##8
――中野家
ピンポーン
梓「はーい」
ガチャッ
純「おいっす」
梓「純、いらっしゃい」
純「いらっしゃいました」
純「憂は?」
梓「まだ来てない。少し遅れるんだって」
純「ふーん…じゃあ先にお邪魔しまーす」
純「家の人はいないの?」
梓「お父さんとお母さんは出かけてる」
純「じゃあずっと一人だったんだ」
梓「うん、そんなところ」
純「へー…」ニヤニヤ
梓「……なに?」
純「寂しかった? よしよし」ナデナデ
梓「さ、寂しくない!!」
純「強がっちゃって」
梓「…子供じゃないんだからそんなわけないでしょ」
純「さてと、じゃあ憂を待つとしますか」
梓「うん。飲みもの持ってくるね」
純「さんきゅ」
純「……」キョロキョロ
梓「お待たせ」
純「ねぇ、これ何の雑誌?」
梓「え? ジャズの専門誌だけど…」
純「へー、読んでもいい?」
梓「うん」
純「じゃ、お借りします」
梓「その雑誌、今は廃刊になっちゃったけどお父さんが残してて」
純「へー」
梓「有名な演奏者の特集とかあるんだよ。純は誰が好き?」
純「ふーん」
梓「……純、聞いてる?」
純「聞いてる聞いてる」
梓「本当かな……」
純「レッド・ミッチェルってなんかカッコいいよねー」
梓「あ…私もそう思う」
・・・・・
純「……」
純「ふぅ、一通り読み終えた」
梓「憂…まだ来ないね」
純「そういえば。どうしたのかな?」
梓「メールしてみる」
純「ん~……」
梓「『憂へ、何かあった?……』」ポチポチ
純「……」
梓「……送信っと」
純「んーっ……暇だー」
梓「ジュースおかわりする?」
純「するー」
梓「じゃあ、持ってくるね」
純「……」ゴロゴロ
純「……ふわぁ」
梓「純?」
純「んー?」
梓「寝てるかと思った」
純「寝てないよー、ちゃんと起きてるって」
梓「でも純ってどこでも寝るし」
純「人を何だと思ってるの…」
梓「なんでも…はい、ジュース」
ヴーヴー
梓「あっ、憂からだ……」
純「……」ゴクゴク
梓「……」
純「なんだって?」
梓「まだ遅れるって。なんか唯先輩と一緒の用事があるだとか」
純「お姉さんの…お世話かな?」
梓「……そうかも」
梓「まったく、唯先輩ったら…」
純「憂も大変だね……来るまで何してよっか?」
梓「なんでもいいけど…純が決めて」
純「私? うーん……」
梓「……」
純「寝よっかな」
梓「寝るんかい」
純「だってねぇー…………ん? これなに?」
梓「あっ、中学の卒業アルバム…」
純「見たい!」
梓「えぇっ!? 恥ずかしいよ…」
純「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないし!」
梓「……まぁいいけど」
純「ふーん……へー…」
梓「あんまりジロジロ見ないで…」
純「若いね! なんか」
梓「それは…もう二年も前だし」
純「二年かぁ…変わるもんだね。あっ、これかわいい」
梓「うっ…///」
純「ほー…違う中学ってなんか新鮮」
梓「純は憂と同じ中学なんだっけ?」
純「うん」
梓「へー…なんか羨ましいな」ボソッ
純「へ? なに?」
梓「ううん…なんでもない」
梓「ねぇ純、暇だし中学のときの話とか聞かせてよ」
純「中学? 中学ねー…憂が来てからね」
梓「えー、なんで?」
純「だって今はそんな気分じゃないし」
梓「なにそれ…」
純「あっ、憂まだ家にいるならアルバムとか持ってこれるかな?」
梓「メールしてみる」
純「これいつの写真?」
梓「それは…修学旅行のとき」
純「ふーん…この周りにいる子達はうちの学校じゃないの?」
梓「あ、うん。他の学校」
純「そっか」
純「そういえば、梓って中学のときは部活入ってた?」
梓「ううん、特には」
純「あれ? 梓のことだから音楽の部活でもやってるかと思った」
梓「うちの中学は吹奏楽部しかなかったから」
純「なるほど。それで高校に入って念願の軽音部に入部したってことね」
梓「念願ってほどでも…」
純「あはは、でも楽しそうにやってていいじゃん」
梓「…うんっ」
純「あっ、これは?」
梓「文化祭の。こっちは体育祭かな」
純「けっこうあるね、写真」
梓「なんか恥ずかしい…」
純「私としては面白いけど」
梓「面白いってなに!?」
純「悪い意味じゃないって」
純「あはは…へー」クスクス
梓「もう! アルバム見ながら笑わないでよ!」
純「ごめんごめん、悪気はないって」
梓「没収」ムスッ
純「あぁ、もっと見せてよー」
梓「後でね」
純「けちー……ん?」
梓「どうしたの?」
純「梓の部屋ってさ、よく見ると……女の子っぽくないよね」
梓「えっ…」
純「だって音楽グッズばっかじゃん」
梓「へ、変かな?」
純「んー…まぁ梓らしいっちゃ、らしいけど」
純「それにしても、よくこんな色々集めてるね。オーディオやレコードいっぱい」
梓「集めてるっていうか…これぐらい当然じゃない?」
純「当然なんだ…」
梓「あっ、そうだ。純にこれあげよっか?」
純「なになに?」
梓「キーホルダー、懸賞で当たったの。ほら、クマの人形がベース持ってるんだよ」
純「わ…かわいい! もらっていいの?」
梓「うん」
純「では、遠慮なく頂戴します」
梓「こういうのって数だけ増えてどんどん余っちゃうんだよね」
純「梓って懸賞とかよくするの?」
梓「うん、欲しいものがあるから」
純「なに?」
梓「えっと…まって、雑誌に載ってる……」バサバサ
梓「あった、これ」
純「エフェクター…?」
梓「買うとしたら八万ぐらいになるのかな」
純「八万!? そんなのどうするの!?」
梓「え? 使うんだけど」
純「……プロだね、梓」
梓「そんな大げさな」
純「私にはそんなもの買う勇気ないなぁ、使ってはみたいけど」
梓「だから私だって懸賞で当てようとしてるんだって」
純「そうだ、当たったら私にも貸して。エフェクター」
梓「貸してって……別にいいけど」
純「やった!」
ヴーヴー
梓「あっ、憂からだ」
純「なんだって?」
梓「えぇっと…………アルバム探すからもうちょっと遅れそうだって」
純「えー、そうなんだ…」
梓「憂が来るまでなにしてる?」
純「うー…ん。梓が決めて」
梓「私が? って言われても……っていうか、さっきもこんなやり取りがあったような」
純「だから今度は梓が決めてよ」
梓「……じゃあゲームでもやる?」
純「ゲームあるの!? 梓の家に!?」
梓「そんな驚くこと!?」
最終更新:2011年07月12日 00:43