##9

――ジャズ研 部室

純「夏は暑い、なぜだか分かる?」

後輩c「えっと……」

純「答えはズバリ、〝夏だから〟!」

後輩c「あっ、そっか。なるほど」

先輩C「なに言ってるんだお前たちは」

先輩B「今年はクーラーがあるから良いよね~」

後輩c「去年はなかったんですか?」

先輩B「そうだよ~。今年から生徒会でつけてくれるよう決まったの」

先輩C「そんなことはどうでもいい。もう夏休みなんだから、練習に集中するぞ」

純「はぁ…うちは合宿とかしないんですか?」

先輩C「合宿?」

純「だって他の部活はやってるじゃないですか。軽音部ですらどこか行ってるって言うし…」

先輩C「他は他だ。うちには関係ない」

純「そうですか…」

先輩B「でも合宿は行きたいね~。ハワイとか」

先輩A「私はニューヨーク行きたいなー、ジャズの本場だし」

先輩C「合宿の域を超えてるだろ…」

純「行きたいなー、合宿」

後輩c「純先輩はどこに行きたいんですか?」

純「私? 私はねー…ロシアかな」

後輩c「ロシア?」

純「うん、ロシア料理が食べたい。この前テレビでやってたし」

先輩C「はぁ……くだらないこと言ってないで早く練習の準備をしろ」

{・・・・・

後輩c「うーん……難しいなぁ」

後輩a「あれ? 休憩時間なのに練習?」

後輩c「ひぇっ!? あ、は、はい」

後輩a「そんな驚かなくてもいいのに…」

後輩c「ご、ごめんなさい…」

後輩b「でも偉いねー、休憩中でも練習って」

後輩c「わ、私…少しでも純先輩みたいに弾きたくて…」

後輩a「純先輩?」

後輩c「は、はい。私、純先輩に憧れてて…」

後輩a「へー、純先輩に……珍しいね」

後輩c「え?」

後輩a「だって普通うちの学校のベーシストなら、軽音部の澪先輩に憧れるものじゃない?」

後輩c「澪…先輩?」

後輩b「私、ベーシストじゃないけど澪先輩に憧れてる。美人でかっこいいもんねー」

後輩a「私は梓先輩かな。かわいいし、それでいてギター上手いし」

後輩c「梓先輩…」

後輩a「そうそう、軽音部ってなんか凄そうでしょ? だから憧れちゃうんだよね」

後輩c「で、でも…私はジャズ研だし……それに純先輩だって……」

後輩a「あー、確かにうちの部長もギター上手いけど…なんか掴みどころがなくてよく分かんない人なんだよね」

後輩b「純先輩は接しやすいけど…憧れの先輩ってほどでもないかなぁ」

後輩b「たまに変なギャグ言ってすべってるし…」

後輩c「……」

後輩b「あっ…別に悪口言ってるつもりじゃないよ? ただ、そういうのとは違うかなーって思って」

後輩c「でも…純先輩は……」

後輩a「あははっ。けどほんと変わってるよね、純先輩に憧れるなんて」

後輩b「だよねー。まぁそういう所に着目するってのはあなたらしいけど」

後輩c「……」

後輩c(だったら…最初から軽音部に入ればいいのに……)


