##3-b
朝
――ジャズ研 部室
先輩B「ふぁ…」
ガチャッ
先輩B「ふぁあ~…」
先輩C「遅いな」
先輩B「……ふぁ?」
先輩B「なにやってんの?」
先輩C「どうだ、私はお前より30分も早くここに来て練習してたんだぞ」
先輩C「私の勝ちだな」
先輩B「そりゃご苦労様」
先輩C「なんだ…張り合いがないな…」
先輩B「けど、なんで急に朝早くに来たりしてんの?」
先輩C「気まぐれだ」
先輩B「あっそ」
先輩C「…お前、毎朝来るつもりなのか?」
先輩B「先生は別にいいって言ってた」
先輩C「だったら私にもやらせろ! 一人でコソコソ練習するな」
先輩B「お好きにどうぞ~」
先輩C「じゃあ、好きにやるからな」
先輩B「ふあぁ~……ねむ~」
先輩C「シャキっとしろ。今日は新歓ライブなんだぞ」
先輩B「そういえば、昨日唯ちゃんと何があったの?」
先輩C「……関係ないだろ。今それは」
先輩B「部長なんだから知っといてもいいだろ~?」
先輩C「…それよりお前、雰囲気変わったな」
先輩B「髪、ストレートに戻してみた」
先輩C「どうしたんだいきなり」
先輩B「新しく気分を入れ換えるため、とか」
先輩C「そうか…なるほどな」
先輩B「で、唯ちゃんと何があったの?」
先輩C「それより練習だ! 練習!!」
先輩C「お前も早く準備しろ!」
先輩B「…やれやれだナ~」
――通学路
後輩C「……」
後輩C(昨日のセンパイ……優しかったな…)
後輩C(この学校に来て…初めて優しくされた……)
後輩C(鈴木先輩…ジャズ研の…)
後輩C「……」
後輩C(部活、どうしよう…)
後輩C(鈴木先輩のいるジャズ研に入ろうかな……)
後輩C(でも…音楽やったことないし…怖いセンパイもいるし…)
後輩C(自信ないな……)
後輩C「…――!!」ドキッ
純「……」
後輩C(す、鈴木先輩だ!!)
純「ん?」
後輩C(はっ!?)ササッ
純「あれ…今誰かに見られた気がするけど…気のせい?」
純「まぁいっか」テクテク
後輩C「……」
後輩C(は、はぁ……気づかれなくてよかった)
後輩C「……」
後輩C(何で隠れちゃったんだろう…私……)
後輩C(もしかしたら昨日みたいに、話せるかもしれないのに…)
後輩C「……」
後輩C(ダメだなぁ…こんなんじゃ…)
お昼休み
――2年 1組
純「じゃあ結局、昨日は来なかったんだ。新入部員」
梓「うん……なんでだろ」
梓「ビラもいっぱい配ったんだけどなぁ」
憂「まだ時間もあるし、大丈夫だよ梓ちゃん」
憂「それに今日は新歓ライブなんでしょ? ライブ見て軽音部に興味わく子が来ると思うよ」
純「そうそう。軽音部って初見じゃ何やってるか分からない部活なんだし、ちゃんとライブで魅せれば絶対来るって」
梓(何やってるか分かんないって…)
梓「……」
梓(確かに昨日の勧誘じゃそう思われて仕方ないかも…)
梓「うぅ…」
純「どうしたの?」
梓「…なんでもない」
純「よく分かんないけど…これ飲んで元気出して。飲みかけだけど」
梓「……」チュー
憂「新歓ライブ、見に行くねっ」
純「私も。ジャズ研のライブまで時間空いてるし」
梓「ありがとう、二人とも」
憂「そうだ、純ちゃんはジャズ研のライブで演奏するの?」
純「それが私は出れなくてさ。出れるのは3年生」
憂「そっか…残念だね」
純「まぁそのおかげで、梓の演奏見に行く時間もあるんだけどね」
純「あっ、そういえば……梓」
梓「なに?」
純「昨日軽音部がジャズ研で騒いでたんだってね。聞いたよ、話」
梓「あ…ご、ごめん! 迷惑だったよね…」
純「大丈夫大丈夫、センパイ達は特になにも言ってなかったから」
