1. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:23:59.42 ID:B3jEqWNwo
紬「私はそのお話知ってるわ〜♪」

澪「そ、それって怖い話?」

梓「たしか夢の中で雪の降るお屋敷に誘われて〜、というお話ですよね?」

律「お、梓知ってたのかー」

唯「私は初めて聞くよ。誘われたその後はどうなるの?」

律「…………死んだ人に会えるんだってさ」
2. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:25:04.08 ID:B3jEqWNwo
梓「こ、こんばんは」

唯「いらっしゃーい。こんな時間にどうしたのー?」

梓「大した用事じゃないんですけど。心配で……えっと……」

唯「そっかー。ありがとね!あずにゃん」

梓「……はい、唯先輩」

唯「せっかくだから上がっていってよー。今なら温かいお茶もついてくるよ!」

梓「じゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらいます」

唯「はい、お客様一名ご案内でーす」

梓「……」
3. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:25:43.06 ID:B3jEqWNwo
唯「粗茶ですが」

梓「ありがとうございます」

唯「粗茶ですが?」

梓「はい、おいしいですよ」

唯「よかったー。普段お茶なんて淹れないから、ちょっと心配だったんだ」

梓「温度も適温だと思います。60℃ぐらいが一番おいしいんですよね」

唯「そうなの?適当にパパっとやったんだけど、ばっちりだったみたい!」

梓「……」

唯「どうかしたの?」

梓「いえ、別に……」

唯「変なあずにゃーん」
6. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:31:43.93 ID:B3jEqWNwo
澪「……死んだ人にか。ちょっと悲しい話だな」

紬「遠野物語にもお屋敷が出てくるお話があった気がするわ。たしかマヨイガだったかしら」

梓「どんなお話なんですか?」

紬「山奥に迷い込んだ人が立派な門構えのお屋敷たどり着くの」

律「そこには未練を残したお化けたちが彷徨うお化け屋敷だった!」

澪「ひっ!」

紬「ところが人もお化けもいないんですって。そのお屋敷から戻ってきた人はお金持ちになると言われてるわ」

唯「眠りの家のお話と違ってマヨイガはハッピーエンドなんだね」

梓「マヨイガ……迷い家……」

紬「実はうちのご先祖様もマヨイガから帰ってきて財をなしたのよ〜」

律「よっしゃー!今からマヨイガにとっこうだー!」

澪「えぇ!?」

紬「うふふ、冗談よ♪」

梓「あ、あはは……」
7. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:32:53.48 ID:B3jEqWNwo
唯「……あずにゃん?あずにゃんってば」

梓「す、すみません。ぼーっとしてました」

唯「悩み事かな?それならこの唯先輩どーんと頼っちゃって!」

梓「あの……」

唯「なーに?」

梓「憂は……元気ですか……?」

唯「それがまだ体調が悪いみたいなんだよー」

梓「……っ」

唯「どうしたの?顔色が悪いよあずにゃん」

梓「な、なんでもありません」

唯「まさか風邪!?」

梓「大丈夫です……大丈夫ですから……」

唯「うーん、ならいいんだけど。無理はしないでね?」

梓「はい、ありがとうございます」
8. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:33:29.91 ID:B3jEqWNwo
梓「そろそろお暇しますね」

唯「もうちょっとゆっくりしてけばいいのにー」

梓「両親が心配しますので。すみません」

唯「そっか。もう遅い時間だもんね。それに雨も降ってるし」

梓「最近ずっと雨続きですよね」

唯「そだね。なんだか気持ちまでじめじめじとじとしちゃうよ」

梓「……」

唯「早く晴れないかなぁ」
9. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:35:55.45 ID:B3jEqWNwo
律「……しかし、まさか実在するとはなぁ」