純「へっくしょん!」

同級生「どうしたの? 風邪?」

純「誰かが私の噂してるんじゃない?」

同級生「まっさかー、純の噂なんて誰がするの」

純「ひどっ!?」

同級生「それより聞いてよー。私さ、最近スランプ気味なんだよね」

純「スランプじゃない日なんてあるの?」

同級生「ひどっ!? すごい悩んでるのに……」

純「はいはい、聞いてあげる聞いてあげる」

同級生「あのね、なんかさぁー……最近モチベーション上がらないんだよね」

純「モチベーションねえ…」

同級生「練習しててもなんかつまんないし、舞台には上がれないし…」

同級生「私なんのために部活やってるのかなぁ……」



先輩C「……」


純「ふーん……」

同級生「なんか疲れちゃった。もっと気楽にやれる部活に入ればよかったかも」

同級生「例えば…軽音部とか。どうかな?」

純「私もそういうの思ったりするけどさ……もうちょっと頑張ってみれば?」

同級生「だってさー…努力しても努力してもレギュラーにはなれないし、なんだかなぁ……」

純「でもさ…」

先輩C「さっきから話を聞いてれば…何なんだお前は」

同級生「え?」

純「あっ、センパ…」

先輩C「努力した? 口に出した努力は努力じゃない。自分が何のために練習してるのか少しは考えろ!」

先輩C「それでもやりたくないなら帰れ!! 邪魔だ!!」

同級生「ご、ごめんなさい!!」

先輩C「まったく……部活を何だと思ってるんだ…」

先輩A「ちょ、ちょっと…いくらなんでも怒りすぎじゃない?」

先輩B「そうそう、暑いからってイライラしすぎ。クーラーも効いてるんだしクールにいこうよ~」

先輩C「そういう問題じゃない!! 部長のお前がしっかりしないから周りがだらけるんだぞ!!」

先輩B「怒られた…部長なのに」

ガチャッ

顧問「みんなー、お疲れ。これアイスの差し入れ持ってきたんだけど…」

先輩C「今は部活中です!!」

顧問「怒られた…先生なのに」

先輩A「まぁまぁ、せっかく先生が持ってきてくれたんだし」

先輩B「そうだよ~、アイスでも食べて少しはクールダウンしよなよ~」

先輩C「っ……はぁ」

純「今日のセンパイ…熱いね。夏だからかな?」

同級生「うわぁ~ん! 怖かったぁ!!」

純「いいじゃん、どうせ怒られ慣れてるんでしょ?」

同級生「慣れてないから!!」

純「それより、アイスもらいに行こ?」


後輩c「……」

後輩b「こわいね…センパイ」

後輩a「私、正直あの人苦手かな」

後輩c「で、でも…優しいところもあるし……」

後輩a「そう? いつも怒ってるじゃん」

後輩c「それは……たぶんみんなのために…」

後輩a「けどあんなに怒鳴られちゃったらね…」

純「はい、アイス持ってきたよ」

後輩c「あ…」

後輩a「すいません、ありがとうございます」

純「いいっていいって。はい」

後輩c「あ、ありがとうございます」

純「センパイはああ言ってたけど、ちゃんと部活のこと思って言ってるの」

純「だからそんな怖がらなくても大丈夫」

後輩b「はあ…」

純「ほら、アイス食べてやる気出そう!」

後輩c「はいっ」

純「じゃ、がんばってねー」

後輩a「……」

後輩c「どうしたんですか?」

後輩a「なんか…純先輩の前だと明るくなるよね」

後輩c「え? 私がですか…?」

後輩b「うん、声もハキハキとしてたし」

後輩c「そうですか…?」

後輩a「私たちともそう接してくれればいいなー」

後輩c「ご、ごめんなさい…」

後輩b「あぁ、いいのいいの。これでも最初のころより結構打ち解けてるんだしね」

後輩a「ねっ」

後輩c「は、はい……」

後輩c「あの、一つ聞きたい事があるんですけどいいですか?」

後輩a「なに?」

後輩c「二人はその…なんでジャズ研に入ったんですか?」

後輩a「え?」

後輩b「何でって言われても……うーん」

後輩b「なんとなくかな、入りやすそうだったし」

後輩a「でも実際は練習厳しいよね」

後輩b「うん、ちょっと後悔したかも」

後輩c「……」

後輩a「あっ、そろそろ練習再開しないと」

後輩b「そうだね。私も怒られない程度にがんばろっと」

後輩c「……私は」

後輩a「なに?」

後輩c「いえ……なんでもないです…」


部活終了

純「ふぅ…終わったー」

後輩c「お疲れ様です」

純「あっ、お疲れー。一緒に帰ろっか」

後輩c「はいっ!」

同級生「……」

純「あれ、帰らないの?」

同級生「私…もう少し練習してから帰る」

純「えっ」

同級生「なんかさ…もう少し頑張ったほうがいいかなって思って。だから…」

純「そっか、分かった。頑張ってね」

同級生「うんっ…バッチリやってみる」

純「それじゃあ、二人で帰ろっか」

後輩c「はいっ」

純「それにしてもお腹すいたね。なんか食べて帰る?」

後輩c「そうですね…」

先輩B「そこのお二人さん。暇なら私のお店に来るかい~?」

純「え? センパイのお店…?」

先輩B「そ、バイト先の喫茶店。今日は店長もいないし、お客さんも来ないだろうから暇なんだよね~」

純「じゃあ…そうます!」

純「いいよね?」

後輩c「はい、分かりました」

先輩B「んじゃ、出発~」


――喫茶店

純「私、センパイのバイト先初めて来ました」

先輩B「そうだっけ? そういえばそうだったね~」

先輩B「とりあえず何か飲む?」

純「あ、はい。じゃあメロンソーダで」

後輩c「私は…オレンジジュースを」

先輩B「なんだよ~、誰もコーヒー頼まないのかよ~。淹れるの得意なのに~」

後輩c「あ、じゃあ…」

先輩B「冗談冗談、無理して頼まなくていいヨ」

後輩c「す、すいません」

先輩B「マジメだね~、そういうの好きだよ」

後輩c「すっ、好きって…えぇっ!?」

純「そのまんまの意味じゃないって」

後輩c「あ…す、すいません!」

先輩B「あはは~…面白い子だね~」

先輩B「はい、おまちどう」

純「あっ、アイスクリーム」

先輩B「サービスサービス。はい、後輩ちゃんも」

後輩c「ありがとうございます」

先輩B「ついでに今料理作っちゃうから~、なんか注文しといて」

純「ロシア料理ってありますか?」

先輩B「ロシア行きな」

後輩c「私は…カレーライスで」

先輩B「あ~い、了解~」

後輩c「あの…で、できれば甘口でお願いします」

先輩B「ん? いいよ~。それで純は?」

純「ロシア料理は……」

先輩B「しょうがないな~、ボルシチなら作ってみるよ」

純「やった!」


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最終更新:2011年07月12日 00:46