・・・・・
先輩B「はい、できた。私も食べよっと」
純「すご…本場のボルシチみたい。センパイって料理上手なんですね」
先輩B「得意だよ~、店長より上手いしね。どう? 辛くない?」
後輩c「は、はい。美味しいです」
純「憂とどっちが美味しいんだろう…」
先輩B「うい?」
純「あっ、友達です。その子も料理上手なんですよ」
先輩B「へぇ~…純って色んな友達いるよね。この前も映研の手伝いしてたし」
純「あれは…頼まれて仕方なく」
純「そ、それより! 今日の副部長かなり怒ってましたけど、あの後どうでしたか?」
先輩B「ん? ん~~……どうだろうな~~」
先輩B「いつも通りじゃない? 純は気にしないでいいよ」
純「そっか、そうですね」
純「でもなんか今日の副部長の言葉はグサッときたなー」
純「あとどれくらい練習頑張ればいいんだろう……」
先輩B「そうだね~」
純「頑張りすぎてプロになってたりして」
先輩B「プロか~、いいね~。なれるんじゃないの?」
純「じゃあ私がプロになったらCD買ってくれますか?」
先輩B「中古でね」
純「えぇー、そこは新品で買ってくださいよ」
後輩c「わ、私は買います! 五枚くらい…」
純「五枚も!? 一人当たり五枚も買ってくれれば…十億ぐらい稼げますよね?」
先輩B「普通の人は五枚も買わないだろ~。純のCDならレンタルで済ませちゃうんじゃない?」
純「買ってくれますもん!」
先輩B「そうだね~、買う人もいるかもね~」
純「可能性ありますよね!?」
先輩B「可能性か~…まぁそれぐらいなら、世の中どうなるか分からないからあるかもね」
純「つまり私のCDは世の中がどうにかならないと売れないってことですか…」
先輩B「ま、何事もやってみれば分かるんじゃない?」
先輩B「とりあえず純はプロとか言う前にレギュラー取らないとな~」
純「…はーい」
後輩c「……」
先輩B「…そういえば純は覚えてる? 去年の文化祭」
純「え?」
先輩B「文化祭が終わったあとさ、居残り練習したじゃん」
純「…あ、しましたね」
先輩B「あの時、なんで居残り練習したのか覚えてるかい~?」
純「私は…えっと……」
先輩B「……」
純「……あっ、軽音部の演奏見て」
先輩B「同じ学年の子が舞台に上がってるのが羨ましくて、自分も頑張ろうと思ったんでしょ?」
純「そうだ…梓」
後輩c「……」
後輩c(また梓先輩……どういう人なんだろう)
先輩B「ま、初心を思い出したなら引き続き頑張りな~。困った時はさ、いつでも助けてあげるから」
純「あははっ…はい」
後輩c「……」
純「あ、お手洗い行ってきていいですか?」
先輩B「うん、いいよ~。いってらっしゃい」
後輩c「……」
先輩B「ジュースおかわりする?」
後輩c「あっ……お願いします」
先輩B「おっけ~。おかわりは特別サービスでタダにしてあげる」
後輩c「……」
先輩B「はい、おかわり」
後輩c「あ、ありがとうございます」
先輩B「いえいえ、どういたしまして」
後輩c「……あの」
先輩B「うん?」
後輩c「部長は……軽音部のことどう思いますか?」
先輩B「え?」
後輩c「いえ…その……」
先輩B「軽音部ねぇ~……よく分かんないけど、向こうは向こうで楽しくやってるんじゃない?」
後輩c「……」
先輩B「急にどうした~?」
後輩c「いえ…なんか変だと思って……」
先輩B「?」
後輩c「だって…ジャズ研なのに……みんな軽音部のこと話題にして…」
後輩c「純先輩まで……」
先輩B「う~~ん……そりゃまぁ、同じ音楽部で注目の的だしな~」
後輩c「で、ですけど……それじゃあジャズ研は…」
先輩B「…好きなんだ、ジャズ研のこと」
後輩c「え?」
先輩B「軽音部に嫉妬するぐらい、大切に想ってるじゃん」
後輩c「……」
先輩B「私の憧れの人もさ、ジャズ研のこと大切に想ってんだよね」
先輩B「軽音部に嫉妬というかそいうの通り越してるぐらい」
後輩c「部長の、憧れている人…?」
先輩B「その人はね、もともと音楽の才能があるわけじゃなくて本当に普通の人だったんだけど」
先輩B「努力することに関しては…たぶん、誰よりも凄かった」
先輩B「一人でジャズ研作って、一人で部員をまとめようとして、一人で全部がんばろうとして…」
先輩B「バカなくらい無理してるから、見てるこっちも結構心配してたんだよね~」
先輩B「それでいて強がりだから余計ほっとけなくて」
先輩B「でもさ、あの人は最後まで頑張り通したんだ。高校三年間…ほんと凄いな~って思った」
後輩c「……」
先輩B「辛いことがあっても、そんなの乗り越えられるぐらい頑張れるものって…そういうのは意外と見つからないもんだよね」
