紬「私はそのお話知ってるわ~♪」

澪「そ、それって怖い話?」

梓「たしか夢の中で雪の降るお屋敷に誘われて~、というお話ですよね?」

律「お、梓知ってたのかー」

唯「私は初めて聞くよ。誘われたその後はどうなるの?」

律「…………死んだ人に会えるんだってさ」

――――

梓「こ、こんばんは」

唯「いらっしゃーい。こんな時間にどうしたのー?」

梓「大した用事じゃないんですけど。心配で……えっと……」

唯「そっかー。ありがとね!あずにゃん」

梓「……はい、唯先輩」

唯「せっかくだから上がっていってよー。今なら温かいお茶もついてくるよ!」

梓「じゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらいます」

唯「はい、お客様一名ご案内でーす」

梓「……」

唯「粗茶ですが」

梓「ありがとうございます」

唯「粗茶ですが?」

梓「はい、おいしいですよ」

唯「よかったー。普段お茶なんて淹れないから、ちょっと心配だったんだ」

梓「温度も適温だと思います。60℃ぐらいが一番おいしいんですよね」

唯「そうなの?適当にパパっとやったんだけど、ばっちりだったみたい!」

梓「……」

唯「どうかしたの?」

梓「いえ、別に……」

唯「変なあずにゃーん」


――――

澪「……死んだ人にか。ちょっと悲しい話だな」

紬「遠野物語にもお屋敷が出てくるお話があった気がするわ。たしかマヨイガだったかしら」

梓「どんなお話なんですか?」

紬「山奥に迷い込んだ人が立派な門構えのお屋敷たどり着くの」

律「そこには未練を残したお化けたちが彷徨うお化け屋敷だった!」

澪「ひっ!」

紬「ところが人もお化けもいないんですって。そのお屋敷から戻ってきた人はお金持ちになると言われてるわ」

唯「眠りの家のお話と違ってマヨイガはハッピーエンドなんだね」

梓「マヨイガ……迷い家……」

紬「実はうちのご先祖様もマヨイガから帰ってきて財をなしたのよ~」

律「よっしゃー!今からマヨイガにとっこうだー!」

澪「えぇ!?」

紬「うふふ、冗談よ♪」

梓「あ、あはは……」


――――

唯「……あずにゃん?あずにゃんってば」

梓「す、すみません。ぼーっとしてました」

唯「悩み事かな?それならこの唯先輩どーんと頼っちゃって!」

梓「あの……」

唯「なーに?」

梓「憂は……元気ですか……?」

唯「それがまだ体調が悪いみたいなんだよー」

梓「……っ」

唯「どうしたの?顔色が悪いよあずにゃん」

梓「な、なんでもありません」

唯「まさか風邪!?」

梓「大丈夫です……大丈夫ですから……」

唯「うーん、ならいいんだけど。無理はしないでね?」

梓「はい、ありがとうございます」

梓「そろそろお暇しますね」

唯「もうちょっとゆっくりしてけばいいのにー」

梓「両親が心配しますので。すみません」

唯「そっか。もう遅い時間だもんね。それに雨も降ってるし」

梓「最近ずっと雨続きですよね」

唯「そだね。なんだか気持ちまでじめじめじとじとしちゃうよ」

梓「……」

唯「早く晴れないかなぁ」


――――

律「……しかし、まさか実在するとはなぁ」

梓「私もびっくりです」

澪「私は早く帰りたい」

