――通勤中
憂「という訳でかくかくしかじか云々ってことなんだ」
純「なるほどねぇ、約束通りホントに雨の季節に帰ってきたんだね」
純「それにしてもいきなり梓が出てくるんだもん、最初幽霊だと思ってびっくりしちゃった」
憂「あはは!ごめんね。純ちゃんにはなるべく早く言うつもりだったけど驚かせちゃったよね」
純「もうっ!」
純「でも梓がまた帰ってきてくれてよかったよ。もう2度と会えないかと思ってたからさ……」
憂「そうだよね、私もすっごく嬉しいんだ。お姉ちゃんも今朝は久々に心の底から笑ってたみたいだったし」
純「それは憂だって同じじゃない。まあ私も人のこと言えないけどっ!」
憂「えへへっ♪ねぇ純ちゃん、今度また梓ちゃん入れてみんなで遊びに行こうよ。また昔みたいにね」
純「おっ!それいい考えじゃん!」
――竹達司法書士事務所
唯「おはよーございまーーっす!!」
澪「おはよう唯、なんだ、今日はえらくご機嫌だな。何かいいことあったのか?」
唯「えっへへー、そうなのです澪ちゃん!」
澪「へぇ、どんなことがあったんだ?私もちょっと聞きたいな」
唯「えーっとねー(はっ!?)」
唯(そうだ、どうせなら他のみんながいるとこで発表して驚かせよっかな)
唯「そう、まだ内緒なのですっ!」
澪「おいおい……ま、いいか、今の唯本当に楽しそうだもんな。なんか久しぶりに見たよ、こんな明るくしてる唯をさ」
唯「ねえねえ、今度みんなで家に集まってパーっとやろうよ!」
澪「いいなそれ。わかった、律には私から伝えとくよ。唯はムギに連絡しておいてくれ」
唯「了解であります!」
澪(まるで高校生の頃に戻ったみたいだな今の唯は。何があったか分からないけど、また笑ってくれた唯を見れて私も嬉しいな……)
――夕方
唯「ただいまー」
梓「おかえりなさい唯先輩」
唯「えへへ、それではおかえりのぎゅーを……」
梓「ふにゃああっ!もうっ、いきなり何なんですかっ!やめてくださいっ!」
憂「お姉ちゃんおかえりー」
唯「おおっ、憂も来てたんだね」
純「お邪魔してます唯先輩」
唯「おっ、純ちゃんもいらっしゃーい。今日は2人共もうお仕事上がりかな?」
純「はい、なので梓に会いにここに寄ってみたんです」
唯「そうなんだー。ま、ゆっくりしていくといいよー」
憂「あっ、そうだ!私と梓ちゃん、夕食の仕込み中だったんだっけ」
梓「そうだったね、それじゃあ私と憂は夕食の支度してますので」
唯「うん」
部屋に荷物を置いて部屋着に着替えを済ませた私は居間で純ちゃんとぼーっと会話をしている。
しばらくするとキッチンの方からいい匂いがしてきて私達2人の視線は自然とそっちの方に向く。
ああ……これはカレーだなぁ……
純「……唯先輩」
唯「ふぇ?どったの純ちゃん」
純「今でもたまに思うんです。こうやって私の目の前に梓がいて普通に私達と会話したり食事したりしてるこの光景が実は夢か幻覚じゃないのかなって」
唯「夢じゃないよ。あずにゃんはちゃんと今こうやって私達の元にいてくれてるよ?ちゃんと足も付いてるし触ることもできるし幽霊なんかじゃない本物のあずにゃんなんだよ?」
純「別に幽霊でも構いませんよ、梓にまた会えるんなら。でも幽霊でもなくちゃんと生きてる人間として戻ってきてるんですよね」
唯「うん」
純「またこういう毎日が続いてくれたらいいですよね……今度は誰も悲しい目に会うこともないように」
唯「そだねぇ」
梓「2人共ご飯できましたよー」
唯「おっけー、純ちゃんいこっ!」
純「そうですね!」
――――――
――――
――
唯「ホント2人のカレー美味しいよねぇ、いつ食べてもさー」
梓「喜んでもらえて何よりです」
憂「純ちゃん、味の方はどう?」
純「うん!いいんじゃないかな、とっても美味しいと思うよ!」
梓「良かった!純さんにそう言ってもらえて嬉しいです」
純「梓、「さん」付けはやめようよ、堅苦しくってしょうがないって」
梓「え?」
純「それに敬語も禁止!私と憂と梓の3人は同級生の友達同士なんだから」
梓「う、うん……じゅ、純?これでいいのかな」
純「おっ、そうそう、そんな感じだよ梓」
梓「えへへ、それじゃ純、何も覚えてない私だけどこれからもよろしくね」
純「うん、よろしくね梓」
こうして私達4人の楽しい団欒の時間もあっという間に過ぎていき……
唯「2人共帰っちゃうの?今日もゆっくりしていけばいいのに」
憂「ごめんねお姉ちゃん、昨日家空けちゃったせいで家事が溜まっちゃってるんだ」
