唯「さて、やってまいりました!」
唯「本日はここ、桜が丘女子高等学校の音楽準備室でのあずにゃんの部活の模様をお届けいたします」
唯「放送席の解説は奇跡の3年連続部長、ピッカリ演奏でおなじみの
田井中律さん」
律「よろしく」
紬「はい、梓ちゃんの生の声をお届けしたいと思います!」
唯「そして、実況はわたくし
平沢唯で、本日のあずにゃんの部活をあますところなくお伝えしたします」
唯「それではそろそろ部活開始です」
梓 トコトコ
唯「さぁ、あずにゃんが部室の前に立って……」
梓「こんにちは」ガチャ
唯「ドアを開けて今部活開始です!」
梓「あれ? 誰もいない?」
唯「おおっと! ここはあずにゃんうっかりか!?」
律「今日は部活には梓一人だぞってメール送ったはずなんですけどね」
律「初っ端からこのミスは痛いですよ~」
紬「放送席の唯ちゃん、紬です」
唯「はい、どうぞ」
紬「どうやら、梓ちゃんはそのメールをちゃんと受け取ってない模様です」
律「サインミスですか~」
唯「いったい誰が送り間違えたのでしょう」
紬「昨日、唯ちゃんが梓ちゃんにメールを送る役割を引き受けたとの情報があります」
紬「こちらからは以上です!」
唯「いや~、これは序盤から波乱含みの展開になってきました!」
律「……」
梓「まぁ、いっか」
唯「さぁ、あずにゃん、部室に入り最初に向かった先は……」
律「どうやら、水槽へ向かっていますね」
唯「なるほど~、と、すれば……」
律「おそらく、トンちゃんに餌をやりに行くんでしょう」
唯「解説の田井中さんのおっしゃるとおり、水槽の前で立ち止まったあずにゃん」
唯「ここで……あー、やはり餌を取り出した!」
唯「さぁ、あずにゃん。餌をそのまま……水槽へ……」
梓「トンちゃ~ん、餌だよ~」
唯「投入したっ!」
律「無駄のない、いいフォームですねぇ」
唯「トンちゃん、今入った餌に向けて猛烈にダッシュ!」
唯「トンちゃんUP! トンちゃんUP! 入ってしまうのかっ!?」
トンちゃん「パクッ」
唯「入ったァァァァァァ! あずにゃん見事な初回先頭餌付け!」
唯「これで今シーズンのあずにゃんの初回先頭餌付けは200を数えることになりましたっ!」
律「ほとんど梓しかトンちゃんに餌をあげることがないですからね
しかしそれにしても基本に忠実な餌やりでした」
律「単純そうに見えてああやって水面でバラけないように餌を入れるのもけっこう難しいんですよ」
唯「まさに、日頃の練習の成果が出たというわけですね」
梓「ふぅ……今日は誰も来ないのかな……」
唯「ここで自分の椅子に座ったあずにゃん」
律「私たちが今日来ないことを梓は知らないのでずっと待ってしまう可能性もありますよ」
唯「それだけはなんとか避けたい!」
紬「唯ちゃん、ここで先程の初回先頭餌付けの梓ちゃんの談話が入ってきました」
唯「はい、どうぞ」
紬「『いつもどおりに体が反応した、トンちゃんの口に入ったのはたまたまです』とのことです」
唯「なかなか謙虚なコメントですね~」
律「まぁ、梓はいつも餌やりの延長がトンちゃんの食事だって言ってますからね」
唯「なるほど~」
澪「さっきから何やってるんだよ……」
唯「おおっと! ここで特別ゲストの登場です」
唯「現役通算868枚の縞パン所持数を誇る、世界の縞パン王こと
秋山澪さんにもこの放送席へ加わっていただきます」
澪「なんだよそれ……。だいたい今日は唯の家で勉強するっていうから部活も休みにしたんじゃなかったのか?」
唯「今日は私たちがいなくなった後のことを想定して、一人であずにゃんに部活をしてもらおうという趣旨です」
澪「なにも部室に隠しカメラ仕掛けてまで見る必要もないだろ」
律「心配なので」
澪「どうせ、覗き見が面白くってやってるだけだろ」
律「まぁ、そう言わずに」
唯「あずにゃんがこの後一人でどんなことするか、気にならない?」
澪「まぁ……、それは……」
唯「ゲスト解説の秋山澪さんです」
澪「私はあくまでお前たちが変なことしないか見張ってるだけだからな」
律「はいはい」
梓 スクッ
唯「おっと、あずにゃんおもむろに立ち上がった」
律「演奏スペースへ向かってますね」
唯「さすが真面目なあずにゃん、たとえ一人でも練習をするこの姿勢は
未来の後輩たちには頼もしく映ることでしょう」
律「なかなか耳が痛いですねぇ」
澪「でも、ギター置いたままだな」
唯「そういえば、そうだね」
律「あ、私のドラムに」
梓 ズッタン ズズタン
唯「あずにゃん、りっちゃんのドラムを叩き始めた」
澪「結構上手いじゃないか」
唯「むしろりっちゃんより安定してる?」
律「むぅ……」
紬「放送席」
唯「はい、ムギちゃんどうぞ」
紬「梓ちゃんのご両親はジャズミュージシャンだということですけど」