梓「私もびっくりです」

澪「私は早く帰りたい」

唯「ムギちゃんが今度の合宿先は眠りの家よ!って言ったときはびっくりしたよー」

紬「山奥に建てた別荘の近くにお化けが出るって噂のお屋敷があったから」

律「よくよく調べたら眠りの家の噂元だったと。いやー、さすがに雰囲気出てるな」ギシッギシッ

澪「律!床が腐ってるんだからあまり歩きまわる危ないぞ」

梓「もっと奥行きのあるお屋敷だって噂でしたけど、ほとんど崩れてますね」

律「だいぶ昔に建てられたんだろーな」

紬「噂ではこのお屋敷の地下に海のようにひろーい湖があるんですって」

澪「そこで死者に会うのか……」ゴクリ

唯「あ、私水着持ってくるの忘れちゃったよぉ」

梓「泳がないでください」
10. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:37:17.85 ID:B3jEqWNwo
律「つまりそこが黄泉の国の入り口なのか?」

紬「たぶんそうだと思うわ。漢語では【黄泉】は【地下の泉】を意味しているくらいだし」

澪「この下に広大な泉が……。ちょっと想像できないな」

梓「どうせ噂話に尾ひれがついたんでしょう。よくあることです」

紬「でもこの近辺では幽霊屋敷ってことでけっこう有名なのよ、ここ」

澪「うぅ、そういう話はやめてくれぇ」

律「まだ昼間だぜ?きっとお化けも空気よんで出ねーよ」

唯「それにしてもムギちゃんは色々詳しいね。都市伝説とか好きなの?」

紬「そうなの!実は一時期はまっちゃってインターネットで調べたのよ〜」

律「はは、意外とミーハーなんだな」

紬「あのね、あのね!このお屋敷には他にも色んな怖い話があってね!」

澪「もぉやだ〜!」
11. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:39:03.80 ID:B3jEqWNwo
憂「みなさん、そろそろ行かないと帰りのバスがなくなっちゃいますよ」

律「もうそんな時間か。もっとゆっくり見て周りたかったけど仕方ないな」

紬「あっ!写真撮るの忘れてたわ!ちょっと待って!!」

澪「む、ムギ〜」

梓「あはは、ほんとに好きなんですね」

唯「……憂はこういうの嫌い?」

憂「都市伝説のこと?」

唯「うん。怖いけどなんだか気になっちゃうよね」

憂「ふふ、お姉ちゃんはいつもそういって怖い番組見てるよね」

唯「そう!それに近い感じがするよ!」

憂「怖い物見たさだね。たしかに気になるかも」

唯「でしょ!?」

憂「怖い番組を見るときはいつも私にべったりだけど」

唯「そ、そのことはみんなにナイショだよ〜」

憂「分かってるよ、お姉ちゃん」
12. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:41:19.03 ID:B3jEqWNwo
憂「もしかして、今回合宿に誘ってくれたのも怖かったから?」

唯「そ、そんなことないよ〜?」

憂「ほんとかなぁ?」

唯「ごめんなさい、怖かったからです」

唯「みんなもいるけど、やっぱり憂と一緒のときが一番落ち着くって言うか……」

憂「安心する?」

唯「うん。それにね……」

憂「それに?」

紬「……うん、ばっちりカメラに収めたわ!」

澪「じゃ、じゃあそろそろ帰ろう。バスが行っちゃうぞ」

梓「わわ、そろそろ時間危ないですよ」

律「おーい、帰るぞー。平沢シスターズー」

唯「はーい!行こ、憂」

憂「うん、お姉ちゃん」
13. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/29(日) 21:43:57.84 ID:B3jEqWNwo
『落石が走行中のバスを直撃。先日の大雨が原因か』

8日夕方、山間部の道路を走るバスに落石が直撃し、同乗していた市立桜が丘高校に通う
女子生徒一名が死亡した。運転手や他の乗客にけが人はなく、
警察は先日の大雨が事故の原因ではないかとみて、調査を進めている。
女子生徒は部員たちと一緒に部活の合宿で訪れていた。
17. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 02:03:31.44 ID:1c46Gqnoo
律「よっ」