唯「そっかー、それじゃ仕方ないよね」
純「今日はありがとうございました、また来ますね唯先輩」
唯「うん、また来てねー、そしたらまたご馳走するからさ」
梓「ご馳走したのは私と憂ですよ!」
唯「あっ、そうでしたー、へへっ」
純「梓も今日はありがとっ!また来るからね」
梓「うん、純こそ今日はありがとね」
憂「それじゃおやすみお姉ちゃん、梓ちゃん」
純「お邪魔しましたー」
唯「おやすみういー」
梓「おやすみ憂、純、またねー」
次の休日、私はあずにゃんと一緒にある場所へ出かけた。
そこは私達の母校の桜ヶ丘高校だ。
梓「ここが私が通っていた学校なんですか?」
唯「そだよー。ささ、中に入ろ?」
梓「いいんですか?勝手に中に入って」
唯「平気平気!」
とは言うものの、一応あずにゃんの事を知ってる人だけには鉢合わせしないように注意しなきゃね。
今の時点で既に死んじゃってる筈のあずにゃんを見たら厄介な事になるのは明白だから。
私が目指したのは当然軽音部の部室でもある音楽室。
借りてきた鍵でドアの鍵を開けあずにゃんを中へ招き入れる。
梓「ここが軽音部の部室なんですか?」
唯「そそ、それにしても私達がいた頃と全く変わってないなぁ……」
梓「……何で音楽室にティーセットが置いてあるんですか?」
唯「それで部活の時間にティータイムをしてたからだよ!」
梓「……はぁ?部活の時間なのにお茶、ですか?」
唯「うん、そこにある机の一番奥の椅子にいつも梓ちゃんは座ってたんだよ。そして私の席はここ」
唯「毎日こうやって放課後集まってムギちゃんの用意してくれたお茶とお菓子を楽しむのが日課だったよ」
梓「軽音部なんだから演奏しましょうよ……」
唯「まあ、とにかく座りんさい」
梓「は、はぁ……」
私はあずにゃんを席に座らせた、そう、お互いあの頃と同じ席へ……
席に座ってからも辺りを不思議そうにキョロキョロ見ていたあずにゃんだけど、しばらくしたら私に向き直って話しかけてきた。
梓「ねえ唯先輩」
唯「どったの?」
梓「最初私と先輩が女性同士なのに恋人だって聞いて信じられませんでした」
唯「まー、そりゃそうだろうねぇ」
梓「でもこうして先輩と数日間過ごしてみて何となく、うまく説明はつかないんですけど冗談じゃなくて本当なのかなって思うようになってきたんです」
唯「思い出しかけてきてるの?」
梓「いえ……ごめんなさい。思い出せないんです、まだ何も」
唯「ゆっくりで……ゆっくりでいいよ。急ぐ必要なんてないからね。少しずつ思い出していけばいいよ」
梓「私達のこと教えてくれませんか?どうやって知り合ってどうやって好きになってどうやって結ばれたのか」
唯「そうだねぇ、私達が初めて出会ったのは私が高校2年の時の春、新学期が始まってすぐの頃だったかな」
唯「この時私達の軽音部は4人で活動しててさ、この年入学した新入生の子を新歓ライブで入部させようって目標を立ててたんだ」
梓「たった4人ですか?」
唯「そう、でも勧誘活動そのものが上手くいかなくってさ、ライブも成功したと思ったのに中々新入生の子が来てくれなかったんだ」
唯「でも4月もそろそろ終わりかなって頃に大きな出来事が起きたんだよ」
※注『』は回想用昔キャラの台詞
~~~~ 9年前の4月 桜ヶ丘高校
律『こうなったら憂ちゃん拉致ってくるかー』
澪『拉致るって何だよ……』
ドア『がちゃっ』
唯澪律紬『ん?』
梓『あのー、入部希望なんですけど……』
唯澪律紬『え……?』
梓『あ、あれ……?』
律『確保ーーーーーーッ!!』
~~~~
唯「これが私達の初対面だったんだよ」
梓「へぇー、それじゃ結局この年入部したのは私1人だったんですか」
唯「うん、でも私にとってはそれでも十分だったしとっても嬉しかったんだ」
梓「続き聞かせてくれませんか?」
唯「うん」
唯「好きになったのは私の方からだったんだ」
~~~~
律『てことは、ライブでの私等の演奏聴いて入部を決めてくれたんだ』
梓『はいっ!私、新歓ライブでのギターの先輩の演奏がすごく印象に残ってここに入部するって決めたんです!』
澪『だってさ、唯』
唯『ふぇー?』
梓『よろしくお願いします唯先輩!』
唯『先輩……唯先輩……』ほわーん
律『おーい、戻ってこーい』
~~~~
唯「初めて先輩って言われてとっても嬉しかったんだ。私中学まで部活とかやった事なくて梓ちゃんが初めて出来た後輩だったから」
梓「そうだったんですか」