唯「ムギちゃんが今度の合宿先は眠りの家よ!って言ったときはびっくりしたよー」

紬「山奥に建てた別荘の近くにお化けが出るって噂のお屋敷があったから」

律「よくよく調べたら眠りの家の噂元だったと。いやー、さすがに雰囲気出てるな」ギシッギシッ

澪「律!床が腐ってるんだからあまり歩きまわる危ないぞ」

梓「もっと奥行きのあるお屋敷だって噂でしたけど、ほとんど崩れてますね」

律「だいぶ昔に建てられたんだろーな」

紬「噂ではこのお屋敷の地下に海のようにひろーい湖があるんですって」

澪「そこで死者に会うのか……」ゴクリ

唯「あ、私水着持ってくるの忘れちゃったよぉ」

梓「泳がないでください」

律「つまりそこが黄泉の国の入り口なのか?」

紬「たぶんそうだと思うわ。漢語では【黄泉】は【地下の泉】を意味しているくらいだし」

澪「この下に広大な泉が……。ちょっと想像できないな」

梓「どうせ噂話に尾ひれがついたんでしょう。よくあることです」

紬「でもこの近辺では幽霊屋敷ってことでけっこう有名なのよ、ここ」

澪「うぅ、そういう話はやめてくれぇ」

律「まだ昼間だぜ?きっとお化けも空気よんで出ねーよ」

唯「それにしてもムギちゃんは色々詳しいね。都市伝説とか好きなの?」

紬「そうなの!実は一時期はまっちゃってインターネットで調べたのよ~」

律「はは、意外とミーハーなんだな」

紬「あのね、あのね!このお屋敷には他にも色んな怖い話があってね!」

澪「もぉやだ~!」

憂「みなさん、そろそろ行かないと帰りのバスがなくなっちゃいますよ」

律「もうそんな時間か。もっとゆっくり見て周りたかったけど仕方ないな」

紬「あっ!写真撮るの忘れてたわ!ちょっと待って!!」

澪「む、ムギ~」

梓「あはは、ほんとに好きなんですね」

唯「……憂はこういうの嫌い?」

憂「都市伝説のこと?」

唯「うん。怖いけどなんだか気になっちゃうよね」

憂「ふふ、お姉ちゃんはいつもそういって怖い番組見てるよね」

唯「そう!それに近い感じがするよ!」

憂「怖い物見たさだね。たしかに気になるかも」

唯「でしょ!?」

憂「怖い番組を見るときはいつも私にべったりだけど」

唯「そ、そのことはみんなにナイショだよ~」

憂「分かってるよ、お姉ちゃん」

憂「もしかして、今回合宿に誘ってくれたのも怖かったから?」

唯「そ、そんなことないよ~?」

憂「ほんとかなぁ?」

唯「ごめんなさい、怖かったからです」

唯「みんなもいるけど、やっぱり憂と一緒のときが一番落ち着くって言うか……」

憂「安心する?」

唯「うん。それにね……」

憂「それに?」

紬「……うん、ばっちりカメラに収めたわ!」

澪「じゃ、じゃあそろそろ帰ろう。バスが行っちゃうぞ」

梓「わわ、そろそろ時間危ないですよ」

律「おーい、帰るぞー。平沢シスターズー」

唯「はーい!行こ、憂」

憂「うん、お姉ちゃん」



『落石が走行中のバスを直撃。先日の大雨が原因か』

8日夕方、山間部の道路を走るバスに落石が直撃し、同乗していた市立桜が丘高校に通う
女子生徒一名が死亡した。運転手や他の乗客にけが人はなく、
警察は先日の大雨が事故の原因ではないかとみて、調査を進めている。
女子生徒は部員たちと一緒に部活の合宿で訪れていた。




