────

梓「これは……」

唯「ふでばこ?」

紬「キティちゃんね~可愛いわ~。中に入ってる鉛筆やシャーペン何かも可愛いキャラものばっかりね」

梓「まあ人によって思い入れは違いますからね。きっとお母さんからの贈り物か何かなんでしょう」

唯「じゃあこれを持って帰って澪ちゃんに渡せばミッションコンプリートだねっ!」

梓「駄目に決まってるじゃないですか! そんなことしたらタイムパラドックスが起きますよ!」

梓「タイムパラドックスって言うのはですね、本来ないものをそこに持って来ることで生まれる矛盾のことです」

紬「いけないの?」

梓「例えばです、この時間の唯先輩にこれからやるテストの回答全てを写したノートを渡すとしますよね?」

唯「夢のような話だね~」

梓「そうすると唯先輩は当然全テストで100点満点です」

紬「でも唯ちゃんなら名前とか書き忘れちゃいそう」

唯「あ~ムギちゃんひど~い!」プンスカ

紬「うふふ、冗談よ」

梓「真面目に聞いてくださいっ! そしたら唯先輩は……もしかしたら桜ヶ丘高校にも来ないかもしれません」

紬「えっ……?」

唯「やだな~あずにゃん。ちゃんと行くよ~というかもう行ってるよぉ」

紬「もしかして……」

梓「……ムギ先輩は気づきましたね。そうです、私達がやってることは歴史さえも変えることが出来ることなんですよ」

紬「歴史を……変える」

唯「どういうこと?」

梓「はあ……唯先輩にもわかりやすく説明しときます。あ、飴ちゃん借りますね」

唯「ああっ~私の非常食がぁ~」

梓「後でちゃんと返しますから」

梓「唯先輩、飴ちゃんがある世界とない世界、どっちを選びますか?」

唯「ある世界とない世界?」

梓「簡単に言えばこの飴ちゃん、ほしいですか? ほしくないですか?」

唯「ほしい!」

梓「はい、どうぞ」

唯「わ~い。ってこれ元々私の飴ちゃんだよあずにゃん!」

梓「細かいことは置いといてください。つまりこれで唯先輩には飴ちゃんがある世界に分岐したんです」

唯「ほぇ?」

紬「……でもそれだけのことで未来ってそんなに変わるのかしら?」

梓「まあこれぐらいのことじゃ変わることはないと思います。でもさっきみたいにテストの回答を写したノート、とかなら唯先輩の未来はきっと劇的に変わります……!」

唯「具体的に言うと……!?」

梓「東大だって夢じゃありません……」

唯「おおおおおっ」

梓「これが俗に言うタイムパラドックスです。過去に戻って起こした変化が後の未来に影響、矛盾するってやつです」

紬「つまりその変化の度合いを考えて行動しなきゃならないってことかしら?」

梓「そうなりますね。さすがムギ先輩、ものわかりが早くて助かります。
それに比べて……」

唯「小さい頃の私にどうやってテストの回答渡そう……」

梓「ゆーいせーんぱぁーい。さっきの話聞いてなかったんですか?」ジトー

唯「やっぱり……駄目?」

梓「駄目に決まってますよ!」

唯「う~あずにゃんのけちんぼ!」

梓「今を変えるってことはこの先、つまり私達のいる世界を変えるってことになるんです。
テストの回答を渡して東大に行く未来にすれば、唯先輩と私達は出会わないかもしれないんですよ?
それでもいいんですか?」

唯「うそ……そんなのやだよ」

紬「唯ちゃん、私達は過去にいるの。私達の行動で未来を変えちゃったりしたら大変でしょう?
だからそうならないよう慎重に動きましょうって梓ちゃんは言ってるの」

唯「うん……そうだね。私達が出会わない世界なんて……嫌だもんね。
ごめんねあずにゃん」

梓「わかってくれたらいいんです」

唯「でもそうすると澪ちゃんのふでばこはどうしたらいいの?」

紬「悔しいけれど……このまま帰った方がいいのかしら」

唯「そんなぁ……明日も澪ちゃんがあんな悲しそうな顔するのやだよ……」

紬「でも……」

梓「大丈夫ですよ。筆箱はちゃんと澪先輩に届けられます」ニヤッ

唯「ほんとに!?」

紬「どうやって!?」

梓「確かに持って帰って直接渡すことは出来ませんけど、今拾って誰にもバレないようにこっそり澪先輩のランドセルに戻してあげたらいいんです!」

唯「なるほど!」

紬「でもそれって直接渡すこととどう違うの?」

梓「時間軸が違います。タイムパラドックスは8年前、私達が知り得もしない澪先輩の筆箱を持って来て渡す、と言うところで起こります」

紬「確かにその頃まだ知り合ってもない私達がその筆箱を持ってる時点でおかしいものね」

唯「うんうん」

梓「なので最初から落としてないことにするんです。そうすれば誤差はふでばこの有り無しだけに留まります。
これぐらいならさっきやった飴ちゃんの有り無しと同じぐらいでしょうし問題ない筈です」

唯「さっすがあずにゃん先生!」

紬「凄いわ梓ちゃん!」

梓「えへへ」ドヤ!

