしてあれが澪ちゃんが言ってた大切なものじゃないかしら?」

梓「行ってみましょう!」


2
最終更新:2011年06月15日 20:28