アットウィキロゴ
ある日、私のかたつむりがうまく生きてくれなくなった。
それは部活を終えて、みんなで帰っていたときのことだった。
何の前触れもなく、私はバランスを崩して段差も何もない平らな道の真ん中で転んでしまった。

唯「いたたた…」

律「うわっ!?唯、大丈夫かよ!?」

澪「ど、どうしたんだ!?いきなり転んだぞ?大丈夫か?」

紬「怪我してない!?唯ちゃん!!」

唯「えへへ…だ、だいじょうぶだよ…、ちょっところんじゃった!」

転んで地べたに座る私をみんなが取り囲む。

唯「あ!?」

私の声にみんながさらに私を見下ろす。

唯「ギー太!?今のでもしかしたらギー太ぶつけちゃったかもしれない!?ど、どうしよう!?」

ギー太は私の大切な相棒だ。どうしよう…もしぶつけて傷ついていたりしたら…。

律「ギー太もっといてやるよ、ほら、かしな」

唯「あ、ありがとう…りっちゃん」

りっちゃんにギー太を預かってもらう。とたんに肩が軽くなった。
あずにゃんがりっちゃんのところへ行って、ギー太をソフトケースから取り出す。

唯「あずにゃん…ギー太、大丈夫かな?ぶつけてない?」

あずにゃんは無言でギー太を見渡して、私のほうを見てホッとしたような顔を見せた。
ギー太は大丈夫だったんだろうか。

律「お!!よかったな!ギー太なんともないってさ」

唯「ほんと!?よ、…よかった…よかった…」

律「あ、そう?唯、梓がギー太持つってー、私じゃ心配なんだってさー、はははは、中野ぉ!」

私の後方あたりでりっちゃんとあずにゃんが騒いでいるようだった。

唯「ありがとねー、あずにゃん、むったんも持ってて重たいのに」

ちょっとだけ振り返る。
あずにゃんの首をふざけてしめてるりっちゃんがおや、?という顔をした。
あずにゃんも、なんだか変に困ったような顔をしていた。

その2人の様子をすこし不思議に思いながら私は前を向いた。

澪「たたた、た、たしか・・・こないだもらったのをいれていたような・・・」

澪ちゃんは、私の前方右側でバッグをなにやらゴソゴソして、
駅前で配られているのをもらったのであろう、ポケットティッシュを渡してくれた。

澪「とととと、と、とりあえず、…そ、それ!!ふ、拭いてくれっ!!」

見ると、右足をすりむいたらしく、ひざ小僧のあたりからふくらはぎの部分まで血が垂れていた。

唯「あ、ご、ごめんね?澪ちゃん、痛いのとか、血とか見るの嫌いなのに」

私にティッシュを渡すと、自然に澪ちゃんは一歩退いた。

律「ったく…あいかわらずだなー、澪は!」

澪「し、しかたないだろぉ!!痛いのだけは見るのも聞くのもダメなんだから!…っち、血とか…」

りっちゃんがからかうように言うと、澪ちゃんが恥ずかしいのか少しりっちゃんを怒る。

いつもとかわらない光景だった。

ティッシュを1枚取り出して、血を拭いた。
ティッシュはすぐに赤く染まった。

紬「はい、唯ちゃん、こればんそうこう」

私がある程度血を拭き終わると、私のすぐ左横にしゃがんでいたムギちゃんが絆創膏をくれた。

唯「あ、…ありがとう、ムギちゃん」

紬「どういたしまして」

そう言って、私に優しく笑いかけてくれた。

こういう気配りができるムギちゃんも、いつもと変わらなかった。

絆創膏をはる。
右ひざは怪我をしたことを嫌にでも自覚せざるおえない外見になった。
「私はひざを怪我したんだ」とわかってくると、しだいにひざがズキズキと痛み出した。
でも、みんなに心配をかけさせるわけにもいかないから、痛いのは顔には出さないようにして
出来るだけ自然に見えるようにゆっくりと立ち上がる。

