純「…――い、以上、長くなりましたが演奏前の部活紹介を終わりにします」

純「それでは、私たちジャズ研究部の演奏をお聴きくだしゃい」

先輩B「……」

純「……」

純(かんじゃった…)




後輩C「……」

・・・・・・

演奏終了
――舞台裏

先輩C「ふぅ…」

先輩A「初めての演奏だから緊張しちゃった」

先輩C「いや、お前はよくやったと思うよ。私は不調だった…」

先輩C「あとで練習のやり直しだな」

先輩B「そんな時間は今日ないっての。この後に新入生が来るかもしれないんだし…」

先輩C「私一人でやるんだからいいだろ」

先輩B「熱心なことで」

先輩C「そうでもしないとダメなんだ、私の場合は」

先輩A「頑張るのね…私なんてもうピアノ弾く気力もないのに」

先輩B「そうだね~……」

先輩B「ん?」




純「……」

純(終わった…)

純「……」

純(恥ずかしくて誰にも顔合わせられないよ…)

純(憂からも励ましのメールきてるけど…開く気になるないし)

純「はぁ~……なんで最後の最後で噛んだりなんか」

純「タイムマシーンでもあればなぁ」

先輩B「そんなもんは存在しないから諦めな~」

純「!!」

先輩B「なに隅っこでしょげてんの」

純「センパイ…」

先輩B「ほら、もう部室に戻るよ」

純「…はぁい」

先輩B「……」ナデナデ

純「!?」

先輩B「よしよし、お疲れさま。よくやったよ純は」

純「センパぁイ…」

先輩B「ぶっつけ本番であれだけやれば十分だって。元気出しな」

純「……すいません、最後の最後で」

先輩B「そんなこと、気にしないでくだしゃい」

純「うわーん! 蒸し返されたー!」

先輩B「あははは、あれはあれでよかったと思うよ~?」

先輩B「堅苦しい挨拶も和らいだし」

純「私にとっては恥さらしになっちゃいましたけど…」

先輩B「自虐はその辺にしときなって」

先輩B「自分で恥だと思おうが周りがダサいと思おうが、私は純のやったことを褒めるよ」

純「センパイ…」

先輩B「さて、部室に戻るとしますか~」

先輩B「純もそろそろ元気だしな。私は元気な純の方が好きだよ」

純「……はい!」


――廊下

先輩C「……あっ、そういえば」

先輩A「どうしたの?」

先輩C「さっき拾った携帯のことを忘れてた。持ち主に届けないとな」

先輩A「誰の携帯なの?」

先輩C「…開いていいのか?」

先輩A「この場合は仕方ないじゃない」

先輩C「…それもそうだな」

ヴーヴー

先輩C「!?」

先輩C「な、鳴った!!」

先輩A「落とした人からかしら、出てみたら?」

先輩C「……」ピッ

先輩C「もしもし…」

『もしもし唯ちゃん?』

先輩C「も、もしもし、唯ちゃんです」

先輩C「あ、いや違う。違います。唯ちゃんじゃないです」

『え? あの~…どちら様ですか?」

先輩C「私は…この携帯を拾った者でして…」

『まぁそうだったんですか。わざわざすいません』

先輩C「いえ、気にしないでください」

先輩C「ところでこの携帯を返したいんですが、どこに届ければ…」

『あっ、じゃあ軽音部までお願いできますか?』

先輩C「あ、はい分かりました。では」

ピッ

先輩C「軽音部だと!?」

先輩A「なにが?」

先輩C「この携帯の持ち主だ! ていうかこれ平沢のか!?」

先輩C「なんで私はあんなやつの携帯を拾ったんだー!!」

先輩A「あっ、平沢さんのだったんだ。……ちょうどよかったじゃない!」

先輩C「な、なにが…」

先輩A「これを機会に平沢さんと友達になってくればいいのよ、ね?」

先輩C「…なに言ってるんだ」

先輩A「ほら、このキャンディ持って携帯と一緒に平沢さんに渡してくるの」

先輩A「それで『昨日は怒りすぎた、謝る。実を言うと私は心の中でお前とずっと友達になりたいと思ってたんだ。今からでも友達に…なってくれるか? これ、友達のしるしにキャンディ持ってきたんだけど…』って言えば…」