先輩B「なんでも楽しめればいいんだろうけど…それだけじゃたぶんダメだろうし」
先輩B「だから、そういうことを見つけて成し遂げたあの人は、私にとって憧れなんだよね」
後輩c「……」
先輩B「とと、なんか関係ない話になっちゃったかな~…」
先輩B「まぁ、周りが軽音部とか何だろうとか言っててもどうでもいいじゃん」
先輩B「ジャズ研のことが好きな自分がいれば、それで十分だよ」
後輩c「……」
先輩B「ん~~…久しぶりに長々と喋ったから顎が痛いナ~」
後輩c「私は…」
先輩B「お?」
後輩c「私は…純先輩に憧れてるんです」
後輩c「純先輩は明るくて、友達もいっぱいで、私にはないものをたくさん持ってて…」
後輩c「ジャズ研に入った理由も、純先輩がいたからで……でも、練習してるうちにベースも好きになって」
先輩B「……」
後輩c「ずっと一人ぼっちだったけど、純先輩がいたから…私は変われて、ジャズ研にも居場所ができたようで……」
後輩c「だから…純先輩は私にとって、特別な存在で……私も純先輩みたいになりたくて…」
先輩B「へぇ~、そうなんだ」
後輩c「これって……変なことですか?」
先輩B「なんで?」
後輩c「同級生の子に…純先輩に憧れてるって言ったら変だって言われて……」
先輩B「別に変じゃないよ? まぁ本人が聞いたら驚くだろうけど」
後輩c「変じゃ…ないですか?」
先輩B「うん、変じゃない」
後輩c「グズッ……ヒッグ…」
先輩B「えっ、なんで泣いちゃうの」
後輩c「私゛…ぐやじくで……ヒッグ」
後輩c「純先輩だっていい先輩なのに……誰も気づいでぐれなぐで…」
後輩c「みんな゛…純先輩もジャズ研もどうでも゛よぐで……」
先輩B「…ほらほら、とりあえず鼻かみな~」
後輩c「グスッ……」
先輩B「考えすぎだって、みんなそこまで思ってないから」
先輩B「そうじゃなきゃ今日まで部活やってこれなかったはずだよ?」
後輩c「……」
先輩B「はい、涙ふいて。かわいい顔してるんだから泣いてちゃもったいないよ~?」
後輩c「すいません……私…」
先輩B「いいって、たまには本音言ってスッキリするのも大切だし」
後輩c「……」
先輩B「落ち着いた?」
後輩c「はい…」
先輩B「純のことが好きならさ、いつも笑うようにしないと」
先輩B「暗い顔や泣いてる顔ばっかだと、嫌われちゃうぞ~?」
後輩c「は、はいっ」
先輩B「じゃあ笑顔の練習。はいどうぞ、笑って」
後輩c「え、えっと……」
純「戻りましたー…って何してるんですか?」
先輩B「長かったね、食べ過ぎた?」
純「いや、そうじゃないですけど…」
後輩c「あ…おかえりなさい、純先輩」」
純「どうしたの? 目真っ赤じゃん」
後輩c「いえ……」
先輩B「ちょと練習のしすぎでね~」
純「練習?」
先輩B「笑顔の練習。純もやるかい~?」ギュ~ッ
純「いたたっ!? そんな無理やり顔の形変えても!!」
先輩B「あはは、変な顔~!」
純「もー…ひどいじゃないですか」
後輩c「純先輩…」
純「なに?」
後輩c「…いえ、なんでもないです」クスッ
純「?」
・・・・・
先輩B「でさぁ~、商店街の人たちに頼まれてジャズ研で演奏して欲しいんだって~」
純「私も出れますか!?」
先輩B「う~ん…チャンスがあればね~」
純「よしっ! 華麗な商店街デビューできるようがんばります!」
先輩B「商店街デビューって…なんか間抜けなデビューだな~」
純「そうですか?」
ガチャッ
先輩B「あ、いらっしゃ――」
先輩「あら、よかった。いたのね」
先輩B「あっ」
純「せ、先輩!?」
先輩「純も、久しぶり」
後輩c「え……えっと」
先輩B「来るなら連絡ぐらいくれればいいのに~」
先輩「ごめんごめん」
先輩B「言っておきますけど、先輩の好きなドクターペッパーは品切れですからね~」
先輩「えっ…じゃあ適当にコーヒー淹れてちょうだい」
先輩B「はいはい、先輩用に変な味のやつ作っておきます」
純「先輩…なんかすごくキレイになりましたね」
先輩「そ、そう?」
先輩B「バッグは高いの持ってるくせに靴は安いやつはいてますね」
先輩「く、靴は今度買うの!!」
純「大学はどんな感じですか?」
先輩「うん…まぁまぁかな。新しくバンドも始めたし」
純「へぇ、すごいですね!」
後輩c「……」
先輩「えっと…」
純「あ、この子は今年から入った一年生で」
先輩「そうなんだ、なるほどね」
後輩c「は、初めまして。先輩のことは純先輩から聞いています」
後輩c「すごくカッコいい先輩だって…」
先輩「あ…あはは、そうかしら?」
先輩B「見てくれがカッコいいだけだよ~」
先輩「むっ」
先輩B「はい、特製コーヒー先輩帰省記念バージョン」
純(くさっ!?)