梓「じゃあ早速これを小さい澪先輩に届けましょう! バレないように、ですよ?」
唯紬「おっー!」


学校────

唯「いる?」

梓「ん~このクラスじゃないみたいです。ムギ先輩、移動お願いします」

紬「は~い」

唯「4年生が二階で助かったね~」

梓「はい。肩車でギリギリ覗ける高さです」

紬「梓ちゃん軽いわね~」

梓「そ、そうですか?///」

唯「あずにゃんはちっちゃいからね~」

紬「っこらしょ、ここでいいかしら」

梓「はい。……居ました、澪先輩です」


幼澪「……」

梓「本読んでますね」
唯「りっちゃんは~?」

梓「……それらしい人はいませんね」
紬「まだ知りあってないのかしら」

「なにやってんの?」

梓「何って監視ですよ。さっき言ったじゃないですか。澪先輩を監視してランドセルに筆箱を入れるチャンスを伺うって……」

梓「あれ? さっきのって……」

唯「あずにゃんあずにゃん!」

梓「えっ?」

紬「あらぁ」

幼律「肩車なんてやってなにやってんの? おねえちゃんたち」

唯「りっちゃんだよ!」

梓「なんてこったあああああ」

紬「可愛いわね~お菓子いる?」

幼律「」プイッ

紬「あら?」

幼律「あやしそうな人から物もらっちゃだめだって言われてるからもらわないもん!」

紬「あらあら」

唯「ど、どうするのあずにゃん!?」オタオタ

梓「し、し、仕方ないです! このまま拉致して記憶を無くさして……!」アタフタ

唯「どうやって記憶を無くさすのあずにゃん!?」


幼律「おねえちゃんたち、学校の人じゃないよね?」

紬「ええ。私達はね、ここの卒業生なの」ニコリ

幼律「へーそうなんだ」

紬「だから学校の前にちょっと見てただけなの。だから怪しくなんてないのよ?」

梓「(ムギ先輩ナイスアドリブですっ!」

唯「(今まであの甘い笑顔に何人も騙されて来たんだよきっと!」


幼律「じゃあ……」

紬「」ゴクリ……
唯「」ゴクリ……
梓「」ゴクリ……

幼律「お菓子もらってもいいよねーっ!」

紬「ええ。はい、どうぞ」

唯「(やっぱりりっちゃんだーっ!」
梓「(この頃から可愛げなかったんですね……律先輩」

キーンコーンカーンコーン……

幼律「やっばい遅刻っ! じゃあね~変なお姉ちゃん達!」

紬「ばいば~い」

唯「やっぱりりっちゃんはりっちゃんだったね」

梓「まあ……バカっぽいですしすぐ忘れてくれますよ律先輩なら」

唯「あずにゃん酷いね、さりげに」


────

先生「一時間目は図工になります。みんな彫刻刀は持って来ましたか?」

幼律「は~い忘れました~!」

先生「あらあら」

梓「律先輩は相変わらず……ん? 元がこの場合なんて言うんでしょう?」

紬「タイムトラベル専用の用語はないから難しいわね~。元々変わってないから元変わらず、かしら?」

梓「なるほど」

唯「ああん私もちっちゃいりっちゃんと澪ちゃん見たいよ~!」

梓「遊びでやってるんじゃないんですから。我慢してください唯先輩」

唯「ぶぅ~」

先生「じゃあ友達に借りてくださいね」

幼律「は~い!」

梓「お、これは面白いことになりましたね」

唯「なになに!? あ~んもうやっぱり見たい~!」

梓「これでこの時間の澪先輩と律先輩の仲良さがわかりますね」

紬「きっとりっちゃんは澪ちゃんに借りに行くわ」

唯「私なら迷わず和ちゃんに借りに行くよ! 違う教室でもね!」フンス!

