##7
調理実習
――家庭科室
純「やっぱり玉子焼きは甘いやつにかぎるよね。というわけで砂糖たっぷりと…」
梓「それ入れすぎじゃない?」
純「平気平気、死ぬわけじゃないし」
梓「そういう問題じゃ……味おかしくなるよ、それ」
純「大丈夫だって、こっちには憂もいるんだし」
純「ねー、憂。大丈夫だよね?」
憂「えっ? うん……入れすぎじゃないかな」
梓「ほら」
純「えぇっ……じゃあ少し減らして」
憂「……」
梓「憂、そっちのスープできた?」
憂「う、うん」
梓「憂ができたって言うならバッチリだね」
憂「あはは…」
純「うーん……なんかトッピングしたいなぁ」
梓「なにを?」
純「チョコとか?」
梓「本気で言ってる?」
純「冗談です。でも玉子焼きってだけじゃなにか寂しいなー…」
純「ねぇ憂。憂も何か入れたほうがいいと思う?」
憂「えっ……そのままでもいいんじゃないかな」
純「そう?」
梓「憂もそう言ってるんだから、早く焼いちゃいなよ」
純「はーい」
ジュージュー
純「難しい……梓、ちょっと箸持って。私フライパンやるから」
梓「なにそれっ、どうやるの!?」
純「だからここをこう…」
憂「……」
純「できたっ、ちょっと焦げたけど」
梓「純が変なことするから」
純「梓だってしっかりサポートしてよ」
梓「…私のせい?」
純「ねぇ憂、どう?」
憂「いいんじゃないかな」
純「よしっ、じゃあ完成したし先生に見せに行こっか」
梓「うんっ」
憂「……」ゴクリ
純「憂? どうしたの?」
梓「早く行こうよ」
憂「あっ、うん。今行くね」
・・・・・
純「今日は実習で作った料理食べれるから、購買行かなくて楽だよね」
梓「いただきます」パクッ
純「いただきます」パクッ
憂「……」
純「うんっ! ……うん」
梓「感想なし?」
純「いや、だって……」
梓「まぁ…微妙だよね」
純「やっぱ砂糖多目のほうがよかったんじゃない?」モグモグ
梓「うーん……ていうか純」
純「ん?」モグモグ
梓「微妙とか言いながら……食べすぎじゃない?」
純「あはは…憂は食べないの?」
憂「あ、うん。私は……」
梓「憂のスープはどうかな」ズズッ
梓「っ!?」
純「どうしたの?」
梓「うっ……」
純「?」ズズッ
純「…っ!?」
憂「え? どうしたの二人とも」
梓「いや、その……」
純「ねぇ、これ…憂が作ったにしては味がちょっと変じゃない?」ヒソヒソ
梓「う、うん」ヒソヒソ
純「ちゃんと憂が作ったんだよね、これ」ヒソヒソ
梓「そう言ってたけど」ヒソヒソ
憂「?」
純「…憂、とりあえず飲んでみなよ」
憂「あ…私はいいや」
梓「え?」
憂「その…食欲がないって言うか、あはは。ちょっと購買で飲み物買ってくるね」
梓「いってらっしゃい…」
梓「……」
純「な、なに? 憂どうしたの?」
梓「わかんない…」
純「料理は失敗するし、しかも食欲ないみたいだし…」
梓「うーん…おかしい」
純「憂になにが……はっ、分かった!」
梓「なに?」
純「恋よ、恋!!」
梓「こっ…!?」
純「ジャズ研のセンパイも言ってた、あの症状はきっと恋煩い!」
梓「いくらなんでもそれは…」
純「他に何があるの?」
梓「……」
純「あれきっとそうに間違いない!」
梓「でも……憂が?」
純「もう、梓のニブチン。梓は恋したことないから分からないの」
梓「…そういう純は恋したことあるの?」
純「私? ないけど」
梓「ダメじゃん」
純「とにかく、憂の様子がおかしいのはきっと何か原因があるはず」
純「私はそれが恋だと思う!」
梓「本当かな…」
放課後
憂「じゃあ私、今日は買い物あるから先に帰るね」
梓「うん、バイバイ」
純「……どうする?」
梓「どうするって?」
純「憂の後、追いかけてみる?」
梓「えっ…なんで?」
純「決まってるじゃない、憂の追跡調査!」
梓「それって…」
純「もしかしたら、憂の好きな人も分かるかもね」
梓「や、やめた方がいいんじゃない…?」
純「でも……気になるでしょ?」
梓「……」
商店街
憂「……」テクテク
純「今のところ、異常なし」
梓「ていうか憂は買い物いくって言ったんだから、それ以外用事なんてないんじゃ…」
純「まだ分かんないよ? あっ、見て」
憂「……」ジーッ
梓「なに見てるの? あれ」
純「ケーキ…だね」
憂「はぁ…」
梓「あっ、ため息ついた」
純「分かった、憂の好きな人はケーキが好きなんだよ」
梓「なんでそうなるの」
・・・・・
憂「……」テクテク
純「うーん…今のところ買い物を済ませてるだけだね」
梓「だから言ったじゃん、買い物するだけだって」
純「じゃあなんであんなに様子が変なの? さっきから上の空だし」
梓「普通に調子悪いだけじゃないの?」
純「それならそれで心配だなぁ…」
「あー!」
純「ん?」
「ずー!」
梓「えっ…」
唯「にゃんっ!!」ダキッ
梓「んにゃっ!
