律「おい!!唯!!もっとラフに歌ってくれよ!!そんなんじゃー小学生の合唱コンクールだぞ」

唯「...りっちゃん?」

律「...ん?」

唯「最近、カリカリしてない?」

唯「無理矢理、ラフとかワイルドとかを意識してない?」

律「...」

澪「しょーがないだろ...律の原点は The Who なんだし...」

唯「でも...」

唯「The Who は格好いいけど、私たちのスタイルじゃないよ。」

唯「それにムギちゃんと意見が合わないというだけで、仲間割れした状態はさすがの私でも辛いよ...」

唯律澪「...」

たしかに唯の言うことは最もだ、高校の時は音楽さえできれば満足だった。

でも、大学に入って軽音楽部に入って、放課後ティータイム以外の部員に出逢ったとき、

私はふっ切れないモヤモヤ感に包まれ始めた。

簡単に言えば、『もっと私のやりたい音楽を目指したい!!』だった。

もちろん、高校時代に放課後ティータイムとして築いたものは分不相応な位にハイレベルな曲ばかりだった。

その中心に居たのは、幼なじみの澪こと「秋山澪」と、ムギこと「琴吹紬」。

特にムギの作った曲は、第三者として聴いていても「スゴい!!」の一言だった。

また、澪の詩も独特の世界観(=痒い痒い!!)も幼馴染みとしては共感できるものだった。

私はその延長を楽しめれば良いと思っていたんだけど...

澪やムギのような才能を持たない『単なるアマチュアドラマー』としては

大学を卒業したら社会にでなければならない事を意識せざるを得ない。


唯「ねぇねぇりっちゃん?」

律「ん?なんだ?」

唯「えーとねっ...今のりっちゃんは焦ってる感ありありでね...」

唯「私も澪ちゃんも窮屈なんだよ」

唯「そのうえ、ムギちゃんもいないし...」

唯「高校の時は、気まずい雰囲気になるとムギちゃんがお茶を用意してくれたけど」

唯「今はそれもないし、ギクシャクしたままなんだよ」

唯「澪ちゃんはりっちゃんと幼馴染みだから、我慢できるかもしれないけど」

唯「私は今の状況が楽しめないどころか辛いんだよ」

......

澪(...うっ...これは気まずい...)

澪(でも、唯がここまで言うことは...)

澪(やっぱり、ムギと律の事が堪えてるんだなぁ~」

澪(ここは、私が取り持たないといけないのか?)

澪(でも、上手く取り持つ自信もないし...)

澪(...ダメっ、ダメっ、ダメっ!!)

澪(ここで頑張らないと、放課後ティータイムどころか梓との約束も破ることになる!!)

澪「ちょっ!!っちょっと今日はこの辺であがろう...そっだなひさしぶりにゲーセンとかどうだ?」

律「うーん...ゲーセンという気分でもないから、今日は帰るわ」

唯・澪「...」

澪「そっか...じゃあ、今日はここで上がりにしよう。でも来週はみっちり練習するぞ!!」

律「へいへい」

律(澪...お前はわかってくれてると思ってたんだけど...)

律(天才が囲まれてる凡人がどれだけ辛いかって事を...)

律(テクニックなら努力でカバーできるけど、テクニックだけでは到達できない未知の領域...)

律(ムギの作曲能力はわかってるだろ?、でも私にはそこまでの才能はないんだよ...)

律(嫉妬で片付けたら簡単だけど、ムギは親友なんだよ...)

律(おまけにムギは私の心情を汲んだ上で、私から離れたんだろう)

律(ボタンの掛け違いみたいな簡単な行き違いだってのはわかってるけど...)

律(どうしても素直になれないんだよ)

律(親友だと思ってるからこその甘えなんだよね...)

律(だから澪に気づいて欲しいんだよ!!そして掛け違ったボタンを掛け直すきっかけを作って欲しいんだ...)


一方ムギ...

紬(りっちゃんと喧嘩したけど...)

紬(私、喧嘩したことがなかったから...)

紬 (うふふっ!!なんだか親密度が増した感じ)

紬(でも、りっちゃんと仲直りする算段をそろそろしないといけないわね)

紬(うーん...そうなると澪ちゃんか唯ちゃんに間を入ってもらうのがいいけど...)

紬(ん!!ここはこの手でいきましょ!!)


