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結局何も変わらなかった。
軽音部はなかったし、唯先輩は私のことを覚えてはなかった。
梓「もう……駄目だよ。どうにもならない……あの筆箱を何とかしない限り……」
梓「……ちょっと待てよ?」
ここでとある映画を思い出す。
そう、タイムトラベルする前に唯先輩と話していた映画、バック・トゥ・ザ・フューチャーだ。
梓「もしかして……あの一回目の世界は既に今の私が変化を起こした後の世界なんじゃ?」
梓「あっ……」
何であんな臆病な澪先輩が口調だけは変わらないでいたか──
何で律先輩はあの時私の顔を見て見覚えがありそうな顔をしたか──
梓「そうだった……そうだったんだっ!」
繋がって行く……頭の中で時間のピースが。
梓「ならもうやることは一つしかないですっ!!!」
数日後────
澪「ふぅ……遅くなっちゃったな。今日は来てくれなかったな……あの三人」
澪「嫌われちゃったかな……。はあ……廃部かなぁ……やっぱり」
澪「ん? なんだろ……この本に挟まってるの」
澪「○○××△△ この住所に午後8時に絶対に来てください、
中野梓?」
澪「どうしたんだろ……でも夜に一人で歩き回るなんて怖いなぁ……ん?」
澪「P.S. 来てくれたら絶対に入部しますから……だって!?」
澪「うぅ……怖いけど……行かなきゃ! 廃部を間逃れる為にも!」
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リッチャンサンイオメデトウ~リッチャンサンイオメデトウ~
律「あれ? 誰だろ……この番号」
律「もしもし?」
『久しぶりですね、律先輩』
律「誰?」
『みおのお姉ちゃん、と言えばわかりますか?』
律「あ! もしかしてあの時の!」
『ふふ、そうです。覚えててくれて嬉しいです』
律「何が澪のお姉ちゃんだよ! 澪に姉ちゃんなんかいねぇじゃねぇか!」
『その澪、というのはどんな漢字を書くんですか? ちょっとわかりませんね』
律「なに~?」
『さっき変な三人が変なこと言って出ていきましたよね?』
律「ああ……もしかして」
『はい。これでわかってもらったかと思います。私達は本当に違う世界から来たんですよ。ここと似て非なる世界……こっちから見ればパラレルワールドから、ね』
律「で、そのパラレルなんちゃらの人が私に何の用なんだよ?」
『私達が元の世界に戻るために協力して欲しいんです』
律「なんで私がそんなこと……」
『あなたが好きなベースの持ち主は澪先輩ですよ。それでも無視出来ますか?』
律「……でも」
『律先輩が澪先輩を遠ざけたのは嘘をついてると思ったからですよね?
お姉ちゃんなんていない、そう言い切る澪先輩を嘘つきだと思ったら……違いますか?』
律「……」
『それも引っくるめて悪いのは私です。澪先輩は全然悪くないんです。でもわかってください。ここに辿り着くには必要なことだったんです。
この世界の二人には関係ないことだとしても……』
律「……あんたに従えば、澪がベースやるのか?」
『はい。間違いなく』
律「わかったよ。で? どうすりゃいい?」
────
────
唯「さあお行き、あずにゃん……。私達があずにゃんのこと知らないなんて言い出す前に……」
紬「HTTを、私達をよろしくね……梓ちゃん」
梓「はいっ! 必ず私が元通りにして見せますからっ!」
唯「うん……頼んだよ……たった一人の……私達の……」
紬「大切な大切な……後輩……」
カチッ───
梓「行ってきますっ!」
グニャアアアアアアア────
唯「行っちゃったね……」
紬「うん……」
澪「な、なにあれ?」
唯「えっ? なんで澪ちゃんが……」
律「あ、お前らさっきの変なの!」
紬「りっちゃん?!」
唯「一体どうなって……」
梓「ゆ~~~~~いせ~~~~んぱぁ~~~~い~~~~む~~~~~~ぎせ~~~~~んぱぁ~~~~~いい!!!!!」
唯「あずにゃん!?」
紬「梓ちゃん!?」
唯「さっき過去に行ったはずじゃ……」
梓「戻って来たんですよ!!! 全部元通りにするために!!!」
紬「でも……私達はもうこの世界に……」
梓「この世界もあの世界も関係ないですっ! この五人じゃないと出来ないことなんですっ!」
澪「あの……話が見えないんだけど……」
律「一体何が何やら」
梓「時間が有りません。作戦はあっちで伝えますから!」
カチカチカチカチッ!
