次の日──
梓「(あの後確認したらちゃんと2011年に戻ってた……こうやって普通に戻って来ると昨日の出来事が嘘みたい)」
純「オーッス梓」
梓「おはよ、純」
純「今日も練習頑張ろね~お互い」
梓「うん。……ふふ、純はいつも平和そうでいいな~」
純「なによその意味深な笑い方~」
梓「別に~」
純「コラ~言いなさいよ~!」
憂「おはよう二人とも。どうしたの?」
純「梓が私のことバカにするんだよ憂~」メソメソ
梓「してないしてない」
梓「(ああ、平和だなぁ~……)」
梓「(何か足りないぐらいに、平和だ)」
放課後──
梓「じゃあ私部室行くから」
純「ん~わかった。掃除終わったら後から行くよ」
梓「?」
憂「行ってらっしゃ~い。また明日ね梓ちゃん」
梓「え、あ、うん」
梓「(そんなことより澪先輩の筆箱がどうなったか確認しないと!)」
???────
部室前に行くと、その扉の前に誰かが居ました。
梓「ん? 誰だろ……」
唯「あ、あずにゃん……」
梓「え? えっと……どちら様でしたっけ?」
唯「あ、あずにゃあああああああああん」ぎゅっ
梓「わっ、あ、あの」
そう言えば、私、何しにここに来たんだっけ?
澪先輩って……誰?
唯「部室がないのです」
梓「はあ……」
音楽準備室は確か使われてなかったはず。
ここに部室なんて存在するわけもないのに何を言ってるんだろうこの人は。
三年かな? おっとりとした可愛らしい人だな~。
唯「ムギちゃんも変なんだよあずにゃん! それに澪ちゃんも!」
梓「そのあずにゃんって……もしかして私のことですか?」
唯「……あずにゃんまでおかしくなっちゃったの?」
梓「その変な呼び方やめてください。第一私はあなたのこと知りませんよ」
唯「あずにゃん……これを見てもそんなこと言える?」
おっとりした先輩が見せて来たのは、三人が写った携帯の写真だった。
右にこの人、真ん中に誰か知らない人、左に……。
梓「私……」
とても、仲が良さそうに。
梓「あぐっ……頭がっ……」
フラッシュバック──
まさにその言葉が似合う出来事だった。
頭の中の偽の情報を押し退けて、唯先輩達との記憶が蘇る。
梓「わ、私は……軽音部で……唯先輩の……後輩」
唯「そうだよあずにゃん! 良かったぁ……あずにゃんがこのまま戻って来なかったらどうしようかと思ったよぉ」
梓「ごめんなさい……唯先輩。私もなんでこんなこと忘れてたのか……唯先輩のこと……知らない人だなんて……こんな時に嘘でも言っちゃ駄目ですよね、ごめんなさい」
唯「泣かないで、あずにゃん。大丈夫だから……」
梓「はい……」
何が、どうなっているんだろう。
ただ、とんでもないことが起きているという予感だけは、外れていない気がする。
──
唯「それでクラスに入ったら澪ちゃんもムギちゃんもりっちゃんもいなくてね~!
あ、和ちゃんはいたよ! 前の席!」
梓「(考えられることは昨日のタイムトラベル以外考えられない……)」
唯「でね、さわちゃんが担任じゃないの!
それで変だな~って色々なクラス回ってみたりしたらムギちゃんと澪ちゃんがいて~」
梓「(でも筆箱を入れたぐらいでこんな変化が現れるものだろうか……)」
唯「そしたらさっきのあずにゃんみたいに私のこと知らない~って言うから……怖くなって……ここに走って来たら……部室が、ぶしゅつがああ~」
梓「よしよしです、泣かないでください」
唯「グスン……あずにゃん……これからどうしよう?」
梓「とりあえずムギ先輩のところに行きましょう」
唯「でも……さっきは私のこと知らないって」
梓「その写真見せてないですよね?」
唯「うん……」
梓「なら大丈夫です。私と同じようにフラッシュバックさせてやりましょう!
今回ばかりは唯先輩の行動が生きましたよ。グッジョブ唯先輩ですっ!」ビシッ
こんな時ぐらい、私が励まさないと!
唯「ん……ふへへ。やっぱりあずにゃんは頼もしいね」ニコッ
梓「(そんなことないですよ。唯先輩がいるから頑張らなきゃって思えるんですから……」
唯「ん? 何か言った?」
梓「何でもないです。さ、行きましょう」
────
紬「あら、あなたはさっきの……」
唯「これを見るのです!」グイッ
梓「さあ! さあさあさあさあっ!」グイグイッ
紬「ひゃあああああああああああっ」
紬「ゆ、唯ちゃん? 梓ちゃんも。こ、ここは?」
唯「戻って来れたんだねムギちゃん!」
梓「その前に……」ピポパピポ
サァティンノニンキナンテ~カンケイナイ~───
紬「あら、メール」
梓「あの写真を添付しときました。待ち受けにしといてください」
紬「わかったわ」
梓「じゃあ状況を整理するためにゆっくり話せる場所に移動しましょう。ここじゃ目立ちますから……」
唯「なんかエージェントみたいだね、私達!」ニンニンッ!
