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放課後
――ジャズ研 部室
純「でさ、軽音部に梓っていうギターの上手い子がいるから、機会があれば今度教えてもらいなよ」
後輩B「いいんですか? 他の部活なのに」
純「たぶん大丈夫じゃない?」
ガチャッ
後輩C「……」オドオド
純「あっ、おはよ」
後輩C「お、おはようございます…」
純「…? どうしたの、元気ないね」
後輩C「い、いえ…元気です…」
純「体調悪いなら無理しなくてもいいよ?」
後輩C「本当に、大丈夫です…」
純「そう…? ならいいんだけど…」
純「……なにかあったの?」ヒソヒソ
後輩B「え?」
純「ほら、あの子と同じクラスなんでしょ?」
後輩B「そうですけど…特に何があったというわけでも…」
後輩B「それにあの子、普段から暗いし影も薄いからよく分からないんですよね」
後輩B「前髪で表情も隠れちゃっているから何を考えてるのかも…」
純「そっか…なるほど」
後輩B「そのせいで周りの子も近づきづらいんですよねー」
ガチャッ
先輩A「おはよう」
純「あっ、おはようございます」
後輩B「おはようございます」
純「あれ? 部長は…」
先輩A「今日は部長会議とかで遅れるんだって」
純「へぇ…なんか最近ドタバタしてますよね」
先輩A「この時期はしょうがないかな…来月は修学旅行もあるし」
純「忙しいんですね、3年生って」
先輩C「その通り.。だから部活は2年が率先して引っ張っていくんだぞ」
純「あっ…センパイ」
先輩C「鈴木、お前最近タルんでないか?」
純「えっ」
先輩C「そこに落ちているのは何だ?」
純「これは……え~っと、さっき食べた菓子パンの袋でして…」
先輩C「ゴミはゴミ箱に捨てろ!!」
純「ご、ごめんなさい!」
先輩C「まったく…自分が上級生だってことを自覚しているのか」
純「すいません…」
先輩C「ジャズ研はただの仲良しクラブじゃないんだ。部活の時ぐらい少しはしっかりしろ」
純「はい…」
先輩A「まぁまぁ」
先輩C「…あと10分したら練習をはじめるから、早く準備するんだぞ」
「「「はーい」」」
先輩C「はぁ…全体的に気が緩んでる」
先輩A「春だからかな?」
先輩C「関係ないだろ」
純「さーてと、準備準備…」
後輩C「あの……鈴木先輩」
純「なに?」
後輩C「その…えっと……」
純「?」
後輩C「私って……」
「なにしてるの、もうすぐ始めるよ?」
純「あっ、はーい!」
後輩C「……」
純「ほら、練習始まるって。いこっ」
後輩C「は、はい……」
・・・・・
休憩時間
純「んーっ…疲れたぁ」
後輩C「お疲れ様です」
純「どう? ベース弾くの慣れた?」
後輩C「えっ…あ、はい。鈴木先輩に教えてもらったおかげで…」
純「い、いやだなー、私なんて基礎教えただけでたいした事してないって」ヘラヘラ
後輩C「……鈴木先輩」
純「ん? どうしたの?」
純「教えて欲しいことがあれば遠慮なく言っていいよ!」
後輩C「あの…私……」
ガラッ
先輩B「おろ? 練習終わったの?」
純「あっ、お疲れ様です。今は休憩中ですよ」
先輩B「あ~そう。もう休憩時間なんだ~」
先輩A「お疲れ様」
先輩B「んっ。つかれた」
先輩A「結構長かったのね。部長会ってなにやってたの?」
先輩B「なんか~予算とか活動内容とか決めて~~」
先輩B「そんでぇ~……色々細かいこと話し合って~、めんどくさかった」
純「部長って大変なんですね」
先輩B「大変だよ~…」
先輩B「代わりにやってくれない?」
先輩A「いやーよ」
先輩B「じゃあ、純」
純「無理ですって」
先輩B「なんだよ~。じゃあ…そこの~……ん?」
後輩C「え…」
先輩B「君は~…パートは純と同じベースだったけ?」
後輩C「は、はい」
先輩B「ふ~ん……」ジーッ
後輩C「あ、あの……」
先輩B「髪…切ったほうがいいんじゃない? かわいくなるよ」
後輩C「え…?」
先輩B「ね?」
純「へっ? ……うーん」ジーッ
後輩C「っ!?」ドキッ
後輩C(す、鈴木先輩に見つめられてる…!?)