澪「それ……なに?」
梓「タイムマシンですよ、澪先輩」ニッ
カチッ────
グニャアアアアアアア────
────
澪「信じられないな……タイムマシンが存在するなんて」
梓「でも今現にこうして過去に飛んでます」
律「ロクな説明もないまま過去に飛ばされるなんて聞いてないぞ」
梓「安心してください。手伝ってくれば二人の約束は必ず果たしますから」
澪「……」
律「……。まあただでさえわけわかんないんだ。ここはお前指示に従うよ」
梓「梓です、律先輩」
律「……わかったわかった。梓の指示に従うよ。と言うかなんで先輩……」
梓「澪先輩もいいですか?」
澪「……うん。部に入ってくれるなら……頑張るよ」
唯「あずにゃん……」
梓「大丈夫です、こっちに居ればこれ以上唯先輩達があっちの世界に侵食されることはないですから」
紬「どういう経緯でこうなったのか説明してくれるかしら?」
梓「はい。唯先輩達と別れた後筆箱を取りだそうとしたんですが近づけませんでした」
紬「じゃあ未来は……」
梓「はい。変わりませんでした。私達が最初にタイムトラベルをしてに戻って来た世界は既に二回目の私が改変した世界だったんです」
紬「……そう」
唯「ちんぷんかんぷんだよぉ」
梓「唯先輩にはちょっと難しいですかね。まあ簡単に言えば二回目の私も色々やったけど駄目だったってわけです」
唯「あずにゃんダメじゃん!」
梓「ダメダメですね」
紬「筆箱に近づけないのは……」
梓「はい。恐らく私があっちの世界の住人になりかけてて、それを取ってしまうとタイムパラドックスが起きるから、でしょうね」
紬「じゃあ今回も同じ結果になるんじゃ……」
梓「ずっと変だなって思ってたんです。ちょうど本人もいますし聞いてみましょうか」
梓「澪先輩。前に私がキティちゃんの筆箱の有無を聞いた時にどうでも良さそうな顔しましたよね?」
澪「えっ……その、どうでもいいって言うか……小学校に使ってた筆箱のことなんて……あっ、違うよ?
キティちゃんが嫌いってわけじゃなくて……だから梓がキティちゃんが好きなのは共感できるよ」
梓「とまあこんな感じです」
紬「大切なもの、じゃないのは確定みたいね」
梓「でも私は筆箱には近づけなかった……」
唯「なんで?」
梓「バタフライ・エフェクトという効果があるんですが……どんな小さな出来事もやがて大きな変化へと変わって行くことを差します」
紬「聞いたことあるわ……」
梓「最初はこれのせいだと思って仮説を立てました。澪先輩の筆箱を拾い、ランドセルの中に入れたことによりそれは大きな羽ばたきとなり、次に私が来たときはパラドックスになり得る要因なった……と」
梓「でも違ったんです。問題は筆箱じゃなくて……」
・・・・・・・・
梓「筆箱を拾ったことなんです!」
唯「ふぅ?」
梓「あの筆箱を拾った瞬間から分岐は始まってたんです。本来ならそうなる筈のことがそうならなかった……それだけで私達の未来は崩れたんです」
紬「梓ちゃん……」
梓「はい。これ以上理屈を並べても仕方ありません。時間もないことですしね」
澪「コワイヨーコワイヨー」
律「……」イライラ
澪「早く戻りたい……」
律「ああもうイライラするっ! もっとピシッとしろ! いいガタイしてるくせに!」
澪「ひっ……ごめんなさい」
律「……謝るなよ。謝らなきゃならないのはこっちなんだから」
澪「……律……さん」
律「呼び捨てでいいよ。私もそうするから」
澪「……う、うん。わかったよ、律」
律「へへっ、ようやく調子出てきたぜ」
────
梓『いいですか? 律先輩と澪先輩はこの写真と似たキティちゃんの筆箱を買い、その地図の場所通りに置いてください』
律「わかった。制限時間は?」
カシャン──
梓『7:45分までです。私達は他にやることがあるので、お願いしますね。二人の行動に全てがかかってますから!』
律「了解っと」
澪「あ、あの……律……その自転車……」
律「捨ててるのだから大丈夫だろ?」
澪「す、捨ててるのでも拾ったら盗んだことになるって……テレビで……」
律「後45分でこれに似た筆箱買ってここに置かなきゃ地球滅亡だってのに気にしてる場合かよ。
乗れよ、澪。地球の平和への道案内任せた」ニヤッ
澪「……ふふっ、なんだそれ」
律「この方がカッコいいだろ? 音楽でもなんでもギリギリ行くのが好きなんだよ」
────
紬「私達はどうすればいいの?」
梓「小さい律先輩が遅刻するよう仕向けます」
唯「あずにゃんひど~い」
梓「私達の未来の為ですから。一回ぐらいは多目に見てくれますよ。律先輩なら」
紬「どうやって遅刻させる? お菓子を落として行ってそれを拾い続けたら……なんてどうかしら?」
梓「いくら律先輩でもそんな単純な手にかかりますかね」
唯「私なら喜んでかかるけどな~」
梓「よくここまで無事に大きくなれましたね……」
唯「えっへへ」
梓「まあ無難に通学路から学校へ続く道を工事とか立て札で行けなくしましょう!」
紬「わかったわ!」
唯「合点承知だよ!」
梓「(この作戦の成否はあの二人にかかってる……がんばってください、律先輩、澪先輩!)」
────
シャアアアアア───
律「こんな朝っぱらから筆箱売ってそうなのはコンビニぐらいか?」
澪「でも多分これコンビニじゃ売ってないよ!」
律「じゃあどうしろってんだよ? スーパー空くまで待ってたらゲームオーバーだぞ?」
澪「律! そこ右!」
律「あいよ! しっかり掴まれよみおおおっ!」
澪「」ぐっ
ギュアアアアン────
律「見たかりっちゃんのスーパーコーナーテク!」
澪「このまま真っ直ぐ行ってくれ!」
律「なんだ? あてでもあんのか? ないと困るけどな」
澪「誰が持ってた筆箱だと思ってるんだ?」
律「へっ、そうだったなっ! 飛ばすぜ!!!」
シャアアアアアギュアアアアア───
7:15分────
幼律「行ってきま~す」
梓「来ましたっ!!! 時間通りです!!!」
紬『A班配置おっけーよ!』
唯『B班も配置おっけーだよ!』←一つは澪に借りた
梓「私は後ろをつけながらコースに変更がないかを伝えます!