唯「こんなところで会えるなんて奇遇だねぇー!」スリスリ
梓「なっ、なんで唯先輩がここに!? ていうか離れてください!!」
唯「あ~ん、せっかく会えたのにぃ」
純「唯先輩、こんにちは」
唯「あっ、純ちゃんこんにちは。二人ともなにやってるの?」
梓「実は憂の尾行をしてて…」
唯「憂?」
純「なんか今日の憂、様子が変なんですよね」
唯「憂が!?」
梓「唯先輩、なにか知りませんか?」
唯「そういえば…朝ごはんあんまり食べてなかったかも」
唯「あっ! それにね、今日のご飯はなんか美味しくなかった」
純「やっぱり…」
梓「じゃあ朝から変だったんだ…」
純「これも恋のしわざかな…」
唯「恋!?」
梓「だから飛躍しすぎだって、それ」
唯「こ、恋って? 恋ってなんの話!?」
純「憂が恋してるから様子が変なんじゃないかなー、って話してたんです」
唯「憂が恋!?」
梓「ゆ、唯先輩、落ち着いてください」
唯「ど、どうしよう、どうしたらいいのかな? 挨拶しに行ったほうがいいのかな?」
梓「誰にですか!?」
純「あっ、憂が行っちゃう」
唯「私も追いかける!」
梓(なんかめんどくさいことに…)
・・・・・
憂「……」テクテク
唯「異常なしっ」
梓「心配しすぎな気が…」
純「でもそろそろ何かあっても…」
梓「もう、二人とも憂に何かあったほうがいいんですか?」
唯「なにかって?」
梓「例えば……本当に彼氏がいるとか」
唯「彼氏!!?」
純「まさか憂が…」
梓「さっきまでそういう話だったじゃないですか!」
唯「でも…でもでも、もし憂にそういう人がいたら……」
唯「私…これから一人で暮らさなきゃいけないのかな?」
梓「え?」
唯「だって、憂は彼氏の人の家に毎日ご飯作りに行くんだよ? そうしたら私はほったらかしにされて…」
唯「あっ、そうだ! あずにゃんが作りに来てくれればいいんだ~!」
梓「なんでそうなるんですか!?」
純「相変わらず仲良いね」
梓「純もやめてよ…」
憂「……」
唯「あっ、憂が止まった!」
梓「唯先輩、静かに」
唯「なんだろう…買い物袋の中見てる」
憂「……」
憂「……~っ」
梓「何か取り出した…」
唯「あっ、あれ憂が好きなお菓子だ。すごく美味しいんだよ~」
唯「純ちゃんも食べたことある?」
純「あ、はい。私も好きですよ」
梓「二人ともそんなこと話してないで、憂に注目しててください!」
純「なんか梓もノリノリになってるじゃん…」
憂「……」
憂「……」テクテク
唯「あっ、引き返してきた」
梓「か、隠れて!」ササッ
憂「……」
唯「お店に戻って…」
梓「さっきのお菓子返品した…」
憂「……」テクテク
梓「もう終わり? 帰るのかな」
純「なんだったんだろう…?」
唯「二人とも、ちょっとそこで待ってて」
梓「え?」
唯「すぐ戻るから!」
梓「唯先輩?」
純「結局、予想は外れちゃったのかな」
梓「だから言ったじゃん。そんなわけないって」
純「…じゃあ憂、なんで様子が変なんだろう」
梓「うーん…」
純「うーん…」
唯「おまたせー」
梓「あっ、唯先輩。何か買ったんですか?」
唯「うん、さっきのお菓子」
梓「え?」
――平沢家
憂「……」
憂「……」
憂「はぁ…」