梓「どうも」

律「梓が部室に来るのも久しぶりだな」

梓「そうですね。律先輩とムギ先輩はいつも部室に?」

紬「最近はね」

律「そういや昨日唯の家に行ったって聞いたけど……。どうだった?」

梓「元気そうでしたよ。唯先輩は……」

律「……まだ受け入れられないか」

梓「正直、私だっていまだに信じられないですよ」

紬「……梓ちゃん」
18. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 02:04:51.21 ID:1c46Gqnoo
梓「澪先輩は?」

律「澪は……」

紬「ここのところは学校をお休みしてるの」

梓「そうですか」

律「どうしてこうなっちまったんだろーな」

紬「……私のせい、よね」

律「それを言うならあの合宿を許可した私の責任でもある」

紬「でも!」

律「もうこの話はやめよう。変なこと言って悪かったよ」

梓「ムギ先輩。今日はケーキはないんですか?」

紬「あ、うん。今準備するね」
19. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 02:06:24.84 ID:1c46Gqnoo
紬「……あ」

律「どした?もしかして忘れちゃったのか?」

梓「律先輩じゃないんですから」

律「はは、言ってくれるぜ」

紬「ケーキ……持ってき過ぎちゃった……」

梓「……」

紬「だめね、私。りっちゃん、梓ちゃん、余ったのはよかったら持って行って?」

梓「どもです」

律「私は澪に届けてやるかな」
20. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 02:07:33.96 ID:1c46Gqnoo
澪「……」

律「おっす、調子どうだ?」

澪「……」

律「ムギからケーキもらったんだ。一緒に食べよう」

澪「いい」

律「そう言うなって。澪ちゃんの大好きなショートケーキもあるぞー」

澪「……」

律「ここに置いとくから。後で食べてくれよ」

澪「……ブツブツ」

律「え?」

澪「……ねいりゃさよ、はたて」
21. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 02:08:05.73 ID:1c46Gqnoo
律「なんだよそれ。新作の歌詞か?」

澪「子守唄」

律「子守唄?」

澪「夢の中で聞こえる気がするんだ。雪の降るお屋敷の中で」

律「それって……」

澪「……なぁ」

律「な、なに?」

澪「律はいなくならないよな?」

律「……っ!!」
24. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:29:28.96 ID:1c46Gqnoo
律「ふぅ、ギリギリセーフだったー」

梓「これを逃すともうバスないですからね。間に合ってよかったです」

澪「今日は十分遊んだんだから、別荘に戻ったら早速……」

紬「怪談話に華を咲かせましょう♪」

唯「さんせー!」

澪「れ、練習に決まってるだろ!」

律「まぁまぁ、澪さん。今日くらいは大目にみてさ」

澪「ダメだダメだ!練習するんだ〜!」

梓「澪先輩の言う通りです。ムギ先輩の別荘についたらまず練習です」

唯「えー」

梓「怪談話は夜にしましょう」

澪「あ、梓!?」

律「じゃあまずは練習頑張るかー!」

唯「おー!」

憂「ふふ、お姉ちゃんたら」
25. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:31:02.64 ID:1c46Gqnoo
澪「うぅ、ムギがあんなこと言うから」

紬「ごめんなさい。私怪談話や都市伝説に目がなくて」

澪「それのどこがいいんだよ。ただ怖いだけじゃないか」

紬「実は【眠りの家】ともう一つとっておきの話があってね、それも話したいなの♪」

澪「と、とっておき……?」

紬「【地図から消えた村】のお話」

澪「タイトルからしてすごく怖そうじゃないか……」

紬「とある儀式に失敗した女の子が村人を皆殺しにしちゃうの」

紬「その村では永遠に明けない虐殺の夜が続いているというわ」

澪「お化けなんてないさお化けなんて嘘さ……ブツブツ」

紬「その儀式は……を殺して……一つになる……を鎮める」

澪「え?」

ドォオオオオン─────!!
26. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:31:51.20 ID:1c46Gqnoo
律「今日は梓こないな」