唯「よいっしょ・・・っと、てへへ、みんなごめんね?あ、あずにゃん、ギー太ありがとう!」

振り返ってあずにゃんからギー太をもらおうとした。

振り返ってみると、あずにゃんはさっきよりもっと変に困ったような顔をしていた。

律「というか、唯!」

唯「え?なに?」

澪「さっきから梓が話しかけてるのに、どうして無視してるんだ?」

唯「・・・っえ?」

澪ちゃんの言っていることが、よくわからなかった。
あずにゃんは、さっきから一言も私に話しかけてなんていない。

律「澪の言う通り!梓がさっきから、『大丈夫ですか?』とか『ギー太なんともなくてよかったですね』って話しかけてただろ?なんでシカトするんだよ?」

唯「えっ?えっ?」

戸惑う私をよそに、私の目の前であずにゃんがなにやら口をパクパクしていた。

唯「え?…あ、あずにゃん?なにそれ。トンちゃんの真似かなにか、かな?」

出来るだけ、笑顔で、明るい感じにいってみたけど、
あずにゃんはギョッとした顔で私を見た。

そして、何かを私にむかって、叫んだように口を大きく開けたり、閉じたりを繰り返す。

その行動を見ているたびに、私の心臓の拍動が早くなっていく。
その拍動とシンクロして、右ひざもズキズキとする。
そのひざの痛みから、これが夢なんかではないと知らされる。
でも、うそだ・・・なんで・・・?

あずにゃんが、突然泣き出した。
でも、その泣き声も聞こえない。
消音にしたテレビを見てるような感じがした。
目の前にいるのに、自分の目の前で起こっている出来事には思えなかった。

紬「唯ちゃん・・・ふざけてるの・・・?梓ちゃん、さっきから、ずっと唯ちゃんに話かけてて…」

唯「…そ、そんな・・・だって、・・・私・・・あずにゃんの声・・・聞いてないよ・・・?」

澪「え・・・?」

律「ど・・・どういうことだよ、唯!?さっきから梓、何回も唯のこと呼んで、それに怒鳴って、泣き出してるんだぞ!?」

紬「と、とにかく、な、泣かないで、梓ちゃん!?」

ムギちゃんがあずにゃんに駆け寄って、慰める。
両手で顔を覆ってて、その顔は見えない。

ムギちゃんと、あずにゃんが何かをしゃべってる。

紬「大丈夫よ、梓ちゃん、大丈夫だから、そんなに泣かないで。ね?」

唯「・・・」

だけど、やっぱりムギちゃんの声しか聞こえなかった。

唯「そんな・・・」

澪「ど、どうしたんだよ、唯?・・・ゆい?」

私の目の前で、澪ちゃんが左手を2、3回左右に振った。

唯「・・・・・私・・・あずにゃんの声が・・・」

澪「梓がどうしたんだよ?てか、本当に冗談も大概にしてさっさと梓に謝ってきなよ」

唯「・・・・・聞こえなくなっちゃった」

澪「え・・・?」

律「どういうことだよ・・・梓の声が聞こえないって・・・ゆい・・・?」

唯「わからない、わからないよっ!!でも、全然聞こえないんだもん!!あずにゃんの声!!」

唯「なに言ってるのか、わからないんだもんっ!!どうしよう・・・どうしよう、りっちゃん!?」

りっちゃんにしがみついた。両肩あたりを両手でつかんだ。
制服がくしゃっとなる。突然のことにりっちゃんが驚いて声を出す。
いきなり動いたから、右ひざに痛みが走って、立っていられなくて体制を崩した。

