――ジャズ研 部室

先輩B「暇だ~…」

先輩C「なら練習してろ」

先輩B「レギュラーまだ揃ってないじゃん」

先輩C「一人でもできるだろ」

先輩B「今そういう気分ではにゃあでよ~」

同級生「あっ、じゃあ講堂行きません? 軽音部のライブとかあるし…」

先輩C「他のやつと行ってこい」

同級生「う…」

同級生(なんか怒ってる…)

同級生「じゃあ……行ってきまーす」

先輩C「……お前は行かなくていいのか?」

先輩B「一緒に行ってくれるなら行ってもいいけど」

先輩C「私が行くわけないだろ」

先輩B「そりゃ残念」

先輩C「…私のことなんてほっとけ」

先輩B「言われなくても、最初からほっといてるし」

先輩C「なら終始ほっとけ」

先輩B「…アイツにもらった飴あるけど、食べる? 甘いもの好きなんでしょ?」

先輩C「……言うほど好きじゃないが、いらないならもらっておく」

先輩B「はっきり言わない子にはあげませんよ~だ」

先輩C「……ならいい」

先輩B「じゃあ食べちゃお」パクッ

先輩C「あっ…」

先輩B「ほら、素直に言わないからもう手遅れ」

先輩B「あま~い」

先輩C「くっ……」

先輩B「お前が甘党とはね。そういえば私が淹れたコーヒーに砂糖入れまくって台無しにしたことあったっけ」

先輩C「コーヒーが苦すぎるからだ」

先輩B「コーヒーはみんな苦いんだよ」

先輩C「コーヒー牛乳は甘いだろ」

先輩B「あれはコーヒーじゃなくてコーヒー入りの乳飲料」

先輩C「そうなのか? 知らなかった…」

先輩B「もしかして、寿司もワサビ抜いて食べてる?」

先輩C「なっ、なんでそれを知ってるんだ!?」

先輩B「やーい、お子さま~」

先輩C「ワサビなんてあんなの必要ないだろ! つけて食べてる方が間違ってる!!」

先輩B「うわ…開き直った」

先輩C「悪かったな、お子さまな舌で!」

先輩B「そんな怒んなくてもいいだろ~」

先輩C「…怒ってるわけじゃない」

先輩C「声が大きくなっただけだ」
先輩B「声が大きくなっただけだ」

先輩C「なっ…」

先輩B「やった、的中~♪」

先輩C「人の言うことを被せるな!」

先輩B「お前は単純だから考えてることが丸わかりなんだヨ」

先輩C「馬鹿にするな!!」

先輩B「馬鹿にはしてないけど…」

先輩C「お前の態度は明らかに人を馬鹿にしてる態度だろ」

先輩B「はいはい、すいませんでした~。反省しま~す」

先輩C「ったく…誰が単純だ」

先輩B「だって本当に単細胞じゃん」

先輩C「言い方が悪くなってるぞ!」

先輩B「単細胞ってだけじゃないし。頑固で融通が利かなくて小言がうるさくて怒りっぽくて…」

先輩C「お前な…これ以上私を馬鹿にするなら――!!」

先輩B「けど、私はお前のこと嫌いになったりしないよ」

先輩C「っ……は?」

先輩B「お前がどんなに怒ってもうるさくても」

先輩B「私はお前を嫌いになんかならないよ」

先輩C「な、なにを…」

先輩B「たぶん、嫌われてると思ってるのはお前だけなんじゃないの?」

先輩C「……」

先輩B「……」

先輩C「…なんの話だ」

先輩B「べっつにぃー…」

先輩B「思ったことを言っただけ」

先輩C「そんなことはいちいち口にするな」

先輩B「お前には言われたくないよ」

ガチャッ

純「戻りました」

先輩A「ただいま~」

先輩B「おかえり~」

先輩C「……」


――図書室

純「おまたせっ」

憂「純ちゃん!」

純「時間空いたから来たよ。行こっか」

憂「うんっ。…あっ、もうすぐ始まっちゃう!」

純「うそっ!? 早く行かないと!」

「……コホン」
「……」ジーッ

憂「じゅ、純ちゃん…」

純「おっ…と。図書室では静かにしないとね」

憂「あっ純ちゃん、髪ちょっと崩れてるよ」

純「ほんと? 直してくれない?」

憂「うん」モコモコ

憂「あはっ、純ちゃんの髪やわらか~い」モコモコ

純「ちょ、くすぐったいよ憂」

憂「だってやわらかいんだも~ん」モコモコ

「……ゲフン」

純「…憂、静かに」

憂「あ…ごめんね」

純「とりあえず早く…うわっ! もうこんな時間!?」

「…ゲフンゲフン」

憂「純ちゃん、静かに」

純「そ、そうだった。静かに静かに…」

純「あっ、携帯がない!?」

憂「えっ!?」

純「…あ、ごめん。ちゃんとあった」

憂「もう、純ちゃんったらそそっかしいんだから」

「……」ジーッ

純「す、すいません」

憂「ごめんなさい…」


――講堂

唯「ふわふわ時間~♪」



純「あちゃ、もう始まってた…」

憂「お姉ちゃーん!」

純「盛り上がってるね、ライブ」

憂「うん!」

純「おっ、梓も頑張ってる頑張ってる」

純「…いいなー、梓。ライブ出れて」

純「いつもより輝いて見える…」

純「……」

純(あの舞台に立つってどんな感じなんだろう…)

