さわ子「それにしても、感慨深いわね。ティータイムとももう後一ヶ月でサヨナラかぁ」

澪「そこは上辺だけでも私達との別れを惜しんで下さいよ」

さわ子「じょ、冗談よ」

澪「怪しい」

さわ子「軽音部としてもそうだけど、あなた達は私が担任として最初に送り出す生徒だもの」

さわ子「思うところはあるわよ」

梓(先生……)

唯「さわちゃんと会えなくなるの寂しい」

さわ子「そう言って貰えると、教師冥利に尽きるわね」

唯「だから遅刻を帳消しに……」

さわ子「却下」


紬「ふふふ」

澪「もうこんな時間か。律、起きろ、帰るぞ」

律「ん~……あと五分……」

澪「帰っていくらでも寝ろ」

唯「寝てる人を見てたら私もなんだか眠く……」ウトウト

紬「あらあら」

さわ子「もう、しっかりしなさい。梓ちゃんに情けない姿見せていく気?」

梓「いえ、もう見慣れてます」

律「ふぁ……ちょっと顔洗ってくる」

澪「あ」

唯「私は一足早く、失敬!」キリッ


なんじゃこりゃああああっ!!


唯「あわわわ、早く逃げなきゃ!」



帰り道!

唯「うぅ……額に『うんたん♪』って書かれた……」

梓「自業自得です」

律「ったく! 鏡見て一気に目が覚めたし!」

紬「似合ってたわよ、りっちゃん」

律「それ褒めてないから」

澪「後一ヶ月で卒業する高校生のやる事か?」

唯「う~、そんな事言われても」

律「実感あるような無いような」

紬「きっと、学校に来なくなって初めて実感するのね」

梓「……」

唯「……」

澪「……」

紬「……」

律「だー! 止めろ止めろ! 辛気臭い空気は!」

唯「うおぅ! りっちゃんが暴れだした!」

律「せっかく地獄の入試も終わったんだ、記念に何か食いに行こう」

紬「良いわね」

唯「さんせー!」

梓「あ、私はいいですお小遣いが……」

澪「たまには先輩の顔を立てろ」

律「そーそー、澪がおごるってさ」

澪「言い出しっぺが出すべきだろ」

律「なんだと?」

紬「まぁまぁ、喧嘩しないで」

唯「あずにゃんも行こう!」

梓「は、はい」



ファミレス

唯「お腹空いたー」

律「食うぞー食うぞー」

紬「食生活まで制限してたの?」

澪「単にリミッターがぶっ壊れてるんだろ」

梓「入試ってそんなに辛いんですね」

澪「こんな風にならないように、梓はちゃんと勉強しとくと良い」

梓「そうします」

律「肉……肉……肉をくれ……」

紬「なんだかりっちゃん怖い……」

澪「一人だけテンション高過ぎて周りがついて来れない現象」

唯「お肉……お肉……」

澪「つられてるし……」

店員「お待たせしました、ステーキセットです」

律「待ってましたー!」

唯「ましたー!」

唯律「いただきます!!」

澪「あーあー、ガツガツ食べるから」

律「ふも?」

澪「ソースがついてるぞ」

律「もごごふがふが」

澪「食ってから喋れ」

唯「はい、あずにゃん野菜食べて大きくなってね」ヒョイヒョイ

梓「いらないですよ! 自分で食べて下さい!」

紬「好き嫌いはダメよ」

唯「はーい」ショボン


律「食った……もう死んでも良い……」

澪「合否見てからにしろ」

紬「でもこれで卒業ライブに集中出来るわね」

律「最後くらいバシっと決めなきゃな」

澪「当たり前だろ」

律「パンツ出すなよ」

澪「な!?」

紬「唯ちゃんも、体調整えてね」

唯「心配ご無用! 憂に任しておけば大丈夫!」

律「そんなんで一人暮らし出来るのか?」

唯「う、憂がいれば……」

律「それは二人暮らしだ」


梓「……そろそろ行きますか?」

律「まぁまぁ、座れ梓」

梓「?」

紬「……」

澪「……」

唯「りっちゃん……」

律「良いんだよ、こういう場の方が言い易い」

梓「なんですか?」

律「そう身構えるなって……」

梓「聞きませんよ」

律「え?」

梓「大体どんな話かは見当がつきます……来年の事ですよね?」

律「あーまー、それもある」

梓「聞きたくないです!」バン!