純「でも私も現場にいたかったなー…面白そうだし」
憂「昨日なにがあったの?」
梓「唯先輩とジャズ研のセンパイでちょっとひと悶着があって…」
憂「お姉ちゃんが!?」
梓「そ、そんな大事じゃないから大丈夫だよ、憂」
梓「喧嘩とかじゃなくてなんと言うか……怒られただけだから」
憂「お、お姉ちゃん迷惑かけちゃった…?」
純「いやいや、大丈夫だって。たぶん」
梓「ごめん…唯先輩が」
憂「ごめんね純ちゃん」
純「そんな二人で私に謝られても…」
純「そ、そんなことよりライブの準備はいいの? もうすぐ昼休み終わっちゃうよ」
梓「あっ、うん。これ食べ終わったら行く」
憂「今日は午前授業だから楽だね」
純「私も食べ終わったらジャズ研行かないとなー」
憂「じゃあ私、図書室で待ってる」
純「りょーかいっ。すぐ行くと思うから」
純「楽しみにしてるよ、梓」
憂「頑張ってね!」
梓「うん!」
――1年1組
ワイワイガヤガヤ
後輩C「……」
「もう部活決めた?」
「え? うーん…バレー部にしようかな」
「私ソフト。カッコいいセンパイがいるんだ」
「ねぇ、一緒に合唱部入らない?」
「合唱部かぁ…いいかも!」
後輩C「……」
後輩C(みんなもう部活決めてるんだ……いいなぁ…)
ワイワイガヤガヤ
後輩C「……」
後輩C(ジャズ研に入る人はいないのかな…)
後輩A「ジャズ研の入部届け、もう出したの?」
後輩B「うん、早めがいいかなって思って」
後輩C「!!」
後輩B「ジャズ研なら初心者の私でも大丈夫だし」
後輩A「あはは、なにそれ」
後輩B「だって他の部活は敷居が高いっていうか…」
後輩C「……」
後輩C(あの人たち…昨日の説明会にも来てた)
後輩C(ジャズ研に入るのかな…声かけてみようかな……)
後輩C「……」
後輩C(か、かけよう。友達を作らなきゃ…)
後輩C(でもなんて声かけよう………)
後輩C「……」
後輩C(『今日は良い天気ですね』……こ、これにしよう…)
後輩C(これなら自然…)
後輩C「ぁ……ぁのぅ…」
後輩A「それでね、実は――」
後輩B「へー、すごいね!」
後輩C「ぁの……」
後輩A「でね――」
後輩B「本当!?」
後輩C「ぁ、ぇっと……」
後輩C(も、もっと大きな声で言わないきゃ……)
後輩C「ぁ…あのっ」
後輩A「そうだ、ちょっと学校回ってみない?」
後輩B「うん、行こ行こ」
後輩C「あっ……」
後輩C「……」
後輩C(行っちゃった…)
後輩C「……」
――ジャズ研 部室
「よぃしょっ…!」
先輩C「待て、お前じゃ重くて運べないだろ。私が代わる」
「あぁ、ありがとうね」
先輩C「これぐらい気にしなくていいよ」
先輩B「ほぉ~、昨日そんなことがね~」
先輩A「なんであんなに嫌うんだろう。平沢さん、悪い人じゃなさそうなのに」
先輩B「生理的にムリなんじゃないの?」
先輩A「それは平沢さんがかわいそうよ」
先輩B「まぁ~…嫌いってはっきり言える分良いんじゃない?」
先輩B「ほら、女が女を嫌う時ってもっと……陰険じゃん」
先輩A「そーじゃなくてー…仲が悪いままじゃダメでしょ?」
先輩B「私には関係ないからどうでもいいけど」
先輩A「あぁもー、これなんだから」
先輩B「アイツは怒った後に後悔するタイプだから…自分でも内心そのことを気にしてるはずでしょ」
先輩B「心配しなくてもそのうち解決するとは思うけど」
先輩A「そうかなぁ…そうだといいんだけど」
先輩B「…ま、今は新歓ライブに集中しようじゃない」
先輩B「それと飴ちゃんちょーだいな」
先輩A「…そういえば」
先輩B「ん?」
先輩A「朝練、今日あったんでしょ?」