梓「この時間の和先輩が不憫でなりませんよ……あ、動きました」

幼律「ちょーこくとー貸して!」

友達A「いいよ~」

幼律「ありがとう~」

梓「あれ? 澪先輩じゃありませんね……」

紬「なん……ですって?」

唯「喧嘩してるとか?」

幼澪「……」

幼律「~~~」

梓「そんな感じには見えませんでしたね。何と言うかまだあんまり仲良くないって感じかな」

紬「そうなの……何だか悲しいわね」
唯「ふふ、私と和ちゃんの圧勝だねっ!」


────

梓「それにしても一時間目から移動教室なんてついてますね」

紬「これで筆箱を澪ちゃんのランドセルに入れたら任務完了ね!」

唯「何かゲームみたいで面白いね!」

梓「さっきまでの緊張感はどこに行ったんですか唯先輩……あ、この教室ですよ」

ガラララ──

唯「わぁ~机ちいさ~い」

紬「ほんとね~」

梓「え~と澪先輩のランドセルは……っと」

紬「これじゃない?」

唯「ロッカーの上に秋山みおって書いてるよ!」

紬「字まで可愛いなんて」ぼわわ~ん

梓「この秋山、は漢字でみおが平仮名な辺り小学四年生って感じしますよね」

唯「私は中学上がるまで平以外平仮名だったよ!」

梓「それはどうでもいいです。 じゃあさっさとこれを入れて帰りましょう」

唯「あずにゃん冷たいよ~。暖かい頃のあずにゃんにタイムトラベルしてよ~」

梓「はいはい行きますよ~」

紬「一時間図工、二時間目国語、三時間目道徳、四時間社会……ふふ、りっちゃんが寝ちゃいそうな時間割」

唯「せっかくだからここに『放課後ティータイム参上!』ってかいとこっか!」

梓「そんなことしたらタイムパラドックスってレベルじゃなくなりますよっ!
誰かにバレる前に急いで学校から出ましょう!」

紬「唯ちゃん早く~」

唯「わかったよぉ~」


紬の家前──

梓「戻って来ましたね」

紬「ええ。後は元の時間に合わせて飛べばいいのね」

梓「はい。この時間で起きて反映されたことは、『澪先輩が筆箱をなくさなかった』って云うことだけです」

唯「りっちゃんに見られちゃったのは大丈夫なの?」

梓「子供の頃の記憶なんて曖昧にしか覚えてない筈ですから。私達を見てあの時の! なんて言う出す確率は低いです。
それに律先輩ですしね」プッ

唯「りっちゃんだもんね」

紬「りっちゃんですものね」

梓「じゃあ帰りましょう! 私達の時間に!」

紬「ええ」
唯「おぉ~」

紬「じゃあセットするわね」

唯「あ、そうだ」

梓「何やってるんですか唯先輩?」

唯「ここに来た記念に一枚、と思って」

梓「そう言えば携帯電話の時計ってどうなってます?
その機種新しいですからこの時代だとまだ出来てない筈ですけど」

唯「普通に動いてるよ~?」

梓「日付は……2011ですね。あの懐中時計は効果範囲があってその中のものは一緒に時を越えてく……って感じですかね」

唯「??」

梓「まあこの事実を知ってる本人の携帯で撮る写真なら問題ないかな。
三人の記念、そして他の人には明かされることのない秘密記念に、一枚撮りますか」

唯「やった~! またパラちゃんがどうとかでダメとか言われると思ったよ~」

梓「タイムパラドックスですよ、唯先輩。私だってここに来た証を一つぐらい持って帰りたいですから。
後で添付して送ってくださいね」

紬「セット出来たわよ~」

唯「こっちも出来たよ!」

梓「じゃあ行きますよ~?」

紬「??」

唯「ムギちゃん笑って~」

梓「はいっ! 押しましたよ!」スタタタ

紬「? 写真撮るの?」

唯「うんっ! あずにゃん学士から許しが出たからね!」

梓「真ん中はムギ先輩で。一番の功労者なんですから!(いつか琴吹グループがタイムマシンを公表した時、私達が一番最初のタイムトラベラーだった! なんてことになったら……ふふふ)」

紬「ふふ、わかったわ」

唯「ではタイムトラベルの記念を祝して!」

梓「はいチーズ、です!」

梓紬唯 カシャッ──

────

────

グニャアアアアアアア────

唯「わっ」紬「っと」梓「に゛ゃっ」

唯「この感覚だけはなれないね~」

紬「ちゃんと戻って来れたのかしら?」

梓「ちゃんと夜ですし……多分、戻って来れたと思います。年のために帰りに新聞見ときます」

紬「ありがとう梓ちゃん」

梓「いえ、これぐらいは」

紬「そうじゃないの。今回のこと全部よ。梓ちゃんがいなかったらきっと私達とんでもないことを引き起こしてたかもしれないわ」

唯「うんうん。過去に戻るってことがそんなに危ないことなんて思わなかったよ」

梓「そんな……感謝されるようなことしてないですよ」

紬「それでもありがとう。これで澪ちゃんが明日から少しでも笑顔でいてくれるなら、私も嬉しいから」

梓「ムギ先輩……」

唯「私も嬉しいよ!」

梓「唯先輩……」

梓「(ああ、この人達はなんていい人なんだろう。こんな何でも出来る力を目の当たりにしても歪まない……友達の為にだけに使うなんて)」

梓「(私が嫌な子なだけなのかな……だとしても、私の役目は)」

梓「もうこんな危ないことしちゃ駄目ですよ?(ここでタイムマシンの誘惑を絶つこと。二人がタイムマシンの恐ろしさに気づく前に、自分を見失わないように)」

紬「は~い」
唯「は~い」

こうして一度目のタイムトラベルは無事終わったかに見えました。
けど、それは私達をバラバラに引き裂く始まりだったんです……。



これで第一部は終わりになります



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最終更新:2011年06月15日 20:29