唯「そんな自信満々にされても」

和「似合うわよ」

唯「少なくとも和ちゃんの前では絶対にしないから」

和「そう? 伏せ!」

唯「しない!」

和「どうして」

唯「どうしてもなんでも。しませんからねー」

和「残念だわ……」

唯「じゃあ、私は犬……で、和ちゃんは?」

和「私はオランウータンかしらね」

唯「オランウータン!」

和「うん」

唯「それでいいの!?オランウータン!?お猿さんじゃん!」

和「でも、賢いのよ、彼ら。」

唯「あー……うん、かしこいよね」

和「道具とか使ってるのテレビで見たことある」

唯「たしかにねー。チンパンジーとかよく実験とかで……」

和「バナナを取るにはどうすればいいか!とか……」

唯「あるねー」

和「そう、あるわよ、そういう実験」

唯「バナナが紐でぶら下がってて、近くに台とか置いてあったり。

  で、こっちには棒。なんかそれでとったりね、あと梯子とか」

和「こっちの反対側の方には鏡が置いてあったり」

唯「かがみ。あー、まあ、それで鏡に映った自分を見てびっくりしちゃったり」

和「ばかだから逃げ出したりしてね」

唯「かしこいんじゃなかったっけ」

和「群れの中でもばかなのと賢いのいるから」

唯「鏡でびっくりしちゃうのはそのうちでばかな方?」

和「そう」

唯「それで、バナナ取る」

和「うん。でも鏡でびっくりしちゃう子は棒とか分かんないから、こう、

  空中のバナナに向かって手を伸ばしてみたり、ジャンプしてみたり」

唯「棒はスル―しちゃう」

和「そ。賢い子はそれを横目で見ながら、こう、ね、『あのこバカねー』とか思いながら」

唯「女言葉なんだ」

和「雌の想定で今やってるから」

唯「あ、うん。雌のチンパンジー」

和「あるいはオランウータンね。どっちでもいいけど。

  それで賢い子はね、すぐ見破っちゃうから!