唯「あ、あずにゃん!」

梓「そんな話……嫌です!」

律「嫌ですってお前」

梓「嫌な物は嫌です!」

タタタ

澪「梓!」

紬「行っちゃった……」

律「唯、行け」

唯「え?」

律「あいつはお前に憧れて入ったんだ。お前にはあいつを独り立ちさせる義務がある!」

唯「そんな……」

律「行け!」

唯「……!」タタタ

律「たくー、梓のガキんちょめ」

紬「りっちゃんも大変ね」

律「いーよいーよ、普段だらけてるんだから、こういう場では絞めとかないと」

澪「普段からしっかりしとけよ」

律「いつもカリカリしてる誰かさんよりマシですー」

澪「おい、それは誰の事だ」

紬「まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ」


~~~~~~~~~~~~~

唯「あずにゃん!」

梓「……先輩」

唯「はぁ……はぁ……あずにゃん、速い……よ、疲れちゃった」

梓「ごめんなさい」

唯「ん、許そう」

梓「せっかく楽しい食事だったのに……私のせいで」

唯「皆気にしてないよ~」

梓「私、ダメなんです」

唯「何が?」

梓「先輩達が卒業しちゃうって思うと、頭に血が昇って……わけがわかんなくなるんです」

唯「……」

梓「ねぇ先輩」

唯「なに?」

梓「卒業ライブ、止めませんか?」

唯「え? あずにゃん、何言って……」

梓「卒業ライブさえしなければ……そう、卒業しなければずっと放課後ティータイムのまま」

梓「そうしましょうよ先輩。先輩だって、まだまだ皆でやりたいでしょ?」

唯「それは……そうだけど」

梓「ね? だったら止めましょうよ。卒業も全部無かった事にして」

梓「そしたら……そしたら来年も……」

唯「あずにゃん」

梓「……」ビク!

唯「ダメだよ……そんなの」

梓「わかってくれないんですか?」

唯「解ってるから言うの」

唯「あずにゃんもさ、りっちゃんがどれだけ頑張って来たか知ってるよね」

梓「はい」

唯「澪ちゃんやムギちゃんだって、りっちゃんより早く合格したけど、すっごい頑張ってた」

梓「はい」

唯「卒業しなかったら……皆の頑張りが、全部無くなっちゃうんだよ」

梓「はい」

唯「皆、先に進まなきゃいけないんだよ」

梓「……はい」ポロポロ

唯「なーんて、偉そうな事言っちゃったけど……」

ギュ

唯「ほんとはね、皆寂しいんだと思う」

梓「ぜんぱ……ヒック……い」

唯「でもね、あずにゃんがいるから……」

唯「あずにゃんがいてくれるから、安心して卒業出来るんだよ」

唯「あずにゃんはしっかり者だし、ギターも上手だし」

唯「軽音部は任せた! って感じかな」

唯「だから……笑って見送ってくれたら嬉しいな」ギュ

梓「グス……ヒグ……はい」

唯「今は、一杯泣いて良いから。卒業式までに涙は枯らしといてね」

梓「……」コクリ


律「さーて、様子を見に来たはいいものの」

澪「出るに出れないな」

紬(録画は……野暮ね)

律「唯は泣くと思ったんだけどな」

紬「先輩らしくなっちゃったわね」

澪「まぁな」

律「なぁ、正直言って良い?」

澪「ダメだ」

律「おい」

紬「一回言ったら、止まらないわよ多分」

律「ちぇ、お見通しかよ」

澪「全員思ってるだろうからな」

律「あーもう! 帰る!」

紬「え?」

律「愚痴吐いてもしょうがないし、帰って練習する」

澪「私もそうするかな」

紬「そうね……最後に後悔を残すのは、最低の先輩だものね」


4
最終更新:2010年01月17日 00:10