先輩「あら、良い匂い」
純「えっ」
・・・・・
先輩「このお店、配置変わった?」
先輩B「春にちょこっと」
先輩「へぇ~…」
純「…それじゃあ私はそろそろ帰ります」
先輩「え? もう帰っちゃうの?」
純「はい、用事もあるんで」
先輩「そう……明日私もジャズ研の練習見に行くから、またね」
純「ほ、本当ですか!? やった!」
先輩「ふふっ」
純「じゃあ失礼します、また明日」
後輩c「あ、私も…失礼します」
ガチャッ バタン
先輩「……相変わらずね」
先輩B「そうでもないですよ~、みんな日々変わってますって」
先輩B「コーヒーのブレンドも日々研究して変わってるし…それと同じですよ」
先輩「そっか…そうね」
先輩「それよりどう? 部長は。やれてる?」
先輩B「う~ん…周りの支えのおかげでぼちぼちと」
先輩B「先輩のほうは?」
先輩「周りのおかげでぼちぼちと」
先輩B「なんだ、変わってないですね~」
先輩「うーる-さーいー」
先輩B「うーるーさーくーなーいー」
先輩「はぁ……まったくあんたは」
先輩B「それで、今日はこの後どうするんですか?」
先輩「そうね……あんたの家に泊まってもいい?」
先輩B「え? うち?」
先輩「ダメ?」
先輩B「別にいいですけど…なんでうち?」
先輩「いいじゃない、お互い積もり積もった話とかあるでしょ?」
先輩B「…要するに先輩の愚痴を聞けってことですか~?」
先輩「うっ……土産話とかもあるわよ?」
先輩B「どんなの? 彼氏ができたとか?」
先輩「……」
先輩B「…まぁ期待はしないでおきますけど」
先輩「そうだ、勉強みてあげる。あんた今年受験でしょ?」
先輩B「あ、大丈夫です。先輩より偏差値の高い大学行くんで」
先輩「……憎たらしいとこは変わってないわね」
先輩B「チャームポイントですからね」
先輩「はぁ……ま、いいけど」
先輩「コーヒー、おかわり」
先輩B「はいは~い」
先輩「ん…」
・・・・・
後輩c「あの、純先輩…」
純「なに?」
後輩c「よかったんですか? せっかく先輩が来てたのに…」
純「うん、また明日会えるし。それになんか二人の邪魔しちゃいけないかなーって」
後輩c「?」
純「それと今は……あっ、あそこいいかも」
後輩c「え?」
純「ほら、あそこの河原。行こっ」
後輩c「え? あ、はいっ」
純「よいしょっと、ここら辺に座って…」
純「ふぅ、草のにおいがするね」
後輩c「あの…ここで何をするんですか?」
純「ベースの練習」
後輩c「えっ…こ、ここでですか?」
純「うん、ちょうどいいじゃん」
純「それに河原でベース弾くなんてなんかカッコよくない?」
後輩c「そうですけど…」
純「私さ、もっともっと練習してベース上手くなって…いつか舞台の上で満足できるような演奏したいの」
純「先輩や梓、澪先輩やジャズ研のみんなが感動するような演奏…」
純「ようやくまた、はっきりとした目標見つかったかなー」
後輩c「……」
純「だから今は練習あるのみ!」
後輩c「純先輩…」
純「あははっ…なんかこんな所でこんなこと語るのって青春っぽいね」
純「あっ、用事があるんだったら先に帰っても…」
後輩c「いえ、私も純先輩と一緒に練習します」
純「あ…本当に?」
後輩c「はいっ、一緒にさせてください」
純「ありがとう…よかったぁ。本当はこんな所で一人ぼっちじゃ寂しいと思ってたんだよね」
後輩c「ふふっ」
純「あはは…じゃあ早速やろっか」
後輩c「はいっ!」
純「ほら、横座って」
純「とりあえず課題の曲を…」
後輩c「純先輩」
純「なに?」
後輩c「私も頑張りますね!」
##9 おわり
最終更新:2011年07月12日 00:47