――帰り道

ザアアアアアアアアア

純「うわー…さっきよりもすごい降ってる」

後輩C「あっ…純先輩、肩濡れちゃってます」

純「え? …ほんとだ」

後輩C「タオル使いますか?」

純「ありがとう…ごめんね」

後輩C「いえ、そんな……あ、あのっ」

純「なに?」

後輩C「私がふいてもいいですか?」

純「え…? そこまでしなくても」

後輩C「でも…手がふさがってますし」

純「大丈夫だって、一人でなんとかできるから」

後輩C「あ…はい」

純「……」ゴシゴシ

後輩C「……」

純「そういえば今日はできたね、あのフレーズ」

後輩C「はい。純先輩のおかげで…」

純「私じゃないって。練習した自分のおかげだよ」

後輩C「あ、ありがとうございます」

純「これ、タオルありがとうね」

後輩C「あ、はい」

純「もっとこっち来なよ。車に水溜り引っかけられちゃうかもしれないし」

後輩C「いいんですか…?」

純「うん。そうだ、相合傘でもする?」

後輩C「いいんですか!?」

純「なんて、それじゃあ二人とも濡れちゃうよね」

後輩C「あ…そ、そうですね……」

純「早くやまないかなー、雨。もううんざりー!」

純「……はぁ」

後輩C「……」

後輩C「雨……」

純「あーぁ、最悪……」

後輩C「……」

後輩C「……純先輩」

純「んー?」

後輩C「私、今日てるてる坊主を作ってみます!」

純「……どうしたの急に」

後輩C「あ…いえ。それで晴れたら純先輩も元気になるかなって…」

純「……」

後輩C「す、すいません……変なこと言って」

後輩C「でも、てるてる坊主を作れば雨もやむって言われてるし……そうすれば…」

純「……ぷっ」

後輩C「じゅ、純先輩…?」

純「ごめん……あまりにも唐突だったから面白くて」クスクス

後輩C「そ、そうですか…?」

純「あははっ、そっかー…てるてる坊主って手があったんだ。100個ぐらい作ればやむかもね」

後輩C「はいっ、がんばります!」

純「え? 本当に作るの?」

後輩C「え?」

純「だって…100個だよ?」

後輩C「純先輩のためなら!」

純「いや、そこまでしなくても…」

後輩C「で、でも……」

純「……じゃあ、50個ずつで分けよっか。私も今日50個作るから、そっちでもう50個お願いね」

純「100個も作らせるのは悪いし」

後輩C「は、はいっ! 分かりました!」

純「てるてる坊主かー…作るのなんて小さいころ以来かも」

純(それにしても、50個も作れるかなー…)

後輩C「私は小さい頃によくおばあちゃんと一緒に作ってて…得意なんです、てるてる坊主作り」

純「へー」

後輩C「人に誇れることの一つです」

純(そりゃまた微妙な……)

後輩C「だから…絶対に作りますね、50個」

純「うん、私もがんばってみる」

後輩C「えへへ…」

純「あっ、じゃあ私こっちだから」

後輩C「あ…はい。お疲れ様でした」

純「うん、ばいばい。作るのはいいけど、あんまり無茶しないでね。風邪引いちゃうといけないし」

後輩C「はいっ、分かりました」

純「じゃあねー」

後輩C「お疲れ様です」

後輩C「……」

後輩C(やった…純先輩に面白いって言われちゃった)