純(私もなんでもいいからステージに立ってみたいなぁ…)

純「……」

純(……よし、いつか立てるよう頑張るぞー!!)

:
:
:

純「さてと…ライブ終わったけど憂はどうする? 私はジャズ研の準備手伝いに行くけど」

憂「せっかくだからこのまま講堂で他の部活見てる」

純「分かった、じゃあ行ってくるね」

憂「ジャズ研も楽しみにしてるよ!」

純「お任せあれ! 行ってきまーす」


ワイワイガヤガヤ

「可愛かったねー、軽音部」
「うん。入るの?」
「入る…ってわけじゃないけど」
「だよね、なんか近寄りがたい雰囲気があるっていうか。昨日は着ぐるみとか着てたし」
「せっかくの高校生活なんだし、ちゃんとした部活にしよーっと」

ワイワイガヤガヤ

後輩C「……」

後輩C(すごかったなぁ軽音部)

後輩C(楽器ってああやって弾くんだ……)

後輩C「……」

後輩C(私にできるのかな、あんな風に…)

後輩C(無理…かな、……私に音楽なんて…)

後輩C「……」

後輩C(次は演劇部、吹奏楽部、合唱部、そして……ジャズ研究部)

後輩C(鈴木先輩がいるところ…)

後輩C「……」

後輩C(また会いたいな…鈴木先輩)

後輩C(あの人と話してると…安心する…)


――ジャズ研 部室

顧問「新しく買ったサックスのことなんだけどさ、音出ないのよ」

顧問「壊れた?」

先輩B「サックスのことはよく分かんないですけど…音出ないのは楽器のせいじゃなくて先生のせいですよ」

顧問「そうだったんですか」

先輩B「サックス君に謝った方がいいですよ~」

顧問「ごめんなさい、サッくん」

先輩B「まぁ、音は練習すればそのうち出ると思うんで」

顧問「練習か…真面目にコツコツが一番ってことかね」

顧問「せっかく私も今日のライブ出ようとしたのに」

先輩B「そんな無茶な」

先輩B「てか、サックスのことは私じゃなくてアイツに聞いてくださいよ~」




先輩C「……」


顧問「いや、だって…さっきからずっと考え事してるみたいだし、声かけられなくてさ」

先輩B「考え事、か…」

顧問「ま、若いうちにたくさん悩むのは良いことだよ。私は練習に戻ろっと」

先輩B「……」

先輩A「なに考えてるんだろう?」

先輩B「さぁ…今日の夕飯とかじゃないの?」

先輩A「そんな食いしん坊キャラじゃなかったはずだけど」

先輩B「じゃあ日本の行く末について考えてるんだよ」

先輩A「そんな頭もよくなかったはずだけど」

先輩B「なら分からんちん」

先輩A「平沢さんのことかな?」

先輩B「あ~…唯ちゃんね」

先輩A「そのことで、二人で話したりしたの?」

先輩B「私が?」

先輩A「だってさっき二人っきりだったじゃない」

先輩B「そんなことするわけないでしょ。少しからかったりはしたけど」

先輩A「ふーん…」

先輩B「……なんだよ~」

先輩A「自分には関係ないとか言ったくせに、ちゃんと構ってあげてるじゃない」

先輩B「身に覚えがありませんな~」

先輩A「ほんと…素直じゃないんだから二人とも」

先輩B「私とアイツを一緒にしないでよ」

ガチャッ

純「戻りましたー」

先輩B「よし、そろそろ集まろっか」

先輩A「あっ、ごまかした」

先輩B「ほら、ミーティング始めるよ」

先輩C「…分かってる」

同級生「純も講堂にいたの?」

純「うん。軽音部のライブ見てた」

同級生「なんだ…だったら私も誘ってよぉ」

先輩B「えーっと、演奏に出るメンバーは昨日発表した通りでいいとして…」

先輩B「補欠の人で誰かMCやってくれる人いない?」

先輩C「MC?」

先輩B「演奏前に部活紹介する役」

純「!」

先輩B「誰かいない?」

同級生「うへー…大勢の前で喋るのはちょっとなぁ」

純「……」

純(MC…舞台に上がれる…)