紬「それは忍者よ唯ちゃん」フフ
梓「とりあえず近くのファミレスにでも行き」
純「あれ? まだ行ってなかったんだ梓……って誰?」
梓「(唯先輩達のことを覚えてない……ってことはやっぱり……)」
・・・・
梓「ごめん純、私今日はちょっとジャズ研休むから」
純「ん、別にいいけどさ。じゃあ先輩達に言っとくね」
梓「ごめんね」
紬「(梓ちゃん、ジャズ研って……」
梓「(詳しくは後で話します」
唯「あずにゃんがジャズ研にとられたぁ~!」
純「?」
梓「いいから早く来てください唯先輩っ!」
ファミレス────
唯「一体何がどうなってるのか……パフェでも食べないとやってらんないよ!
あずにゃんはジャズ研に取られてるし~」ブツブツ
紬「梓ちゃん……これってもしかして」
梓「はい……間違いなく私達がタイムトラベルした影響で未来が変わってます……」
紬「そんな……じゃあ……もう私達は」
梓「落ち着いてくださいムギ先輩。ここで一番怖いのはこの記憶を忘れることなんです」
紬「記憶を忘れる……?」
梓「はい。色々な学説があるのですが……簡単に言うとこの世界は私達が澪先輩に筆箱を入れた世界なんです」
紬「どういうこと?」
梓「あの筆箱を入れた瞬間から分岐したんです……この世界に。塗り替えられた、って言っても相違ないでしょう」
紬「じゃあまた筆箱を元に戻せば……!」
梓「……その話は次のステップになります。まずは記憶を忘れないこと、について説明します」
紬「わかったわ」
梓「この世界はさっきも言った通り澪先輩が筆箱をなくさなかった世界なんですがその無くさなかった世界と私達が元いた世界は大きく違っています」
紬「うん……」
唯「軽音部がなかったりあずにゃんがジャズ研だったりってこと?」
梓「そうです。唯先輩に写真を見せられるまで私達はこの世界の住人として当たり前に暮らしていましたよね?」
紬「そうね」
唯「びっくりしたんだから」
梓「つまり、私達の記憶がこの世界のものに入れ替わりつつあるってことですっ……!」
紬「それって……」
梓「はい。このまま行けば私達のこの記憶は消え、そのまま知り合うこともなく別々の道を行くでしょう」
紬「そんな……」
唯「そんなの駄目だよっ! 絶対!」
梓「唯先輩の言う通りです。こんな世界は間違ってます」
紬「じゃあどうしたらいいの……?」
梓「この状況を打開するための作戦……それは」
紬唯「それは!?」
梓「その前に喉が渇いたのでドリンクバーおかわりして来ます」
紬「」むぎゅっ!
唯「あ、あずにゃん私も行く~」
紬「ほんとに大丈夫かしら……」
梓「お待たせしました」チューチュー
唯「で、あずにゃんその作戦とは?」チューチュー
紬「」ムギュムギュ
梓「カムバック軽音部!!!」グッ
梓「作戦です」
唯「おおっ! なんかすごそう!」
紬「具体的にはどうすればいいのかしら?」
梓「まずはどうしてこうなったかを突き止めます。澪先輩の所に行って筆箱の有無を確かめるのが一番ですかね」
紬「ふむふむ」
唯「でもなんで軽音部がなくなったんだろう……」
梓「確か軽音部の創設者って……」
紬「りっちゃんよ。りっちゃんが澪ちゃんを誘って無理やり軽音部に入れた……って澪ちゃんからは聞いてるけど」
梓「なるほど、大体わかって来ましたよ。この世界のカラクリが、ね」ニヤリッ
学校────
唯「軽音部がないとしたら澪ちゃんって何部なのかな?」
紬「私は合唱部だったわ」
梓「私はジャズ研ですから……みんな軽音部に入る前に決めてた部活に入ってるみたいですね」
唯「じゃあ私は……」
梓「軽音部以前にどこに入ろうとかって決めてなかったんですか?」
唯「全く決めてなかったよ!」
梓「じゃあ帰宅部ですね。間違いありません」
唯「えぇ~」
紬「あ、あれってもしかして」
和「」
唯「和ちゃんだっ! 時を越えても幼馴染みであり続けてくれる私の永遠の友達和ちゃんだよっ!」
梓「飛躍させすぎですよ」
和「あら、唯。今日は顔出さなかったのね」
唯「んん~和ちゃ~ん」ぎゅいぎゅい
和「こうやって枝にしがみつく生き物いたわね……確かなまけものだっけ」
和「ムギ、唯と知り合いだったのね」
紬「えっ、あの……」
梓「(ムギ先輩合わせて合わせて。私達がこの世界の人間じゃないと疑われたら後々面倒になりますから」