律「おわぁあっと!?」

りっちゃんがそのまま私を抱きすくめるようにして私を地面に座らせる。
いったい、なにが起こっているんだろう。

律「お、落ち着けよ、唯?」

澪「そ、そそそうだよ、唯、落ち着けよ。ほ、ほんとうに、梓の声が聞こえないのか?」

律「そうだよ、もしかしたら、間違いかもしれないだろ?」

唯「で、でも・・・2人とも、今、あずにゃんの声・・・き、きこえてるんだよね?」

りっちゃんと澪ちゃんが無言で顔を互いに見合わせる。
その顔はとても困っていた。なんといえばいいのかわからないようだった。
聞こえてるんだ・・・。

律「む、ムギ!!それに梓も、そろそろ泣き止んでこっちこい!!」

紬「・・・う、うん。いこ、梓ちゃん」

唯「ムギちゃん・・・あずにゃん・・・」

目の前まで来たあずにゃんが、泣き顔を一生懸命手でぬぐいながらまた口をパクパクする。

唯「・・・」

どうしよう、本当に聞こえない。

紬「唯ちゃん・・・本当に、梓ちゃんの声、聞こえないの?」

唯「う、うん・・・律「あ、あずさ!!ちょっと唯の耳元で叫んでみろ!ほら、はやく!!はやく!!!」

りっちゃんがあずにゃんの右手をつかんで私の耳元の近くまでひっぱった。
勢いがあったのか、あずにゃんとぶつかりそうになる。

律「そんな怒るなよ、いきなり引っ張ってわるいっ!でも、しかたないだろ?」

澪「梓、と、とにかく、唯の耳元でなにか言ってみて!」

あずにゃんが困った顔をする。なにか言ってみろと突然言われても困るのは当たり前だ。

律「そんな考えるなって、ほら、なにか言ってみろって・・・てか、今の会話も聞こえてないのか、唯?」

唯「えっ!?・・・あ、う、うん・・・きこえない・・・」

澪「さっきより全然近くにいるのに・・・なんで・・・」

あずにゃんがつらそうな顔をした。
どうしよう。

紬「なんでもいいのよ・・・梓ちゃん」

数秒して、言う言葉が決まったのか、あずにゃんの顔が左耳に近づいた。

律「いや、もう少し近づけって!!ほらっ!!」

りっちゃんにせかされて、とたんにあずにゃんが騒ぐ。

澪「梓~いま、そんな恥ずかしがってるばあいじゃないだろ?」

紬「がんばって、梓ちゃん!!」

りっちゃんになにか文句を言って、意を決したのか。
さっきよりあずにゃんの顔が私の左耳のすぐそばまで来た。

唯「えっ!?い、いや、あ、あずにゃん!?こ、これ以上はちょっと恥ずかしいっていうか!?」

左耳にふわふわっと、あずにゃんの吐息がかかった。

唯「ふぁわわわ!?」

そのくすぐったさに思わず声が出た。

律「おぉ!?唯!聞こえたのか!?」

唯「えっ!?」

なぜか、りっちゃんがとっても生き生きした顔をして私に聞いてきた。

私の反応を見て、気づいたのだろうか。
途中で、あっ、とした顔をして、また下を向いてしまった。
あずにゃんにこんなこというなんて、気がひける。
でも、言わなきゃ。
右手であずにゃんの左手を掴んだ。
その手はとっても冷たかった。

唯「ご、ごめん・・・さっきの聞こえてなくて・・・」

唯「というか、やっぱりあずにゃんの声がどうしてだか・・・聞こえないんだ」

言ったとたん、あずにゃんが走り出した。
いてもいられなくなったんだろう。

律「あ、っこら!?あずさ!?」

澪「あ、梓!?どこ行くんだ!?」

紬「あずさちゃん!?」

唯「あ、・・・ま、まって!?あずにゃん、さっきなんて言ったの!?」

追いかけようとして、立ち上がる。右ひざの痛みが電撃を受けたように体中を駆け巡る。
しまった、また忘れてた。

右足に力が入らずに、立ち上がった勢いのまま私はまたその場で転んだ。

今度はうまく受身が取れなくて、私は頭から地面に倒れこむ。

律「ゆ、ゆい!?」

澪「大丈夫か?」

紬「ゆ、ゆいちゃん!?」

みんなが叫ぶ、その声で、走っていたあずにゃんがこっちを振り向いた。

澪「ひっ!?・・・あ、頭から・・・っち、血がっ!?」

唯「いてててて・・・足怪我してるのすっかり忘れてたよ・・・」

律「ゆ、唯!?大丈夫か!?む、む、むぎ、き、きゅ、救急車呼べ!?救急車!?」

紬「う、うん!?わ、わかった!?」

澪「」

律「唯!?大丈夫か!?しっかりしろよ!?」

唯「えへへ~りっちゃん・・・頭いたい・・・」

律「だろうな・・・頭かrちgd・・・」

唯「え・・・なに・・・りっちゃん・・・聞こえないよ・・・」

律「え?・・なn・・いっtんだ・・y・・・」

地面から、タッタッタッタと小刻みに振動が頭に伝わってきた。

唯「・・あ・・・あずny・・・」









そこで私の意識は途切れた。


2
最終更新:2011年07月07日 20:24