同級生「純、どうする? 私はパス」

純「はい! 私やります!!」

同級生「えっ」

先輩B「おっ、純か。いいよいいよ~」

先輩B「じゃあ今紹介分書くから、ちょいと待っててね」

先輩C「まだ書いてなかったのか……ていうかお前MCのこと忘れてただろ」

同級生「ほ、本当にやるの?」

純「うん、だってステージに上がれるチャンスじゃん!」

同級生「そうだけど…大勢の前で喋るんだよ?」

純「そんなことぐらい分かってるって」

純「……」

純「ごめん…ノリであんなこと言っちゃった」

同級生「私、知ーらないっと」

純「うわー…なんか緊張してきた…」


――講堂

ワイワイガヤガヤ

後輩C「……」

後輩C(もうそろそろジャズ研の番)

後輩C「……」

後輩C(どんな演奏なんだろう、ジャズって)

後輩C(鈴木先輩は出るのかな…)

後輩C「……」


――舞台裏

先輩A「機材配置の手伝い、お願いね」

純「は、はい!」

先輩B「緊張してるな~、純のやつ」

先輩A「まさか自分からやりたいって言うなんてね」

先輩B「私はああいう思い切りのいいところ、好きだけど」

先輩C「喋ってないで、お前たちも準備しろ」

先輩A「はーい」

先輩C「……ん?」

先輩A「どうしたの?」

先輩C「…こんなものが落ちてた」

先輩B「なにそれ、携帯?」

先輩C「誰のだ…」

先輩A「置いてあったんじゃないの?」

先輩C「いや…物陰にあったんだ。たぶん落としたんだと思う」

先輩C「まぁいい、演奏が終わった後で持ち主を見つけよう。困ってるだろうし」

「まもなく本番でーす!」

先輩B「は~い」

先輩B「ほれ、いくよ~」

純「いよいよかぁ…」

純「緊張するなぁ…」

先輩B「なら手に人って字を書くといいんじゃない? 昔からよく言うし」

純「人…人…」

純「……」

純「あのー…」

先輩B「どした?」

純「『人』じゃなくて、『入』って字じゃダメですか?」

先輩B「『入』? 『入』かぁ…」

先輩B「う~ん……」

先輩B「許可しよう。似てるし」

純「ですよね! 前からどっちでもいいと思ってたんですよ」

純「入…入…」

純「……」

純「やっぱしっくりこないんで『人』にします」

先輩B「そうしな」

『まもなく、ジャズ研究部による演奏発表が始まります』

先輩C「始まるぞ、準備はいいか?」

先輩A「いつでもどうぞ」

先輩B「そんじゃ、楽しくやりますか」

先輩B「純、出だし任せるよ」

純「は、はい!」

純「……」

純「すぅ…はー」

純(集中集中…)

純(ここまで来たらやるしか)
純「……」

純(そういえば、あの大人しそうな子も見に来てるのかな…)

純「!!」

純(うわ、幕が上がった!!)

パチパチパチパチパチ

純「……っ!?」

純(多っ!? こ、こんなにいたっけ?)

純(ヤバ…頭がたんだん真っ白に)

純(……そうだ、メモメモ)

純「…ぇっ…と」

純「…新入生の皆さま、ご入学おめでとうございます」

純「長い集会でお疲れのところ申し訳ありませんが、どうか私たちジャズ研究部の発表を最後までお聴きください」

純「…桜ヶ丘高校ジャズ研究部は、練習は楽しく時には厳しくの和気あいあいとした活気ある部活です」

純「創立当初は人数も二人と少なく、表立った活動をしてきませんでしたが」

純「先輩たちや周りの人たちと様々な苦楽を共にし、支え合うことにより」

純「昨年のコンテストで我が部には初となる賞――…準グランプリを取ることができました」

純「…そして今、大きく成長したジャズ研究部はこれからもさらに大きく成長するために、新しい風と音をふかせるために」

純「新入生のみなさんを迎え入れたいと思います」

純「初心者から上級者までジャズをやってみたいという方を大歓迎しているので、入部希望、見学希望の方は気軽に部員まで声をかけてください」

先輩B(いいぞ~、純)

純「あと顧問の先生は一見怖そうだけど、とても優しい人なので安心してください」

純「…――それと」

純「誰かと一緒に何かをやるといことは、とてもすごくて楽しいことです」

純「考え方や感じ方が違う人たちが大勢いる中、衝突することもあります」

純「しかしそれは逆に、自分の知らない新しい価値観に出会ういい機会にもなります」

純「これから先、様々な楽しいことや辛いことがあるでしょう」

純「新入生のみなさんにはそのの出来事一つ一つを大切に受けとめて、三年後には充実したと思える高校生活を送ってください」

先輩B「…じょーでき」ボソッ


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最終更新:2011年07月12日 00:23