紬「(わかったわ」
紬「そうなの。たまに合唱部に遊びに来てくれたりしてるの」
和「そう。ごめんなさいね、迷惑かけてない?」
紬「ううん、迷惑だなんて」
和「唯。あなたも一応生徒会なんだから他の部に迷惑かけちゃ駄目よ?」
梓「ぶっ」
紬「ぶふっ」
唯「? 生徒会? 私が?」
梓「(ゆ、唯先輩合わせて合わせて」
唯「(む~笑うことないじゃん!」
梓「(すいません、唯先輩が生徒会とか……合わなすぎて……まるで焼きそばにどんべいのあげが乗ってるぐらいあってな……ププッ」
和「忘れちゃったの? 一年の時に私が生徒会入るって言ったらあなたも入るって言ったじゃない」
唯「ごめんなさ~い」
梓「ち、ちなみに役職は?」
和「書記補佐よ。書記の子がしっかりしてるから唯の出番はなくて……幽霊部員みたいなものよ。
その癖お茶やお菓子が出るときはふら~っと顔出すんだから。まあみんなそんな唯がいてこその生徒会だって言ってくれてるんだけどね」
梓「やってること全く変わってませんね! 唯先輩!」
唯「なんでそんな嬉しそうに言うのあずにゃん!?」
和「そう言えばこの子は……」
紬「二年でジャズ研の梓ちゃん。合唱部と合同練習の時に知り合った子で、唯ちゃんとも仲良しなの」
梓「中野梓です!」
和「真鍋和よ。そう、唯にこんなしっかりした後輩が出来たのね。いいことだわ」
和「じゃあ私は生徒会行くけど、唯は?」
唯「今日はお菓子の匂いがしないからやめとく~」
和「鋭いわね……確かに今日はないわね。まあいいわ。後輩に変な背中見せないでね」
唯「もう和ちゃんまで! 失礼だなぁ!」
ひらりと後ろ手に手を振る和先輩は、やっぱり世界が変わっても和先輩でした。
唯先輩のこと、大切に思ってるんだろうな……。
紬「さ、澪ちゃんのところに行きましょう」
梓「はいっ!」
唯「で、澪ちゃんって何部なの?」
梓「まずはそこからでしたね……」
紬「とりあえず澪ちゃんっぽいところから回ってみましょう」
文芸部────
梓「いきなりビンゴですよムギ先輩!」
紬「小学生の頃の澪ちゃん見たらピンと来たの。でも……」
梓「はい……文芸部にいるってことはこの澪先輩は律先輩とそんなに仲良くない可能性がありますね……」
唯「そう言えばりっちゃん顔……もうずっと見てない気がする」
梓「体感時間だとかなり時間が経ってますしね……」
紬「りっちゃん……風邪大丈夫かしら」
唯「……」
梓「それより先に澪先輩です! 二人とも自分のクラスはわかりますか?」
唯「私は和ちゃんと一緒で」
紬「私は唯ちゃんとは違うクラスね。でも和ちゃんとは知り合いみたい」
梓「……ということは澪先輩の性格からしてボッチの可能性が高いですね……」
紬「ボッチ?」
梓「澪先輩がムギ先輩の知り合いと言う可能性に賭けて……いざっ!」
ガラララ──
澪「ん?」
梓「こんにちは~」
紬「お邪魔しま~す」
唯「でもほんとにはお邪魔はしませんよ~」
澪「あっ、あっゎのっ、どちらさまでしかっ?」
梓「(予想以上キター! このドモりよう半端じゃないボッチですよ……!」
紬「(この様子だと私の知り合いでもないみたいね」
唯「(というかこの澪ちゃん眼鏡かけてるよ!」
梓「(きっと友達がいなくて本が友達、な子だったんですね……それで視力を代価に」ウンウン
紬「(澪ちゃん……澪ちゃんっ! もう一人じゃないからねっ!」ウルウル
澪「あ、あの~……」
紬「(この感じだといきなり言ったら驚かれそう……」
梓「(ここは任せてください。この世界のカラクリは熟知しましたから」
唯「(あずにゃん先生かっくい~っ!」
梓「えっと、ここって文芸部ですよね?」
澪「うん……そうだけど」
梓「私達仮入部しようと思って来たんです。面白かったら入ろうかなって。掛け持ちになるんですけど」
澪「ほんとにっ!?」パァ~
紬「(凄い笑顔になったわ」
唯「(あれは澪ちゃんがベースを語るときの顔だよ!」
梓「(世界が変わっても人の根本は変わってないみたいです。和先輩然り、唯先輩然り。この世界だと本がベース代わりみたいですね」
澪「ここには凄いいっぱい面白い本があってね~……(云々」
梓「へ~」
紬「面白そうね~」
唯「ふあ~」
────
最終更新:2011年06月15日 20:31