第3章 ~紬の場合~
……
………
ポタッ
紬の頬を雫が濡らす
紬「う…ん……」
紬「ここは……」
紬はここが魔界であると理解するのに多少の時間を要した
そこは床から天井までの大半が
木のツルに覆われていたからである
―――飽食界
紬(私だけはぐれてしまったのね……)
―――魔界へようこそ―――
紬「!!……お邪魔致しますわ」
紬「みんなはどこなの!?」
―――この魔界はいくつかの階層に分かれてるわ―――
―――他の者たちには私がふさわしいと思った場所に堕ちてもらった―――
―――みんなに会いたいのなら、奥に進むことね―――
―――せいぜい私を楽しませて頂戴……フフフ―――
紬「和ちゃん……」
……
………
紬(ジメジメしてるわね……さすがにこの暑さで冬服だと……
おまけに木のツルだらけで歩きにくいわ……)
紬(そうだ!)
紬は上着を脱いで腰に巻き、ブラウスを第二ボタンまではずす
紬(こうすると何だか律ちゃんになったみたい……)
紬(みんな……無事でいて……)キュルルルゥゥ
紬(お腹が空いたわ……今何時なのかしら)
紬(喉も乾いた……こんな時に斉藤がいたら……
電話してすぐ食べ物を届けさせるのに)
紬(食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい)
紬(はっ!やだ……私ったら)
紬(きっとみんなもお腹空かせてるはず!)
紬(行かなきゃ……)
…
……
紬(はぁ…はぁ……悪魔が強いわ……)
紬(お腹が減って力が出ないとはこの事ね……)
紬(あそこが最深部の扉ね)
紬(私…頑張るわ!)
ギイイィィィ
澪「遅いぞ!ムギ!」
唯「もうお腹と背中がくっついちゃったよ~」
律「嘘つけー!」
紬「澪ちゃん!?唯ちゃん……みんな……」
紬「ここは……音楽室!?なんでなの!?」
律「なんで音楽室って……」
唯「昨日約束したじゃ~ん!」
紬「約束?」
澪「忘れたのか?今日の昼ご飯はムギの執事さんに全員分届けさせるから
音楽室で食べましょうって言ったのはムギだぞ?」
紬「あら?そ、そうだったかしら」
唯「まさかムギしゃん!わずれだんじゃああ……
今日楽しみで朝ご飯ちょっとしか食べt」
律「唯隊員~!気をしっかり持てーーい!」
唯「わ、私はもう……だめでごわす……」ガクっ
紬「クスっ……ごめんなさいね、今すぐ届けさせるから
もうちょっとだけ我慢して!」
紬(きっと悪い夢でも見てたのね……)
trrrrr trrrrr
斉藤「はいお嬢様、何でございましょう」
紬「斉藤、大至急[琴吹家特製弁当]を4人前、いや8人前
届けてくれるかしら?」
斉藤「は、8人前!?でございますか」
紬「私、お腹ぺこぺこよ……」
斉藤「はっ!すぐにお持ち致します!」
…
……
唯「うほぉーっすごぉーーーい!」
律「こりゃ食べごたえありそうだな!」
紬(さすがに8人前はやりすぎたかしら……)
紬(でもまぁ余ったらみんなに持って帰ってもらえば)
キュルルルルゥ
紬(ああ、もう限界!!)
……食べるのよ……
紬「!?……さあ、頂きましょうか!」
全員「いっただっきまーーす!」
紬(美味しい!お腹が空いた時のご飯は格別ね!)
紬(みんなも凄い勢いで食べてる……
ふふ、よっぽどお腹空いてたのね)
……
………
紬(どうしよう……止まらないわ……)
紬(もうお腹いっぱいのはずなのに……)
律「はー食った食ったぁー」
澪「かなり残っちゃったな」
律「じゃあさじゃあさ~」
紬「空き箱があるからみんな持ってk
唯「捨 て ちゃ お う!」
紬(え!?)
澪「そうだな、もういらないし」
律「食後と言えば~」
律&唯「デザートですわよねーーっ」
律「ムギも食べるだろー?」
紬「え、ええ」
紬「それなら食器棚に……!?」
澪「今日は私がケーキ持ってきたんだー」
澪「よいしょっと!」ドン!
律「でっかー!」
唯「たっかーい!」
律「澪~これから結婚披露宴でもやるつもりかぁ~?」
澪「うるさい!切るの大変だからそのままかぶりつこうか」
唯「うはぁ~一回やってみたかったんだぁ~!!」
律「ムギもやろうぜぃ!」
紬「私こういう食べ方初めてだわぁ」
紬「でも、これみんなじゃ食べきれないわ」
律「モグモグ……なーに言ってんだよムギ!余ったら捨てりゃいいだろ!」
唯「モグモグ、そうだよ~世界には食べ物が溢れてるんだから!」
紬(え!?違う……違うよ……)
紬「間違ってる!」
澪「ムギ……何がだ?」
紬「こんなのみんなのやることじゃないよ!」
紬「いつものお菓子だって、合宿で食べたご飯だって
学校帰りに買ったアイスのひと口でさえみんなで
分け合って食べてたじゃない!」
……さよう、その洋菓子に手を付けてはならぬ……
紬「キクリヒメさん!?じゃあこれはやっぱり……」
澪「これさえ口にすればお前は俺のモノだったのにな」
辺りの景色が木のツタに変わる
紬「なんですって!?」
紬「どこにいるの!?でてらっしゃい!!」
足元を見ると虫のようなものが……
瞬く間に巨大化し紬の前に立ちはだかる
「俺の名はパラサイト……あのケーキさえ食べれば
お前の体内に寄生し一生俺の操り人形だったんだがな」
「見破ってしまってはしょうがない、殺す」
紬「こんなとこで死にたくはないわね!」
……
………
紬「はぁ…はぁ……」
……ご苦労であった…紬……
紬「キクリヒメさん!ありがとう~!」
……我が生きていた太古の昔、民は飢えに苦しんでいた
時代であった……食糧は無駄にするでないぞよ……
……粗食の精神を忘れるでない……
紬「粗食……そうね、世の中には満足に食べられない人も
いるもの…」
ムギュウウゥゥゥ
紬「でも……もうダメ……お腹が空きすぎて……」バタッ
……ムギちゃん……
……い…よ………
紬(唯ちゃんの……声?)
紬「唯ちゃん……!みんな………!!」ムクッ
紬「あら?あそこにあるのは……!!!」
紬「唯ちゃん!みんな!!……待ってて!」
第三章 ~紬の場合~ 完
最終更新:2011年06月26日 02:27