唯「梓ちゃんはとっても真面目でいつもお茶飲んだりお菓子ばっかり食べてばかりで練習しない私やりっちゃんによく怒ってたんだよ」
唯「初めて怒った時なんかはいきなりキレてティーセットを撤去するべきです!とか言ってたっけな」
梓「私ってそんなに堅い人間だったんですか?」
唯「どうなんだろうねぇ。でもそんな真面目で可愛くて誰にでも優しい世話好きな梓ちゃんが私はとても大好きだったんだ」
梓「それで私は先輩のことが好きではなかったんですか?」
唯「多分、私の片思いだったんだよ」
梓「片想い?」
唯「うん、自分で言うのも何だけど私は変わり者だったから」
唯「いっつもぼーっとしてたりとか居眠りしてたり練習もしなかったり、梓ちゃんにもよく怒られてたんだよ。だから多分、私に憧れて入部してくれた反動からかあんまり良く思われてなかったかもしれないね」
~~~~
唯『あっずにゃーん!』ぎゅー
梓『もう!いきなり人前でやめてください!』
唯『よいではないかよいではないかー、すりすりー』
梓『ふにゃあぁ……もう、頬擦りまでしないでくださいよ……恥ずかしい……』
~~~~
唯「こんな感じでいっつも抱きついてたんだよね」
梓「そういえばさっきもしてましたよね……それにしても」
唯「なになにー?」
梓「その「あずにゃん」て何ですか?思い返すと裏山で最初出会った時もそう言ってましたよね」
唯「猫耳が似合っててとっても可愛いからあずにゃんなんだよ!」
梓「さっぱり理解できないです……」
梓「でも……さっき抱きつかれた時も、あずにゃんだなんて変なあだ名を聞いた時もあんまり嫌な感じがしなかったんです。本当はもっと嫌がるはずなんですけど変ですよね」
唯「頭の記憶がなくても身体が覚えてるのかもねぇ」
梓「そうかもしれませんね。それと、あの……お願いがあるんですけど」
唯「お願い?」
梓「その……これから私のこと、そのあだ名で呼んでくれませんか?あずにゃんって」
唯「え?」
梓「そうすれば……多分忘れてる記憶が少しずつ思い出せるんじゃないか……そんな気がするんです」
唯「うん、わかったよあずにゃん」
梓「ふふっ、早速ですか」
唯「当然ですっ!」
梓「それじゃあ、続き聞かせてください」
唯「うん」
唯「はじめてあずにゃんとの関係に大きな動きができたのはその年の夏休みの時だったかな」
唯「この日、私達軽音部は合宿にきてたんだ。その夜中、私がこっそり1人でスタジオで練習してたらあずにゃんが来たんだ」
~~~~
唯『ごめんねあずにゃん、こんな夜遅くに練習付きあわせちゃって』
梓『いいんです、気にしないでください。私も唯先輩と一緒にもっと練習したいと思ってましたから』
私はあずにゃんにギターを教わってるのが楽しかったし、すごく幸せだった。
あずにゃんの憧れの期待を裏切っちゃったかもしれない私に対して、嫌な顔1つしないで1つ1つ丁寧に教えてくれたんだ
あずにゃんの教え方はとても上手でね、今まで1人じゃ上手くいかなかったとこがちゃんと出来るようになって私ホントに嬉しかったんだよ。
唯『私、あずにゃんに出会えて良かったよ!』
梓『えっ?うわわっ!』
この時私、余りの嬉しさにあずにゃんを床に押し倒す勢いで抱きついちゃったんだ。
もしかしたらあずにゃんはただ練習をやり足りなくて付き合ってくれただけなのかもしれないけど、私にとってはとても重大な出来事だったんだよ。
~~~~
梓「それで、その後どうなったんですか?さすがに同姓相手じゃ中々切り出せなかったんじゃないですか?」
唯「うん、私もこの頃はそう思ってたよ。だからとてもじゃないけど好きだなんて言えなかったんだ。もし告白したりとかして逆に嫌われたらどうしようって想像しちゃって怖かった、とても」
梓「じゃあ2人きりでお出かけとかしなかったんですか?」
唯「そうだねぇ、いつも遊びに行く時はさ、軽音部のみんなや憂が一緒にいたから2人だけでお出かけって高校2年間の間あんまりなかったんだ。もっとも、言い出す勇気がこの時の私にはなかったんだけどね」
梓「え?それじゃあこの後何も進展しなかったんですか?」
唯「一応だけど、この後一度告白しようって思ったことがあったんだっけ」
梓「そうなんですか。聞かせてくださいよ」
唯「あれは私が3年の時の夏休みだったかな。私達軽音部5人で、夏フェスに行く機会があったんだけどね。その夜だったかな、私が会場から少し離れたキャンプ場の丘で1人で音楽を聴いてたらあずにゃんがやってきてね……」
最終更新:2011年07月05日 01:37