先輩C「馬鹿かお前は!! なんで私がそんなこと言わないといけないんだ!!」

先輩A「で、でも…携帯は返さないといけないし」

先輩C「っ…」

先輩A「それにこういうチャンスはめったにないんだから、素直にならないと」

先輩A「卒業までずっと仲が悪いままなんてイヤでしょ?」

先輩C「……」

先輩A「ね?」

先輩C「……あんなやつと仲良くするぐらいなら、死んだ方がましだ」

先輩A「そんなこと言わないで…」

先輩C「だいたいな、余計なお世話だ! 私が誰と仲良くしようが悪かろうが関係ないだろ!!」

先輩A「なんでそんなに…意地を張るの?」

先輩C「……」

先輩A「平沢さんだって、きっとあなたと仲良くなりと思って…」

先輩C「……」

先輩C「…知ったことじゃない」

先輩C「いいか、その話題はもうするな」

先輩A「あ、ちょっ…どこ行くの?」

先輩C「……」

先輩A「携帯返しに行かないのー?」

先輩C「そんなこと、私が知るか!」


――ジャズ研 部室

「すいません、入部希望なんですけど」

純「はいはーい!」

同級生「どうぞこちらの用紙に記入を!」




先輩A「でね、その後どこかに行っちゃって…」

先輩B「へぇー」

先輩A「なんか…悪いことしちゃったかな」

先輩B「あいつが悪いんだから、お前は気にしなくていいよ」

先輩B「それにしても、あいつも馬鹿だね」

先輩B「一年の時に唯ちゃんと同じクラスに子に聞いたんだけどさ…あいつ、何度か謝ろうとしたらしいよ」

先輩B「だけどすれ違いが何度もあって、結局まともに謝れず今日の今日まできたんだってさ」

先輩B「すれ違いって言っても、あいつが一方的に空回わっただけかもしれないけど」

先輩B「そんであいつもいつの間にか唯ちゃんに対して引き下がれなくなったんだろうね。意地っ張りだし」

先輩A「そうだったんだ…」

先輩B「ま~、あいつの言うとおりもう口出ししないくてもいいでしょ。口で言わなくても分かってるだろうし…」

先輩B「唯ちゃんも人を嫌うような子じゃないから大丈夫だよ」

先輩A「仲いいの?平沢さんと」

先輩B「喋ったのは少しだけだけど…なんとな~く分かる」

先輩B「それにあの子といるとなんか懐かしい感じがするんだよね…」

先輩A「懐かしい感じ?」

先輩B「なんだろうな~…あれ。なんていうか…」

先輩B「あっ、そうだ。昔飼ってた犬に似てるんだ」

同級生「センパイ、入部希望者だいたい揃いました」

先輩B「はいよ~」

先輩A「…はぁ」

先輩B「世話焼きすぎだって。大丈夫だよ」

純「今年は多いね」

同級生「だねー」

同級生「あーぁ、レギュラー取られないか不安だなぁ」

純「そもそもレギュラーじゃないでしょ」

同級生「そうでした」

純「…うーん」

同級生「どしたの? ため息して」

純「ううん…なんでもない」

純(あの子、結局来なかったなぁ…)

純(ちょっと残念…)


――ジャズ研 部室前

後輩C「……」

後輩C(は、入ろうかな…)

後輩C(……どうしようかな)

後輩C「……」

後輩C(よし…は、入ろう)

先輩C「そこで何してるんだ?」

後輩C「!!」ビクッ

先輩C「ん? 入部希望者か。中に入っていいんだぞ」

後輩C「あ、あの…わわ、わわわ私は…」

先輩C「ほら、遠慮するな」

後輩C「あ…」

ガチャッ

純「あっ、センパイ。お帰りなさ…」

純「あっ」

後輩C「……」

先輩C「入部希望の子だ。用紙はあるか?」

純「入部希望? じゃあ入ってくれるんだ!」

後輩C「あ…ぇっと…」

先輩C「知り合いなのか?」

純「はい、昨日知り合ったばかりですけど」

後輩C「……」モジモジ

純「来てくれるか不安だったんだけど、よかった」

後輩C「す、鈴木先輩…」

純「なに?」

後輩C「わ、わわ私…入部したいです!」

純「うん、ようこそジャズ研究部へ」

後輩C「あ、ああありがとうございましゅ!」

純(あっ、噛んだ)