紬「そうね」

律「……暇だな」

紬「ねぇ、りっちゃん」

律「ん?」

紬「昨日澪ちゃんの家に行ったのよね。澪ちゃんどうだった?」

律「相変らずだったよ」

紬「そう……」

律「……」
27. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:33:20.87 ID:1c46Gqnoo
律「【眠りの家】の都市伝説ってさ。最後どうなっちゃうんだっけ?」

紬「夢を見ていた人が失踪しちゃうの」

律「最初は大きなお屋敷に迷い込む夢を見始める」

紬「雪の降る、何度も増築したような日本家屋ね」

律「そこで近しい死者に会うんだよな」

紬「ええ。中にはお屋敷の中で子守唄を聞いたり、顔を隠した葬列を見る人もいるそうよ」

律「……」

紬「りっちゃん?」

律「そして……失踪する……」

紬「それがどうかしたの?」

律「なんとなく気になってさ」

紬「ならいいのだけど」

律「なぁ、ムギ」

紬「なぁに?」

律「……雨、止まないな」

紬「……うん」
28. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:34:54.90 ID:1c46Gqnoo
気がつくと、私はその屋敷の前にいた

空には灰色の雲が広がって、雪が降っている

ギィ──ギィ──

視線を前に戻す。どうやら屋敷の扉がたてる音のようだ

風もないのに、どうして開いたり閉じたりしているのだろう

一歩前進してみる

ギィ──ギィ──

おいでおいでするように扉がまた鳴く

普段ならあんなところ絶対入らない。律と一緒でも嫌だな……
29. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:36:36.68 ID:1c46Gqnoo
──バタン

私が中に入るのと同時に扉は閉じられた

屋敷の中は所々置かれている蝋燭で薄っすらと照らされている

だけど深い暗い闇を全部消し去ることなんてできなくて

闇の中に何かが息を殺して潜んでいるようで

とても怖かった

……誰か側にいてほしい

これほど強く思ったことはない。誰かが側に

律が側にいてほしいと強く思った
30. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:38:30.30 ID:1c46Gqnoo
ゆっくりと歩をすすめる

……思えば小さい頃からいつも一緒だった

歩くたびに、ギシリギシリと床が薄気味悪い音を立てる

……同じ高校に入って、大学も同じ所に通って

蝋燭の炎が揺らめく

……これからもずっとずっと一緒だと思った

震える足に鞭打ってゆっくりゆっくりと

……だけど、ずっと一緒にはいられない

この先に、答えがある気がしたから

……一緒には……いられない

私は、屋敷の奥へ奥へと進んでいく
31. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:41:41.61 ID:1c46Gqnoo
分かってた、分かってたよ

あの事故で改めて思い知らされた

律とだってずっと一緒にいられないこと、いつかくる別れのこと

逃げるように、私は屋敷の奥へ進む

この先に律とずっと一緒にいられる方法がある気がしたから

ムギがバスの中で言った儀式のことが分かる気がしたから

二人が……一つになる儀式……

それがどんな方法か知らないけど、律とずっと一緒にいられるなら私は

……気がつくと、目の前に赤い蝶が舞っていた
32. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:43:38.30 ID:1c46Gqnoo
ブルリと身を震わせた

窓の格子の向こうではしんしんと雪が降っている

ゆらゆら揺れる蝋燭の炎に照らされるのは、昔ながらの日本家屋の廊下

どうやら私も【眠りの家】に誘われてしまったらしい

そのうち私も、とは思っていたがこんなにも早くだとは夢にも思わなかった

  「ここに澪がいるんだよな」

奥へと進む理由を口にしてはみたが、足は動かない

怖いものは怖いのだ。叶うなら夢が覚めるまでここで時間を潰したいのだけど

  「そうも言ってられないか。私は澪に消えてほしくない……」

今度は足が動いた。少し震えているのは寒いからだということにしておこう
33. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:44:35.13 ID:1c46Gqnoo
屋敷の中はまったくの無音だった