和「なんなの一体?」

紬「うーん...特に理由はないんだけど、ちょっとね...エヘヘ」

和「ムギが私に話がある時点で『特別な理由がある』としかおもえないんだけど」

紬「さすが和ちゃんね!!」

和「だれでも気づくわよ!!それでなにがあったの?」

紬「実はね...」

紬「りっちゃんとちょっと喧嘩をしちゃたの」

紬「もっとも喧嘩といっても、私が拗ねた『ふり』をしただけなんだけどね」

紬「でも私以外は深刻な状況に陥ったの...」

紬「ちょっと冗談が過ぎたと思ったんだけど、私よりもりっちゃんが思い込んじゃってね」

紬「なんとかソフトランディングしようと思ってるんだけど、りっちゃんだけがそれを拒んでいるみたいなのよ」

紬「唯ちゃんも澪ちゃんも私がいつでも戻る気でいることをうすうす感じてるようなんだけど...」

紬「りっちゃんがへそを曲げてることに驚いてて、必要以上に深刻に感じてるみたいなの」

和「ハァ...」

和「あんたたちって、ほ~んと平和よねぇ~」

紬「...時節柄申し訳ありません...」

和「で、私は何を演じればいいの?」

紬「演じるだなんて...和ちゃんは和ちゃんを演じてくれたら十分だとおもうんだけどなぁ~」

和「ハァ~...さすがムギねぇ」

和「で、まずは唯を籠絡すればいいのね?」

紬「籠絡って表現は極端だけど...唯ちゃんには私の本意を知ってもらいたいなぁ~ウフフッ」

和「ムギ!!あんた、こんな状況でよくそんな暢気な立場でいられるものね?」

紬「あらっ!!私はそんな深刻なこととは考えてないんだけど」

和「なら、余計に深刻よ!!」

和「まぁいいわ。その深刻さを含めて解決手段を考えましょ!!」

和「もちろん、ムギもそれなりの代償は覚悟しててね?」

紬「ん?うっ...うん(代償がいるのかな?まぁ、仕方ないか...)」

和「ところで原因はなんなの?」

紬「え~っとね。私の浮気?かなっ?」

和「ちょっ、ちょっと!!あんたたちそんな関係だったの?」

紬「違う違う!!例えよ例え!!」

紬「ほらっ、大学の軽音部にはいろんなバンドがあるでしょ?」

紬「しかもロックやら、ジャズやら、ブルーグラスやら、ジャンルも色々あるじゃない」

紬「私って、クラシックピアノ以外では放課後ティータイムしか演奏経験がないから、いろんなバンドの練習をみてたのよ」

紬「そしたらある先輩がね。『琴吹さんはキーボードがてきるんだよね?だったら一度セッションしようよ』って言ってくれたのよ」

紬「面白そうだったから二つ返事で『是非』って事で参加したの」

紬「そうしたら、結構面白かったし、私の腕前も評価されて、いろんなバンドからも声がかかり出してね」

紬「調子に乗ってセッションしたり、ヘルプでライブに出たりしだしたの」

紬「最初の頃は、りっちゃん達も気にしてなかったんだけど」

紬「先輩のバンドからキーボードで加入してくれって話が来た時に、りっちゃんに相談したのよ」


紬「勿論、加入する気はなかったけど、りっちゃんに反対されたくってね…」


ーーしばし回想ーー

紬「ねぇ、りっちゃん!!ちょっと話を聞いてくれる?」

律「ん?なんだ?愛の告白ならまず整理券を取ってくれよ。」

紬「うふふっ!優待券じゃダメ?」

律「しゃーねーなぁー。特別だぞ」

律「で、話ってなんだ?まさか本当に告白でもないだろ?」

紬「うん(ちょっと残念だけどね)!!」

紬「実はね、先輩のバンドのキーボードに誘われたの…」

紬「勿論、入るつもりはないし、仮に入ったとしても、放課後ティータイムと両立するつもりよ」

律「…………」

紬「りっちゃん?」

律「…………………」

紬「りっちゃん!!」

律「好きにすれば?」

紬「えっ?」

律「だから、好きにすれば良いじゃん!!」

律「大学生なんだし、自分がやりたいんなら、自分で決めろよ」

律「私は反対しないよ。」


紬(あれっ?なんか予想外な展開…どうしよう…アセアセ)

律「話はそれだけか?じゃあ私は授業に行くよ」

紬(うわぁ~やっちゃった~、りっちゃん怒っちゃった~アセアセアセアセ)