ではまた!」
紬『ラジャ♪』
唯『ラジャー』
梓「なんで携帯が使えるのかは未だにわからないけど……ふふ、それは先の学者の人に調べてもらいましょうか」
梓「もう私達にタイムマシンは必要ないですから」
7:25────
律「だあーこんな遠いなんて聞いてないぞっ!」
澪「もうつくから……あそこ!」
律「あの文房具屋か? でもシャッター閉まって……」
澪「玄関の方から回って行ってくる! ここのおばあちゃん早起きだから今の時間でもきっと起きてるよ!」
律「お~……」
律「……どこが人見知りなんだよ。騙されたぜチクショウ」
律「いざとなったら行動力もあるってことかな?
まだまだ知らないことだらけだな……澪のこと」
律「まあいいか……。全部終わって……そしたら、また最初からやり直せばいいんだからな」
7:30────
梓「予想通り学校への一番の近道を使いましたね律先輩!」
梓「A班、ムギ先輩、妨害工作どうぞ」
紬『了解』
幼律「あれ? 工事中?」
紬「ごめんね~ここは工事中で通れないの。他の道から行ってくれるかな?」
幼律「でも後ろ全く工事してないけど……?」
梓「(相変わらず鋭いっ……どうしますムギ先輩?!)」
紬「これからするのよ~」シャランラシャランラ~
そう言うとムギ先輩は近くにあった大きな石を軽々と持ち上げて……ドサッと置いた。
紬「ね? まずは邪魔な石をのけたりするから危ないの」
幼律「わわ、わかりました!」
これには幼律先輩もビックリしたのか一目散にその場を後にした。
梓「グッジョブですムギ先輩!」
紬「ふふ」パチッ
7:30────
澪「お待たせっ!」
律「わっ、と……飛び乗るなよ!」
澪「いいからいいから! 急がないと! 地球の滅亡かかってるんだろ?」
律「そうでしたねっとぉっ!」
カシャン──
律「例の物は?」
澪「ちゃんと買えたよ」
律「あれ? これ同じやつじゃねーの!?」
澪「これだから素人は。こんなのキティちゃんじゃないよ。まあ傍目からなら誤魔化せるかなって思って」
律「……確かによく見たら目とか髭の数とか違うな」
澪「よくあるんだよな。こういう似せたキャラものが。許せないよ全く」
律「まあ今回はこの偽物に助けられたけどな」
澪「45分まで残り15分切ってる! 急がないと!」
律「へいへいっ!」
────
7:35────
梓「律先輩澪先輩まだですか!?」
澪『ごめんもうちょっと時間かかる!』
律『20分で来た道を15分で戻れって……むちゃが……ある……はあ……はあ……』
梓「どうやっても間に合わせてください! もし失敗したら……」
澪『タイムマシンでまた戻ってやり直せば』
梓「無理です……多分失敗した時点で私達はこの世界に取り込まれます……」
澪『……なんでそう思うんだ?』
梓「今こうやって五人がこの世界にいられるだけで既に奇跡的なんです。今はあの大掛かりな分岐の前だから問題ないみたいですけど……この状態で分岐すれば今度は……どうなるか私にもわかりません」
澪『……わかった。絶対間に合わせてみせるよ』
律『おお、任せとけ』
梓「こっちは何とか食い止めておくのでお願いします!」
澪『了解』
梓「唯先輩! 準備はいいですか?」
唯『オッケーだよ!』
梓「じゃあB班、妨害工作始めてください!」
幼律「あ、また何か看板あるし……ついてないな~」
幼律「この道通るべからず?」
幼律「べからずって何だろ……通っていいのかな?」
幼律「工事とかもしてないみたいだし、通っちゃえ」スタスタ
唯『あっ、』
梓「あ、じゃないですよ唯先輩! 早く何とかして止めてください!」
唯『でもちゃんと通るべからずって書いたのに~』
梓「相手は小学四年生の律先輩ですよ!? べからずなんてわかるわけないでしょう!?」
最終更新:2011年06月15日 20:41