何もかもが死んでしまっているのだろう

音がない、という理由だけでどうして私はこんなにも怯えているのか

この首筋にねっとりとからみつくような視線は何処からくるのか

辺りを見回しても、当然誰一人いやしない……いるわけがない……

だけど、もしかしたら蝋燭に照らされていないあの暗がりに潜んでいるのかもしれない

あそこの曲がり角に

天井の裏に

縁の下に

──カツーン

音が聞こえる
34. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:45:39.13 ID:1c46Gqnoo
──カツーン

何かを打ち付けるような

──カツーン

釘でナニカを穿つような

頭の中をよくないものが満たし始める

落ち着け。もしかしたら私と同じようにこの夢に囚われた人かもしれないじゃないか

──カツーン

そうだよ。この音だって何か事情があって

──カツーン

何かって何だよ。こんな不気味な屋敷でいったい何をしてるってんだ

──カツーン

こんな場所でこんな音を出してるやつなんて、気がふれてるか

……それはきっと

──カツーン──カツーン

ニンゲンジャナイ
35. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:47:52.26 ID:1c46Gqnoo
いつの間にか、音がより鮮明に聞こえる

どうやってここまで来たかなんて覚えてない。知らず知らずのうちに歩を進めていたようだ

──カツーン

すぐそばで聞こえているのに、音の発生源が見当たらない

いっそ分からないままのほうがいい

だけど気持ちとは裏腹に、私は辺りを調べ始めていた

ふと思い立って、壁に耳をつけてみる

──カツーン

どうやら壁の中から聞こえるみたいだ

壁を伝ってぐるりと回ってみる

しかし、入り口らしいものは見つけることができなかった

壁周りの広さからするに、壁の中に小さな部屋があるのだろう
36. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:48:40.10 ID:1c46Gqnoo
よくよく壁の周りを調べてみると、目の高さぐらいの位置に覗き窓があった

ここから中が見える

──カツーン

音は止まない。やめるなら今うちなのだろう

──カツーン

やめたいのに、やめるべきなのに私はどうして覗こうとしているのか

好奇心だろうか。それともあまりの恐怖に頭がおかしくなっているのか

理由はよく分からない

だけど、私はたしかにそれを見た
37. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:49:56.35 ID:1c46Gqnoo
少女だった

10歳ぐらいだろうか。巫女服を着た少女が木槌を片手に一心不乱に

壁に何かを打ち付けている。後ろ姿だからそれが何のかはよく見えない

──カツーン

一定のリズムでよどみなく。少女は打ち続ける

……もういいだろ。答えは分かったんだ。今すぐここを離れよう

少女はなお打ち続ける

……早くここを離れるべきだ。さぁ行こう

音が止まる

ゆっくりと少女は後ろを振り返り、私を見た

その口元に笑みを浮かべながら
38. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/31(火) 22:53:32.68 ID:1c46Gqnoo
少女がこちらへ近づいてくるさまは、釣り糸の切れた人形のように思えた

カクリ、カクリ……そんな音を立てるように……

後姿からは見えなかったが、壁に打ち付けていたのは杭みたいだ

細長く、文鎮よりも少し太めの杭

切っ先が鋭く尖っている

一瞬だったけど、側面には奇妙な文様が刻まれているのが見えた

……なんでそこまで知っているのかって?

少女が今、私の左目にその杭を当てているから

あと1cmでも動かせば、私の左目は潰れてしまう

でもしない。まだしない

少女を見る。笑ってる。笑ってるよこの子

木槌を持った手を大きく振り上げる少女

逃げたければどうぞ。逃げられればどうぞ

足も手もまぶたも動かない動けない。どうしてどうしてどうしてどうしてどう……














振り下ろす
44. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:21:35.18 ID:725PQOqKo
律「よっす」

梓「どうも」

律「昨日はどうしたんだ?部室にこないから心配したぜ」

梓「少し用事がありまして。心配かけてすみませんです」

律「ま、大したことないなら別にいーんだけどな」

紬「それよりりっちゃん大丈夫?今日はずっと具合が悪そうだったけど」

律「ちょっと夢見が悪かったんだよ。それだけ」

紬「ほんとにそれだけなの?」

律「ほんとだって。ムギは心配性だなー。私はこの通り大丈夫だぜー」

紬「そう……」
45. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:22:26.29 ID:725PQOqKo
梓「あの、先輩方に相談があるんですけど……」