純「あはは、そんな緊張しなくていいから」

後輩C「す、すいません…」

純「でもうち決めてくれて、本当に嬉しいよ」

後輩C「…その、鈴木先輩が舞台で話してたことを聞いたら、わ、私も何かやりたいと思って…」

純「舞台で話してたこと?」

同級生「純が噛んだやつだ」

純「それは言わないで」

後輩C「それで私…音楽とかまったく分からなくて自信はないんですけど…」

純「大丈夫!」

純「私も入部した時は初心者だったけど、今こうしてやってこれてるんだし」

純「きっと君も、頑張れるよ!」

純「信じてくれるなら、後悔はさせない!」

後輩C「鈴木先輩…」

先輩B「ずいぶんと言うねぇ~、純。ま、その通りだけど」

先輩B「音楽できようができまいが、やる気があるならうちは大歓迎だよ~」

純「よろしくね」

後輩C「!」

後輩C「は、はい…がんばります!」

先輩A「よかった、入ってくれるんだあの子」

先輩C「……」

先輩A「どうしたの?」

先輩C「いや…その…」

先輩C「さっきは悪かった、怒鳴って…」

先輩C「平沢のことになるとつい…」

先輩A「あぁ…気にしてないからいいわよ」

先輩A「ところで、携帯はどうしたの?」

先輩C「……落とした」

先輩A「はい?」

先輩C「どこかに落とした…」

先輩A「な、なにそれ!?」

先輩C「気づいたら落としてたんだ…誰かが拾って届けるだろうな」

先輩A「もぉ~…なにやってるの」

先輩C「……ごめん」

先輩A「……」

先輩C「…なんだ?」

先輩A「素直に謝ったところ、初めてみた」

先輩C「そ、そんなことないだろ」

先輩A「そんなことある」

先輩C「私はいつだって素直だぞ」

先輩A「さぁーて、どうかしら…ふふっ」

先輩C「なんだそれ…」


――軽音部 部室前

唯「はぁ~…ビラ配り疲れた」

梓「これで誰か来てくれるといいんですけど…」

唯「あっ!」

梓「ど、どうしたんですか?」

唯「見て見て私の携帯! こんなところに置いてあった!」

梓「なんでそんなところに…」

唯「分かんない、いつの間にか落としてたのかなぁ…?」

唯「――あっ!!」

梓「今度はなんですか?」

唯「飴! 飴もあったよあずにゃん!!」

梓「飴?」

唯「やった! 糖分補給~」

梓(なんで飴が…?)

梓「ていうか、食べちゃっていいんですかそれ」

唯「あずにゃんもなめる?」

梓「ゆ、唯先輩のなめかけなんていいです」

唯「ひどい!?」


翌日
――ジャズ研 部室

先輩B「前にさ~、穴の空いていないドーナツってのが売ってたんよ」

先輩B「あれってドーナツじゃないよね?」

先輩C「売ってる方がドーナツって言えばドーナツなんだろ」

先輩B「違うよ~、それじゃあただの菓子パンなんだよ~」

先輩B「穴が塞がってる分得した気にはなるけど」

ガチャッ

先輩A「お、おは…よう…」

先輩B「あっ、来た来た」

先輩C「つらそうだな」

先輩A「平気…大丈夫よお母さん…」

先輩C「私はお前のお母さんじゃない」

先輩A「お母さ~ん」

先輩B「よしよし、もう起きましょうね」

先輩C「子どもか…」

先輩B「さてと…じゃあ始めよっか」

先輩B「今日から本格的に、新生ジャズ研のスタートってことで」


――通学路

純「ふぁ~……」

後輩C「あ、あの…」

純「ふあぇ?」

後輩C「おはようございます…」

純「あっ、おはよ! 通学路一緒だったんだ」

後輩C「は、はい…」

純「そっか…あっじゃあさ、これからは一緒に登校できるね」

後輩C「え…いいんですか? 私なんかと…」

純「うん、友達は別の道だからずっと朝一人だったんだよね」

純「せっかく同じ道なんだし一緒に行こうよ」

後輩C「あ、ありがとうございます!」

後輩C(誰かと一緒に登校するなんて初めて…)

後輩C(嬉しい…)

純「そういえば、楽器は決まった?」

後輩C「は、はい。鈴木先輩と同じベースにしようかなって…」

純「おっ、そうなんだ。じゃあ私が教えることになるのかな」

後輩C「よ、よろしくお願いします…鈴木先輩」

純「なんか照れちゃうね、たはは……」

純「…ところで、名前なんていうんだっけ」

後輩C「あ…私の名前は――」


##3-b おわり



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最終更新:2011年07月12日 00:24