 『あ、私は賢いから分かるぞ』とね。『この棒使えばいいんじゃん、台とかのって』」

唯「うん」

和「で、すぐ取っちゃう。バナナ食べられるの、賢いから」

唯「すごいね、賢い子」

和「で、さっきまでジャンプしてた子は『え?なんで?』とかいう目で私のこと見てるけど」

唯「あ、その猿もう完全に和ちゃんなんだ」

和「で、私のこと見てるんだけど、やっぱりばかだからなんで私がバナナ取れたか分からないわけ。

  私はまた『あいつ見てたのにわかんないんだなー、ばかだからなー』と思いながらバナナを食べる」

唯「さっき食べてたよ」

和「何本もあったの」

唯「房だったんだ。もう、ばかな方のお猿さんかわいそうになって来たね、分けてあげればいいのに」

和「そこは自然界の摂理だから。弱肉強食だもの。かわいそうだけど仕方ないわ」

唯「そっかー」

和「だから私は賢い猿になりたい」

唯「…………これテーマに沿ってるかな」

和「さあ?」

唯「整理しよう、私は犬で和ちゃんは」

和「猿」

唯「かしこい猿」

和「そう、天才猿」

唯「いいのかなこんな話で……」



♪ピンポーン


【日々の生活で苦手なこと】

唯「おっ、またテーマ変わったね!気を取り直していこっか」

和「日々の生活で苦手なこと、か……なにかある?」

唯「わたしねー、苦手なことだらけだよー」

和「うん。そうね」

唯「そうねって」

和「知ってた」

唯「知ってるだろうけど。うん、知ってるよね、苦手なことだらけなんだ」

和「うんうん、そうよねあなた」

唯「和ちゃん、ちょっと失礼くない?」

和「若干ね」

唯「親しき仲にも礼儀ありだからね」

和「その言葉の意味は?」

唯「それは、その、親しい仲にも礼儀が必要だってことですよ」

和「そのままじゃないの」

唯「だめ、四字熟語とかだめなんだ、漢字とか」

和「四字熟語じゃありません」

唯「あれ?そう?」

和「うん」


唯「あっ、今お客さんきたよ和ちゃん!」

和「ようやく来たわね!」

唯「どうもー、こんにちはー!やーやーやー、ゆっくりしてってくださいー」

和「もう半分くらい終わっちゃったけどね、時間的に」

唯「もうそんなになる?そだっけ?」

和「うん、それでまだ先生が来ないのよね」

唯「先生まだ来てない!」

和「もうこれは寝てるんじゃないかしら?」

唯「家でー?」

和「家かも知んないし、タクシーの中ってこともありうるね」

唯「タクシーで!」

和「乗ってすぐ寝ちゃって、タクシードライバーもどうしたらいいのかわかんないからそのまま走らせちゃったり」

唯「起こそうよドライバーさん」

和「料金メーターはどんどん上がってく。そのうちどんどん走ってって、かれこれ3時間。

  最終的には栃木の方まで来ちゃったりして」

唯「ずいぶん遠いねー、栃木ってどこだっけ?」

和「茨城と群馬の隣よ。それで群馬県境まで来たあたりでようやく起きる」

唯「びっくりしちゃうよね、さわちゃん」

和「『え!?もう、群馬なんですか!?え!?料金6桁!?えっ、えっ、えっ』」

唯「すっごく困るね」

和「まあ、そういうこともありました」

唯「ちょっと待って!」

和「どこで?」

唯「今のもしかして和ちゃんの体験談なの!?」

和「あはははは」

唯「起きようよ!」

和「あるいは山手線でずっと寝過ごしてるのかもしれないわ」

唯「ずっとぐるぐる回っちゃうよ。……ていうか今ちょっと無視したね、私のこと」

和「内回りで」

唯「内でも外でもどっちでもいいけど」

和「それともあれは外回りだったかしらね……」

唯「それも和ちゃんの実体験なの!?」

和「冗談よ」

唯「うー、びっくりしたー。冗談と本気の境目わかんないってー……」

和「じょうだんじょうだん」

唯「ほんとに冗談?」

和「なんの話だったかしら」

唯「えっと、苦手な話」

和「そうそう、唯の苦手なこと。どこまで話進んでたかしら」

唯「まだなにも話してなかったよ。えっとねー、私の苦手なこと。

  うーん、人の顔憶えるのが苦手。顔と名前」

和「そうなの? あっ、そうね、唯って確かにそういうとこあるわね」

唯「うん。子どものときからなんだけどー、かなり成長してからもダメだったねー」

和「今でもそうじゃない? いまだにそうだから話したんでしょ」

唯「あっ、そうだ。今もダメー。ぜんぜんだめ。ずっとダメ」

和「でも、まあ、それで今までちゃんと生きてこれたんだからいいんじゃないかしら……」

唯「よくないよ、すっごく困るよ!」

和「そう?」

唯「そうそう。これ高校のときなんだけどね、三年生のときはじめて姫子ちゃんと一緒のクラスになってー、

  あっ、姫子ちゃんって高校のクラスメートで私の友達なんですけどー、

  っていうかここにいるの友達ばっかだからみんな知ってるか!えへへ、姫子ちゃーん、げんきー?」

和「うんうん、それで?」

唯「あっ、うん。それでね、姫子ちゃんと隣の席になったんだよ、一学期のかなり最初の方に」

和「うん。私も同じクラスだったから知ってるけどね、席順」

唯「うん、うん、まあ。それでそういうときって、自己紹介とかお互いにするでしょ」

和「真鍋和です」

唯「知ってるよ?」

和「こういう感じでね、自己紹介」

唯「うん、そうそうそう。」

和「好きなものは平沢唯です」

唯「なにいってんの」

和「よろしくおねがいね」

唯「好きな食べ物みたいに」

和「あはは」

唯「まあいいや、それで姫子ちゃんとの話。自己紹介とかするよね」

和「うん」

唯「すぐ忘れちゃったの」

和「すぐって?」

唯「30分ぐらい」

和「早いわね」

唯「でしょー?」

和「あなた、それもう病気よ」

唯「こわいよね。自分で自分がこわくなった」

和「なに、その30分ってどういうことなの?」

唯「うん、それがその日にね……ん、ちょっとまって!さわちゃん!さわちゃん来た!」

和「あら、山中先生いらっしゃい」

唯「さわちゃんおっそ!遅いよさわちゃん!おそい!おそいよー!」

和「まあまあま」

唯「えー?何してたのー?急に目の前に妊婦が?

  ……さわちゃん、そういうのいいから、うん……寝坊ね、うん、飲んでたの?

  あー、うんうん」

和「あんまりいろいろ聞いちゃかわいそうよ。それじゃ、もうけっこう終わっちゃったけどよろしくお願いします」

唯「うん、これから聴いてってねー。……さて、これで招待したひとはみんな来てくれたかな」

和「そうみたいね」

唯「えっ、あずにゃん、なーにー?」

和「……」

唯「……純ちゃんが来てない」

和「……」

唯「……えっと、うん」

和「気を取り直しましょう。続けちゃいましょう、ええ」

唯「和ちゃん、タフいねー」

唯「それでどこまで話したっけ」

和「30分で立花さんのことを忘れたって話」

唯「ああ、そうそう、そだったそだった!」

和「それでその、30分で忘れたってのはどういうことなの?

  30分後に急に思ったわけ? あれ、私隣の子の名前憶えてないぞって」

唯「いや、そういうんじゃないけど。忘れてたら逆に思い出さないからね

  逆にって言ったけど、何が逆にかはよくわからないのだけど、うん、思い出さないから」

和「うん、まあそうね」

唯「ちゃんと思い出すきっかけがあったのです。いや、思い出すじゃなくて、

  名前憶えてないことに気付くきっかけが。チャンスが」

和「どういう?」


♪ピンポーン

唯「それが……って、え?」

和「鳴った? 今、鳴ったわね?」


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最終更新:2011年07月01日 21:36