律「お金を貸してくれってのはなしな」

梓「……」

律「……それで相談ってのは?」

梓「昨日また唯先輩の家に行ってきたんです」

律「唯、ね……」

梓「少し話しをしたんですが……。気になることを言っていまして」

紬「気になること?」

梓「毎晩夢を見ると言っていました」

律「そりゃ誰だってみるだろ。私だって見る。昨日見たのは最悪の悪夢だったけど」

紬「どんな夢を見るって言ってたの?」

梓「憂に会う夢だそうです」
46. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:23:52.77 ID:725PQOqKo
この夢を見始めたのはいつ頃だったか

憂が病気になってからだったかな?うーん、記憶が曖昧だ

そういえば憂っていつ病気になったんだっけ?

これもよく思い出せない。でも思い出せないってことは思い出さなくてもいいことなのだろう

今考えなきゃいけないことは憂を探すことだ

大きくて暗ーいお屋敷の中で憂は一人きりなのだから

きっと寂しい思いをしてるに違いない

だから私が探してあげるんだ。そうだよ、憂を探してあげなきゃ
47. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:25:05.25 ID:725PQOqKo
お屋敷の中はどこまでも静寂が続いていた

私の息遣い、足音、心臓の鼓動がなければ

私がここに存在することすら疑わしく思えるくらいの静寂

こんな寂しいところに憂は一人ぼっちなんだ

そう思うだけで、自分のことのように胸が苦しくなった

壁伝いにゆっくりと歩く。ときおり揺れる蝋燭が怖いお化けを……

と言ってもただの陰なんだけど。お化けを作って私を怖がらせる

  「憂待っててね。今迎えにいくからね」

言葉にしてみると、少し気分が紛れた

それにちょっぴり勇気も出た気がする。うん、まだまだ頑張れるね
48. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:26:16.12 ID:725PQOqKo
たくさんのお地蔵様が並ぶ中庭を横切って

注連縄が巻かれた気味が悪い木の周りを頑張って探して

だけど、憂は見つからない

憂の名前を呼んでも、空しくこだまするだけ

たしかにお屋敷の中へと入っていく憂を見たんだ

なのにどうして見つからないんだろう

私は膝を抱えてぺたりと床に座り込んだ

……

……

ああ、また寂しくなってきた
49. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:27:29.97 ID:725PQOqKo
……っ

声が聞こえた。ほんのかすかだけど

顔上げて声がする方へ耳をかたむける

あっち……さっき調べた木の方から聞こえてくるようだ

そういえば御札がびっしりと貼られて、開かない扉があったっけ

もしかしたらあの奥だろうか?

一度深呼吸。そして足に力を入れて立ち上がる

ちょっとふらついた。でもまだ平気

行かなかなきゃ……
50. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:28:23.97 ID:725PQOqKo
御札びっしりの扉をにらみつける。開かない

当然か。手で開けなきゃいけないのだけど、触って呪われたりしないだろうか

ええい、そんなもの関係ない。どうとでもなれ

取っ手に手をかけて、えいっ!っと思いっきり引っ張る

さっきはビクともしなかった扉が嫌な音を立てて開いた

扉を開けるとそこはお屋敷の外だった。砂利が敷き詰められていて

大きな鳥居があって、その奥にはお社があって。まるで神社みたい
51. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 16:30:44.29 ID:725PQOqKo
お社の前で見知った人影を見る

  「……お」

私が何か言い終える前に、奥へと消えてしまった

一瞬だったけど、あれたしかに……

でもどうして行ってしまったのだろう

一人で寂しくないのだろうか

私はこんなにも側にいてほしいのに

きっと同じ気持ちだと思っていたのに

私は走り出した


最終更新:2011年06月15日 23:07