後輩C「今日は頑張らなきゃ…てるてる坊主」


――純の部屋

prrr, prrr

憂『はい、もしもし』

純「あっ、憂」

憂『純ちゃん? どうしたの?』

純「うん? なんとなく…今大丈夫?」

憂『うん、大丈夫だよ』

純「ごめんね、急に電話なんてしちゃって。なんか憂の声が聞きたくて」

憂『ふふっ、なにそれ』

純「まぁいいじゃん。憂は今なにしてるの?」

憂『お風呂から上がったところ。純ちゃんは?』

純「てるてる坊主作り」

憂『え?』

純「明日晴れるために、てるてる坊主作ってるの」

憂『へー…私も作ってみようかなぁ』

純「ちなみに50個」

憂『えぇっ!? ……なんでそんなに?』

純「約束したからね、後輩と」

憂『?』

純「それよりもさ、今日の私ってやっぱ元気なかった?」

憂『え? ……うん』

純「そっか……まぁそうだよね」

憂『体調は大丈夫?』

純「平気平気、風邪とかじゃないから。でもみんなには迷惑かけちゃったみたい」

憂『迷惑?』

純「部活のとき集中できなくて…センパイには怒られちゃったし、後輩には心配されちゃうしで…」

純「なんか今日はみんなに申し訳ないなーって思っちゃった」

憂『そっかぁ…』

純「私も、もう二年生だからしっかりしないといけないのは分かってるんだけどね……でもまだ実感がないって言うか」

憂『うん…』

純「去年と何も変わってない気がするんだよね。成長…っていうのかな、なんかそんな感じのことしてないなぁって」

憂『成長かぁ…』

純「このままでいいのかなぁ、私」

純「……このままダラーっとして、あっという間に卒業して、大学入って、就職して結婚して…普通に生きていくのかなぁ」

純「私としてはね、もっと活躍したいっていうか…こう、スター? そう、スターみたいになりたいんだよね!」

憂『スター?』

純「そうそう! 澪先輩みたいな感じでみんなにキャーキャー言われちゃって、スーパーベーシストとして芸能界に鮮烈デビュー!」

純「それでオリコン1位取ったり紅白出ちゃったりしてさ、大金持ちになって豪邸に住むの!」

憂『楽しそうだねぇ~』

純「あっ、でもバンドとしてデビューした方が注目されるかも…」

純「よしっ、憂と私と梓でバンド組んじゃおう!」

憂『えぇっ!?』

純「ほら、前も雨の日にセッションしたじゃん。あんな感じでさ」

純「私たち三人で練習すれば絶対いいところまでいけると思うんだよね」

憂『そうかなぁ』

純「そうだって! そして将来は海外でライブしたりして!」

憂『ふふっ』

純「さらにミュージシャンだけじゃなくてハリウッドデビューとか!」

憂『じゃあ演技の勉強しないとねっ』

純「あはははっ。……本当にそうなったらいいんだけどね」

憂『頑張ればなれるかもしれないよ?』

純「どうだろう……英語だって話せないし。それに私なんかじゃ無理だなってことも分かってるし」

純「まぁ……だから先輩たちに憧れたりしてるのかな」

憂『……』

純「私も先輩たちみたいになりたいなー…」

憂『純ちゃんならなれるよ!』

純「……本当にそう思ってる?」

憂『うんっ!』

純「本当に?」

憂『本当にっ!』

純「……あははっ、憂が言うならそうかもね。よしっ、がんばるぞー!」

憂『ふふっ』

・・・・・

純「今日はなんかごめんね、変な話につき合わせちゃって」

憂『ううん、そんなこと全然…楽しかったよ。それに純ちゃんが愚痴とか言うの珍しかったし』

純「あー…今日だけで珍しいとか変とか何回言われたんだろう」

憂『でも、そういう日もあるよ……あってもいいんじゃないかな』

憂『なかったら疲れちゃうし』

純「…………そうかも」

憂『うんっ』

純「…今日はありがとうね、憂と話してたら気が楽になった」

憂『私も、純ちゃんと話せて良かった』

純「うん…また明日」

憂『おやすみ、純ちゃん』

ピッ

純「ふぅ……」

純「……」

純「……とりあえず、てるてる坊主がんばろうかな」


――憂の部屋

こんこんっ

憂「はーい」

ガチャッ

唯「憂ー、借りてた漫画返しに来たよ」

憂「ありがとう、お姉ちゃん」

唯「あれ? なにしてるの?」

憂「てるてる坊主作ってるの、明日晴れればなぁって」

唯「なるほど! 私もやります!」

憂「ふふっ、じゃあ一緒にやろっか」

唯「よーし、いっぱい作っちゃおう!」フンス

憂「雨なんかには負けないぞー! おー!」

唯「おぉ!? なんか今日の憂はノリノリだね~」

憂「えへへ」

唯「よーし、私も…負けないぞー! おー!」


翌日
――2年1組

純「晴れた! 晴れたよ梓!」

梓「そんなこと言わなくても分かってるって」

純「やっぱりてるてる坊主って効果あるんだね」

梓「てるてる坊主?」

純「実は、昨日密かに作ってたの」

憂「私も、お姉ちゃんといっぱい作ったんだよ」

梓「へぇ……」

純「こうしてお日様を拝めるのも、てるてる坊主のおかげだね」

梓「……普通に梅雨晴れしただけなんじゃ」

純「もう! 梓にはロマンってものがないの!?」

憂「そうだよ梓ちゃん!」

梓「えぇっ、憂まで!?」

憂「えへへー」

純「私たちが頑張ったおかげだもんね」

憂「うんっ!」

梓「……?」


放課後
――ジャズ研

後輩C「純先輩! 私、昨日なんとか作れました」

純「私も。作ったやつ携帯で撮ったんだよ、ほら」

後輩C「わぁ…!」

純「今日晴れたのは、私たちのおかげだね」

後輩C「は、はいっ!」

純「だけど、一つ問題が……」

後輩C「なんですか?」

純「作ったてるてる坊主、どうしよう……」

純「置く場所ないし、捨てるとなんか呪われそうだし…」

後輩C「あっ、そうですね…」

先輩C「ん? どうしたんだ?」

純「あっ、センパイ。実は昨日作ったてるてる坊主の処分に困ってて…」

先輩C「てるてる坊主か。私も昨日妹と作ったけど……普通に燃えるゴミに捨てたぞ」

先輩B「捨てたら呪われるよ~」

先輩C「そうなのかっ!?」

純「あっ、おはようございます。風邪はもう大丈夫なんですか?」

先輩B「うん、バッチリ~」

先輩C「ど、どういうことだ!? てるてる坊主って捨てたら呪われるのか!?」

先輩B「だって元をたどれば雛人形と同じだし……ちゃんと供養しないと、てるてる坊主に恨まれちゃうよ~?」

純「そんな大げさな……」

先輩C「大変だ…なんてことだ。そうとも知らず私は……はっ!」

先輩C「妹が! 妹が危ない!!」

純「え?」

先輩C「帰って供養しないと!!」

純「あの…部活は?」

先輩C「すぐ戻る!!」ダダダッ

純「……」

先輩B「かわいそうに……ほんとに信じちゃってる」

純「電話して引き戻したほうがいいですよ」

先輩B「そうだね~」


##6 おわり



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最終更新:2011年07月12日 00:37