先輩A「なんで私も誘ってくれなかったの。二人だけズルい!」
先輩B「朝練ってほどでも……それにお前は朝起きれないだろ~」
先輩A「明日から…がんばる! うん」
ガチャッ
純「こんにちはー」
先輩C「鈴木、来てすぐに悪いがスコアのコピー行ってきてくれないか?」
純「えっ、はい。分かりました」
先輩A「あっ、じゃあ私も行く。純ちゃん一人じゃ大変だろうし」
――廊下
純「今年って、初心者が多いんですか?」
先輩A「うん、5人くらい。ジャズ研なら入りやすいと思ってるのかな」
純「でも実際は練習キツいですよね」
先輩A「たくさん入部してくれるのは嬉しいけど、途中で辞めないか心配」
純「そうですね…」
先輩A「純ちゃんは一年間頑張ったよね。えらいえらい」
純「いやー、でも…結構いっぱいいっぱいでしたよ?」
純「先輩がいたから――…」
純「あっ」
後輩C「!!」
先輩A「あら?」
純「また会ったね。何してるの?」
後輩C「い、ぃぇ…」
先輩A「あなた、昨日ジャズ研の見学会に来てくれた子よね?」
後輩C「あっ…」
純「本当!? ジャズ研に入ってくれるんだ!」
後輩C「ぃゃ……」
純「えっ、なに?」
後輩C「…そ、その……」
純「?」
後輩C「……」
純「…ま、まぁそんな急いで決めなくていいから。無理強いしてるわけじゃないし、じっくり考えて」
後輩C「……す、すすいません」
先輩A「練習見たい時はいつでも来ていいからね」
後輩C「はい…」
純「じゃ、また」
後輩C「あ……」
後輩C「……」
・・・・・
先輩A「今の子…なんだか怯えてたみたいだけど大丈夫かな?」
純「私、怖かったですか?」
先輩A「んーん、普通。ただ、いきなりだったから驚いたんじゃない?」
先輩A「それにあの様子だと、入ってくれそうにないね…」
純「はぁ~…ミスっちゃった。もうちょっと気つかえばよかったなぁ」
先輩A「大丈夫、純ちゃんはちゃんと気をつかえる子だから」モコモコ
純「あのセンパイ…頭…」
先輩A「あっ、ごめんなさい! つい目に入っちゃって…」
先輩A「……もう少しだけやっていい?」
純「かまわないですけど…」
先輩A「わー! やわらか~い♪」モコモコ
純(なんか恥ずかしい…)
先輩A「素敵な髪ね」モコモコ
純「こういう時は毎回言ってますけど……癖毛は大変なんですから」
純「言うほど素敵でもないし…」
先輩A「そう思ってるのは純ちゃんだけだって。もっと自分に自信持ってもいいんじゃない?」
先輩A「少なくとも私はかわいいと思うし」モコモコ
純「そ、そう言われると照れます」
先輩A「ふふっ、けど普通は自分に自信を持つなんて難しいよね。自信家とかは別として」
純「センパイもそうなんですか?」
先輩A「とーぜん…」
先輩A「自分にないものを持ってる人を見ると特にそう思う」
先輩A「胸が大きかったり足が長かったり…」
純(なんか特定の人を指してるような…)
先輩A「…でも、ないものに憧れてもしょうがないし。私は私で、自分の持ってるものを磨かないと」
純「そういう考え…いいですね」
先輩A「だから純ちゃん」
純「はい!」
先輩A「髪型絶対に変えちゃダメだからね?」
純「センパイもそれですか…」
――1年1組
後輩C「……」
後輩C「……はぁ」
後輩C(せっかく会えたのに…何も話せなかった…)
後輩C(あの時に入部しますって言えばよかった…)
後輩C「……」
後輩C(でも……私上手くやっていけるかな…)
後輩C(中学の頃部活やってなかったし…)
後輩C「……」
後輩C(どうしよう…)
最終更新:2011年07月12日 00:17