純「確かに…このままより思い切ってバッサリ切っちゃったほうがいいかも」
先輩A「でも、ここまで伸ばした髪を切るのって結構勇気いるんじゃない?」
先輩B「いやでも、ショートの方が似合うって~……ほら」サッ…
後輩C「きゃっ!?」
先輩B「おっと…ごめんごめん」
純「あっ、でも今一瞬ちょっと可愛かったかも」
後輩C「えっ…」ドキッ
純「そうだ! 私みたいに両サイドにまとめてみれば?」
後輩C「む、無理ですよ…鈴木先輩みたいにかわいくないし…」
先輩B「おっ、可愛いって言われたよ純」
純「な、なんだか生まれて初めてそんなこと言われたような…」
先輩B「いやいや、私も純はかわいいと思うよ」
純「そ、そうですか~?」ニヘラ
先輩B「嘘だよ。調子に乗るなよ」
純「えぇっ!?」
先輩A「ほらほら、遊ばないの」
先輩B「ごめんごめん、冗談だから気にしなくていいよ~。かわいいかわいい」ナデナデ
純「…なんかうれしくない」
先輩B「まぁどっちにしろ、髪は…気が向いたら切ったほうがいい思うよ~。前髪だけでもさ」
後輩C「は、はい……」
先輩B「オススメの美容院とかも教えるよ~」
後輩C「ありがとうございます…」
純「髪か……いい加減ストレートにしようと思ってるんだけど…」
純(部長にストレート禁止令を出されてるんだよね…)
先輩B「ん? どした?」
純「いえ…なんでもないです」
後輩C「……」
先輩B「さぁてと、私もそろそろ準備しよっかな~」
先輩A「今日はこの後どうするの?」
先輩B「ん~? パートごとに基礎練やって~、そんで軽くセッションして~…」
純「はぁ、まだまだ大変そうだね」
後輩C「は、はい」
純「……もっと気楽にやってもいいんだよ?」
後輩C「え?」
純「なんか顔がこわばってるしさ。部活まだ慣れない?」
後輩C「す、すいません……」
後輩C「……」
純「ほら、元気出して」
後輩C「はい……」
・・・・・
後輩A「あー、疲れたー」
後輩B「ねー」
後輩A「そうだ、今日帰りのついでにさぁ…」
後輩C「あのぅ…」
後輩A「ひっ!?」
後輩B「っ!?」ビクッ
後輩C「こ、これ……ピック、落ちてましたよ…」
後輩A「あ、ありがとう…」
後輩C「…………それじゃあ」スタスタ
後輩B「び、びっくりしたー…いきなり話しかけられるんだもん」ヒソヒソ
後輩A「あの子、ちょっとこわいよね」ヒソヒソ
後輩B「うん、どうやって接すればいいか分からないっていうか…」ヒソヒソ
後輩C「……」
純「ぷはぁ! 疲れたぁ…」
同級生「今年も練習キツいよねー…」
純「あっ、いたんだ」
同級生「さっきからいたよ! 補習で遅くなっただけだし…」
純「こんな時期に補習って……やばくない?」
同級生「ぅっ……」
同級生「…ま、まだ二年生だし、大丈夫だもん」
純「そう言って来年も二年生だったりしてね」
同級生「うぅ…勉強やだー! 勉強なんてする意味ないよ!!」
同級生「純もそう思うでしょ? ね??」
純「えー? 私はあれだよ、勉強についてはもう悟りを得たっていうか」
同級生「悟り?」
純「つまりね、勉強をする意味ってのは…………あれ、なんだっけ」
同級生「なんだ、純もダメじゃん」
純「そ、そんなことないって! 勉強は普通にできるし(憂のおかげで)」
純「うん…たぶん」
同級生「ふーん…人は見かけによらないねぇ」
純「むっ、どういう意味?」
同級生「どういう意味もないでーす。あーぁ、頭のよくなる薬でも売ってないかなぁ」
同級生「あっ、それより世界中の人が私と同じくらいの頭になればいいかも…」
純「そんなことになったら人類滅ぶんじゃない?」
同級生「むっ、どういう意味?」
純「そういう意味です」
先輩C「鈴木、ちょっといいか?」
純「あっ、はい。なんですか?」
先輩C「ここにある譜面台を音楽室まで運んで行ってくれ」
純「えぇー…」
先輩C「ん? なんだその嫌そうな顔は」
純「いえ…嫌じゃないです」
先輩C「なら行けるな。他にも人手を…」
同級生「痛たた……お腹が…」
先輩C「二人か、もう一人ぐらい必要だな」
同級生「あっ、私もですか。やっぱり」
最終更新:2011年07月12日 00:31