ーー回想完ーー


和「はぁ~~~~」

和「小学生でもそんな事しないわよ。」

和「でも小学生じゃなくて、大学生だから質が悪いわねぇ」

紬「そうなのよ」

和「ところで、あんた達は同じ寮に住んでるんじゃなかったの?」

紬「ええそうよ、今でも一緒よ」

和「気まずくないの?」

紬「………」

紬「だからなの…」

紬「だから和ちゃんに相談してるのよ」

紬「澪ちゃんや唯ちゃんは」


澪『律がすねてるだけだろ、いずれケロリと忘れるさ』

唯『なんか子供の喧嘩だね、一回演奏したら仲直りできるよ』


紬「てな感じなんだけど…」

紬「肝心なりっちゃんが、私を避けてるようなの」

紬「それに演奏自体も雑きになって来てね。」

紬「『このままじゃいけない』って思ったから、しばらくバンドを離れてみたの」

和「………」

和「ますます子供の喧嘩じゃないの」

和「典型的な雪だるま式負債ね」

紬「やっばり、そうよねぇ~」

紬「私って、今まで喧嘩とかした事がないから…」

紬「ほんの些細な事が、こんな事になるって思ってなかったの」

和「そうよねぇ~...ムギと喧嘩ができるのは律くらいよねぇ~」

和「とにかく、ムギに相談されるほど頼りにされてるなら、私にできることからしてみましょうか」

紬「ありがとう和ちゃん恩にきるわ」



律の部屋

So Saaaaad about us♪

ベッドに寝転がって CD を聴きながら、ぼーんやりとしている律

律「なんだかなぁ~今の気持ちにぴったりの曲が流れてきたなぁ~」

律「The Who ってワイルドな印象を受けるけど、本当は繊細な曲も多いんだよなあ~」

律「See me, Feel me, Touch me, Heal me♪」

律「...」

律「トミーかぁ~」

律「自分から見ようとせず、自分から聴こうとせず、自分から話そうとせず...」

律「なんか、柄にもないこと考えてるじゃねーかよぉ...」

律「...」

律 ZZZZzzzzzzz.....

トントン

澪「おーい律!!晩ご飯だぞー律ぅ」

律「ん?あれっ?いつの間にか寝ちゃったんだ」

澪「律ぅ」

律「わかったよ澪。いま行くよ~」



食堂にて

律「あれ?今日は人が少ないなぁ?」

澪「あぁ、先輩方は就職ガイダンスやら教育実習ガイダンスやらで遅くなるらしい」

律「唯は?」

澪「今日は和と会うから遅くなるって寮母さんに話してた」

律「それと...」

澪「ムギか?」

律「...ソゥ...」

澪「今日は実家で大事な用事があるからって実家に帰ってるよ。」

澪「なぁ律。いいかげん意地を張るのをやめたらどうなんだ?」

澪「ムギは自分が原因だからとかいってるけど、誰が見ても律が意地を張ってるとしか思えないぞ」

律「...」

律「わかってるよ。」

律「わかってるんだよ。それくらい!!」

律「でもさぁ」

律「ここで意地を張らなかったら、いつ張るんだよ?」

律「しかも相手はムギだ!!相手に取って不足無しじゃねーかよ!!」

澪「なに言ってんだ?そんなこと考えてるんなら、さっさと仲直りすればいいだろ?」

律「いいや!!これは簡単には退けないんだ。ムギに取っても私に取っても」

澪「はぁ?なんでなんだ?退く退かないの問題でもないだろ?」

律「問題なの!!」

澪「そうか?」

律「そう!!」

澪「ならなんにも言わないけど、話をこれ以上ややこしくするなよ!!」

律「わかってるって...」

.......................

律「なぁ澪?」

澪「ん?何?」

律「澪は最初こそ慌ててたけど、なんか冷静だな?」

澪「あ~それ?」

澪「まぁ、付き合いはそれなりに長いからなぁ~」

澪「自分に納得できる答えを探してるだけだろ?」

澪「ただ、今回はちょっと深刻な分、なかなか答えが見付からないってところかな?」

律(なんだ、お見通しかよ)

律(まぁ、今回は澪とムギが入れ替わった感じだな。それなりに心強いって事にしとこっか)

澪・律「ごちそうさまでした」


再び律の部屋

You are all forgiven♪
You are all forgiven♪

かかりっぱなしのCDは何回リピートしたんだろう?


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最終更新:2011年06月25日 23:16