律「よっ」

梓「どうも」

律「梓が部室に来るのも久しぶりだな」

梓「そうですね。律先輩とムギ先輩はいつも部室に?」

紬「最近はね」

律「そういや昨日唯の家に行ったって聞いたけど……。どうだった?」

梓「元気そうでしたよ。唯先輩は……」

律「……まだ受け入れられないか」

梓「正直、私だっていまだに信じられないですよ」

紬「……梓ちゃん」

梓「澪先輩は?」

律「澪は……」

紬「ここのところは学校をお休みしてるの」

梓「そうですか」

律「どうしてこうなっちまったんだろーな」

紬「……私のせい、よね」

律「それを言うならあの合宿を許可した私の責任でもある」

紬「でも!」

律「もうこの話はやめよう。変なこと言って悪かったよ」

梓「ムギ先輩。今日はケーキはないんですか?」

紬「あ、うん。今準備するね」

紬「……あ」

律「どした?もしかして忘れちゃったのか?」

梓「律先輩じゃないんですから」

律「はは、言ってくれるぜ」

紬「ケーキ……持ってき過ぎちゃった……」

梓「……」

紬「だめね、私。りっちゃん、梓ちゃん、余ったのはよかったら持って行って?」

梓「どもです」

律「私は澪に届けてやるかな」


――――

澪「……」

律「おっす、調子どうだ?」

澪「……」

律「ムギからケーキもらったんだ。一緒に食べよう」

澪「いい」

律「そう言うなって。澪ちゃんの大好きなショートケーキもあるぞー」

澪「……」

律「ここに置いとくから。後で食べてくれよ」

澪「……ブツブツ」

律「え?」

澪「……ねいりゃさよ、はたて」

律「なんだよそれ。新作の歌詞か?」

澪「子守唄」

律「子守唄?」

澪「夢の中で聞こえる気がするんだ。雪の降るお屋敷の中で」

律「それって……」

澪「……なぁ」

律「な、なに?」

澪「律はいなくならないよな?」

律「……っ!!」


――――

律「ふぅ、ギリギリセーフだったー」

梓「これを逃すともうバスないですからね。間に合ってよかったです」

澪「今日は十分遊んだんだから、別荘に戻ったら早速……」

紬「怪談話に華を咲かせましょう♪」

唯「さんせー!」

澪「れ、練習に決まってるだろ!」

律「まぁまぁ、澪さん。今日くらいは大目にみてさ」

澪「ダメだダメだ!練習するんだ~!」

梓「澪先輩の言う通りです。ムギ先輩の別荘についたらまず練習です」

唯「えー」

梓「怪談話は夜にしましょう」

澪「あ、梓!?」

律「じゃあまずは練習頑張るかー!」

唯「おー!」

憂「ふふ、お姉ちゃんたら」

澪「うぅ、ムギがあんなこと言うから」

紬「ごめんなさい。私怪談話や都市伝説に目がなくて」

澪「それのどこがいいんだよ。ただ怖いだけじゃないか」

紬「実は【眠りの家】ともう一つとっておきの話があってね、それも話したいなの♪」

澪「と、とっておき……?」

紬「【地図から消えた村】のお話」

澪「タイトルからしてすごく怖そうじゃないか……」

紬「とある儀式に失敗した女の子が村人を皆殺しにしちゃうの」

紬「その村では永遠に明けない虐殺の夜が続いているというわ」

澪「お化けなんてないさお化けなんて嘘さ……ブツブツ」

紬「その儀式は……を殺して……一つになる……を鎮める」

澪「え?」

ドォオオオオン─────!!


――――

律「今日は梓こないな」

紬「そうね」

律「……暇だな」

紬「ねぇ、りっちゃん」

律「ん?」

紬「昨日澪ちゃんの家に行ったのよね。澪ちゃんどうだった?」

律「相変らずだったよ」

紬「そう……」

律「……」

律「【眠りの家】の都市伝説ってさ。最後どうなっちゃうんだっけ?」

紬「夢を見ていた人が失踪しちゃうの」

律「最初は大きなお屋敷に迷い込む夢を見始める」

紬「雪の降る、何度も増築したような日本家屋ね」

律「そこで近しい死者に会うんだよな」

紬「ええ。中にはお屋敷の中で子守唄を聞いたり、顔を隠した葬列を見る人もいるそうよ」

律「……」

紬「りっちゃん?」

律「そして……失踪する……」

紬「それがどうかしたの?」

律「なんとなく気になってさ」

紬「ならいいのだけど」

律「なぁ、ムギ」

紬「なぁに?」

律「……雨、止まないな」

紬「……うん」


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最終更新:2011年06月15日 22:46