唯「そうですね」
紬「その関係で、幼少のころから楽器の類には慣れ親しんでいるこで
ギターほどではないにしろベースやドラムもそれなりの実力があるということです」
唯「あ~なるほど、それは納得です。見事なユーティリティープレイヤーっぷりをみせるあずにゃん!」
律「もしかしたら、これはコンバートも視野に入れているかもしれないですね」
唯「と、いうと」
律「バンドの顔と言えばギターですからね、今度入ってくる部員もギターを希望する人が多いかもしれません」
澪「もしそうなったときのために
その他の楽器もする覚悟もあるってことか」
律「ドラムをやるとなると練習環境も限られてくるので
その点ではやはりギターやベースに人気が集まってしまうのも仕方ありません」
澪「梓の家だったら地下に小さなスタジオがあってもおかしくないもんな」
唯「あずにゃん涙ぐましい努力です」
梓 スクッ
唯「おっ、あずにゃん今度はどうするのか?」
梓「ボーン、ボボボボーン」
唯「柱時計の真似でしょうか?」
澪「ベースだろ」
律「澪がいつも立ってる位置だからそうでしょう」
唯「エアベースというわけですか~」
律「しかし、さすがにエアベースでは練習にならない気が」
梓「梓はいつも頑張ってるよな」
澪「ん?」
梓「えっ……そんな、澪先輩に褒められるなんて……嬉しいです」
唯「あ~、なんか残念な一人二役の何かが始まってしまいました」
律「これは、ある意味ダブルプレーですね……」
唯「一人だということに油断してしまったのか、あずにゃん!」
梓 スタスタ
唯「今度は、キーボードの前に立った」
梓「そんな頑張っている梓ちゃんのために、こんど美味しいケーキを持ってくるわ」
梓「わぁ~、ありがとうございます! ムギ先輩!」
唯律澪「……」
紬「放送席」
唯「はい、どうぞ」
紬「この人数が足りなくて透明ランナー的なのは止めるべきでしょうか?」
唯「そ、そうですね……」
梓「あずにゃんがいてくれるから、私たちも頑張ることが出来るんだよ~」
梓「も、もう! 唯先輩ったら、あまり抱きつかないで下さい!」
唯「面白いのでもうちょっと見てみましょう」
律「だな」
澪「……うん」
梓「ほら、先輩方! ちゃんと練習しますよ!」
澪「でも、もし新入部員が入ってこなかったら、梓ああやって一人で……」
律「それは、ちょっと可哀相だな……」
梓「それにしても次期部長の梓に比べて現部長の律は駄目だよな」
唯「おっと、なにやら雲行きがあやしい」
梓「そうよ、りっちゃん! お菓子抜きにしちゃうわよ」
梓「今度入ってくる新入部員さんはあずにゃんが部長で羨ましいよ~」
律「あ、あいつ……!!」
唯「これはかなり内角にえぐり込む球を投げていますね~」
澪「カミソリシュートだな」
梓「梓~! こんな情けない部長で悪かった~!」
律「今から部室に殴りこんでやる!」
唯「駄目だよ、りっちゃん!」
和「ちょっといいかしら?」ガチャ
梓 ビクッ!!
唯「おっと、ここでベンチも見かねたか、間を取りにいきます」
澪「ベンチってなんだよ」
律「かなり球が荒れてきましたからね、もう交代でしょ」
澪「誰とだよ」
和「あれ? 梓ちゃん一人なんだ」
梓「はい」
和「一人で何やってたの?」
梓「いえ、べつに」
唯「さすが、和コーチはズバッと切り込んできます」
梓「和先輩こそ、どうしたんですか?」
和「ちょっと律に頼まれちゃってね、部活申請書の書き方を梓ちゃんに教えてやってくれって」
梓「えっ?」
和「毎年提出しなきゃいけないものだから、来年度は梓ちゃんが軽音部の部長になるんでしょ?」
和「梓ちゃんみたいにしっかり者の部長さんだったら、きっと沢山部員も入るだろうし」
和「だから、自分みたいに提出忘れたりなんてしないようにって」
梓「律先輩が……ですか?」
和「そう」
唯「こっこれはっ!?」
澪「まさに、現部長から新部長に対する送りバントだな」
唯「でも、それだったら自分であずにゃんに教えれば」
紬「放送席」
唯「はいどうぞ」
紬「情報ではりっちゃんは今更そんな部長面するのが恥ずかしいらしいです」
紬「でも、ちゃんと梓ちゃんのことを考えている、いい部長さんですね」
律「ち、ちげーし! 和に教えてもらったほうが確実だし!」
澪「照れるなよ~りつぅ~」
・ ・ ・ ・ ・
和「どう? わかった?」
梓「はい、ありがとうございます」
和「じゃあ、がんばってね」
梓「はい!」
ガチャ バタン
梓「……」
梓「律先輩……」
唯「おおっと! 律先輩と呼ぶそのあずにゃんの表情には嬉しさが満ち溢れている!」
梓「律部長の意思は私が必ず引き継ぎます!」
唯「あずにゃんの心にりっちゃんホームイン!」
律「ま、まぁ当然の結果でしょう」
最終更新:2011年06月27日 22:54