唯「ただいま~!」
憂「あっ…お姉ちゃんおかえりなさい」
唯「えへへ~」
憂「?」
唯「はいこれ、憂の好きなお菓子」
憂「あっ……」
唯「一緒に食べない?」
憂「私は…いいや、お姉ちゃん食べて」
唯「え~、憂と食べたいよ~」
憂「でも……」
唯「憂…ひょっとして今日なにも食べてない?」
憂「……」
唯「やっぱり、ちゃんと食べなきゃダメだよ!」プンスカ
憂「でも……」
唯「どうしたの?」
憂「……実はね」
唯「うん」
憂「……他の人には内緒だよ?」
唯「はい!」
憂「……体重が」
唯「?」
憂「体重が……増えちゃった」
唯「体重が…?」
憂「うぅ……」
唯「そんな…私は太らない体質なのに」
憂「……」ズーン
唯「あっ!? で、でもっ、体重計が壊れてただけだったり…」
憂「ううん……壊れてなかった」
唯「そうなんだ……」
憂「うん…だからね、食事も控えてたりしてたの。料理する時も味見とかしないで…」
唯「あっ、だから味がいつもと違ってたんだ」
憂「ごめんね…」
唯「ううん、全然いいよ! でも…本当に太ったの? 見た目とか変わってないし」
憂「でもねでもね……増えてたの」
唯「そっか…」
唯「けど、ちゃんと食べなきゃダメだよ」
憂「うん…そうだよね。ごめんなさい」
憂「だけど、やっぱりショックで……はぁ」
唯「憂……」
憂「……これからは、カロリー抑え目にしないとなぁ」
唯「よしっ、じゃあ私も憂と同じメニューを食べるよ!」
憂「え?」
唯「だって憂ばかりに辛い思いはさせられないもん!」
憂「お姉ちゃん…!」
唯「大丈夫、すぐやせられるよ! 見た目だってそんな変わってないんだし」
憂「う、うんっ…ありがとうお姉ちゃん!」
唯「えへへ。よかった、元気出たみたいで」
憂「じゃあ今日はカレーにしようかと思ったんだけど、やめておくね」
唯「あ……うん」
――MAXバーガー
梓「唯先輩からメール来たっ」
純「なんだって?」モグモグ
梓「憂…元気になったって」
純「へぇ…よかった」モグモグ
梓「結局原因は何だったんだろう…」
純「さぁ? でも元気になったんだからいいじゃん」モグモグ
梓「まぁそうだけど…ていうか純、食べすぎじゃない?」
純「だってお腹すいたんだもん」モグモグ
梓「もう…」
夜
――鈴木家
純「あー、お風呂気持ちよかった」
純「あとでも牛乳でも飲もっかなー……あっ、そうだ」
純「久しぶりに体重でも量ってみよっと」
純「もうすぐ夏だし、チェックしておかないとね」
純「どれどれ……」
純「……」
純「……」
純「……故障かな」
純「……」
純「あ、壊れてなかった」
純「……」
純「……」
翌日
お昼休み
――学校
梓「あっ、今日の憂のお弁当箱ちっちゃくてかわいいね」
憂「えへへ」
純「……」
梓「純? どうしたの?」
純「……」
梓「じゅーん」
純「お腹すいた…」
梓「食べればいいじゃん。ていうか…購買行かないの?」
純「だってぇ…」
梓「?」
純「はぁ……美味しいものなんてなくなればいいのに」グテー
「今日たまたまゴールデンチョコパンが余ってたの」
「えっ、いいなー。うらやましいー」
純「!?」
##7 おわり
最終更新:2011年07月12日 00:39